< 52 新・王宮での生活46 ナナシ、おかしなメイドさんからおかしな依頼を受ける02end >
おかしな依頼をしに来た、”カーティーさん”こと”ぶちのめされメイドさん”。(←逆です)
面白そうだったので、彼女の望む『馬車の屋根の上に座ってもお尻が痛くならない魔道具』とやらを作ってみる事にした。
彼女が帰って行くのを見送った後、俺はソファーに座り直して、頭の中で検討し始める。
モノ自体は、『異空間トレー』を人が座れる大きさまで大きくした物でいいだろう。
木で作ると、接触面が少なくて馬車の加減速や振動で落ちてしまいそうだ。
そもそも、形状をしっかりと合わせて作らないと、点で接触するだけになってしまって、馬車の加減速によって簡単に屋根からすべり落ちてしまいそうだよね。
『異空間トレー』みたいに木の板で作るのではなく、座布団的な柔らかい物の方がいいのかな?
頭の中で、座布団みたいな物を屋根の上にロープで固定する様子を思い浮かべる。
ふむ。そんな感じでいい気がするな。
空間魔法を掛ける場所は凹んでいないといけないから、四つの辺の部分が少し高くなった座布団を用意して空間魔法を掛ける感じかな?
そんな感じの座布団を作れば、要望通りの物が出来上がりそうな気がするね。
以前、座布団を作ってもらった寝具屋さんで、四つの辺の部分が少し高くなった座布団を作ってもらおう。
ケイティさんを呼んで、そう相談したら、「被服部に作ってもらいましょう。(キリッ)」と言われた。
「クッションは被服部でも作っていますし、試作品的な意味合いの物でしたら被服部の方が都合が良いでしょう。(キリッ)」
ほう。クッションは被服部でも作っていたのか。
先日、ケイティさんと一緒に寝具屋さんに行った時は、こたつ布団を発注するついでに座布団も発注したから、何も言われなかったんだね。
ぢゃあ、被服部の人と相談するか。
被服部の人に来てもらって、お願いする事になった。
被服部の人が来た。
ミリィさんだった。ペンギン型ゴーレムの販売担当の。
「私は下っ端ですから。(ニコニコ)」
下っ端だから色々な事をやらされているっぽいです。
「それに、『ナナシ様のお部屋へ行く。』と言えば、ペンギン型ゴーレムの話だろうと思ってもらえるので、こうしてバーニーを抱いていられますからね。(ニコニコ)」
ああ。それでペンギン型ゴーレムを抱きかかえて来てたんだね。
納得です。
ニコニコ顔の理由もね。
【無限収納】から座布団を一枚取り出して、ニコニコ顔のミリィさんに作って欲しい座布団の説明をする。
『説明する』と言っても、ただ、四つの辺の部分を少し高くした物を作ってもらうだけなので、形状についての打ち合わせはすぐに終わった。
「生地は、どういうのがいいですか?」
そう、ミリィさん訊かれた。
生地の事なんて、何も考えていなかったね。
何て答えるかね?
『馬車の屋根の上に乗せても滑り難くて、雨に強い丈夫な生地』って感じかな?
でも、そのまま言っていいのかな?
そんな事を言われても意味不明だよね。(苦笑)
ちょっとだけ悩みましたが、そのまま言いました。
考えるのがめんどくさくなったので。(←だいたいいつも、こんな理由です)
「…はぁ。」
俺の要望を聞いたミリィさんは、予想を遥かに越える変な事を言われて、ちょっと困っているご様子です。
ですよねー。(苦笑)
「何か良さそうな革がないか、調べてみますね。」
おお。
めんどくさいから丸投げしただけだったんだけど、想像以上にまともな反応が返って来て驚いた。(←真面目に仕事している人たちに謝りやがれ!)
俺は驚いた表情を隠す為に頭を下げて、言った。
「よろしくお願いします。」
ミリィさんに座布団の製作をお願いした翌日。
座布団とペンギン型ゴーレムを抱きかかえて、ミリィさんが部屋にやって来た。
もちろん今日もニコニコ顔です。
テーブルに置いてもらった座布団をじっくりと調べる。
触ってみると、しっとりとした感じの革で作られていた。
これなら馬車の屋根の上に置いても滑り難そうだ
手持ちの座布団と同じ大きさで作ってもらったので、大き過ぎて持ち運びがし難そうに見えた。
二つ折りにしてみようとするが、硬くて折り曲げられなかった。
その様子を見て、ミリィさんが言う。
「ロープで固定する必要が有ると思いましたので補強を入れました。その為、変形し難くなってしまっています。」
ああ。なるほど。
すごく考えて、作ってくれたんだね。
俺の想像以上のイイ仕事ぶりです。
被服部の優秀さに驚きます。
出来具合に満足した俺は、凹んでいる部分に【異空間作製】の魔法を掛けた。
これで、カーティーさんに頼まれた『馬車の屋根の上に座ってもお尻が痛くならない魔道具』の完成だ。
やったね。
名前が長かったので、正式名称を考える。
『異空間トレー』の仲間だから、『異空間座布団』にしよう。
うん。
そのままだね。(苦笑)
ついでに、ミリィさんにペンギン型ゴーレムの販売状況を訊く。
「販売を開始したら、急に注文が増えました。(ニコニコ)」
ほう。
ペンギン型ゴーレムの実物が、さらに多くのメイドさんたちの目に触れる様になったからだろうね。
うむうむ。(←満足げ)
「エイラさんはもっと沢山作りたがっていますが、契約が一日二体ですからね。これまで通り一日二体でお願いします。」
増産依頼は来ない様です。
安心したね。
その内、エイラさんがこの部屋に駆け込んで来そうですがっ。
クーリにぶちのめされて廊下に”ポイ捨て”されるエイラさんの姿が脳裏に浮かびます。(←その時は、そうならない様に助けてあげようなっ)
シルフィと一緒にお茶しています。
お茶していたら、頭の中で【多重思考さん】が『カーティーさんが来ます。』と教えてくれた。
俺は”悲劇”を未然に防ぐ為にクーリに言う。
「クーリ、お客さんが来るからそこで待機。」
「はい。」
ココン バタン!
