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姫様を助けたのは失敗だったが、割と好き勝手に生きています。  作者: 井田六
第十三章 異世界生活編08 魔術師の街の騒動 前編 <異変>
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< 05 元魔術師 ジール >


元魔術師 ジール

24歳。男性。【火属性魔法】の使い手。

軟派な色男。


  ◇     ◇


目がめた。

知らない天井だ。

だが、そんな事はいつもの事だ。

隣で寝ているのはミルちゃんだろう。

昨夜は一緒に食事をして、その後、ミルちゃんに誘われるまま呑みに行った。

その後、女性たちのウケが良いのでいつもやっている、夜空に【ファイヤーアロー】をはなつパフォーマンスをして、愛をささやいた…はずだ。

ちょっと記憶が飛んでいるか?

【ファイヤーアロー】をはなとうとしたあたりから記憶が無いな。

だが、こうして隣でミルちゃんが寝ているのだ。

それに、俺も裸だしな。

昨夜はおたのしみだったのだろう。…記憶が飛んでいるが。


彼女が目を覚ました様だ。

寝返りを打って、こちらを向く。

目と目が合う。

「………………。」

「……うふ。」

誰だ? このババァ。

「ゆうべは素敵だったわ。うふ。」


俺は逃げ出した。

悲鳴を上げなかった事は、自分で自分を褒めてあげたい。



目が覚めた。

知らない天井だ。

だが、そんな事はいつもの事だ。

隣で寝ているのはシンディちゃんだろう。

昨夜は一緒に食事をして、その後、シンディちゃんに誘われるまま呑みに行った。

その後、女性たちのウケが良いのでいつもやっている、夜空に【ファイヤーアロー】をはなつパフォーマンスをして、愛をささやいた…はずだ。

ちょっと記憶が飛んでいるか?

【ファイヤーアロー】をはなとうとしたあたりから記憶が無いな。

だが、こうして隣でシンディちゃんが寝ているのだ。

それに、俺も裸だしな。

昨夜はおたのしみだったのだろう。…記憶が飛んでいるが。


………昨日の朝も、こんな目覚めだったな。

思い出したくはないが。


彼女が目を覚ました様だ。

何故なぜか体が緊張する。

寝返りを打って、こちらを向く。

目と目が合う。

「……うふ。」

誰だ? このオーク。

「ゆうべは素敵だったわ。うふ。」


俺は逃げ出した。

悲鳴を上げなかった事は、自分で自分を褒めてあげたい。



目が覚めた。

知らない天井だ。

だが、そんな事はいつもの事だ。

…体が震えているのは、いつもと少しだけ違うがな。

隣で寝ているのはアルテアちゃんだろう。

昨夜は一緒に食事をして、その後、アルテアちゃんに誘われるまま呑みに行った。

その後、女性たちのウケが良いのでいつもやっている、夜空に【ファイヤーアロー】をはなつパフォーマンスをして、愛をささやいた…はずだ。

ちょっと記憶が飛んでいるか?

…どうして最近、【ファイヤーアロー】をはなとうとしたあたりから記憶が無いんだろうな?

だが、こうして隣でアルテアちゃんが寝ているのだ。

…アルテアちゃんだよな?


………昨日の朝もその前の朝も、こんな目覚めだったな。

思い出したくはないが。


彼女が目を覚ました様だ。

何故なぜか体が緊張する。

本能が『逃げろ!』と叫んでいる。

寝返りを打って、こちらを向く。

昨日見たオークが可愛く感じた。

目と目が合う前に俺は逃げ出した。


悲鳴を上げてたかもしれないが、そんな事はどうだっていいんだ。



「どうしたんだ? 色男。」

ポーションを作る気になれず、ボーっと椅子に座っていたら、同僚に声を掛けられた。

「…体調がすぐれないんだ。」

俺はそう言った。

そんな生易なまやさしいものではなかったのだがな。

自分でも、よく仕事場ここに来れたものだと思う。

「昨日も一昨日おとといも、そう言ってなかったか?」

「…俺は過去を振り返らない男なんだ。」

この三日間の出来事を思い出して、気分が悪くなる。

特に今朝のは…。うぷっ。

「本当に体調が悪そうだな。でもノルマはこなせよ。」

そう言って同僚は、自分が作業するスペースに向かった。

「はぁ。」

溜息ためいきが出た。

昨日と一昨日おとといは、仕事をする気になれなかった。

今日は、さらにひどい気分だ。

精神的にも肉体的もグッタリだ。

結局、今日も仕事をする気になれなかった。



翌朝。

今日は元気だ。

昨夜は誰ともデートをしなかったからな。

こんな日はしばらくぶりだ。

この街では魔術師はモテるからな。(注:個人の感想です)

その中でも俺はバツグンにモテモテだ。(注:個人の感想です)

