02 0日目 公爵家サイド 執事さん視点
オークキングを仕留める”勝負”をする事が決まりました。
公爵様の爵位と領地が賭かった勝負です。
負ける訳にはまいりません。
しかし、勝ち目は薄いと思いました。
ですが、やるしかありません。
王宮で公爵様と別れ、冒険者ギルドへ向かいます。
ギルドマスターは居ませんでしたが、副ギルドマスターが居たので、依頼を出すと同時に相談に乗ってもらいます。
ここでの一番の実力者は、ギルドマスターです。
彼にも依頼を受けてもらえれば有り難い。
ギルドマスターに依頼を受けてもらえそうか訊きます。
「ギルドマスターが引退を考えているフシがある。」、「受けてもらえる可能性が有るのではないか?」とのことでした。
朗報ですね。
ギルドマスターには、明日の朝、直接交渉することにして、依頼を出して屋敷に帰りました。
屋敷に帰った私は、真っ直ぐに、ある重要な部屋に向かいます。
公爵家の持つ情報網が集めた情報を収めている、極めて重要な部屋です。
常に数人が常駐し、情報の持ち出しは厳禁になっている。そんな部屋です。
近付くとドアが開け放たれているのが見えました。
部屋に入ると、この部屋に常駐しているはずの者たちは誰もおらず、棚の所々が空になっていました。
五人居た、情報網の取り纏め役の後継者候補たち。
その全員が、公爵家の負けを見越して、情報を持って逃げたのでしょう。
こうなる事は予想していました。
全員、優秀でしたから。
価値の無くなった部屋を後にして、公爵様に会いに行きます。
公爵様に、冒険者ギルドに依頼を出して来た事と、ギルドマスターに依頼を引き受けてもらえる可能性が有る事をご報告します。
しかし、公爵様の表情は冴えません。
公爵様も、勝ち目が薄いと思っていらっしゃる様です。
次に、情報網が崩壊した事をご報告します。
これも予想されていたのでしょう。
公爵様の表情に、変わりはありませんでした。
私は一礼して下がります。
まだやらなければならない事が有りますので。
残っている者たちを集めました。
優秀な者たちは、既に居ない様です。
”勝負”の話をします。
諦めている様な表情をする者や、驚いている者、逃げ遅れた事に気付き慌てる者などが居ます。
”諦めている様な表情をした者”だけを残し、アテに出来そうにない他の者たちを下がらせました。
私は、この場に残した者たちを不安にさせない様に、これまでと同様の態度を心掛けながら指示を出します。
最初に、数人に指示を伝え、すぐに向かわせます。
”裏の仕事”をする組織への依頼です。
正攻法では勝利が難しいのですから、”裏の仕事”が出来る優秀な手駒を確保しておかなければなりません。
次に、情報網の再構築を図ります。
まだ、末端は生きているはずなので、残った者たちにその掌握を指示します。
自室に篭もり、今後のことを考えます。
オークキングを狩る実行部隊は、冒険者を雇ってそれを充てます。
相手側の妨害は、残った手持ちの駒と、”裏の仕事”をする組織に依頼します。
勝負に負けてしまった後の事も考えます。
公爵家の持つ情報網が在れば、影響力を行使し続けることは可能でしょう。
むしろ、グラスプ公爵家の一番の武器だったと言っても良いでしょう。
情報網の崩壊が痛いですね。
情報網の崩壊により、勝負に負ける事が許されない状況に追い込まれてしまいました。
情報は、重要な武器だと思っています。
優秀な人材も、同様です。
しかし、その両方が揃っていたが為に、今回の様な不利な状況が発生した直後に、あっさりと崩壊してしまいました。
何が間違っていたのでしょうか?
この経験から学び、対策を手に入れる事が出来れば、再び大きな”武器”を手に入れる事が出来るのでしょうか?
色々と考えなければならない事が有りそうですね。
今夜は長い夜になりそうです。




