< 40 新・王宮での生活36 ナナシ、ダンジョンマスターに会いに行く01 >
買い物から帰って来て着替えたら、ちょうどおやつの時間になった。
シルフィと一緒に、ケイティさんに淹れてもらったお茶を飲む。
淹れてくれる人が変わっても、相変わらずお茶が美味しいです。
おやつに手を付けようとしないシルフィのことを不思議に思っていたら、「ニーナとケイトはどうしたのですか?」と訊かれた。
そうだよねー、気になるよねー。
でも俺は、「俺にもよく分からない。」としか答えられなかった。
本当に分からないのだから、そう答えるしかないよね。
手を付けなかったおやつを持って、部屋に帰るシルフィ。
なんでも、メイドさんにあげるのだそうだ。
何かのお礼として渡すらしいのだが、それが何なのかは教えてもらえなかった。
シルフィが部屋に帰るのを見送って、俺はソファーで寛ぐ。
さて。
これから、ダンジョンマスターのダーラムさんに会いに行こうと思う。
魔道具屋のおばあさんに聞かされた、魔石が品薄になっている状況と、新米冒険者が稼げない状況の両方を改善しようと思ってね。
ダーラムさんにお願いして、ダンジョンの一層目にゴブリンを沢山出してもらえば、新米冒険者が稼げる様になって、魔石が品薄になっている状況と一緒に改善できるだろう。
そうやってダンジョンで経験を積んでもらってレベルが上がれば、森のオークも狩れる様になるだろうし、そうなれば魔石が品薄になっている状況もさらに改善されていくだろう。
森のゴブリンを急に増やせない以上、これが一番良い解決方法だと思う。
ダーラムさんに会いに行くとして…。
持って行くお土産をどうするか考える。
次回会いに行く時に持って行こうと思っていた本なんかは、大臣にお願いして既に受け取っている。
王様や大臣からダーラムさんへの手紙とかは有ったりするかな?
有りそうだよね。霊薬を貰ったお礼状とかね。
『よし、訊きに行こう。』と思ってから、ちょっと考える。
俺は、ダンジョンの中のダーラムさんのところへは、【転移】で行ける。
”空間魔法を使った結界魔法”を張って、その中から、ダーラムさんのところに常駐させている【目玉】が張っている”空間魔法を使った結界魔法”の中に転移する、特殊な方法でね。
でも、俺がダンジョン内に容易に行ける事は、誰にも知られたくない。
欲深い者に知られたら、『霊薬を取って来い!』とか言われてしまいそうだし、その為に脅迫されたりするかもしれないからね。
余計なトラブルを招く未来しか見えないよね。
と、なると、今からダーラムさんのところにサッと行く事は、誰にも話せないのか。
そうだよね。
それぢゃあ、大臣のところに、『今からダーラムさんのところに行くけど、渡したい手紙とか有る?』なんて訊きに行けないね。(苦笑)
他のお土産を考える。
食べ物やお酒とかかな?
でも、ダーラムさんって食べ物を食べられるのかな?
『空腹にならない』とか言っていた気がするが、『食べられない』とは言っていなった気がする。
うーーむ。
良く分からないが、一応、持って行ってみるか。
食べられないようだったら、【無限収納】に仕舞っておけばいいだけだしね。
よし。
それぢゃあ、何を持って行くかな?
おやつ的な物がいいかな?
そうだね。王宮のおやつは美味しいからね。
『よし、王宮のおやつをケイティさんに頼もう。』と思ったのだが、それも駄目だよね。
何処に持って行くのか訊かれたら答えられないからね。(苦笑)
街に出て買うことにしよう。
街に出て買うにしても、王都は駄目だよね。
メイドさんに見られたら何か言われそうだし、魔術師ギルドとやらに目を付けられているらしいからね。
ダンジョンの在る街も駄目な気がするな。
そこにも魔術師ギルドとやらの支部を作っていそうな気がするからね。
と、なると、他に行った事がある街となると、海沿いのあの街かな?
そうだね。前に魚なんかを買いに行ったあの街にしよう。
そう決めたら、頭の中で【多重思考さん(多重思考された人(?)たちのリーダー)】の声がした。
『【料理グループ(多重思考された人(?)たちの内の、料理を担当しているグループ)】がアップを始めました。』
『………食材は買わないよ。』
頭の中で悲鳴が聞こえた気がしましたが、それはスルーします。
ソファーから立ち上がり、コートハンガーに掛けてあるローブと肩掛けカバンを持って、ケイティさんに言う。
「ちょっと出掛けてくる。暗くなる前には戻ってくるね。」
『さぁ、あの海沿いの街の近くに転移しよう。』と思ったら、ケイティさんに言われた。
「ご一緒します。(キリッ)」
「………………。」
そうだったね。
そうなるのが普通だよね。
クーリも俺のすぐ傍まで来て、『もちろん、私もご一緒します。』ってオーラを出して控えているし…。
えーーっと。
買い物をして、その後ダーラムさんのところに行くのだから、付いて来られるのは困るよね。
うん。困るね。
そう思ったら、結界を張られたのを感じた。
【多重思考さん】が張ってくれたみたいだ。
張られた結界は”空間魔法を使った結界魔法”みたいだね。
これなら『腕を掴まれて一緒に転移してしまう』という事態にはならないね。俺に触れることが出来ないからね。
いつでも逃げられる状態になったことで、少し落ち着いた。
『何て言って断ろうかな?』と考えていたら、再びケイティさんに言われた。
「姫様には言えない場所に行かれるのでしょうか?(キリッ)」
「ぶふっ!」
『姫様には言えない場所』って何の事を指しているんですかね?! 何の事を指しているんですかねっ?!
キャッキャウフフな状況が頭の中に浮かんでしまうのですがっ!
