表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
姫様を助けたのは失敗だったが、割と好き勝手に生きています。  作者: 井田六
第十三章 異世界生活編08 魔術師の街の騒動 前編 <異変>
215/400

<01 元魔術師 ダリル >


ダリル

20歳。男性。【火属性魔法】の使い手。

攻撃魔法が好きな”ならず者”。

レベルが低い為、魔法を放つ際は長めの詠唱が必要。


  ◇     ◇


目がめた。

空が見えた。

いや、空しか見えなかった。

「………くそう。」


体を起こしてまわりを見る。

ここは街の外の様だ。

少し離れたところに街をかこむ外壁が見えた。

地面に寝た事で体が痛い。

いや、この痛みはそれだけではない様だ。

痛む体を起こす。

視界に入った自分の体は下着姿だった。

「またか! クソッ! おろか者どもがっ!」


立ち上がって、門まで行く。

そして、門番もんばんに言う。

「門を開けろ!」

「身分証をお願いします。」

「ああ? 俺は魔術師さまだぞ! 門を開けろ!」

「身分証が無いのでしたら「門を開けろと言っている!!」」

「門番ごときが魔術師さまにさからうとは何事なにごとか!!」

この街で一番(えら)いのは魔術師さまだろうが!

常識も知らぬおろかな門番に正義の鉄槌てっついをくらわす。

詠唱を始める。

「【ファイヤーアロー】!!」

目の前が暗くなった。

なんだ?!

近付く地面と、地面に座る下着姿の男たちが見えた気がした。



目が覚めた。

門のそばの様だ。

…またか。


今朝、街の外で目を覚ましてから、二度、常識知らずでおろかな門番と口論した。

今日、街の外で目覚めたのは、これで三度目だ。

門番と口論した所為せいのどかわいた。

少し休憩することにしよう。


しかし、どうして俺は街の外に居たんだ?

昨夜の事を思い出そうとする。

昨夜は確か…。

呑みに行った先の給仕きゅうじの娘に、魔術師さまに奉仕する機会を与えてやろうとしたんだったな。

至高の存在たる魔術師さまに、特別に奉仕する機会を与えられたのだ。

涙を流して感謝するのが当然だというのにそれを断ったな。あの愚かな娘は。

きっと栄養が豊満な胸にばかりに行ってしまったのだろう。

愚かな娘に常識を教えてやろうとしたら、冒険者ごときに邪魔をされたな。

冒険者ごときが至高の存在たる魔術師さまに意見するなど、思い上がりもはなはだしい。

だが俺は理解ある男だ。

冒険者も同業者に舐められてしまったら、色々と不都合が有ることだろう。

だから、俺が引いてやる事で、彼らのメンツを守ってやることにした。

俺は、壁の様にかこむ奴らを退けて店を出た。

そして、帰るフリをして…。

十分に距離を取ってから、思い上がった冒険者に【ファイヤーアロー】を撃ってやった。

至高の存在たる魔術師さまは、上に立つ者の義務として下々(しもじも)の者たちに教育をしてやらなければならないからな。

………撃ったよな? 【ファイヤーアロー】を。

あれ?

思い上がった冒険者の背中を見ながら詠唱を始めて【ファイヤーアロー】を撃った気がするが…。

どうもそのあたりから記憶がハッキリしないな。

………そうか。

他にも奴らの仲間が居たのだな。

そして、奴らの仲間に背後から襲われたのか。

なるほど。

背後から襲うとは、まったく冒険者とは下賤げせんな”ならず者”だな。

そして、服を奪われ、街の外に放り出されたのか。

………くそう。


どいつもこいつも!

何故なぜ魔術師さまが至高の存在だという事を理解しないんだ?!

まったく世の中はおろものばかりだな!

一刻も早く、魔術師さまが支配する世界を実現しなければならないな!


