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姫様を助けたのは失敗だったが、割と好き勝手に生きています。  作者: 井田六
第十三章 異世界生活編08 魔術師の街の騒動 前編 <異変>
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< 11 元魔術師 バロル 04end >


いまだに、魔術局への復職はかなっていない。

だが、いまだに、魔術師ギルドに所属できている。


以前、俺の研究職への異動を何だかんだと理由を付けて拒絶した人事じんじ統括とうかつしていた幹部。

奴は、何処どこかにトバされたらしい。

奴には、今の俺の”みとがたい現状”をさとられていたから、奴がトバされたのは俺にとっては朗報だ。

きっと、バチが当たったんだな。

奴がトバされたお陰で、俺は今でも解雇されずに済んでいるのだろう。


解雇されてはいないが、給料は安い。

とても次の給料日までちそうにない。

何かお金を得る方法を考えなければなるまい。


そんな時に噂を聞いた。

『森の魔物が激減している様だ。』、『魔物の討伐の仕事がほとんど行われていない様だ。』と。

魔物の討伐と薬草採取は、今の組織が魔術研究会という名前で立ち上げられた当初から行われていた仕事だ。

だが、それらが最近はあまり行われていないらしい。

聞くところによると、冒険者たちが身分不相応みぶんふそうおうな主張をして、護衛の仕事をやろうとしない所為せいらしい。

森の魔物が激減していて思うように稼げず、『割に合わない。』などと言っているんだそうだ。

至高の存在たる魔術師さまの役に立てるのだから、身分不相応みぶんふそうおうな主張などせずに、真面目まじめに働けばいいものを…。

俺は、心の底から呆れた。


その話を聞いて、『魔物が居ないのならば、薬草を採取しに行けるな。』と思い付いた。

俺は、薬草を採取して、それを魔術師ギルドに買い取らせる事を思い付いた。

早速さっそく、森に向かうことにした。


森の手前まで来た。

気配をさぐりつつ慎重に森に入る。

丈夫そうな木の枝を拾い、手に持つ。

まんいち、魔物が現れた時の為にな。

以前所有していた魔術師のつえとは比べ物にならないほどみすぼらしい木の枝だが、無いよりはマシだ。

深く森に入ってしまわぬ様に注意しながら薬草を探す。


しばらく探したが、なかなか見付からない。

少し、森の奥に入り、さらに薬草を探す。

だが見付からない。

…そうか。

街ではポーションを沢山たくさん作っているのだ。

森の浅い場所に在った薬草は、既に採り尽くされてしまったのだろう。

浅慮せんりょおろものどもに腹が立つ。

腹が立ったが、金を得る為には薬草が必要だ。

俺は、さらに森の奥に入って、薬草を探した。

だが、見付からない。


結局、この日は薬草を見付ける事が出来なかった。

クタクタになって、家に帰った。


家に帰り、カラカラに乾いた喉をうるおす。

思い付いてすぐに行動してしまったから、水筒を持って行くのを忘れてしまった。