ケイティさんの表情を見ると、(ニーナの様に)俺をからかっている様には見えない。
真面目かっ。
変に誤魔化すと、あらぬ誤解が広まってしまうかな?
そんなことになってしまったら、俺が死ぬ状況も有り得るかな?
うん。有り得るね。
ヤベェ。(真顔)
何て言おう?
考える。
「………………。」(俺)
「………………。」(ケイティさん)
「………………。」(クーリ)
良い言い訳が思い付かない。(半泣き)
ダーラムさんの事を話すのは危険だよな。
さっき、『ちょっと出掛けてくる。暗くなる前には戻ってくるね。』って言ってしまったから、尚更ね。
ダンジョンマスターのダーラムさんの事は王様と大臣には話してしまっているから、下手を打つと俺がダンジョンマスターのところに容易に行ける事を悟られてしまいかねない。
困った。
これって、詰んでね?!
「………………。(汗)」(俺)
「………………。」(ケイティさん)
「………………。」(クーリ)
ヤベェ。
どうしよう?
打開策を必死に考える。
考える。考える。考える。
閃いた。
「…ケイティ、シルフィを呼んできてもらえるかな?」
「かしこまりました。(キリッ)」
ケイティさんがシルフィを連れて戻って来た。
「ナナシさん、何かご用ですか?」
俺はシルフィに言う。一気に!
「これからちょっと出掛けてくるんだけど護衛は連れて行けない。何処に行くのかは今は言えないけど、別にいかがわしいところへ行く訳ではないし、女性に会いに行く訳でもなくて、この国の為になる事をしに行くだけ。暗くなる前には帰って来るからちょっと出掛けて来ていいかな?」
俺に一気に言われて、少し驚いた表情をして立ち尽くすシルフィ。
…一気に言い過ぎたかな?
「………………。」(シルフィ)
「………………。(ドキドキ)」(俺)
「…はい、分かりました。ナナシさん。(ニコッ)」
ホッ。
良かった。許可が出た。
シルフィから許可が出たのだから、変な噂が広まる恐れは無いよね!
「ありがとう! 行ってきます!」
そう言って、俺はすぐに転移した。
< シルフィ視点 >
ナナシさんに呼ばれたと思ったら、外出の許可を求められて、それに応えたら何処かに行ってしまいました。
「………………。」
これって、怒っていい状況の様に思うのですが、どうなのでしょう?
ケイティに事情を訊きましょう。
「ケイティ、ナナシさんとは、どんなやり取りがあったのですか?」
「『ちょっと出掛けてくる。』とおっしゃられましたので、『ご一緒します。』と申し上げました。(キリッ)」
「了承するご返事がありませんでしたので、『姫様には言えない場所に行かれるのでしょうか?』とお訊きいたしました。(キリッ)」
ああ、それでですか。
ナナシさんは、変な誤解を受けるのを恐れたのでしょう。
それで、私に外出の許可を求めたのですね。
「ケイティ、ナナシさんの行動を邪魔する様な事はしてはいけません。ナナシさんが自由に行動できる様にしてください。」
「かしこまりました。(キリッ)」
私は部屋に戻りました。
椅子に座って考えます。
ケイティの言っていた”姫様には言えない場所”って何なのでしょうか?
マーリーンに訊けば教えてもらえたでしょうか?
でも、今、彼女は居ませんしね。
クリスティーナに訊くのは危険な気がします。
彼女はすぐに、私のことをからかうので。
「”姫様には言えない場所”とはですねぇ…。(ニヤリ)」
私の後ろに控えていたクリスティーナが、私の耳元で言います。
彼女のニヤリとした笑顔が目に浮かぶ様です。
「って、あなたはどこから聞いていたの?」
「全部です。(しれっ)」
「………………。」
彼女の行動について何かを言う気はありません。
気にしたらキリがありませんので。
「…また私をからかうんでしょ。」
「私はいつも真面目ですよ。(しれっ)」
『嘘おっしゃい。』と言いたくなりましたが、グッと堪えます。
嘘泣きをされると、すっごく面倒なことになりますので。
クリスティーナを無視して、机の上の書類に目を通します。
「”姫様には言えない場所”とはですねぇ、男と女が……。」
クリスティーナが耳元で何かを言っていますが、無視して机の上の書類に目を通します。
手に持った書類の文字を目で追っています。
…多分。
そちらに意識がまったく向いてくれませんが。
色々な知識を得てしまいました。
男と女のごにょごにょなアレのことを。(赤面)
顔が火照っているのを感じます。
クリスティーナのニヤリとした笑顔が脳裏に浮かびますが、そちらの方へも意識が向きません。
何に意識が向いているのかは言えませんが!
メイドたちがニヤニヤしている光景が脳裏に浮かびますが、それを確認する気も、どうこうしようとする気にもなれません。
私は、ただ書類で顔を隠すことしか出来ませんでした。(超赤面)
(設定)
(シルフィと、男女のごにょごにょの話)
シルフィは、結婚式の前に男女のごにょごにょのついての教育はもちろん受けていました。
ですが、当初の結婚相手がアンだった為、まじめに聞いていなかったのです。
それ以外にも、クリスティーナのお話の内容が過激だった所為でもありますが!
(シルフィが部屋に持ち帰ったおやつの使い途)
胸の大きなマリアンヌに渡して、胸を触らせてもらいました。
『自分の胸が大きくなるように!』と。
「うひゃあーー!」と悲鳴が上がりましたが、ナナシには聞こえなかった様です。
シルフィの護衛をしている【多重思考】は【目玉】を通してその様子を知っていますが、ナナシには伝えていません。
『覗き』を疑われかねない様な事は、伝えるのを控えているのです。
何かを切っ掛けに追及されるような事態になったら、キョドってしまって死ぬことになるので!




