< 43 外伝 ある護衛の受難 >
メイド長が、メイドから弁明を聞いていらっしゃいます。
私はその様子を、そのメイドから少し離れた場所で聞いてます。
そして思います。
『だめだこりゃ。』
弁明をしているメイド、ニーナは有名人です。
『鎖骨同好会』を立ち上げた者として広く知られています。
二つ名持ち以外の者が有名になるのは、とても珍しい事の様に思います。
ここのメイドは実力主義ですので。
今回、彼女と鎖骨同好会の者たちがした事が問題視されています。
ナナシ様のお着替えを大勢で鑑賞したのだそうです。
正直、何を言っているのか分かりませんでした。
ナナシ様は王女様の夫ですし、ナナシ様に対しては『ドラゴンに接する様に、慎重に接する様に。』と通達が出されているのです。
それなのに、ナナシ様のお着替えを大勢で鑑賞した?
正気を疑う様な事件です。
ニーナの弁明も凄いです。
正気を疑います。(キッパリ)
鎖骨同好会の者たちって、みんなこうなのでしょうか?
ニーナの後ろ姿を見ながら…。
私は、自分の”仕事”が必要な気配を感じています。
自分の”仕事”は、メイド長の護衛です。
その為に厳しい訓練を積んできました。
本当に厳しい訓練でした。
『これ程の訓練が本当に必要なのか?』と何度も思いました。
かつてメイド長の護衛をしていらしたという方が、『貴族のボンボンはもちろんだが、メイドにも変な奴が居るから…。(遠い目)』と言っていましたが、私の”仕事”が必要になりそうな”変な奴”は、今までお目に掛かった事はありませんでした。
ですが、その厳しい訓練で培われた私の直感が告げています。
『”仕事”だ。』と。
メイド長に弁明していたニーナの肩から力が抜けたのを感じました。
それを頭が理解した時には、既に体が動いていました。
ニーナを後ろから羽交い締めにします。
ガッチリと。
おかしな行動をしない様に。
ニーナが抱きかかえていたモフモフでフニフニなモノが床に落ちましたが、そちらに意識を回す余裕はありません。
腕の位置を微調整して肩を極めます。
よし!
完璧ッ!
チラリとメイド長の後ろに控えている先輩方を見ます。
ニッコリ
笑顔です。
どうやら上手く出来ている様です。訓練通りに。
ニーナは大人しくしています。
どうやら抵抗する気を無くした様です。
適切なタイミングで”仕事”が出来た時によく見られる光景だと教わっています。
よし!
完璧です!
やった!
ニーナを他の護衛に引き渡します。
彼女が”反省部屋”に連行されて行くのを見送りました。
ふぅ。
定位置に戻ります。
先輩方と目が合いました。
目が『よくやった!』と言っている様です。
ふ。
私は、自分がした”仕事”にとても満足します。
そして、初めてメイドを相手にした”仕事”がすごく上手くいったので、私は自分の技術に自信を持ちました。
むふー。
メイド長が、メイドから弁明を聞いていらっしゃいます。
私はその様子を、そのメイドから少し離れた場所で聞いてます。
そして思います。
『だめだこりゃ。』(本日二回目)
弁明をしているメイド、ケイトは超有名人です。
その実力によって。
ここのメイドは実力主義ですので。
今回、彼女がしなかった事が問題視されています。
彼女はナナシ様の護衛なのですが、ナナシ様と行動を共にしていない状況を何度も目撃されていたのです。
先日、ナナシ様がここを訪れた際も、行動を共にしていませんでしたしね。
ケイトの弁明も凄いです。
「王宮内だから安全でしょー。」とかブータレています。
その態度も問題ですが、『王宮内だから安全』と言うのなら、そもそも護衛の仕事自体が不要でしょうに…。(呆れ)
窘めるメイド長に対して、「えーー。」とか「でもーー。」とか言っています。
彼女の正気も疑います。(呆れ)
また、”仕事”が必要になるかもしれませんね。
先ほどは、訓練通りにすごく上手くいきました。気持ちが良いほどに。
自分の仕事ぶりに自信が持てました。(うむうむ)
ですが、今回は相手が悪いです。
彼女は、二つ名持ちの中でも最強と言われているほどのマジもんの実力者です。
以前、訓練で対戦した時には、何もさせてもらえずに惨敗しました。
あの時の惨敗っぷりは忘れられません。
パンチを打っても掴みにいってもすべて払われ、強引に距離を詰めにいったら、視界の外から飛んで来た蹴り技に意識を刈り取られました。
トラウマになる惨敗っぷりでした。(ぷるぷる)
その彼女の後ろ姿がすぐ傍に見えるのですが、触れられるほどの距離まで近付ける気がまったくしません。
それどころか倒されるイメージしか頭の中に浮かばないですがっ!
私には絶対に無理です!!(半泣き)
メイド長の後ろに控えている先輩方を見て、目で伝えます。
『私には無理ですぅ。』
『もしもの時は、二人でいけ。』
『………………。』
彼女がおかしな素振りを見せない事を祈ります。
心から!(切実)
ケイトを他の護衛に引き渡します。
彼女が”反省部屋”に連行されて行くのを見送りました。
彼女がおかしな素振りを見せなかった事に、心から安堵しました。
ふぅぅぅ。
定位置に戻ります。
先輩方と目が合いました。
ギロリ
睨まれました。
一応、弁明します。身振り手振りで。
『二つ名持ちの中でも最強のケイトですよ! 私には無理です!』
『無理だと思うのが駄目なんだ! 軟弱者め!』
ぐ。
『技術で対抗するのが我々の仕事だ! 後で特訓だ!』
ぐぬぬ。
先輩方と目を合わせない様に、私はケイトから没収したモフモフでフニフニなモノで顔を隠しました。




