11 ナナシ、ダンジョンに行くように言われる
ナナシ
久しぶりに登場した本作品の主人公。
本名は、ナナシ グラストリィ。公爵の爵位と領地を持っている。
領地は大臣にすべて任せてしまっていて、未だに一度も自分の領地に行った事が無い。
グラム王国の王女シルフィと結婚し、王宮で暮らしている。
◇ ◇
< ナナシ視点 >
何故か、部屋に人が大勢やって来た。
シルフィは、毎日来ている。
王妃様とメイド長も、時々来ていたね。魔道具関係のことで。
でも、さらに王様と大臣も一緒に来るとなると、異常事態だよね。
『どんな異常事態なの?(ビクビク)』と少しビビりながら、ソファーでお話を聞くことにする。
『逃げ出したい。』とかちょっとだけ思ったけど、既にシルフィに腕を掴まれてしまっているので、『お話を聞く』以外の選択肢なんて既に無いよね。(しおしお)
大臣がメイドさんたちに部屋を出てくれる様に言い、彼女たちが部屋を出て行ってから最後にソファーに座る。
その大臣が用件を話すんだと思ったのだが、俺の隣に座って腕をガッシリと掴んでいるシルフィが俺に言った。
「ダンジョンに行ってほしいんだそうです。(ぷんぷん)」
シルフィから、ご機嫌斜めなご様子がビシビシと伝わって来ます。(ビクビク)
”ふにょん”感はあまり伝わって来ないのにね。(←触れないでさしあげろ)
でも、本当に何なんですかね? この状況。
『ダンジョンに行ってほしい』とのことなのだが、この面子が勢揃いしている割には、大した用件ぢゃないよね。
むしろ、シルフィが超絶ご機嫌斜めな事の方が、よっぽど大問題な気がします。(ビクビク)
「…えーっと。」
大した用件ぢゃなかったから逆に色々な事を考えてしまって、理由を訊く事すら躊躇ってしまいます。
それに、ダンジョンに行く事を了承た方が良いのか、断った方が良いのかすら、さっぱり分からないしなっ。
戸惑いながら、不機嫌オーラを出しまくっているシルフィ以外の全員の顔を眺めてしまう。
その方たちが何も言ってくれないので、仕方なく訊く。
「えーっと…。何をしに?」
『行くだけ』のはずはないだろうからね。
観光で行く様な場所でもないし、部屋に来ている面子が面子だしね。
『霊薬を取って来てくれ。』とか言われてもおかしくない雰囲気すらあります。
「ダーラム殿に、霊薬をいただいたお礼の手紙を届けてほしい。」
王様にそう言われた。
『霊薬』だけは、合っていました。
あと、何気に行先も同じだったね。霊薬を取って来る(貰って来る)のも、お礼の手紙を届けるのも。(苦笑)
そーかー、霊薬を貰った事のお礼の手紙かー。
そんな事もありましたねー。
すっかり忘れてました。(てへ)
霊薬を貰ったのだから、お礼の手紙くらいは送るよね。
納得です。
その手紙を届ける相手がダンジョンの奥深くに居る事が、ちょっと問題、いや、大分問題だけど。
なるほどね。
この面子になってしまうほどの大仕事だよね。
普通なら。
俺の場合は、ダーラムさんの居る場所まで【転移】で行けるけど、それは秘密だ。
『容易に霊薬が手に入る。』などと思われたら、霊薬を欲しがる人が無数にやって来てしまう事になるからね。
絶対に面倒な事になるよね。
絶対に知られてはいけない事だよね。俺がのんびりと過ごす為にはね。
と、なると、10日くらいはダンジョンに行っている風に装わないといけなくなるのかな?
前回、ダンジョンに行っていた期間は10日だったよね? いや、9日だったかな?
そのくらいの日数は行っている事にしないといけないだろうね。
なるほど。
それで、シルフィが超絶ご機嫌斜めなんだね。
こっちも納得だね。
「何日間くらい行く…ことになる?(ビクビク)」
王様に訊かれた。
ビクビクしている様に見えるのは、シルフィに睨まれでもしているのだろうか?