森に行くには水筒が必要だな。

今まで、水筒を持つ必要など無かったから、失念していた。

ソファーに、疲れた体を沈める。

そして、今日の出来事を振り返る。

くそう。

何もかも上手うまくいかなかった。

くそう。

くそう。

くそう。 くそう。 くそう。



翌朝。

今日も薬草を採取する為に森に向かう。

途中で水筒を買い、水を入れて門に向かって歩く。

水筒など今まで持った事が無かった。

魔法で水を出せていたからな。

水の入った水筒とは、意外と重い物なのだな。

そんな事を考えながら歩いていて、ふと、気が付いた。

自分が、みすぼらしい木の枝をつえの様に持っている事に。

恥ずかしくなって、道端みちばたに捨てた。

あの様なみすぼらしい木の枝は、至高の存在たる魔術師さまには相応ふさわしくない。

うむ。

俺は、至高の存在たる魔術師さまなのだ。

それを忘れる事など出来ない。

現実がどうであろうともな。

うむ。

俺は堂々と歩いて門を出て、森に向かった。


森に入り、ず木の枝を探す。

護身用に。丈夫な木の枝を。

だが、みすぼらしい物であってはならない。

至高の存在たる魔術師さまに相応ふさわしい物でなければな。

半日ほど探したが、至高の存在たる魔術師さまに相応ふさわしい木の枝は落ちていなかった。

取り敢えず、丈夫そうな木の枝を持って、薬草を探しに森の奥に向かった。


結局、この日も薬草を見付ける事が出来なかった。

クタクタになって、家に帰った。


ソファーに、疲れた体を沈める。

くそう。

くそう。 くそう。 くそう。



目が覚めた。

寝過ごしてしまったか?

既に昼近い時間の様だ。

ベッドから疲れた体を引き剥がす。


俺は、今日も森に行く。

あれから何日も森に行っているが、いまだに薬草を見付けられていないがな。

でも、今日は見付けられるだろう。…多分たぶん

昼食を兼ねた遅い朝食を済ませ、疲れた体にむちって玄関に向かう。

玄関に溜まっているみすぼらい木の枝を横目よこめに、そいつらの誘惑を振り切って家を出た。

門に向かって歩く。

疲れた今の体には、これだけでもしんどい。

水筒が重い。

つえが欲しくなる。

だが、みすぼらし木の枝を持って街など歩けない。

俺は、至高の存在たる魔術師さまなのだからな。


森の手前までやって来た。

ここに来ただけで、既に疲れてしまっている。

ちょっと休憩しよう。

地べたに座り、水を飲み、木に寄り掛かって休んだ。


目が覚めた。

うっかり、眠ってしまっていた様だ。

もう日が沈みかけている。

しまったな。

今からでは、森の奥まで行けそうにないな。

今日はもう、諦めて帰ろう。


そう思ったら、何かの気配を感じた。

『魔物か!』と思って、体が緊張する。

音を出さぬ様に注意しながら、音がした方をうかがう。

そちらを見たら、森から出てくる男の姿が遠くに見えた。

冒険者か?

いや、冒険者とは少し違う様に感じるな。

その男を観察する。

男は木の枝を持ち、もう片方の手には袋を持っていた。

袋は膨らんでいる様だが、あまり重そうには見えない。

薬草を採って来たのか?

