< 23 新・王宮での生活20 ナナシ、メイドさんたちの役に立つ魔道具を考える04 洗濯物を乾燥させる魔道具01 >
昼食後のお茶の時間を終えた。
部屋に帰るシルフィを見送り、ソファーで寛ぎます。
ダラァーーっと。
【多重思考さん】たちに頼んだ(=丸投げした)、品質の悪い魔晶石の品質を上げる実験の結果が出るまでヒマだからね。
『ヒマそうですね。(喜)』
頭の中に【多重思考さん(多重思考された人(?)たちのリーダー)】の弾んだ声がした。
普段聞かない声色に、思わず緊張する。
『新魔法披ろ『必要無いから!』』
【多重思考さん】の危険なセリフを遮る。
『花畑の視さ『それも必要無いから!』』
【森の破壊者】なんて【称号】を付けられる事になった花畑なんて、見に行きたくはない!
『環境破壊現場の視さ『行かないから!』』
『それに、『環境破壊現場の視察』は、『花畑の視察』と同じだよね!』
【多重思考さん】に、そうツッコミを入れる。
俺が知らない間に、新たに『環境破壊現場』が増えていない事を信じて。
『チッ。ヒマそうに見えましたのに。』
舌打ちされてしまいました。【多重思考さん】に。
丸投げし過ぎて、ストレスが溜まっているのかもしれないね。
そのストレスを、新魔法披露と言う名の環境破壊へ向かわせない様にしないといけないね。
取り敢えず、ヒマだと思われてしまわない様に、まじめに魔道具の検討をしよう。
ダラァーーっとソファーに沈めていた体を起こして座り直し、次に作る魔道具を考える。
まじめにね。
いつもまじめですが。(←ダウト)
ふと、今日の午前中に作り終えた『毛穴の汚れを取る魔道具』の事を思い出す。
王妃様に頼まれて、300個も作った。
その所為で魔石が品薄になってしまったそうですが、それはそれとして。
王妃様に製作を頼まれた時に、『美容関係の魔道具を作る人が居ない』とか言われた憶えがある。
次に作る魔道具は、美容関係の魔道具にしよう。
『美容関係の魔道具』で、何かメイドさんたちに喜ばれそうな物がないか考える。
考えていて、以前、作る魔道具を検討した時に上がった候補の一つに『ドライヤー』が有った事を思い出した。
ふむ。ドライヤーか…。
ドライヤーはメイドさんたちに喜ばれそうな気がするね。
でも、今、メイドさんたちって、お風呂から上がった後どうやって髪を乾かしているのかな?
【ドライ】の魔道具とか使っているのかな?
でも、この国って割と乾燥しているから、タオルで拭くだけでも済んでしまいそうな気もするな。
そんな事を考えていたら、頭の中で【多重思考さん】に言われた。
『沢山作る必要が有る魔道具を作るのは、今は止めておいた方が良いと思います。魔石が品薄になっているのですから。』
………そうでしたね。
ドライヤーも、作ったらそこそこの数が必要になるよね。メイドさんの人数が多いからね。
ドライヤー以外の『美容関係の魔道具』を考えよう。
他に何か美容関係で喜ばれそうな魔道具がないか考える。
だが、”美容関係で”となると、さっぱり思い浮かばない。
うーーん。
悩みながら色々考えていたら、頭の中で【多重思考さん】に言われた。
『雨雲が近付いて来ています。メイドさんに干してある洗濯物を片付ける様に伝えてあげましょう。』
そうなのか。
ぢゃあ、ニーナに言って、伝えてもらおう。
「ニーナ。」
ニーナを呼ぶ。
「はい。何でしょうか?」
俺の傍まで来てくれたニーナは、胸元にペンギン型ゴーレムを抱きかかえている。イイ笑顔で。
もうすっかり見慣れてしまった光景って感じがするね。
そして、抱きかかえられているペンギン型ゴーレムがジタバタしているのも相変わらずなのだが、もう何も言うまい。
”遠い目”になってしまいそうなのを耐えながら、ニーナに言う。
「雨雲が近付いて来ているから、干してある洗濯物を片付ける様に伝えてあげてくれるかな。」
