< 21 外伝 ニーナ、報告する >
メイド長に報告する為に、メイド長の執務室に来ました。
ナナシ様についての報告です。
これまでも、ナナシ様との会話で気付いた事やナナシ様の(常軌を逸した)行動などを、その都度報告していました。
魔法の才能がとんでもないお方ですから、これまでとんでもない報告をしてきました。
部屋に居ながらにしてオークキングを仕留めただけでも意味不明だったのですが、そのくらいの事で驚いていた事が今では懐かしく感じます。(遠い目)
先日は『一度に使える魔法が200を超えている様です。水の球を200以上作り出したのですが、それでもあまり魔力が減っていないのだそうです。』と報告したら固まってしまわれましたね。
でも、今回はそれほど驚く様な報告ではないので、大丈夫でしょう。
「ナナシ様は【マジックバッグ】の様な収納する魔法を使える様です。」
「オークキングの件で噂になっていた”時間停止”も可能な様です。また、バッグの様な容れ物は不要で容量は無制限の様です。」
メイド長は、納得したかの様な表情をされました。
これまで報告した内容から予想できる範囲内だったのでしょう。
でもすぐに、『それってとんでもない事なのでは?』とでも考えていそうな表情に変わります。
【転移魔法】と【空間魔法】を使える事に既に驚いていたのに、さらに【時間魔法】まで使えるのですからね。
希少な魔法を一人でここまで使える人など、前代未聞の事でしょう。
「…何か有ったら、また報告する様に。」
メイド長にそう言われました。
何かに怯えている様に感じるのは私の気の所為でしょう。
報告を終えた私は、メイド長の執務室を後にしました。
今日も、メイド長の執務室に来ました。
ナナシ様についての報告です。
これまでも、ナナシ様との会話で気付いた事やナナシ様の(常軌を逸した)行動などを、その都度報告していました。
先日、ナナシ様が口にした『あとごふん』という言葉を報告してからは、思いの外、高い関心を示されている様に感じます。
メイド長の様子から察するに、高い関心を示している方は、メイド長よりも偉い方の様です。
と、なると、王妃様なのでしょうね。
博識な王妃様でもご存知なかった事を、ナナシ様はご存知でしたしね。
水を分解するなんて、知識がどうこうを通り越して、もはや意味不明でしたしね。
まぁ、ナナシ様が意味不明なのには、大分慣れたと思いますが…。
今日は、ナナシ様が私の知らない文字を書かかれていた件を報告しました。
空中に魔法で文字を書かれていた為、現物が無く、『私の知らない文字を書いていた』としか報告できませんでしたが、メイド長が満足している様子が分かります。
報告内容(=ナナシ様がされた事)が理解不能でなかった事に安堵されているだけではないですよね?
メイド長が私の報告に満足している様子に、私も満足します。
このまま点数を積み重ねて私が出世すれば、『鎖骨同好会』の活動が、よりしやすくなりますからね。
もし、私がメイド長になろうものなら、私の行動を誰も止められなくなります。
そうなったら、一日中、スリスリむふむふしまくりです。
そうです。
一日中、スリスリむふむふしまくるのです。
私の鎖骨を!(←ナナシの鎖骨です)
ぐへへへへ。
…おっと。
よだれなんて出ていませんよね?
口元に意識を集中して確認します。
ふう。大丈夫でした。
メイド長の執務室を後にして、私の鎖骨に会いに行きます。(←ナナシの鎖骨ですってば)
今日も、メイド長の執務室に来ました。
ナナシ様についての報告です。
これまでも、ナナシ様との会話で気付いた事やナナシ様の(常軌を逸した)行動などを、その都度報告していました。
でも今日は、大した報告ではありません。
リラックスして笑顔も出てしまいます。
ペンギン型ゴーレムを抱いて報告に来ていますが、手放したくなかったから連れて来た訳ではないですよ?
この子についても報告する為です。(ニコニコ)
「ナナシ様が作られたこのゴーレムは、『ペンギン』という名の実在する鳥の形を模して作られたんだそうです。」
メイド長は少しだけ首を傾げます。
メイド長も『ペンギン』をご存じなかった様ですね。
『鳥』と言われても戸惑いますよね。
空を飛べるようには見えませんからねー。
もう一つの報告もします。
「それと、また『この世界』という言葉をナナシ様が使われました。」
何故、ナナシ様は時々『この世界』なんて言葉を口にされるのでしょうか?