そう思ったら、その男の姿が、今の自分と似ている様な気がした。

あの男も魔術師か…。

それも…、俺と同様の…。

何とも言えない気持ちのまま、その男の姿を目で追った。


あの男の持つ袋の中身が気になった。

きっと薬草だろう。

そして、魔術師ギルドに持って行って買い取ってもらうのだろう。

俺は、あの男の後を付いて行く事にした。

この森でどんな薬草が採れるのかを俺は知らなかったし、買い取り金額も知らなかったから。

買い取ってもらうところを見て、それらを確認しようと思って。


あまり近付いては警戒されると思い、男とは距離を取って歩いた。

疲れた様に歩くその男は、一度も振り返ること無く門まで来て、街の中に入って行った。

男が街の中に入ったのを見て、俺は門まで走り、街の中に入った。

あの男の行先は、魔術師ギルドのはずだ。

俺は足早あしばやに魔術師ギルドに向かった。


魔術師ギルドに入るあの男の後姿うしろすがたが見えた。

俺も魔術師ギルドに入り、買い取り窓口に向かう。

そして、あの男の後ろに並んだ。


あの男の順番が来た。

袋の中身をカウンターの上に出す様子を肩越しに見る。

女性職員が検品している。

見ていたら、薬草の山が二つ作られた。

そして女性職員が言う。

「こちらは薬草ではありません。似ていますが別の草です。こことここが違うのが分かりますか?」

「えっ?!」

男が驚きの声を上げた。

男の肩越しに薬草の山をじっくりと見るが、俺にも違いが分からなかった。

薬草の採取は、俺が想像していたほど簡単ではなかったみたいだ。

「買い取り金額は銅貨5枚です。」

「ええっ?!」

女性職員が言った買い取り金額を聞いて、男が再び驚きの声を上げた。

俺も驚いた。買い取り金額が安くて。

「い、一日掛かって集めた薬草だぞ!」

「この量では銅貨5枚です。」

「ふ、ふざけるな! 安過やすすぎるだろうが!」

「この量では銅貨5枚です。」

もう一度繰り返す女性職員。

「ふざけるな! 俺は魔術師さまだぞ! 魔術師さまに相応ふさわしい報酬ほうしゅうを払うのは、魔術師ギルドなら当然だろうが!」

「銅貨5枚が正当な報酬ほうしゅうです。」

一歩も引かぬ女性職員。

「職員ごときが何様なにさまのつもりか! 金貨で寄越よこせ! それが魔術師さまに対する正当な報酬ほうしゅうだろうが! 」

「買取り金額にご不満ならお引き取りください。あなたのしている事は業務妨害です。」

まったく引かぬ女性職員。

その態度に俺は驚く。

「貴様っ! 魔術師さまに対して無礼であろうが!! 俺様が教育してくれる!! 」

激高げきこうした男がカウンターに足を掛けた。

それはさすがにマズイ。

そう思って、俺は男から距離を取った。

「【ファイヤーアロー】。」

その声は、男のすぐ向こうから聞こえた気がした。

「うがああぁぁぁ!!」

悲鳴を上げながら、男が背中から床に落ちた。

そして、顔を押さえて、のたうち回る。

女性職員を見ると、『やれやれ』って表情をしていた。

どうやら、あの女性職員が【ファイヤーアロー】を撃った様だ。

のたうち回る男の様子からさっするに、男の顔面に至近距離から【ファイヤーアロー】を撃ち込んだのだろう。

彼女は、そこそこ高いレベルの魔術師だった様だ。

警備担当の職員が来て、男を引きずって行った。

俺はその様子を呆然と見送った。

「次の方どうぞ。」

男が引きずられて行くのを見ていたら、そう声を掛けられた。

俺はあわてて、「また今度っ。」と言って、その場を離れた。


ベンチに座って考える。

薬草の採取は、俺が思っていたほど簡単ではなさそうだった。

俺はポーションを作っていたから、それに使う薬草は知っている。

だが、それとよく似た別の草の存在は知らなかった。

ポーションを作る現場には、選別された後の薬草が届くのだからな。

それらを見分ける方法など、俺は知らない。

薬草の採取は、俺には難しそうだ。

ガックリする。

…いや、違うな。

俺には相応ふさわしくない。

そうだ。これだな。

これがしっくりくる。

うむ。

俺には相応ふさわしくない。

そうだ。そうだとも。

森で草取りをするなんて、至高の存在たる俺様には相応ふさわしくなかったのだ。


よし。

せっかく魔術師ギルドに来たのだ。

魔術局への勧誘をしに行こう。


ポーションを作っている者を勧誘していたら、警備担当っぽい職員がドタドタと走って来た。

俺はあわてて魔術師ギルドを飛び出した。



あの日以降、魔術師ギルドでの魔術局への勧誘は、一旦やめている。

一旦やめているだけだ。

あきらめてはいない。

魔術局こそが、至高の存在たる俺様の居るべき場所なのだからな。


金がなければ生きていけない。

魔術師ギルドから受け取った給料は底を尽きかけているが、ギリギリ何とかなっている。

薬草採取の仕事で。


あの日から数日後。

俺は、あの女性職員に薬草の見分け方を教えてもらった。

魔術師が魔術師に教えをうのだ。

何もじる事など無い。うむ。

それに、薬草はポーションを作るのに必要で、そのポーションを売った金が魔術師たちの給料になっているのだ。

薬草の採取は、魔術師ギルドの存在を支えるとてつもなく重要な仕事で、何もじる様な事では無いのだ。

うむうむ。


俺は今日も森に向かう。

木の枝から削り出して自作した杖と、水筒を持って。

あくまでも、魔術局に復職するまでの一時的な仕事だ。

それまで食い繋ぐ為の一時的な仕事だ。

そうとも。


俺はあきらめてなどいないんだ。


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