05 『魔術師の街』を狙う者たち02
< ソーンブル侯爵視点 >
「大臣が”勝負”をする事を認めてくれそうです。」
バディカーナ伯爵から、そう報告を受けた。
どうやら、大臣もあの街の領主が言う事を聞かなかった事を不快に思っていた様だな。
ワシが思っていた通りだ。
しかし、大臣から示されたという、この”ルール案”。
こんな条件を認めてしまってよいものだろうか…。
◇ ◇
<<勝負のルール案>>
<基本ルール>
勝負は、両者の合意と国王の承認の下、ルールに則って行われる。
勝負を仕掛ける側は、相手側が負けた時に失う物以上の報酬を用意しなければならない。
勝負方法と期間は、その都度話し合いにより決められる。
<爵位と領地を賭ける際のルール>
勝負に負けた方から爵位と領地を没収し、国王より勝者にその領地を与える。
勝負に勝った方からも爵位と領地を没収し、国王より新たな爵位と領地を与える。
勝負が引き分けだった場合は、勝負を仕掛けた側からのみ爵位と領地を没収する。
<禁止事項>
王族とそれに連なる者と国の重要な地位に居る者は、勝負に参加できない。
ダンジョンが在るククラス侯爵領は、勝負に参加できない。
爵位が上の者が、爵位が下の者に勝負を挑む事はできない。
勝負を仕掛けられた側へは、二年間誰も勝負を仕掛ける事はできない。
王宮内での妨害行為とクレームは禁止する。
<協力者に関するルール>
協力者が居る場合、それを明確にするかどうかは代表者の自由とする。
協力者を明確にするには、勝負の開始から五日以内に大臣に通告する事とする。
勝負を仕掛けられた側の明確にされた協力者にも、『二年間誰も勝負を仕掛ける事は出来ない。』のルールを適用する。
<補足>
たとえ禁止事項であっても、国王が認めた場合は国王の意志が優先される。
◇ ◇
『勝負に負けた方から爵位と領地を没収し、国王より勝者にその領地を与える。』
これは当然だ。
”あの街”を得たいが為の”勝負”なのだからな。
しかし…。
『勝負に勝った方からも爵位と領地を没収し、国王より新たな爵位と領地を与える。』とは、一体どういう事だっ。
これでは、領地替えを命じられて永く支配してきた自分の領地を失ってしまう可能性が有るし、王都から離れた僻地にトバされる可能性だって有るではないかっ。
『前例に倣って、陛下から新たな爵位と領地を下賜する為です。』だとか、『むやみに”勝負”が行われない様にする為の方策です。』などと大臣は言っていたそうだが、むしろ、敵対しかねない者を僻地にトバす事が目的だとさえ疑いたくなる。
それに、『前例に倣って、陛下から新たな爵位と領地を下賜する為』とか言うが、前回の勝負に勝った者は、爵位も領地も持たぬただの平民だったではないか!
おかしな事を言いよって!
さらに、『勝負を仕掛けられた側の明確にされた協力者にも、『二年間誰も勝負を仕掛ける事は出来ない。』のルールを適用する。』という、このルールも問題だ。
勝負を仕掛ける側が圧倒的に有利だと思っていたのに、このルールが有る所為で、”勝負を仕掛けられない権利”欲しさに相手側に協力する者が沢山出てくるかもしれんではないかっ。
妨害行為が王宮内でしか禁止されていないこのルールでは、敵が多くなってしまうのは危険だ。
くそう。
おかしなルールを作りおって! 大臣め!
こんなおかしなルールを受け入れたら、我々がおかしな前例を作ってしまう事になるではないかっ。
くそう。
ワシの目的は、やがてこの国の王になる事だ。
”あの街”が目的な訳ではない。
まぁ、王になるまでの間、持っていてやっても良いのだがな。
だが、今回の勝負で我々がおかしな前例を作ってしまっては、思わぬところに敵を作ってしまう事にもなりかねない。
玉座を狙う為には、迂闊な真似をして余計な敵を作ってしまう訳にはいかない。
しかし、我々が動かなければ、他の誰かが先に動くかもしれん。
我々の代表には別の者を立てているので、ワシが何かを失う訳ではないのだが…。
むむむむ。
どうしたものだろうか…。
仲間たちを集めて相談した。
意外なことに、我々の代表に祭り上げたバディカーナ伯爵が乗り気だった。
おいおい、大丈夫か?
