< 45 新・王宮での生活39 パンの試作品と日本刀 >
朝食後のお茶の時間を終えて、部屋に帰るシルフィを見送った。
さて。
今日は、昨日発注したこたつ布団が届くはずだ。
やっと、こたつが完成するね。
楽しみだね。(ニマニマ)
ソファーで寛ぎながらニマニマしていたら、ふと、馬車も買った事を思い出した。
買った馬車は、昨日の内に王宮に届けられているはずだ。
でも、その馬車を【無限収納】に移すのを、すっかり忘れてしまっていたね。
その事を思い出したら、違和感に気付いた。
馬車を買ったら、【製作グループ(多重思考された人(?)たちの内の、物品製作をしているグループ)】がすぐに魔改造に取り掛かると思っていた。
だが、馬車を【無限収納】に移す催促がまったく無かった。
おかしい。
どうしてだろう?
そう疑問に思っていたら、頭の中で【多重思考さん(多重思考された人(?)たちのリーダー)】が、その理由を教えてくれた。
『新魔法の検討をしているみたいです。』
ダッシュで馬車を回収しに行きましたっ!
昨日買った馬車を【無限収納】に回収し、歩いて部屋に向かいます。
転移魔法を使うのを忘れて、うっかり途中までダッシュしてしまって、息が上がってしまったので。(苦笑)
慌ててしまうと、魔法を使うことを考える前に体が動いちゃうんだね。
幸い、階段に辿り着く前に気が付いて、そこから転移魔法を使いましたが、息が上がるのにはそれだけで十分だった様です。
ステータスは相当高くしてあるんだけどね。
運動不足なのかな?
運動不足なんだろうね。
しょっちゅう転移魔法を使っているからねー。(苦笑)
頭の中で何故か綱渡りを勧めてくる【多重思考さん】をスルーして、部屋までのんびりと歩いて戻りました。
部屋まで歩いて戻ったのは、別に、また”あててんのよ”が起きる事に期待していた訳ではアリマセンヨ?(←ダウト)
部屋に戻って来たら、頭の中で【多重思考さん】に言われた。
『パンの試作品が出来ています。確認しに行きませんか?』
ほう。
昨日話があった、ふっくらしたパンを作る実験だね。
ふっくらしたパンには興味が有るから、見に行こう。
「ケイティ、ちょっと隠れ家に出掛けてくる。」
「かしこまりました。(キリッ)」
おや?
すんなりと許可が出たね。昨日とは違って。
すんなりと許可が出た理由が気にならなくもないが、サクッと転移してしまおう。
「ぢゃあ、行ってくる。お茶の時間には帰って来ます。」
「かしこまりました。(キリッ)」
俺は、サクッと隠れ家に転移した。
隠れ家に来た。
隠れ家に来たら、すかさず先ほどの件を【多重思考さん】が説明してくれた。
『すんなりと外出許可が出たのは、昨日、姫様が本体さん(=俺のこと)の行動を邪魔しない様にケイティさんに言ったからです。』
そうだったのか。それは助かるね。
俺が自由に動ける様に配慮してくれたシルフィに感謝しておこう。
さて。
それぢゃあ、ふっくらしたパンの試作品を見せてもらおうかね。
そう思ったら、テーブルの上に皿が置かれ、その上に直方体のパンが置かれた。
2斤くらいの大きさの食パンだった。
手に【クリーン】を掛けてから指で押してみる。
だが、パンは硬かった。
「あれ? 柔らかくないやん。」
手で持ってみると、見た目よりも軽く感じた。
その事にも疑問を感じていたら、頭の中で言われた。
『失敗しました。』
【多重思考さん】ではなさそうな声だったので、【料理グループ】の誰かなのかな?
その声がさらに続ける。
『生地の中に二酸化炭素を入れて焼けば、ふっくらしたパンが出来ると思っていました。』
『ですが、出来上がったのは、デッカイ麩みたいな物でした。失敗しました。』
うーーむ。そうなのか。
取り敢えず、食べてみるか。
ちぎろうとして指先に力を入れたら、ボスッとめり込んだ。
本当に麩みたいです。(苦笑)
ちぎって食べる。
一応、ちゃんとパンっぽい味がした。
まぁ、材料がパンのそれなのだろうから、当たり前だけど。
でも、食感は麩みたいです。(苦笑)
口の中がパッサパサになるね。
うん。
口の中がパッサパサだよ。(苦笑)
確かにこれは失敗だね。
ふっくらしたパンを作ろうとすると、何らかの菌の力を借りないと駄目なのかな?
でも、どんな菌を使えばいいのかな?
イースト菌だった気がするが、それがどんな菌なのかは使った事も無い素人にはサッパリ分からないよね。
取り敢えず、身近に存在する菌を採取して、それを増やして、種類ごとに分けて、毒性の有無を調べて、手当たり次第に試してみるしかないのかな?
何も知らない素人がやろうとすれば、そうなるよね。
すっごい手間と時間が掛かるよね。
どうすべ?
うーーん。
『やらしてください。絶対にふっくらしたパンを作ってみせます。(フンスッ)』
どうやら、やりたがっている人(?)が居るみたいです。
俺もふっくらしたパンを食べたいから、お願いしてみようかね。
「ぢゃあ、お願いね。」
『はいっ。』
食べられるのが何時になるのか分からないが、気長に待っておこう。
さて。
他に隠れ家でする事って有ったかな?