美形に産んでくれた母に感謝だ。(注:美形なのは本当です。爆発しやがれ)


ポーションを作る共用スペースに来て、作業する場所を確保する。

ここ何日かは仕事をサボ…、いや、気分が乗らなくて、何となく仕事をしてなかった。

そろそろちゃんと仕事をしないと、ポーション作りのノルマを果たせなくなってしまう。

魔力に限界が有るので、一日に出来る仕事量の上限が決まってしまう。

サボってばかりだとノルマをこなせなくなってしまうから、今日はちゃんと仕事をしないとな。


俺は、この魔術師ギルドの中の”いち魔術師”で終わる様な男ではない。

やがてはこのギルドの長となり、愚民ぐみんどもを導き、魔術師を中心とする正しい世界を作り上げるのだ。

ライバルは多いが関係無い。

俺だけが、それが可能なのだ。

俺こそが、その偉業をげ、永遠にたたえられるべき男なのだ。

…今はただの”いち魔術師”だがな。

出世する為には、ノルマの未達みたつごときで、評価に傷を付ける訳にはいかないのだ。

今日はまじめに仕事をしよう。


きざんだ薬草をビーカーに入れ、粉末状に砕いた魔石を入れ、水を入れ、そして手をかざして魔力を注ぎ込む。

これまで何度もやってきたポーション作りだ。目をつむってだって出来る。

そう思ったら目の前が暗くなった。

『本当に目をつむる奴があるか。(笑)』

そう自分にツッコミを入れた気がした。



目が覚めた。

知らない天井だ。

「………………。」

服は着ている。

ベッドには俺一人だ。

その事に、心から安堵あんどした。

心から安堵あんどしたのだが、心臓はバクバク言っている。

ここが何処どこなのかは確認しないといけないな。

…それと逃走経路も。(ビクビク)


首を横に向けてまわりを見る。

魔術師っぽい男が何人もベッドに寝ていた。

ここは何処どこなんだ?

「よう、色男。夜遊びはホドホドにな。」

そう声を掛けられた方を見る。

白衣を着た男が居た。

会話をした事は無いが、魔術師ギルドの者だったと思う。

「ここは?」

「医務室だ。最近、仕事中に貧血で倒れる者が多いんだ。」

貧血?

貧血で倒れた事など、今まで無かったのにな。

そう言えば、目の前が暗くなった様な気がしたな。

「調子はどうだ? 大丈夫そうならベッドをけてほしいんだが。まだまだ運ばれてくるヤツが居そうな気がするんでな。」

「ああ、大丈夫だ。」

そう言ってベッドからり、立って体の調子を確認する。

大丈夫そうだ。

「邪魔したな。」

そう言って、作業していた共用スペースに戻った。


作業机の上には、ビーカーに入った作りかけのポーションが在った。

材料を無駄にすると怒られてしまう。これは仕上げてしまおう。

椅子に座り、ビーカーに手をかざして魔力を注ぎ込む。

すぐに、目の前が暗くなった。



目がめた。

見覚みおぼえのある天井だ。

体を起こしてまわりを見る。

魔術師っぽい男が何人もベッドに寝ていた。

医務室の様だ。

白衣を着た男は、別の場所で男をベッドに寝かせようとしていた。

俺は自分の体の状態を確認する。

大丈夫そうだ。

俺はベッドからりて、医務室をあとにした。


廊下を歩きながら考える。

おかしい。

おかしいのは分かるのだが、何がおかしいのかが分からない。

何がおかしいのか分からないまま、自分が作業するスペースまで戻って来た。


作業机の上を見る。

作りかけのポーションが在る。

「………………。」

今日はもう、ポーションを作ろうという気にはなれない。

ビーカーの中身を捨て、ビーカーを洗って片付けて、帰路きろいた。



呑みに行こうと思い、呑み屋街に来た。

キャロちゃんに会った。

珍しく、今日は一人の様だ。

「私と一緒に呑みに行かない?」

俺が声を掛ける前に、キャロちゃんの方から声を掛けてきた。

少しだけ驚いたが、あわてたりなんかしない。

イイ男には、良くある事だからな。(ふっ)

キャロちゃんに腕を引かれて歩く。

今まで一度も俺の誘いに乗ってくれなかったキャロちゃんだが、今はこうして腕を引かれて歩いている。

顔がニヤけるのをめられない。

今日は仕事では散々だった。

その気晴らしで呑み屋街に来たのだが、今日の俺にはツキが有る様だな。

かわいいキャロちゃんが俺の顔を見上げながら言う。

「昨日の朝、変な声を上げながら街を走ってたって聞いたんだけど、人違いだよね?」

「あ、当タり前ダろ。」

ちょっとだけ変な声が出てしまった。

それを誤魔化ごまかす様に言う。

「俺わぁ、デカイ事をげて、永遠にたたえられるべき男なのだからなっ。」

取り敢えず、デカイ事を言っておく。

中身なんて無くたって大丈夫だ。

モテる男にだけ許されるテクニックだ。(ふっ)


