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姫様を助けたのは失敗だったが、割と好き勝手に生きています。  作者: 井田六
第十二章 異世界生活編07 新・新生活編
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< 57end 外伝 鎖骨同好会 臨時会長代行、奮闘す。 そして… >


「鎖骨バンザイ。」


「「「「「鎖骨バンザイ。」」」」」


「残念なお知らせです。会長がトバされることになりました。」

「「「「「ええっ?!」」」」」

「先日の一件がメイド長に問題視されました。持ち場を無断で抜け出した者が複数居たのがマズかった様です。」


鎖骨鑑賞会(=ナナシ様の生着替え鑑賞会)に参加する為に、大勢おおぜいの同志が押し寄せてしまった件です。


「でも、接触は無かったですよ。厳し過ぎではないですか?」

この同志は参加できた様ですね。うらやましい。

私も仮病が見破みやぶられなければ参加できたのに…。

『意識が上の階に向いている。』とか言われてキョドってしまい、先輩に仮病がバレてしまったのには驚きました。

先輩の裏をかく方法を考えなければっ。

なんとしてもっ。


うらやまけしからん同志に言います。

「もう一つの通達つうたつほうが駄目でした。」

『接触禁止』の通達つうたつではなく、『ドラゴンに接する様に、慎重に接する様に。』という通達つうたつほうです。

ナナシ様がお着替えされているところを大勢おおぜいかこんで鑑賞したのが駄目だったのです。

”ドラゴン”を半裸にしてそれを大勢おおぜいかこんで鑑賞しているのです。

『慎重に接する』どころの話ではありません。

むしろ、『何故なぜ、誰もめなかったのか?』と、問い詰めたくなります。

本当にうらやまけしからん。


一つ溜息ためいきいてから、次の報告をします。

「”ナナシ様付き”の後任こうにんは、ケイティさんです。」

「「「ええっ?」」」

何人かから意外そうな声が上がりました。

「なぜです? ケイティさんが鎖骨派なのは、”うえ”にも知られていたはずなのでは?」

「どういう事でしょう?」

「”上”は何をたくらんでいるんでしょうか?」

そんな声が聞こえます。

「最後通告なのでしょう。」

私はそう言って、一度(まわ)りの反応を見てから続けます。

「ケイティさんで駄目なら潰す事も検討する。そういう意味なのでしょう。」

この『鎖骨同好会』は、発足するやいなや、急激に大きくなった組織です。

この様な組織は、容易に不安定になり易く、その為、この組織がこの先どうなるのかを注視しているのでしょう。

そして、ケイティさんはその優秀さが認められて、将来の幹部候補と見做みなされています。

彼女なら、ニーナさんの後継者に据えても、おかしな失敗はしないと思われているのでしょう。

それと、彼女の適性を見る目的も有るのでしょうね。

自分をりっする事が出来るのか?

ニーナさんと同じ失敗をしてしまうのか?

そういった事を。

その様な目的の為に”ナナシ様付き”の役目を与えられる事について、思う事が無い訳でもないですが、後任が同志なのは希望が持てます。

うえ”に文句を言うべきではないでしょうね。


「次期会長について意見を求めます。」

ケイティさんをす声が半分弱ほどです。

彼女はこの同好会の活動に積極的に関わっていなかったですし、将来の幹部候補なのですから、この同好会の活動よりもそちらで功績を上げてほしいという気持ちがあります。

それに、『ナナシ様付き=会長』というのは、鎖骨同好会を設立したニーナさんだったからこそ、という気がしないでもないですし。

ですが一方で、『ナナシ様付き=会長』というのはアリだとも思います。

しかし将来、『同志がナナシ様付きになれなかった場合はどうするのか?』という問題が、起きてしまうでしょうね。

どうするのが良いのでしょうか?