俺が決意を新たにしていたら、門からローブを着た男が出て来た。

あの男は知っている。魔術研究会の…、いや、名前が変わったんだったな。魔術師ギルドに。

いや、組織の名前など、別にどうでもいい。

ちょうどいいから、あの男に俺の身分を証明させよう。

「彼に付いて行ってください。」

門番がそう言った。

なるほど。

あの男が門番に一言ひとこと言っただけで話が付いたのだな。

当然だな。

魔術師のローブを着ていれば、俺だってあのおろかな門番と無駄な口論こうろんをする事も無かっただろう。

下賤げせんな冒険者の所為せいで、くだらぬ手間てまを掛けさせられたものだ。

俺は、常識知らずでおろかな門番に常識をさとしてやってから門をくぐった。


馬車で魔術師ギルドの建物に連れて行かれた。

一室に連れて行かれて、全員椅子に座らされた。

そして男が言う。

「至高の存在たる魔術師が、冒険者ごときに遅れを取るなどあってはならない事です。」

ぐ…。既に事情を知っていやがったのか。

「ましてや、一般市民にさえ遅れを取るなど言語道断です。」

『そんな者まで居たのか?』と思ったが、俺も先日、うっかり市場で魔力切れをやらかして、街から放り出されてしまったからな。

他人ひとの事は言えないな。

「体調管理をしっかりしてください。至高の存在らしからぬ無様ぶざまな姿を、街の住人たちに見せない様に。」

それで話は終わりだった。

その後、ローブを借りて、俺は家に帰った。



目が覚めた。

空が見える。

いや、空しか見えなかった。

「………………。」

またか…。


体を起こしてまわりを見る。

ここは街の外だ。

少し離れたところに街をかこむ外壁が見えた。

地面に寝た事で体が痛い。

いや、この痛みはそれだけではない様だ。

痛む体を起こす。

視界に入った自分の体は、今日も下着姿だった。

「………クソが。」


三日連続だ。こうして街の外で目を覚ますのは。

先日、魔物の討伐の仕事を終わらせて、今は自主的な休暇の最中さいちゅうだ。

のんびりと過ごして、夜になると呑みに行っていた。

昨夜も呑み屋の娘を連れて帰ろうとしたら、常識を知らぬ冒険者に邪魔をされた。

店から離れたところで、背中を向けている冒険者に教育をしてやろうとしたら…、その後はどうしたんだっけ?

どうも最近、記憶が欠落する事が有るな。

まぁ、どうせ下賤げせんで”ならず者”な冒険者に、後ろから襲われたのだろう。

クソが。


立ち上がって、門まで行く。

そして、門番もんばんに言う。

「門を開けろ!」

「身分証をお願いします。」

「俺は魔術師さまだ! 知っているだろうが! 門を開けろ!」

「身分証がn「門を開けろと言っている!!」」

「最近、魔法を使えないのに魔術師だと言い張る者が増えています。何か魔法を使って見せてくださいますかねぇ。(ニヤニヤ)」

「ふっ。本物と偽物の区別すら付かぬおろものが!」

詠唱を始める。

「【ファイヤーアロー】。」

目の前が暗くなった。

最近、何度か経験している。

一体いったい、どうなっているんだ?



目が覚めた。

門のそばの様だ。

立ち上がり、門番のところに行って、言う。

「俺は魔術師さまだ! 知っているだろう! 門を開けろ!」

「魔法を使えない人は魔術師とは言いません。(ニヤニヤ)」

ぐ。

このおろかな門番と口論しても無駄だ。

どうせ今日も、迎えが来てくれるだろう。

休憩しながら、迎えを待つことにしよう。

俺は、門番から少し離れたところに座った。


まわりには下着姿の男たちが何人も居る。

この三日間で、見慣れてしまった光景だ。

地面に座り悪態あくたいく者や、大人おとなしく座っている者、絶望したかの様に頭を抱えている者などが居る事も含めてな。

見知った顔が多いな。

………全員が魔術師の様に見えるのは何故なぜなんだ?


今日も魔術師ギルドの者が来て、馬車で魔術師ギルドの建物に連れて行かれた。

そして、お小言こごとと「体調管理をしっかりしてください。」なんてことも言われた。

この三日間と同じ内容だった。

そして、ローブを借りて家に帰るのも同じだった。



家に帰って来た。

椅子に座り考える。

この三日間は、おかしな事が続いている。

冒険者ごときに、遅れを取り過ぎだ。

だが、襲われたはずなのに、襲われた記憶が無い。

背後から襲われたとしても、おかしな気がする。

何か体に不調でも有るのだろうか?


ステータスを見てみれば何か分かるかもしれない。

そう思って、ステータスを見てみた。

MP(Magic Point)の値がおかしかった。

…なんで、”1/1”なんだ?

”1/1”なはずなど無いだろうに。

MPの表示がおかしかったので、ステータスの一覧を一度消して、もう一度表示させてみる。

「【ステータス】。」

もう一度ステータスの一覧を表示させても、MPの値は”1/1”と表示された。

どうして、こんなおかしな値が表示されるのだろう?

もう一度消して、再度表示させてみる。

「【ステータス】。」

目の前が暗くなった。

最近、何度か経験している事だ。

そして、遠のく意識の中で…。


俺は、おかしいのは”表示”ではない事を理解した。


(設定)

このダリルは、魔術師の街の市場でナナシに【ファイヤーアロー】を撃った魔術師です。

その時は、ナナシに【ファイヤーアロー】を無効化され、気絶させられました。

ナナシに気絶させられた後は、街の住人たちにボコボコにされて街の外に”ポイ捨て”されました。

ダリルの様な攻撃魔法が得意な魔術師たちは、森での魔物の討伐や、薬草の採取などの仕事を割り振られています。

それらの仕事は、冒険者を護衛に雇って一緒にしています。

ですが最近では、魔術師たちの横柄おうへいな態度に嫌気いやけした冒険者たちが護衛を引き受けてくれなくなり、森に行く仕事が減っています。

『自主的な休暇の最中さいちゅうだ。』とダリルは言っていますが、魔術師たちの行いの所為せいで森に行く仕事が無くなってヒマになっただけです。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