<02 元魔術師 バロル 01 >
元魔術師 バロル
35歳。男性。【水属性魔法】の使い手。
魔術局からの移籍は最近。魔術局ではポーション作りをしていた。
◇ ◇
目が覚めた。
………何で空が見えるんだ?
体を起こして周りを見る。
街の外なのか?
少し離れたところに街を囲む外壁が見えた。
地面に寝た事で痛む体を見る。
下着姿だった。
その事に気が付いたら、急に寒く感じる様になった。
訳が分からない。
一体、どうなっているんだ?
昨夜は久しぶりに呑みに行って…。
魔術師さまにお代を請求する愚か者が居て…。
愚か者の頭を冷やして、世の中の理を教えてやろうと、【ウォーターバレット】を撃った…。いや、撃とうとした?
あれ?
その辺りから記憶が無いな。
どうしたんだったかな?
うーーん。
思い出せないな。
声が聞こえた。
声がする方を見る。
門番と話している男が見えた。
いや、あれは門番に文句を言っている様だ。
門番に文句を言っている、その男。
その男も下着姿だった。
アイツの事は知っている。
少し前、市場で騒ぎを起こして、街の住人たちボコボコにされて、街の外にポイ捨てされたヤツだ。
その時は、アイツの事を腹を抱えて笑ったものだったのだが…。
今の俺の姿を見ると、まったく笑えないな。
「ははは…。」
『笑えないな。』と思ったそばから、笑い声が出た。
「ははは………。…はぁ。」
何とも言えない、みじめな気持ちになった。
何とはなしに、アイツの様子を眺めていた。
アイツは門番に文句を言った後、少し離れた場所に座り込んだ。
見ると、他にも座り込んでいる者や、地面に寝転んでいる者も居るみたいだった。
そのだらしない姿を見て、何とも情けない気持ちになった。
そして、今の自分の姿も、『他の者から見たら同様にだらしない姿に見えるのではないか?』と気が付いた。
ふっ。
俺は、至高の存在たる魔術師さまだ。
無様な姿を見せる訳にはいかない。
立ち上がった。
俺は魔術師さまだ。
家に帰ろう。堂々とな。
俺は門に向かって堂々と歩いた。
下着姿というのは、何となく心細く感じるものなのだな。
門の前まで来た時には、『早く家に帰りたい』という感情だけになっていた。
それでも虚勢を張って門番に言う。
「俺は魔術師さまだ! 門を開けろ!」
「身分証をお願いします。」
ムカついた。
「魔術師さまだと言ってるだろう! 早く門を開けろ!」
「最近、魔法を使えないのに魔術師だと言い張る者が増えています。何か魔法を使って見せてくださいますかねぇ。(ニヤニヤ)」
ムカついた。
こんなにも世の中に愚か者が溢れていたとはな!
やはり我々、至高の存在たる魔術師さまが導いてやらねばならない様だな! 愚か者どもを!
俺が、この愚か者の頭を冷やしてやらねばならん!
俺は両手を空に向け魔法を放つ。
「【ウォーターボール】!」
その直後、目の前が暗くなった。
ニヤニヤする門番の顔が見えた気がした。
家に帰って来た。
ソファーに腰掛け、一息吐く。
あの後。
もう一度目が覚めて途方に暮れていたら、魔術師ギルドの者が来てくれて、そのお陰で街の中に入る事が出来た。
門番が呼んでくれた様だった。
有り難いという気持ちも無くはなかったが、感謝する気持ちにはなれなかった。
また、他の一部の者たちの様に、勝ち誇った顔で門番を罵倒する気にもなれなかった。
何故、魔法を使えなかったのだろう?
門番とのやり取りを思い出す。
【ウォーターボール】を放とうとしたら目の前が暗くなった。
魔力切れの様な症状だった。
しかし、それなりの時間寝ていたはずだ。
魔力は十分に回復していただろう。
…昨夜は、魔力切れの可能性が無くはないな。仕事明けだったしな。
だが、今朝は違う。
魔力は十分に回復していたはずだ。
魔力切れのはずはない。
では、何だ?
何故、魔法を使えなかったのだろう?
分からない。
分からない。
だが、一つだけ確かな事が有る。
魔力切れのはずはない。
そう。
魔力切れのはずはない。
だから、ステータスを見てみた。
分からなかったから。
”確かなもの”を見たかったから。
ステータスに表示されているソレを見て、俺は愕然とする。
そんなはずはない。
そう。
そんなはずはない。
ステータスに表示されていたソレは…。
『お前は魔術師なんかじゃない。』と告げていた。
それは、あまりにも唐突過ぎる…、”絶望”だった。