悩ましい問題ですね。

この日は意見がまとまりませんでした。



次期会長を決められないまま、数日が過ぎました。

今日の話題も気が重いです。


「鎖骨バンザイ。」


「「「「「鎖骨バンザイ。」」」」」


「残念なお知らせです。会長…、いえ、前会長がやらかしました。」

「ナナシ様に突撃して、強制排除されたそうです。」

「「「「「………………。」」」」」


何をしているのですかね? あの人は。

「…会の方針は? 擁護ようごですか?」

擁護ようごは難しいでしょうね。前回の事があってトバされていたのですから。」

「”ドラゴン案件”ですからね。下手にかばうと大怪我をしかねません。」


ニーナさんには、いずれ会長に復帰してほしいと思っています。

今の動揺した状態にある鎖骨同好会を立て直せるのは、彼女しか居ないと思うので。

今、同好会の中では色々な派閥が生まれています。

鎖骨鑑賞会が問題視されて会長がトバされてしまった事で、『二度と鎖骨鑑賞会が開かれることは無いのではないか?』と同志たちに絶望を与えてしまった所為せいです。

中には”噂の鎖骨”をあきらめ、『女性の鎖骨もいいんじゃね?』とか言い出す者も現れています。

ナナシ様の”噂の鎖骨”の事は私も話でしか知りませんが、ニーナさんが熱く語るのを聞いて夢にまで見てしまった私としては、そう簡単に諦め切れるものではありません。

目的を見失った同志の一部が『私が鎖骨だ!』とか言い出し始めたのには、どう対処したらいいんですかね?

誰か助けて下さい。

次期会長選びどころではなくなってきましたが、私が頑張って同好会を支えています。



今日、唐突にナナシ様の噂の鎖骨のデッサンが幹部会に提出されました。

「ぐふぅ!!」

…これは、なかなかの破壊力ですね。

これとこれとこれの角度は王道ですが、こんな角度もアリなんですね。

ふむふむ。ふむふむ。

なかなかやりおる。

「これは一体いったい、どの様な手段で?」

このデッサンを持ち込んだ同志に訊きます。

「ナナシ様が結婚式の時の衣装を着る事になり、そのお着替えの時のものです。」

くっ。

その様な重大イベントがあったとは。

どうして、私はそれに気付けなかったのか! 不覚ふかくっ!

「…そのイベントは意図的に隠されていたのですか?」

「はい。また問題が起きてしまったら大変な事になりますので。箝口令かんこうれいを。」

なるほど。

また大勢おおぜいが押し掛ける事態となってしまったら、大変な事になりますからね。

しかし、今の同好会の状況で箝口令かんこうれいが機能しますかね?

私が疑問に思っていたら、さらに説明してくれました。

「『デッサンの邪魔になるから。』、『デッサンを鑑賞する機会を設けるから。』と言って箝口令かんこうれいを。ケイティさんが。」

なるほど。

そう言って、暴走する者が出ない様にしたのですね。

さすが将来の幹部候補ですね。

或いは、ケイティさんの出世の足を引っ張らない様に、まわりの者たちが配慮したのかもしれませんね。

鎖骨派の者が幹部に居れば、やりやすくなる事も有りそうですしね。

納得ですね。

「では、この素晴らしいデッサンを使って、鑑賞会を開きましょう。」

私はそう決めて、デッサンの複製の製作を指示しつつ、鑑賞会の巡回ルートを検討します。

巡回させるのは、『職場を抜け出してでも見に行く!』なんて者が出ない様にする為の配慮です。

同じ失敗を繰り返す訳にはいきませんので。


ウキウキしながら鑑賞会の巡回ルートを検討していたら、悪いしらせが飛び込んで来ました。

「大変です! 『女性の鎖骨もいいんじゃね』派の者が、ケイトさんに突撃してしまいました! 当人たちはケイトさんに撃退されたみたいですが、これに親衛隊が激怒しています!」

「…………。」

なんということでしょう。

大事件です。

ヤバイです。

鑑賞会どころの話ではなくなってしまいました。

しかし、何故なぜよりにもよってケイトさんに突撃してしまったのか…。

容易に撃退される事も、彼女の親衛隊を激怒させる事も分かるでしょうに…。

彼女の親衛隊を激怒させたら大変な事になります。

会長不在の現状で、上手うまく対処できますでしょうか?