他人事ながら心配になる。割と本気で。
この伯爵の娘が、王女様に何かやらかして怒りを買った話は聞いている。
だが、焦り過ぎなんじゃないか? もっと落ち付け。本当に。
確かに、国がこの勝負に乗り気なのだから、得点を稼ぐ良い機会である事は確かなのだろうが…。
だが、こんなおかしなルールで勝負をするのは危険だぞ。
もっと、慎重になろうな。
なっ。本当に。
仲間たちと慎重に話し合った。
だが、結局『国が出したあのルール案を了承するのも止む無し。』という意見が大勢を占めた。
我々の代表に祭り上げたバディカーナ伯爵が、かなり乗り気だったからだ。
うぬぬ。
人選を誤ってしまったかもしれんな…。
だが、こうなってしまっては仕方が無いか…。
最悪、ワシを外してでも勝負を挑みかねない勢いだ。
それに、我々以外にも勝負を挑みそうな者たちが居そうなのだしな。
遅れを取ってしまっては何も得られないのだ。
せっかく、目の前に機会が在るというのにな。
うむ。
こうなれば、勝負を挑まざるを得ないな。
それに…。
我々は、勝負の結果に直結する重要な情報を握っているのだしな。
まさか、『魔術師の街』と謳っているあの街の奴らが、”あの男”から嫌われているなどとは夢にも思わないだろう。
彼を、我々の陣営に引き込めれば勝利は確実だし、相手陣営に付かないと知っているだけでも、勝負を有利に運べるだろう。
あの街の魔術師たちは、”あの男”が自分たちに味方してくれると信じて疑っていないだろうからな。
もっとも、”あの男”を我々の陣営に引き込む為には、邪魔なルールを何とかしなければならないのだが。
だが、むしろ奴らの方が、あの邪魔なルールの変更を強く求めてくるだろう。
”あの男”が勝負に参加できないルールなど、邪魔でしかないと思っているはずだからな。
後日の王宮。
この日、勝負に関わる両陣営の者が大臣を交えてルールの最終的な話し合いを行い、合意した。
勝負の内容は、前回行われた勝負と同じく『オークキングを討伐して死体を持ち帰り、その大きさを競う。』こととなった。
勝負の期間は、『2日後から始め、18日間。』となった。
また、この話し合いの場で、ルール案に一箇所だけ修正が加えられる事になった。
”ある男”を自分たちの陣営に引き込む為に邪魔だと思っていたから。
両陣営が。
修正が加えられたのは、『王族とそれに連なる者と国の重要な地位に居る者は、勝負に参加できない。』となっていた項目だった。
この中の『王族とそれに連なる者』の部分が『王族』へと修正された。
誰を狙ってこの項目を修正させたのかは、この場に居る者たちには明らかだった。
両陣営とも、”あの男”を自分たちの陣営に引き込む為には、そうしなければならなかったから。
この合意に大臣も満足した。
こうなる様に、一方の陣営にだけに伝わる様に”ある情報”を流していたのだから。
『グラストリィ公爵は魔術師ギルドの思想をとても嫌っている。』と。
両陣営は、ともに満足していた。
『これで、グラストリィ公爵を仲間に引き込める。』と、そう考えて。
だが、この時、両陣営とも分かっていなかった。
グラストリィ公爵を自分の陣営に引き込めないなんて事を。
両陣営とも分かっていなかった。
あの項目が修正された事で…。
”切り札”を手に入れた者が、誰であったのかを。
2020.02.12 修正
(文言の追加)
勝負のルール案の『爵位と領地を賭ける際のルール』に、引き分けの場合のルールを追加しました。
前に、大臣が王妃様とルール案について話していた時に”引き分け”になる事も考えている描写がありましたので、引き分けの場合のルールが無いのはおかしいので。
2020.02.06 修正
(文言の追加)
最後の方。勝負の具体的な内容を追加しました。
勝負の肝心な部分を、すっぽりと書き忘れてしまっていましたので。
以前に触れていたので、うっかり書き忘れていた事に気が付きませんでした。orz
(『王族とそれに連なる者』と『王族』の違い)
『王族』は『グラム王家の血を引いている直系の者』の意味で、現在、王様とシルフィと先王様と王弟と王弟の娘の五名がこれに当たります。
『王族とそれに連なる者』とした場合は、上記の『王族』の他に、配偶者やグラム王家の血を引いている親族が含まれます。
ナナシと王妃様が勝負に参加できる様になったと思っていただければ、それで十分です。(ぶっちゃけ)




