< 09 魔術師ギルドのギルドマスター 02 >
『人事』の後任がなかなか決まらない。
特に【風】と【火】が互いに一歩も引かず、話がまとまる気配すら無い。
もう、うんざりしてきた。
はぁ。
来客を告げられた。
副領主が訪ねて来たそうだ。
珍しいな。副領主が会いに来るなんて。
副領主は、我々のことを嫌っているはずなのにな。
我々が魔術局から大勢の魔術師を引き抜いた所為で。
きっと、良くない話なのだろう。
また税金が引き上げられるのかもしれないな。
このクソ忙しい時に…。
応接室に行くと、副領主の他に冒険者らしき男が一緒に居た。
ソファーに座り簡単に挨拶をすると、冒険者らしき男が話し始めた。
「公爵家の依頼でオークの集落を殲滅することになりました。その為に魔術師を集めています。王都では集まらなかったので。ご協力をお願いします。」
そして、王都の冒険者ギルドのギルドマスターからの手紙を渡された。
その場で開封して、手紙を読む。
確かに、言われた通りの内容が書かれている。
”公爵家の依頼”で動いていることが、特に強調されているな。
しかし今は、『人事』の後任を決めるのに忙しくて、それどころではないのだ。
オークの討伐などしていられるかっ。
「魔術師たちは魔法の研究に忙しい。オークの討伐などに出せない。」
「それに、研究の方が、はるかに国益になる。」
そう、適当な事を言って追い返した。
フン。
揉めに揉めた『人事』の後任が、やっと決まった。
【風】の者に。
【風】と激しくやり合っていた【火】は、『人事』を諦める代わりに、ダンジョンの在る街グシククに作る支部の支部長の地位を得る事になった。
我々の【土】が『人事』を得られなかった事は残念だが、ようやく決まった事にホッとした。
ふぅ。
今日は、王宮で王女様の結婚式があるのだそうだ。
まぁ、我々には関係の無い話だ。
そう言えば、ポーションの件は、どうなっていたのだったかな?
『人事』の後任を決めるゴタゴタで、仕事が止まってしまっていた。
山積みになっている書類の中から、『製造』に関する報告書を掘り出す。
掘り出した報告書を時系列に並べ直し、読む。
ふむふむ。
ポーションは計画通りに作られている様だな。
うむ。
そうだ。
王都の支部の件は、どうなっているのだろう?
すっかり忘れていた。
それどころではなかったからな。
執務机の上の山積みの書類を眺める。
………………。
今日はもういいな。既に日も落ちかけている。
書類の整理は明日にしよう。
翌朝。
今日は、山積みになっている書類を片付ける事にする。
………………。
先ず、仕分けから始めるか…。
書類を仕分けるだけで、昼までかかった。
ふう。
昼食後。
書類に目を通そうと思っていたら、【火】の連中が押し掛けて来た。
「新しい支部は、いつ作るんだ?」と。
気の早い連中だ。
昨日、『次の支部はダンジョンの在る街グシククに作る。』と、ただそれだけが決まったばかりではないか。
【火】の連中は脳筋揃いなのか、「いつなのか?」、「早く決めてくれ。」と、しきりにそればかり言ってくる。
そんな彼らにうんざりする。
予算を組む必要もあるし、支部を作るノウハウだって我々にはまだ十分にないのだ。
先ず、先日王都に作った支部について検証をして、それからだろうに。
次の支部を作る日程なんて、今すぐになんて決められるはずがない。
それなのに【火】の連中は、その程度の事すら理解しようとしない。
俺は、山積みになった書類を処理しなければならないんだ。
仕事をさせてくれ。
馬鹿ばっかりの【火】の連中の相手で疲れ果ててしまい、今日も碌に仕事にならなかった。
翌朝。
溜まっていた王都の支部からの報告書を読む。
王都の支部からは、意外と多くの報告書が届いていた。
