< 00 序章 >
王都グラムの西隣の街、グラアソ。
この街は、別名を『魔術師の街』と言った。
魔術師が多く住む街と知られて。
以前、この『魔術師の街』を訪れたナナシは、この街の魔術師たちの横柄な態度と、それに迷惑している住人たちの姿を見た。
魔術師を『至高の存在』とか『選ばれた者』とか宣うこの街の魔術師たちを放置したら、他の街に居る魔術師たちの評判まで悪くなるかもしれない。
そうなってしまったら、他の街であっても魔術師は暮らし難くなってしまうだろう。
そう考えたナナシは、自分自身の為に『この街の魔術師たちの事を何とかした方が良いのかな? 何か出来る事はないかな?』と考えるが、出来る事が在るとは思えなかった。
そんなナナシに、【多重思考さん】がアドバイスをした。
『魔術師が問題を起こすのが問題なら、魔術師でなくしてしまえばいいんですよ。(ニヤリ)』と。
【多重思考さん】のアドバイスは、『素行の悪い魔術師のMP(Magic Point)の値を”1/1”にしてしまえば、魔法が使えなくなって魔術師ではなくなりますよ。』というものだった。
ナナシは、この【多重思考さん】のアドバイスを実行する事に決めた。
自分自身が、揉め事を避けて、のんびり過ごせる様に。
もちろん世の中の為にも。
自分がした事だとバレない様に、この街を離れた五日後から実行することに決めたナナシは、【目玉】を10個この街に置いて、この街を後にしたのだった。
ナナシがこの街を後にした当日。
この街の魔術師たちに大きな動きがあった。
この街には、魔術師たちが所属する二つの組織が在った。
副領主がこの街に魔術師を集めて作った『魔術局』と名付けられた役所と、『魔術局』から独立した者たちが立ち上げた『魔術研究会』だ。
この日、『魔術局』から大勢の魔術師が引き抜かれ、『魔術研究会』に加わった。
そして、大きな組織となった『魔術研究会』は、この日、組織の名前を変えた。
これからの発展に期待して。
世の中の人たちに広く受け入れられる事に期待して。
『魔術研究会』から…。
『魔術師ギルド』と。
ナナシが『魔術師の街』を後にしてから五日後。
ナナシがこの街に置いて行った10個の【目玉】(と、それを操作する【多重思考】たち10人(?))。
それと、途中で加わった1個の【目玉】(と、1人(?))は、この日から行動を開始した。
目を付けていた素行の悪い魔術師たちのMP(Magic Point)の値を”1/1”にしていった。
この章のお話は、
【多重思考】たちにより魔術師でなくなった者たちと、彼らに振り回される者たちのお話である。