勢いよくドアが開かれた。『取り敢えずしておきました。』って感じのノックの後で。(苦笑)
「ナナシ様! 出来上がったと聞いて来ました!」
元気だね。
やや年齢が高めのメイドさんなのにね。(←触れないでさしあげろ)
それと、もう少し落ち着いてほしいね。
そんな勢いでドアを開けたら、護衛役のクーリがぶちのめしに飛び出して行っちゃうよね。
予め、クーリに待機を命じておいてよかったです。(ホッ)
俺の正面にカーティーさんに座ってもらい、テーブルの上に『馬車の屋根の上に座ってもお尻が痛くならない魔道具』を置いて説明する。
っと、その前にシルフィに説明しておこうね。
俺への依頼を取り仕切っているのは、シルフィだからね。
シルフィを通さずに依頼を受けちゃうのは、本当は駄目だよね。
「シルフィ、これは『馬車の屋根の上に座ってもお尻が痛くならない魔道具』。カーティーさんに頼まれて、面白そうだったから作ってみた。作ってて楽しかったから叱らないであげてね。」
「はい。分かりました。」
そう返事をするシルフィ。
でも一応、お小言は言うみたいだ。
「カーティーさん。ナナシさんへの依頼は私が取り仕切っていますので、私を通して依頼してくださいね。」
「はい! 申し訳ありませんでした!」
カーティーさんはそう言って、勢いよく頭を下げた。
「ナナシさんが楽しかったとおっしゃっていますから、今回は不問にします。」
「ありがとうございます!」
カーティーさんは、もう一度勢いよく頭を下げた。
その話は終わった様なので、モノの説明をシルフィにする。
「これは『異空間座布団』と言って、この前作った『異空間トレー』と同様の魔道具だよ。人が座れる様に大きくして、馬車の屋根の上に置く為に柔らかい素材にしただけ。これに座れば、馬車の振動が伝わらなくなってお尻が痛くならないはず。」
「まぁ。」
ちょっと驚いた様な喜んだ様な、そんなシルフィの反応だった。
「ぢゃあ、カーティーさん。これを試してみてください。」
「はい! 早速試します!」
早速かよ。
どれだけ待ち望んでいたんですか?
ちょっと呆れてしまいます。
「私も見てみたいです。」
シルフィがそう言ったので、『異空間座布団』を試す様子を見学する為に、ぞろぞろと移動する事になりました。
建物から出た車寄せのところ。
ここで馬車が同じところをグルグル回っている様子を、俺とシルフィとケイティさんとクーリで見ている。
カーティーさんは、馬車の屋根の上に座っています。
『馬車の屋根の上に座ってもお尻が痛くならない魔道具』を試してもらっている真っ最中です。
知らない人が見たら『いったい、何をしているのかな?』と思う光景ですね。(苦笑)
馬車が停まり、カーティーさんが屋根の上から飛び降りた。
スタッと綺麗に着地し、俺のところへ走って来る。
「ナナシ様! これは素晴らしい物です! ありがとうございました!」
すっごい笑顔です。
どうやら満足してもらえる出来だった様です。
うむうむ。
喜んでもらえると俺も嬉しくなるよね。(笑顔)
確認してもらった結果、問題無さそうだったので、ブツをそのままカーティーさんに引き渡して、俺たちは部屋に戻ります。
「ナナシさん、私も欲しいです。」
「え? 」
廊下を歩いていたら、俺の腕に抱き着いているシルフィにそう言われたので驚いた。
シルフィも馬車の屋根の上に座るの?