「はい。分かりました。」
そう言って部屋を出て行くニーナ。
ペンギン型ゴーレムを胸元に抱きかかえたまま行ってしまったけど、それについても何も言いません。
ニーナを見送った後、ふと、ケイトを見る。
ケイトも胸元にペンギン型ゴーレムを抱きかかえている。イイ笑顔で。
そして、抱きかかえられているペンギン型ゴーレムがジタバタしているのも同じです。
なので、俺が何も言わないのも同じなのです。
ヨタヨタと歩いているところを見て癒やされたくて作ったペンギン型ゴーレムなのにねー。(遠い目)
「はぁ。」
思わず、溜息が出た。
それはそれとして。
次に作る魔道具を考えます。まじめに。
『美容関係の魔道具』で考えて何も思い浮かばなかったので、その”縛り”を無くして、改めて考える。
ふと、『洗濯物を乾燥させる魔道具なんていいんぢゃね?』と思った。
ちょうど今、雨雲が近付いて来ているから、早速役に立って、メイドさんたちに喜んでもらえることだろう。
うん。いいね。
メイドさんたちに喜んでもらう事は重要だ。
メイドさんたちにゴマを擦る為に、役に立ちそうな魔道具を作ってプレゼントしているのだからね。
よし。これにしよう。
そう思ったのだが、『洗濯なら【クリーン】で一発ぢゃね?』と気付く。
そうだよね。洗濯なら【クリーン】で一発だよね。
それなのに、外に洗濯物が干されていたね。
あれれ? なんでだろう?
魔道具を製作する部署が在るのだから、作る意思が有るのなら【クリーン】の魔道具を作っているだろう。
『洗濯はメイドに必須の技能です。(キリッ)』みたいな理由で、【クリーン】の魔道具を使っていないのかな?
そんな理由な気がするな。
洗濯を楽にする【クリーン】の魔道具をプレゼントするのは駄目かもしれないが、『洗濯物を乾燥させる魔道具』ならセーフだろう。
よし。今から『洗濯物を乾燥させる魔道具』を作るぜ。
すぐに具体的な検討に入る。
『洗濯物を乾燥させる魔道具』となると、使う魔法は何だろうか?
『【ドライ】で乾かす』か『【分離】魔法さんで水分を取り除く』かの、どちらかかな?
そうだね。このどちらかだね。
【ドライ】で、いいかな?
転移魔法の仲間の【分離】魔法さんで魔道具を作ると、変な騒ぎになってしまうかもしれないからね。【ヒール】の魔道具をうっかり作ってしまった時の様にね。
『【転移】の魔道具を作ってくれ。』とか言われちゃったら困るよね。
世の中に与える影響は、【ヒール】の魔道具の比ではないだろうし。
使う魔法は、【ドライ】にしておこう。
【ドライ】で乾かすとして、【ドライ】を掛ける対象の指定はどうしよう?
物干し竿に干されている洗濯物を【ドライ】で乾かす様子を、頭の中でイメージする。
目視で対象を指定しながら【ドライ】を掛けて回る事になるのかな?
そうなってしまいそうだな。
でも、そうすると魔法を発動する回数が多くなってしまうから、また、魔力消費量が問題になってしまいそうだね。
『洗濯物を乾燥させる』となると、魔力が不足して『半分しか乾かなかった』なんて状況になったら困るよね。
『役に立たない魔道具』と言われてしまう様な事態は避けたいよね。
そうなってしまわない様に魔力に余裕を持たせておかないといけないね。
魔力消費量を減らす工夫を考えないといけなくなりそうだね。(うんざり)
うーん。
【ドライ】を掛けて回るのではなく、部屋の一つに洗濯物を運び込んで、その部屋全体に【ドライ】を掛けるか?
こちらの方が魔力消費量を減らせそうな気がするな。
専用の部屋を用意してもらわないといけなくなるけど、大丈夫だろうか?
うーん。
俺が一人で悩んでも解決しない問題だね。
ニーナに相談しよう。
そう思ったのだが、ニーナはまだ戻って来ていない。
ケイトに相談するか?
