< 13 魔術師ギルドのギルドマスター 03end 混乱。そして… >
『人事』の後任を決めるのに激しく揉めていた間、幹部たちの仕事が止まってしまっていた。
その所為で、問題が起きていた事に気付くのが遅れた。
クソッ!
【風】と【火】の連中の所為だ!
あれほど揉めなければ、もっと早く気付けていただろうに!
幹部会にて、その問題が明らかになった。
ポーションの売り上げが、計画よりもかなり少なかった。
そして、ポーションの生産量と販売量が、まったく合っていなかった。
大きな問題だ。
「ポーションはちゃんと生産しているぞ! 『販売』が横領したのだろう! 何処にやったんだ!」
『製造』が厳しく『販売』を非難する。
「何だと! 横領したのはそちらなのではないのか? お前たちこそ何処にやったんだ!」
『販売』がそう言い返し、『製造』と激しく罵り合うことになった。
ずっと、互いに非難し合った。
何とか黙らせて、双方に調査を指示した。
今回の幹部会は、これだけで終わってしまった。
次の幹部会。
『製造』と『販売』に調査結果を訊いた。
だが、双方とも、まったく調査をしていなかった。
『相手が横領したのだ。』、『そもそも、こちらには調査しなければならない理由が無い。』と。
そしてまた、『製造』と『販売』が罵り合った。
何とか、罵り合いを止めさせた。
そうしたら、今度は『製造』が『人事』に文句を言い始めた。
「人員の補充を頼んでいるのにどうなっているんだ! 早くしてくれ! 製造現場に支障が出てしまったらどう責任を取るつもりだ!」
「はぁ? 今は横領の話をしているのだろう。話を逸らすな。それと俺を巻き込むな。横領の件を煙に巻こうとしてる様に見られてしまうぞ。」
「何だと! 横領は『販売』のした事だと言ってるだろうが!!」
「貴様! まだそんな事を言うか!」
『製造』と『販売』と『人事』が、激しく罵り合うことになった。
いい加減にしてくれ。
何とか宥めようとしたが、収まってくれる気配はまったく無かった。
そんな時に、副領主が訪ねて来た。
またか。
どうして、こう忙しい時に来るんだ。副領主は。
まったく。
この場を残りの幹部たちに任せ、応接室に向かった。
副領主に軽く挨拶し、向かいに座る。
そして、不機嫌そうに見える副領主と軽く雑談をした。
彼は、魔術師ギルドの様子を窺がっている様に見えた。
何かイヤな話が有りそうだ。
何の話をしに来たのかは知らないが、慎重に対応した方が良さそうだな。
副領主から「”勝負”を挑まれそうだ。」と聞かされた。
ああ、あれか。
貴族たちの小競り合いのことだな。
貴族さまは、本当に大変だな。
「狙いは”魔術師ギルド”だ。他にこの領地を狙う理由は無い。」
「………………。」
他人事だと思っていたのだが、そうではないのか…。
「協力して、我々の敵を打ち破ろう。」
そう言って、協力を要請された。
だが我々には、この街に居続けなければならない理由は無い。
組織に危険が迫るようならば、この街から逃げ出したってかまわないのだ。
副領主に協力する理由なんて無いな。
我々は、貴族の揉め事になどに関わりたくないし、関わる理由も無いのだ。
お引き取り願おう。
そう思って口を開きかけたのだが、少し考える。
今の幹部会は、酷い状態だ。
揉めに揉めて、混乱している。
幹部会の混乱を収める為に、『外の敵に対応することで意識を一つにする』という手を、チラリと考えた。
検討する価値が有るのかもしれないな。
どうするかは今は置いておいて、もう少し詳しく話を聞いておこう。
「いつ、誰と”勝負”をするんだ?」
「相手が誰なのかは、まだハッキリとは分かっていない。噂だけだ。だが、情報の精度は高いと考えている。」
「それと、時期もまだ分かっていない。相手は国王陛下に申し出る事を考えているみたいだ。国が動き始めれば、時期も相手もハッキリするだろう。」
貴族たちの小競り合いに付き合わされる王様もイイ迷惑だな。
「相手は、ポーションの価格が高騰している問題の責任をこちらに被せ、その問題の解決を口実に”勝負”を仕掛けてくるという噂だ。”勝負”に勝利すれば、この領地を得ると共に陛下に恩を売れるとでも考えているのかもしれない。あくまでも噂だが。」
ここでもポーションか…。
どうなっているんだろうな。
しかし、ポーションの価格が高騰している問題の責任を被せられたりするのは問題だな。
我々が、何処か別の街に拠点を移しても、また狙われることになるだろう。
それどころか、我々が拠点を移すことを拒絶する街も出てしまいかねない。
それならば、今回の”勝負”で勝っておいた方が良いのかもしれないな。
一度勝利しておけば、その後に挑もうとする者が出てきても、慎重にならざるを得ないだろうからな。