『ポーションについて』、『貴族について』、『公爵家について』、『支部の現状について』、『グラストリィ公爵について』、『王女様の結婚式について』などだ。
これらの報告書を読んでいく。
『公爵家について』は、以前、副領主が冒険者と共にここを訪れて、協力を要請してきた件だった。
『オークの討伐に協力をしてほしい。』とか何とか言われたが、適当な事を言って追い返したな。
何でも、公爵家が雇った冒険者たちは、一人も帰って来ていないらしい。
ウチの魔術師たちを参加させなくてよかったな。
断って正解だった。うむうむ。
『支部の現状について』は、『仕事の斡旋が上手くいっていない。』と書かれている。
王都に居る魔術師の数がそもそも少なく、仕事を求めにやって来る魔術師が居ないらしい。
そうか。
王都に居た魔術師のほとんどが、既にこの街に移住していたのかもしれないな。
『この街の次に支部を作るのなら、隣の王都だ。』と思っていたのだが、近過ぎた事が却って良くなかったか…。
王都に支部を作ったのは失敗だったかもしれない。
そして、支部に訪れる者は、ポーションを求めて来る者ばかりらしい。
我々は、ポーション屋ではないのだがな。
そして、『『魔術師の街』以外での支部の運営は厳しそうだ。』とも書かれている。
うーむ。
次に支部を作る時は、慎重にせねばならないな。
『王女様の結婚式について』は、『参列したかったのだが、叶わなかった。』と書かれている。
『まだ出来たばかりの魔術師ギルドの存在を知らしめる良い機会だったのに、残念だった。』とも書かれている。
そうか。
王女様の結婚式は、我々とは関係の無い話だと思っていたが、我々の魔術師ギルドのことを知らしめる良い機会だったのだな。
なるほど。
そう考えると、確かに参列したかったな。
失敗したな。
『グラストリィ公爵について』の報告書を読んで驚いた。
何でも、公爵家との勝負にたった一人で挑み勝利した、素晴らしい魔術師なのだそうだ。
そして、王女様を射止めた者こそが、このグラストリィ公爵なのだそうだ。
支部長も絶賛している。
『魔術師が至高の存在だという事を、まさに体現している者だ!』、『この話は、大陸中に広めなければなるまい。』と。
うむうむ。
まさに、その通りだな。
『渉外』の幹部に指示して、この者の話を大陸中に広めようではないか。
『渉外』の幹部に重大な仕事を与えて上機嫌で居ると、王都の支部から新たな報告書が届いた。
早速、この報告書を読む。
グラストリィ公爵に勲章を授与する?
ふむ。
それと、名誉顧問の地位も。か。
なるほどな。
地位を与えて組織に取り込むのか。
良い考えだ。
よし。魔道具を製作している部署に勲章を作らせよう。
彼らなら立派な勲章を作ってくれるだろう。
『製造』の幹部を呼んで、勲章の製作を指示する。
「早急にデザイン案を出してくれ。幹部たちに意見を訊いて、すぐに製作に取り掛かりたい。」
「…分かりました。」
「ん? 顔色が悪い様だが大丈夫か?」
「え、ええ、大丈夫です。ポーションの生産も大丈夫です。はい。では、すぐに取り掛かります。」
そう言って、彼は慌ただしく執務室を出て行った。
翌朝。
朝一番で、勲章のデザイン案が複数提出された。
早速、幹部を集めてデザインを決め、すぐに製作を指示した。
勲章は翌朝に完成し、すぐに王都の支部へ送った。
私が直接手渡したかったのだが、書類が溜まってしまっているからな。
それに、王都の支部長の彼に大役を任せ、箔を付けてやるのもいいだろう。
有能な彼に、恩を売っておく為にな。
彼がどうやって、あのお馬鹿な【火】の連中を抑えていたのか不思議で仕方が無い。
有能な彼には、ぜひとも戻って来てほしいものだ。切実に。
今は、彼に恩を売っておこう。
いつか、私の役に立ってもらう為に。
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