俺の位置からだとシルフィの表情が見えなくて分かりません。
確認しようとも思いませんがっ。(ビクビク)
隣から漂う”不機嫌オーラ”に少しビクビクしながら、王様の質問に答える。
「そうですねぇ。ダンジョンに入って、ダーラムさんが気付いてくれるまで…。ですかねぇ。」
「ダンジョンに入るや否や気付いてくれるとは思えません。30階層くらいまで行けば目立つので、気付いてくれますかねぇ。」
「50階層のボス部屋のドラゴンを倒さなければ会えないなんて事は無いでしょうけど、何日掛かるのかは私にはサッパリ分かりませんね。」
嘘だけど。
本当は、コンビニに行くくらいの時間しか掛かりません。(てへ)
「行ってもらえるか?」
「ええ。いいですよ。」
お礼の手紙を届けに行くのは、いつかは行かないといけないと思っていた事だからね。
忘れてたけど。(てへ)
「よろしく頼む。手紙は後で渡す。必要な物が有ればメイドに言ってくれ。何でも用意する。」
「はい。分かりました。」
俺がそう言うと、ホッとした様子を見せた。俺の視界に入っている人たちは。
俺の視界に入っていないお方がどんな表情をしているのかは、確認したいとは思いませんよー。
「私もナナシさんと一緒に行きます!」
俺の視界に入っていないお方がそう言いました。
ホッとしていた全員の顔が引き攣るのが見えました。
出来れば見たくなかった表情です。(無表情)
あーあ。
これは大変なことになっちゃったなぁ。
そう思ったけど、シルフィの説得はここに居る人たちにお任せして、俺はメイドさんに頼む品物を頭の中で考える事にした。
どうせシルフィに危険は無いからねー。
それに、俺にシルフィの説得が出来るとは思えませんしー。
何でも用意してくれるそうなので、この機会にダンジョンに行っている間に食べる料理を頼んでしまうことにしよう。
【無限収納】に時間停止状態で仕舞っておけば、いつまででも保つからね。
それに、料理が余ってしまっても、ダーラムさんにあげれば喜んでもらえるだろうし。
ダーラムさんの餌付けが捗るね。(←餌付け言うな)
他にも、テントやら替えのブーツやらも頼んでしまおう。いい機会だからね。
そんな事を考えていたら、何だかワクワクしてきた。
遠足の準備なんかをする時にワクワクしてしまう人間ですが、何か?(←誰に言ってんだよ)
メイドさんに頼む物のリストを、【ファイヤー】の魔法を使って紙に描き込んでいたら、シルフィが言った。
「ナナシさんにいただいたネックレスが有るから大丈夫です。そうですよね? ナナシさん。」
全員の視線がこっちに来た。
その視線は、もちろん『説得してくれっ。』って感じの視線です。
視線に少し戸惑ったけど、俺にシルフィの説得が出来る訳なんてないですしおすし。
「ネックレスが有りますし、他にも結界を張るんで、怪我どころか誰にも触れさせません…よ。」
そう言った。
ちょっと視線にビビってしまって、最後の方は声が小さくなってしまいましたが。
そんな目で見られましても、俺にシルフィを説得することなんて出来ませんしー。
それに、変な事を言うと、俺の腕をガッシリと掴んでいるシルフィに腕や脇腹をツネられますしー。
シルフィには何の危険も無いんですから、いいぢゃないですかー。
そう言い訳した。心の中で。
「全然、問題無いですね。(ニッコリ)」
シルフィは、元気にそう言い切りました。
シルフィの笑顔が目に浮かぶ様です。
尚も王様が説得を試みたが、シルフィが意志を変える事はなかった。
王様がシルフィを説得している間に、俺は用意してほしい物を廊下に居るケイティさんに頼み終えていました。(てへ)
後は、ダーラムさんとも打ち合わせをしないといけないね。
余計な手間ばかり掛かっている気がしますが、秘密を守る為には必要な事だと割り切るしかないよね。
< 王妃様視点 >
娘を説得した後、すぐにナナシさんの部屋に全員で行き、ナナシさんにダンジョンに行ってもらう様にお願いしました。
ナナシさんにダンジョンに行ってもらう事を了承してもらえてホッとしました。
ですが…。
まさか娘が「私もナナシさんと一緒に行きます!」なんて言い出すとは、思ってもみませんでした。
娘が不機嫌になる事は分かっていましたが、ナナシさんと一緒にダンジョンに行こうとするなんて予想外です。
困りました。
ナナシさんが一緒なら大丈夫そうな気もしますが、行先はダンジョンですからね。
そんな危険な場所に娘を行かせたくはありません。
娘がこんな事を言い出したのは、ナナシさんから贈られたネックレスを身に着けているからでしょう。
物理攻撃も魔法攻撃も無効化する、規格外な魔道具ですからね。
その魔道具のお陰で娘に危険が無さそうなのは喜ばしい事なのですが、その反面、どうやって娘を説得したらいいの分からなくて困ってしまいます。
困ってしまった私は、チラリとメイド長を見ます。
が、目を合わせやがりません。
おい! 言い出した人!!(ギヌロン)
私と目を合わせようともしやがらない裏切り者には凄くムカつきますが、今はそれどころではありません。
夫と一緒に娘を説得します。
「ナナシさんにいただいたネックレスが有るから大丈夫です。そうですよね? ナナシさん。」
全員の視線がナナシさんに向かいます。
「ネックレスが有りますし、他にも結界を張るんで、怪我どころか誰にも触れさせません…よ。」
ナナシさんはそう答えます。私たちの視線に少し戸惑いながら。
「全然、問題無いですね。(ニッコリ)」
娘が笑顔でそう言いました。
こうなってしまっては、もう娘の説得は難しいですね。
夫がさらに説得を続けましたが、結局私たちは、娘を説得することを諦めざるを得ませんでした。
私たちはナナシさんの部屋を後にしました。
裏切り者のメイド長は、気が付いた時にはもう姿が見えませんでした。
ちくせう!
夫がポツリと「ハゲそう…。」とか言っていましたが、娘が心に傷を負ってしまうのと比べればどうでもいいことです。
(設定)
(王様ェ…。)
王妃様の王様への対応がアレなのは仕様です。
ですが、王様を嫌っている訳ではありません。
ただ、王妃様の中の王様の優先順位がプリンよりも低いだけなのです。(←改めて文字にするとスゲェな)
(ナナシ)
久しぶりに登場した本作品の主人公。
無自覚系災害クリエイター(←ノリで命名しただけなので、すぐに忘れます)
森のゴブリンが絶滅しかけていたり、その影響もあって新米冒険者がオークと遭遇してしまう事が増えてしまう事になったのはコイツの所為。
あと、魔石が品薄になって値上がりしたのも、ポーションの生産量が減って価格が高騰してしまったのもコイツのした事が原因だし、その結果、勝負が行われる様になってしまったのもコイツの所為です。
本人には、そんな事をするつもりはまったくありませんでしたが。(書いている人にもなっ。)
これが、”無自覚系災害クリエイター”のクオリティ!!
もう、どうにでもなーれー。(←割とシャレにならない、書いている人の本心)