キャロちゃんに腕を引かれてあの呑み屋に来た。

イヤな予感がした。

俺は、腕を掴まれたままキャロちゃんの体のまわりを回って体の向きを変えさせ、向かいの呑み屋に誘った。

キャロちゃんは、「…まぁいいか。」と言って、笑顔で俺の腕を引いて、店の外のテーブルに俺を座らせた。


かわいいキャロちゃんと楽しく食事をして、楽しくお酒を呑んだ。

会計を済ませて呑み屋を出た直後、道の真ん中でキャロちゃんが大声で言う。

「あれやってみせて! 炎の矢がピューって飛んでくやつ!」

「おお、いいとも!」

酔って声が大きくなっているキャロちゃんに合わせて、俺も大声になる。

俺は夜空に向けて手をかかげ【ファイヤーアロー】をはな…とうとした。

そこで目の前が暗くなった。

くそっ、貧血か!

立っていられない。

俺は地面に倒れた。

目の前のあの呑み屋から店員が出て来るのを見た気がした。



目が覚めた。

知らない天井だ。

「………………。」

心臓がバクバクする。

落ち着け、俺。

知らない天井を見るのは、いつもの事だろ。

隣で寝ているのはキャロちゃんだろう。

絶対にそうだ。

それ以外の可能性なんて考えたくない!

俺の腕にまとわりつく肉の感触が『絶対に違う!!』と言ってるがな!


昨夜の事を思い出せ!

キャロちゃんと幸せなひと時を過ごしたはずだ!

俺も裸だしな!

さぁ、かわいいキャロちゃんとの幸せなひと時を思い出すんだ!


昨夜は、キャロちゃんに誘われて呑みに行った。

うん。

楽しく呑み食いをした。

うん。

その後、おねだりされて、夜空に【ファイヤーアロー】をはなつパフォーマンスをして、愛をささやいた…はずだ。

………【ファイヤーアロー】をはなとうとしたあたりから記憶が無いのは何故なぜなんだ?(泣)


どうして体が震えるんだろうな?

隣でキャロちゃんが寝ているのに。

キャロちゃんだよな?

キャロちゃんのはずだ!

鳥肌を立てている腕が『絶対に違う! 今すぐ逃げろ!』と叫んでいるがな!(泣)


彼女が目を覚ました様だ。

心が絶望しているのは何故なぜなんだ?(泣)


寝返りを打とうとしている様だ。

太ったカエルだって、もっと機敏きびんに動けるんじゃないか?


寝返りを打った様だ。

波打なみうつ肉しか見えなくて、どちらが正面なのか分からないが。(泣)


何故なぜ、俺の体は動いてくれないんだろう?

本能が悲鳴を上げているのに。

これが”怖いもの見たさ”ってヤツなのかな?


目と目が合った。

本能が上げていた悲鳴が、三段階くらい跳ね上がった気がする。

駆け出したい衝動が空回りして体が動かない。

目をらす事も出来ない。


「ゆうb「ギャアアアァァァ!!!」」

何か聞こえた気がしたが、それが限界だった。

何が聞こえたのか頭が理解しなかったし、何が限界だったのかも頭が理解できなかったが。

ただ、俺の体が飛び跳ねる様に動いた。

そして、俺は衝動のままに走った。


何処どこに向かって走っているのか分からない。

今、自分が走っている場所も分からない。

何故なぜ、自分が走っているのかも分からない。

自分が何を見たのかも分からない。


だが…。

正気を失わずに自分の足で走れた事は、人類の偉業としてたたえられるべきだと思った。

理由は自分でも理解できなかったが。


(設定)

< ポーション作りに関わっている魔術師たちについて >

ポーションを作っている現場には、『能力が高く、ハイポーションを専門に作っている者』、『他の仕事をしながら、時々共用の作業スペースでポーションを作っている者』、『能力が低くポーションを作る事くらいしか出来ない者』などが居ます。

ポーション作りは、魔力が有れば出来る様な簡単な作業であった為、大勢おおぜいの魔術師が関わっています。

その中には能力が低いことが原因で剣士たちから下に見られていた者が多く、この街に来てから変な思想を持つ様になった者が大勢おおぜい居ました。

また、『ポーションが広く必要にされているにも関わらず、それを作る魔術師がそれに見合う評価をされていない。』と不満を持っていた者も多かった為、その様な者たちもこの街で変な思想を持つ様になりました。

変な思想を持つ者たちが【多重思考】たちに魔力を”1/1”にされた結果、ポーションの生産に大きな影響が出ているのです。


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