マズいです。

状況確認の為に幹部を走らせます。

さらに他に問題を起こしそうな者たちを軟禁させます。

対応を間違えると大変なことになってしまいますが、今回は非常事態です。

とにかく、全力をって対処にあたります。



事態の鎮静化につとめますが上手うまくいきません。

ケイトさんの親衛隊の怒りが、なかなか収まらないのです。

収まるどころか、親衛隊の一部がメイド長へも怒りの矛先を向けて、護衛たちと揉めています。

先日、ケイトさんが反省部屋に入れられた事の鬱憤うっぷんが、今回の事を切っ掛けに噴き出してしまったみたいです。

何というの悪さなのでしょう。

マズいです。

ただでさえ、ケイトさんの親衛隊を恐れて同志たちが動揺しているというのに、さらにメイド長からも叱責しっせきされる事態にもなりかねません。

早く、この事態を収めなければ!

なんとしても!

私は焦ります。


鎖骨同好会からの脱退を宣言する者が続出しました。

ケイトさんの親衛隊を恐れてのことです。

誰もあの親衛隊に敵認定なんてされたくはないですからね。

また、派閥に分かれて行動する者が増え、以前からの分裂傾向がさらに強まりました。

鎖骨同好会がバラバラになりそうです。

ケイトさんの親衛隊を激怒させてしまった事が、痛恨の一撃になってしまいました。


鎖骨同好会の崩壊が止まりません。

同好会の形が有るうちに事態を収めなければ、ケイトさんの親衛隊たちの怒りがいつまでも続いてしまう事になるでしょう。

最悪の事態を回避する為に、私は鎖骨同好会の臨時代表代行としてケイトさんと親衛隊に正式に謝罪し、鎖骨同好会の解散を宣言して、事態の収束を図るしかありませんでした。


ケイトさんの親衛隊の最強伝説に『鎖骨同好会爆砕』の文字が追加されました。



鎖骨同好会は消滅しました。

あれほどの隆盛りゅうせいを誇った鎖骨同好会が、こうもあっさりと消滅してしまうとは…。

ニーナさん優秀だったのでしょうね。

話を広めて、エサを与えて、エサを与えられた者からまた話が広まり、あっと言う間に大きな同好会になりました。

やはり、鎖骨同好会は、ニーナさんが居てこそだったのでしょう。


ニーナさんを”ナナシ様付き”に戻してもらえるように、私が頑張りましょう。

今の”ナナシ様付き”のケイティさんは、将来の幹部候補です。

ずっと”ナナシ様付き”で居る訳ではないですから、何とかなるはずです。

”次”は無理かもしれませんが、”その次”くらいには、ニーナさんに”ナナシ様付き”に復帰してほしいですね。

そうなる様に私が頑張りましょう。

鎖骨同好会再興の為に。

まだ見ぬ”噂の鎖骨”の為に。

ええ。

まだ見ぬ”噂の鎖骨”の為に。

ぐへへへ。

頑張ります!



最近、勢力を拡大させ続けている『ペンギン同好会』。

ナナシ様と被服部ひふくぶが共同で製作しているペンギン型ゴーレムの愛好家たちの同好会です。

今まで知られていなかった、その同好会の会長が判明しました。

ニーナさんでした。

………………。

………………。


私は、心が折れる音を聞いた様な気がしました。


この章は、これでお終いです。


次章は、少し時間をさかのぼり、ナナシが『魔術師の街』を離れた後の、魔術師の街でのお話です。

ナナシが魔術師の街の魔術師たちのことを何とかしたいと考え、【多重思考さん】にされたアドバイスを実行する為に残していった【目玉】たち。

【目玉】(を操作する【多重思考】)たちが魔術師の街でした事で起きた色々な事と、魔術師の街の混乱が、次章のお話です。

楽しんでいただければ幸いです。

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