そう思って、チラリとケイトを見る。
だが、『ケイトに相談して何とかなる事なのだろうか?』と思う。
護衛役としてここに居るケイトだが、俺が移動する時に常に傍に居る訳では無く、先日、訓練場に行った時には、いつの間にかメイドさんたちの訓練に参加していたりした。
訓練大好きな脳筋なのかと言うとそういう訳でもなさそうだが、肉体労働系の護衛役なのに何故か被服部と仲が良かったりして、俺の中のケイト像は『したい事しかしない、良く分からない人』って感じだ。
うん。ケイトに訊いても無駄っぽいな。
「何か失礼な事を考えてない?」
そんな事をケイトに言われたが、「ソンナコトナイヨ。」と返事しておきました。
何か文句を言ってくるケイトを『突発性難聴を発症した人』の演技をしながらスルーする。
そんな不毛な攻防を繰り広げていたら、ニーナが戻って来た。
早速、ニーナを呼んで、訊こう。
と思ったが、先にお礼を言われた。
「ありがとうございました。メイドたちがお礼を言っていましたよ。(ニッコリ)」
「いやいや、ちょうど気が付いただけだけどね。」
ニッコリ(ニーナ)
?(俺)
ニーナは、まだニッコリしている。
ん? 何だろう?
ニッコリ(ニーナ)
?(俺)
ニーナの笑顔に何となく”圧”を感じます。
…これは、あれかな?
『またお願いします。』ってことかな? 前にもこんな事が有った気がするし。
ニッコリ(ニーナ)
ニッコリするニーナを見て確信した。そして言う。
「また気が付いたら、教えるね。」
「はい。よろしくお願いいたします。(ニッコリ)」
ふぅ。
どうやら正解だった様です。
でも、普通に言ってくれていいんですよ、ニーナさん。
笑顔で”圧”を加えるのではなくて、普通に言って欲しいです。(苦笑)
壁際に移動しようとするニーナを呼び止める。
ニーナさん。俺の用事がまだ終わってませんヨー。
傍まで戻って来たニーナに、訊きたかった事を訊く。
「今回の様に雨が降った時の為に、洗濯物を乾かす魔道具を作ろうと思うんだ。」
「干してある洗濯物に狙いを定めながら魔法を掛けて回ると魔力消費量が多くなってしまいそうだから、専用の部屋を用意してもらってその部屋全体に【ドライ】の魔法を掛けて乾燥させたいんだけど、そういう専用の部屋って用意できるかな?」
「そういうお部屋が在るのは良さそうですね。天気に関係無く、毎日大量に洗濯物が出ますからね。メイド長に訊いてきますね。」
そう言って、また部屋を出て行くニーナ。
またペンギン型ゴーレムを胸元に抱きかかえたまま行ってしまったけど、いいのかな?
行先はメイド長のところだよ?
ぬいぐるみを抱きかかえながら仕事している様に見えるよね?
怒られるよね? 確実に。
………………。
まぁ、何とかするだろう。ニーナだし。
それに、そう易々と没収されたりはしないだろう。ニーナだし。
ニーナに、謎の信頼感を持っている自分に少しだけ驚く。
でも、ニーナだしな。うん。
大丈夫だろう。(←謎の信頼感)
(裏話的なモノ)
『メイドさんたちって、お風呂から上がった後、どうやって髪を乾かしているのかな?』と、ナナシが言っていますが、この世界にお風呂はありません。
その事は、調べようと思えば【目玉】を使って簡単に調べられるのですが、覗きを疑われかねないので自重しているので、ナナシは知らないのです。
実際には、水浴びや、行水や、濡らしたタオルで体を拭いたりしています。
ニーナは雨雲が近付いている事を自分で伝えに行きましたが、部屋の外に控えているメイドさんに指示すれば、それで済みました。
自分で行ったのは、胸元に抱きかかえたペンギン型ゴーレムを多くのメイドさんたちに見せて回る為です。
その目的は、被服部がペンギン型ゴーレム製作に動いてくれる状況にする事です。