この王宮の常識に理解が追い付かないんですがっ。
「…何かおかしな事を考えているみたいですけど、あれでクッションを作れば、普通に馬車に乗っている時でも馬車の揺れが体に伝わりませんよね?」
「ああ。そうだね。」
「お母様もお父様も欲しがると思います。ぜひ作ってください。」
ふむふむ。
確かに喜ばれそうな気がするな。
むしろ、『異空間座布団』の一号機の用途が特殊過ぎたよね。
何故、あんな特殊な要望が先に来てしまったのか…。(苦笑)
やっぱり、この王宮の常識はおかしいよねっ。
シルフィにクッションを作る事を了承し、歩きながら『異空間座布団』二号機の仕様を頭の中で考え始めた。
翌日。
再び被服部に協力してもらって、『異空間座布団』の二号機と三号機が出来上がった。
二号機は、薄くて小さめのクッションだ。
狭い馬車の中で、お尻の下に敷いて使うことを想定した大きさです。
これを見て、改めて思う。
『何故、これの注文が先に来なかったのか?』と。(無表情)
三号機はロングタイプだ。
ヘッドレストから床までの長さがあり、頭から足の裏までを完全にサポートする。
馬車に乗っているのに、まるでソファーに座っているかの様な座り心地を実現するはずだ。
馬車を用意してもらい、早速試してみる。
二号機はケイティさんに試してもらい、俺は三号機を試す。
俺は、座ってすぐに失敗を悟ったが、取り敢えず、走行中の座り心地を確認しておこう。
馬車に走ってもらう。
ガラガラガラガラ
ケイティさんに訊く。
「どうですか?」
「座っているところには振動が来ないのですが、背中と足には振動が来るので変な感じがします。でも、『馬車に乗るとお尻が痛くなる』という方には喜ばれると思います。そちらはどうですか?」
「こっちは駄目だ。失敗だ。」
うん。これは駄目だ。
「背中と頭とふくらはぎが後ろに引っ張られる。」
そう。やたらと後ろに引っ張られる。
引っ張られる理屈は理解できるのだが、その状況を頭が理解できていない所為なのか、床に仰向けで寝ている時よりも強く引っ張られている感じがする。
まったくリラックスできません。
これは失敗だね。大失敗だ。
ちゃんと立ち上がれるのか心配です。(苦笑)
馬車を停めてもらい、『異空間座布団』三号機から頭と背中を引き剥がす。
寝転んだ状態から体を起こす時と同じ力で体を起こせるはずなのに、それよりも力が必要な感じがします。
体に力が掛かっている方向を頭できちんと理解していないと、立ち上がるのが難しい気がします。
予想外に厄介な代物です。
それと、立ち上がる時に腹筋が鍛えられます。(苦笑)
実験が終わった後、『異空間座布団』二号機をシルフィにあげました。
『異空間座布団』二号機は、シルフィにとても喜んでもらえました。
「これでお尻が痛くならずに済みます。」
そう言って、上機嫌です。
シルフィに喜んでもらえて、俺も嬉しくなります。(笑顔)
取り敢えずこれを、10個作ることになりました。
『異空間座布団』三号機(=ロングタイプ)は、「何か良い使い途が有るかもしれません。」と言うケイティさんに渡した。
良い使い途が見付かればいいね。
せっかく作ったので。
失敗も有ったが、なかなか面白い物が作れたので、俺は満足しました。
(後日の話)
『異空間座布団』一号機(『馬車の屋根の上に座ってもお尻が痛くならない魔道具』)は、五つ追加注文が有りました。
需要の多さに驚きます。
使用用途がおかしいのにね。(苦笑)
”この王宮の常識”ってやつに、改めて疑問を持ちます。
『異空間座布団』二号機は追加注文がありませんでした。
おかしいよね。
普通の形状で、普通の使い途なのにね。
”この王宮の常識”ってやつに、さらに疑問を持ちます。
シルフィに訊いたら、空間魔法を使える人の存在を知られると、『きっと【マジックバッグ】を作れるはずだ。』と思われて、出所を詮索されてしまったり面倒なことになるので、追加発注を控えているとのことだった。
”この王宮の常識”を疑ってしまいましたが、俺に配慮してくれた結果だったみたいです。
ありがとうございます。
そして、ごめんなさい。
『異空間座布団』三号機(=ロングタイプ)には30個ほど追加注文の”希望”が有ったんだそうです。
これが一番ウケた事に驚きます。
やっぱり、”この王宮の常識”はおかしいと思います。(断言)
どんな使い方をするのかと思ったら、体を鍛えるのが大好きな人たちに、『机仕事をしながら腹筋を鍛えられる!』とか言われて、大好評だったそうです。
ですが、追加注文は禁止されたそうです。
『危ないから。』と。『何も知らない人が座ると危険だから。』と。
試しに偉い人が座ってみたら、立ち上がるのに苦労しちゃったんだそうです。
…なんか、ごめんなさい。
少々アレな事になりましたが、面白い物が作れたので、俺は満足しました。
『『馬車の屋根の上に座ってもお尻が痛くならない魔道具』を欲しがるメイドさんって、やっぱりおかしいよねっ?』とか思わないでもないですがっ!
あー、お茶がオイシイ。(遠い目)