ふむ。
副領主に重要な事を訊く。
「報酬は?」
途端に渋い顔になる副領主。
なるほど。報酬を支払いたくないのか。
狙われた理由が”我々”だと思っているのならば、そうだろうな。
我々との間には因縁が有って、仲良く協力する様な間柄でもないのだしな。
だが、最初にこの街に魔術師を集めたのは、この副領主だ。
我々の魔術師ギルドの存在が無くとも、いずれ”勝負”を挑まれていただろう。
我々が”ただ働き”をしなければならない理由にはならないな。
副領主が言う。
「領主が変わることになれば、これまでの様な優遇措置は無くなるだろう。今回の”勝負”に勝利する為に私たちと協力するのが君たちにとって最善だ。」
まぁ、そう言うだろうな。彼の立場なら。
「いや、そうはならないな。魔術師を多く抱えている事がこの街の強みだ。誰が領主になろうと魔術師を減らす様な政策は採らないだろう。我々からしたら、ただ領主が変わるだけの話だ。」
そう言って、キッパリと否定してやった。
副領主は、さらに渋い顔になった。
報酬として副領主から、さらなる優遇措置の拡充を提案された。
だがそれは、勝った場合にしか意味が無いことだし、報酬を支払いたがっていない様子を見せられれば、反故にされる可能性も考えておかなければならないだろう。
報酬は先払いさせた方が良いだろうな。きっと。
先払いさせるとなると現金だな。
”勝負”となれば、どうせ冒険者も雇うのだろう。
だから、副領主に、冒険者の倍額の報酬を先払いで要求した。
我々の報酬が、冒険者の倍になるのは当然だ。
至高の存在なのだからな。
むしろ安いぐらいだ。
うむうむ。
しばらく副領主と報酬について交渉したのだが、まとまらなかった。
まぁ、まだ”勝負”が行われると決まった訳ではないのだ。急いで決める必要も無い。
それに、”勝負”が行われると決まった後の方が、交渉がし易いだろうしな。
副領主が帰って行った。
少し落ち込んだ様子で。
安いぐらいの報酬で我々の協力が得られるというのに、おかしな奴だな。
幹部会に諮る為に会議室に向かう。
この様な重要な案件は、自分一人では決められないからな。
あの場に戻るのは気が重いが、もう収まっているだろう。
会議室に戻った。
相変わらず『製造』と『販売』と『人事』が罵り合っていた。
それどころか、より白熱している様に見えた。
「………………。」
罵り合いを、皆で協力して止めさせた。
全員を席に座らせた。
『お茶でも飲ませて一息入れさせよう。』と思ったのだが、カップが飛び交う様子しか想像できなかったので、それはやめておいた。
副領主から協力を要請された”勝負”の件を話した。
場が静まり返った。
皆、頭の中で損得を考えているのだろう。
しばし、その様子を眺めた。
ギルドマスターから話を聞かされた幹部たち。
それぞれが、頭の中で損得を考えた。
そして、彼らの頭の中には同じ事が思い浮かんだ。
それは、前回の”勝負”のこと。
公爵家を相手に、”たった一人の魔術師”が勝利したこと。
『前回行われた”勝負”では、”たった一人の魔術師”が勝利したのだ。我々が負けるはずなどないではないか!』
そして、勝利と、勝利の後に称賛される自分たちの姿が頭の中に思い浮かんだ。
『その称賛の声は、至高の存在たる我々に相応しいものになるだろう。そして、我々が至高の存在である事を、国中に広く知らしめることになるだろう。』
そう思ったのだった。
この場に居た全員が。
私は、皆の様子を眺めていた。
そして、皆の表情が変わったのが分かった。
いや、皆が何を求めているのかが分かった。
私は、静かな声で、賛成の者の挙手を求めた。
全員の手が上がった。
全会一致だった。
皆の心が一つになったのだ。
我々魔術師ギルドは、この領地に挑まれる”勝負”への協力を決めた。
『魔術師でない者』たちを大勢抱えた魔術師ギルド。
幹部たちは、その事に気付けないまま、”勝負”に挑む事になった。
保身を図る者や、自分勝手に行動する者たちが多かったが為に。
自分たちを『至高の存在』だと思いたがる者が多かったが為に。
この組織に寄生する『魔術師でない者』たちの存在に気付く機会が、これまでに何度も有ったにも関わらず。
2022.03.17 脱字修正 など
誤字報告していただいた脱字を修正しました。ありがとうございました。
ついでに、ルビの追加、句読点の見直し、文章の微修正などをしました。
それと、”賞賛”を”称賛”に変えて、文章も少し見直しました。
お話の内容は変わっていません。
外伝を一本上げた後、新章へ行きます。
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