変な想像が頭に浮かんでしまいますが、そんなはずは無いですよね。
でも、ナナシ様の意味不明っぷりや、常識の無さを思うと…。
いやいや、そんな事あるはずないですよね。
私がおかしな想像をしていたら、メイド長に「王妃様へも同じ報告をする様に。」と指示されました。
博識な王妃様なら『ペンギン』の事をご存知かもしれないと思われたのでしょう。
王妃様の執務室へ行き、王妃様に報告します。
王妃様の前に立つのは、いつも緊張します。
「ナ、ナナシ様が作られてゃこのゴーレムは、『ペンギン』を模して作らりぇ、作られたそうです。」
…ちょっと噛みました。(赤面)
王妃様は、私が抱いているペンギン型ゴーレムをジッと見ていらっしゃいます。
「………………。」
「………………。」
そんなに無言でいられますと、すごく緊張してしまうのですがっ。
緊張して、さっきまでまるで気にならなかったペンギン型ゴーレムのジタバタする動きが気になってしまいます。
私の腕から抜け出そうと手(?)をパタパタさせています。
こういう動きを見ると鳥っぽく見える気が少しだけします。
飛べそうにはまったく見えませんが。
「………王妃様は『ペンギン』をご存じなのですか?」
沈黙に耐えかねて、思わずそんな事を訊いてしまいました。
王妃様はそれにはお答えになられず、「その鳥を床に置いて歩かせてみて。」と、おっしゃられました。
私は、腕の中でジタバタしていたペンギン型ゴーレムを床に置きます。
ヨタヨタと歩きます。
ヨタヨタヨタヨタ
「………………。」
「………………。」
王妃様は無言です。
周りのメイドたちが『カワイイーッ!』って感じで見ているのとはまるで正反対の反応に、私は戸惑います。
「…報告ご苦労様。下がっていいわよ。」
「はい。」
私は、ペンギン型ゴーレムを抱き上げて一礼し、王妃様の執務室を後にしました。
廊下を歩きながら考えます。
先ほどの王妃様への報告で、何か違和感が有った様な気がしましたので。
ですが、私が何に違和感を感じたのかは、分かりませんでした。
そんな事はすぐに忘れて、私は、この可愛いペンギン型ゴーレムに付ける名前を考え始めました。
今日の仕事が終わりました。
ナナシ様の部屋を後にして、メイド長の執務室に向かいます。
ナナシ様について、報告し忘れていた事が有りましたので。
メイド長に報告します。
「ナナシ様が杖やゴーレムを作っていた時に気が付いたのですが…。」
そう前置きしてから続けます。
「ナナシ様は、魔晶石に書き込まれた魔法を書き換えて修正していた様に見えました。」
『そんな事は出来ない』と聞かされていたはずだったので、おかしい事なのですけどね。
倉庫に眠っている、使い道の無い大量の魔道具が、『そんな事は出来ない』という何よりの証拠です。
書き換えられるのだったら、再利用されているはずですからね。
おかしいですよね。
メイド長も『おかしい』と思っている様です。
「明日、誰かに確認させましょう。ご苦労様。」
そう言われたので、メイド長の執務室を後にしました。
抱いているペネラ(=このペンギン型ゴーレムにニーナが付けた名前)について何も言われなくて良かったです。(ニコニコ)
これで今日の仕事は終わりです。
私は寮に向かいます。
部屋に入り「ただいま。」と言います。
「おかえり。」
同室の先輩が、カーテン越しに返事をしてくれます。
ペネラを見られなくて済むのは助かります。
今日はこの子と一緒に寝るつもりで連れて来ましたので。
お湯を用意して体を拭き、着替えて、ペネラを抱いてベッドに入ります。
ほんのり暖かくて、モフモフでフニフニです。
ジタバタするペネラを抱いてモフモフしていたら、すぐに眠ってしまいました。
朝。
目を覚ますとペネラが居ませんでした。
ベッドから落ちてしまった様ですね。
じっとしていない子ですからね。
私の寝相が悪い訳ではないですよ?(←後ろめたい事が有る人によく見られる反応です)
ベッドから降りてペネラを探します。
ベッドの周りには居ませんね。
カーテンを開けます。
ペネラは部屋の中をヨタヨタと歩いていました。
ヨタヨタヨタヨタ
可愛らしいですね。(ニコニコ)
同室の先輩と目が合います。
「おはよう。この、カワイイのは?」
「おはようございます。その子は、ナナシ様が作られたゴーレムです。」
「これがゴーレム…。でも、”ドラゴン案件”か…。…量産予定は?」
「無いと思います。」
「………可能性は?」
「うーーん。被服部を抱き込めれば…、アリかと。」
「なるほど、被服部が手掛けたのか。さすがの仕上がりだ。」
ヨタヨタ歩くペネラを二人で眺めます。
ヨタヨタヨタヨタ
「…被服部の反応は?」
「ケイトにお願いしたので、私は知りません。」
「そうか、ケイトが居たのだったな。他に知っている者は?」
「メイド長のところの方たちと、王妃様のところの方たちですね。(ニヤリ)」
「既に動いていたのか。期待できそうだな。(ニッコリ)」
「ええ。イケると思います。(ニヤリ)」
この後、食堂で朝食を食べ、朝礼に出た後、ナナシ様の部屋に向かいました。
もちろん、ペネラをずっと抱いたままでした。(ニヤリ)
(裏話的なもの)
ニーナが先輩との会話で”ニヤリ”としていたのは、被服部がペンギン型ゴーレム製作に動いてくれる状況になる様に企んで、多くのメイドさんたちに見せて回っていたからです。
沢山のペンギン型ゴーレムが作られ、それを抱いてモフモフする様子を妄想してニヤニヤが止まらないニーナなのでした。




