< 35 新・王宮での生活32 新魔法披露 四回目 >
メイドさんたちへの”ゴマスリ”が一段落した。
結婚式の時の衣装を着る話が先送りなったので、やる事の無くなった俺は、のんびりと過ごしています。
目指していた、揉め事を避けて、のんびり過ごす生活です。
『新魔法披露がやりたいです。』
ソファーで寛いでいたら、唐突に、頭の中で【多重思考さん(多重思考された人(?)たちのリーダー)】にそう言われた。
新魔法披露か…。
あまりやりたくはないのだが、最近、【多重思考さん】たちには沢山負担を掛けてしまっている。
花畑作りや、色々な魔道具とか、量産型ペンギン型ゴーレムの製作なんかでね。
ここらで【多重思考さん】たちが望む新魔法披露をさせてあげるのもいいのかな?
いや、でもまた、とんでもない魔法を見せられるんぢゃないのかな? 見せられるよね?
『【水属性魔法グループ】も楽しみにしています。』
おや?
新魔法披露で【水属性魔法グループ】が出てくるのは初めてかな?
【水属性魔法】なら、(これまでの様な)ヤバイ魔法を見せられる事は無さそうかな?
安全、安心な感じがするよね。
気持ちが新魔法披露をする方向に傾く。
うん。そうだよね。
負担を掛けてしまっている【多重思考さん】たちの為に、【多重思考さん】たちの望む新魔法披露をさせてあげるのもいいかもしれないね。
俺がそう思った直後。
あの荒野に転移させられた。
あの荒野に来ています。
ソファーに座った姿勢のまま空中に浮かされています。
「…心の準備とかあるし、せめて立つのを『新魔法披露 四回目です。3キロほど前方をご覧ください。(ワクワク)』」
…聞いちゃいねぇ。
空中に”→”とか”←”の矢印がいくつか浮かび、その矢印に導かれるまま視線を動かすと、”↓”と”このあたり”という文字が見えた。
【闇魔法さん】、ありがとうございます。いつも助かってます。
さらに”侵入不可”と”減音”という文字が空中に浮ぶのが見えた。
それぞれの結界を張ったみたいだ。
そこで違和感に気付く。
『【水属性魔法グループ】も楽しみにしています。』と言われたから、水芸的なモノを想像していた。
だが、【侵入不可】結界と【減音】結界を張ったのは、前回、クレーターを作った時と一緒だ。
それと、クレーターを作った時は『2キロ先』だった。
さっき、『3キロほど前方をご覧ください。』と言われたぞ。
”クレーター”以上の事が起こるのか?(ビクビク)
ビビっていたら、頭の中で『いきます。』と言う【多重思考さん】の声がした。
そして、大きな砂埃が下から上へ放射状に広がっていくのが、遠くに見えた。
…あれは爆発なのかな?
でも、炎は出ていないな。
戦隊モノで、背後にあんな爆発を起こす場面を何度も見た事が有るが、何が起きたのだろうか?
少ししたら、『ドオオオォォォン!』という音がした。
その後しばらく待ってみたが、クレーターを作った時の様に衝撃波が発生したりはしていない様だ。
上から砂が降って来ないのは、距離が離れていたからかな?
でも、本当に何が起きたんだろうか?
視線の先では、砂埃の立ち方が、まるで火山が噴火したかの様な状態に変わっていた。
…本当に何が起きたんだろうか?
上へ上へと上がり続ける砂埃を呆然と見上げながら、何が起きたのか頭の中で考えた。
少しの間、呆然としていたら、頭の中で【多重思考さん】の声がした。
『ただいまの魔法について、ご説明いたします。』
「大相撲の物言いが付いた時みたいなセリフと口調はやめれ!」
『今回は、【転移魔法グループ】と【水属性魔法グループ】と【結界魔法グループ】の共作です。』
そう言われても、何をしたのかサッパリ分からないな。
【転移魔法】っぽさも、【水属性魔法】っぽさも、【結界魔法】っぽさも無かったからね。
『先ず、【転移】で土を退かして、地下に空間を作りました。』
ふむふむ。
その様子を頭の中で思い浮かべる。
『次に、その空間を【クリエイトウォーター】で水で満たしました。』
ふむふむ。
『そこへ、【転移】で『こたつの熱源』を送り込みました。』
へ?!