そう思ったら、頭の中で【多重思考さん】に言われた。
『日本刀が出来上がっています。』
「おお!!」
そう言えば、それがあったね。
ちょっとだけ忘れていました。色々な事が有ったからね。
【無限収納】から取り出された日本刀が宙に浮いている。
シンプルな木の鞘に納められたそれを手に持つ。
日本刀を手に持つのは初めてだが、想像していたよりも軽く感じる。
多分、STR(Strength)の値が高い所為だろうね。普通の日本刀の重さのはずだから。
『ミスリルを使うのは止めた』という話を前に聞かされていたからね。
柄を握り、握り心地を確認してから、鞘からスラリと抜いてみる。
鞘の中から現れた銀色の刃に、波打つ刃文が浮いています。
「おおおお!」
美しい刃文に思わず声が出た。
じっくりと見る。
うん。とても美しいです。
「すげぇ…。」
無意識にそんな声が出た。
『ふっ。(ドヤァ)』
頭の中に【製作グループ】の誰かがドヤる気配を感じましたが、放っておきます。
しばらくこの美しい日本刀をじっくりと眺めました。
うひょー。(ニマニマ)
美しい日本刀をじっくりと眺めて満足した。
さて。
日本刀を手に入れたのだから、ちょっとこれを振ってみたくなるよね。
隠れ家の居間では、日本刀を振り回すには少し狭いかな?
もう少し広い場所に移動したいね。
『では、工房に行きましょう。』
そう【多重思考さん】に言われたので、工房に居る【目玉】を目印に転移した。
工房に来た。
ここに来るのは久しぶりかな?
工房の中を見回すと、ゴーレムが数体作業をしていた。
『何をしているのかな?』と思ったら、頭の中で【多重思考さん】が説明してくれた。
『次の日本刀を作っている者と、ペンギン型ゴーレムの骨格を作っている者と、箱を作っている者たちが居ます。』
”次の日本刀”を作っているのは、何か改良できる事でも見付けたのかな?
より良い物が作れるように試行錯誤するのも面白そうだから、好きにさせておこう。
”ペンギン型ゴーレムの骨格”は頼んでいる物だが、”箱”は何だろう?
『ふっくらしたパンを作る為の菌を培養する為の箱です。』
おお。もう動いているのか。さっき決めたばかりなのにね。
そう言えば、『絶対にふっくらしたパンを作ってみせます。(フンスッ)』とか言っていた気がするな。
気合いの入りっぷりを思い出して、納得しました。
工房の真ん中辺りが空いていたので、そこで日本刀を振ってみることにしよう。
鞘を【無限収納】に仕舞い、両手で日本刀を持ち、構える。
真上に振り上げて、軽い力で真っ直ぐに振り下ろし、正面で止める。
STR(Strength)の値が高い所為か、特に苦も無く振れる。
徐々に力を入れていきながら、十回くらい振ってみた。
ちゃんと振れる事に満足した。
何かを切ってみたいと思い、頭の中で、立てた藁束を切る様子を思い浮かべた。
日本刀を右上から左下へ振って、スパッと切る様子をね。
そんなイメージをして素振りをする。今度は右上から左下へ。
やってみたら、思っていたよりも難しい気がした。
これで何かを切ろうとするのは危険かもしれない。
刃を上手く当てられずに弾かれてしまいそうな気がします。
それと、普段使わない筋肉を使っている気がして、明日の筋肉痛が心配です。(苦笑)
何通りかの振り方を試してみたが、何かを切るのは止めておいた方がいい気がした。
まぁ、俺がこの日本刀を振って直接戦闘する様な機会なんて無いよね。
遠距離から攻撃魔法を撃つし、結界やシールドで身を守るし、相手を気絶させたりするからね。主に【多重思考さん】たちが。
うん。この日本刀は、美術品として愛でようと思います。
…”逃げ”ではないデスヨ?(←誰に言ってるんだろうね)
しばらく日本刀を愛でてから、王宮に帰りました。
…鑑賞する以外の使い途が無いとか思ってないデスヨ?(←誰に言ってるんだろうね。 さっきぶり二回目)
シルフィと一緒にお茶しています。
お茶しながら、あの日本刀の出来栄えを思い出してニマニマしてしまいそうになります。
「何か良い事でもありましたか?」
シルフィにそう訊かれた。
「え? 何で?」
「何だか、上の空でしたので。」
「えーっと。」
少し考えてから日本刀の事を話すことにした。
隠す様な事でもないからね。
「剣を作ったんだけど、それが良い出来だったから嬉しくてね。(ニマニマ)」
顔がニヤけるのを抑えられません。
【無限収納】から日本刀を取り出して、鞘から抜いてシルフィに見せた。
「ほら、これ。綺麗でしょ。」
『綺麗でしょ。』とか言われても困惑されてしまうかもしれませんが、どうにも自分を止められません。
「刃文がー。」とか、「地肌がー。」とか、色々言ってしまいます。
傍から見ると、まんまオタクの言動の様に見られていそうですが、どうにも自分を止められないので仕方が無いのです。
「ナナシさんが楽しそうで何よりです。(笑顔)」
シルフィにそう言われた。
シルフィに引かれなかった事に安心しました。(苦笑)
お茶の時間を終えて、部屋に帰って行くシルフィを見送った。
何となく上機嫌に見えるのは何でですかね?
まぁいいか。
俺はもう一度隠れ家に行って、お昼まで日本刀を眺めました。
ニマニマしてしまうのを止められません。
むふふふ。(ニマニマ)