『水蒸気爆発でドカンです。(ニヤリ)』
「をいいぃぃぃーーー!!」
「なに、危ない魔法を作ってるんだよ!!」
『危ない魔法なんて作っていませんよー。使い方を工夫しただけですぅー。』
「そう言われればそうだな! ぢゃあ、『”新魔法”披露』っていう言い方が悪いのか?! いや、そういう話ぢゃなくて!」
「それと、『こたつの熱源』とか言うなや!! あと、アレを変な事に使うな!!」
『じゃあ、現場がどうなっているか見に行きましょう。(ワクワク)』
そう頭の中で言われて、俺はまた転移させられた。
「ひとの話を聞けや!!」
現場に来ました。
砂埃は、キレイサッパリ無くなっています。
クレーターを作った時と同様に、【分離】魔法さんで取り除いたんだそうです。
【分離】魔法さん、マジ万能。本当に最高です。
それはそれとして。
俺はまだ、ソファーに座った姿勢のまま空中に浮かされています。
でも、地面に降ろしてほしいとは思いません。
地面に大きな穴が空いていたので。
「………………。」
地面に空いた直径70mほどの大きな穴を見て、言葉を失う。
『おおー、すごいですねぇ。』、『おおー、エグイ。』、『やるなー。』、『これを超えるにはどんな魔法が必要かな?(ワクワク)』
頭の中で、大勢の声が聞こえる様な気がしないでもないですが、そちらに意識が向きません。
穴は、傾斜のキツイすり鉢状です。
周囲の状況を見ると、かなりの量の土砂がこの穴から噴き出した様に見ます。
「えーっと………。」
なかなか回ってくれない頭でその言葉を引っ張り出して、【多重思考さん】に言う。
「この魔法ってさ…、使い途…有る?」
『穴を掘るのに使えます。』
「いやいやいやいや、周りの被害が甚大だから、そんな事には使えないよね。」
『街を吹き飛ばすのに使えます。』
「そんな事をする予定なんて無いから! それと、考えない様にしてたけど、やっぱり出来ちゃうよね!」
『一発です。(フッ。)』
…やべぇ。
街を一発で吹き飛ばせる魔法です。
やべぇ。
本気で使い途が有りません。
本気で使い途が有りません。
大事なことなので、二回言いました!!
なんで皆、使い途の無い物騒な魔法ばかり作るのかなー。
どうしてかなー。どうしてかなー。
地面に空いた大きな穴を見て、俺は呆然とする。
「………はぁ。」
無意識の内に溜息が出た。
げんなりした気分のまま、王宮の部屋に帰って来ました。
『逃げて来た』とも言います。
ちなみに穴は、埋めてくれる様に指示して来ました。
証拠隠滅です。(←言い切った)
「ただいま…。(げんなり)」
「お帰りなさいませ。」
俺は、ソファーに体を沈めた。
ダラーーっと。
無心で。
しばらくソファーでダラーーっとしていたら、シルフィがやって来た。
俺の隣に座って、訊いてくる。
「先ほど地面が揺れたのですが、ナナシさん何かされましたか?」
「え? 地面が揺れたの?」
「はい。」
…そうか、ずっと浮かされたままだったから気が付かなかったのか。
ジッと俺を見ているシルフィに言う。
「…地面が揺れたのには気が付かなかったけど…。」
そう言いながら、砂埃が舞い上がった様子と『ドオオオォォォン!』という音を思い出す。
「…身に覚えは…有る。」
「………………。」
シルフィは驚いているみたいです。
「…えっと、…何を…されたんですか?」
「えーっと………。」
「………………。」
「ちょっと、………魔法の実験を…しまし…た。」
「…王都の外でですか?」
「いや、もっと遠い…、西端の街のさらに南西の方で…。」
「………そんなに遠くで…、ですか………。」
「………………。」
「………………。」
頭の中で【多重思考さん】に訊く。
『王都では、どのくらいの揺れだったの?』
『震度1くらいです。』
あまり揺れてはいなかったが、王都までの距離を考えると、相当な爆発だったことになるね。
地震を起こす為には、かなりのエネルギーが必要だったはずだ。
かなり距離がある王都まで揺れたとなると、相当なエネルギーだよね?
言葉を失うね。
「………………。」
「………………。」
シルフィも言葉を失っているご様子です。
しばらく静かだったシルフィですが、結局、無言のまま部屋を出て行ってしまいました。
頭の中で【多重思考さん】が俺に訊く。
『ちょっと、やり過ぎましたか?』
『大分、やり過ぎたと思う。』
『………………。』
『………………。』
【多重思考さん】も言葉が少なめです。
【多重思考さん】も反省してください。お願いします。
俺の部屋を出たシルフィは、王妃様のところに報告に行ったそうです。
シルフィから報告を受けた王妃様と、王妃様経由でその話を聞かされた大臣は、しばらくの間、静かになっちゃったそうです。
【目玉】を使って様子を見に行った【多重思考さん】が、そう教えてくれました。
なんか…、ごめんなさい。
それと、【多重思考さん】も反省しようなっ。
その日の夜。
シルフィに、「何か悩みごとはないですか?」とか「おっぱい揉む?」とか、色々言われてしまいました。
揉めるほど無いのに、シルフィは何を言っているんだろうね?(←おい)
錯乱しているっぽかったので、【スリープ】を掛けて眠ってもらいました。
ふぅ。
ひどい錯乱ぶりだったね。
無い物は揉めないのに。(←やめてさしあげろ)
シルフィを錯乱させてしまう様な新魔法披露は、もうやめようと思いました。




