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姫様を助けたのは失敗だったが、割と好き勝手に生きています。  作者: 井田六
第十二章 異世界生活編07 新・新生活編
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< 18 新・王宮での生活16 ナナシ、メイドさんたちの役に立つ魔道具を考える03 >


朝食後。

シルフィと食後のお茶を楽しんでいるところに、王妃様がやって来た。

王妃様の用件は、朝食時にシルフィから聞いている。

昨日ニーナに渡した、【製作グループ(多重思考された人(?)たちのうちの、物品製作をしているグループ)】が作った、毛穴の汚れを取り除く魔道具の件らしいのだが、王妃様自身が来るほどの用件って何なんですかね?


ソファーに腰掛けた王妃様は、単刀直入に切り出した。

「毛穴の汚れを取り除く魔道具を沢山たくさん作って欲しいのだけど、出来るかしら?」

「えーっと、沢山たくさんって、どのくらいでしょうか?」

「だいたい300個くらいかしら。」

「ブッ。」

思わず噴き出した。

「…多くないですか?」

「そんなことないわ!」

王妃様に力強く言われて、ちょっとる。

「あれは素晴らしい魔道具よ!」

そう力説りきせつされたのだが、そんなに力説りきせつするほどの物ですかね?

毛穴の汚れを取るだけですよ?

「魔道具を作る人たちは、戦闘に使う物や照明なんかは作るのだけれど、あの魔道具みたいな美容関係の物を作ろうとする人なんて、今まで居なかったのよ!」

「あの魔道具は、魔道具の歴史に現れた新たな可能性なのよ! 魔道具を作る人たちに衝撃を与える素晴らしい魔道具なのよ!」

王妃様が、やたらと力説なさいます。

お陰で、先ほどからりっぱなしです。(苦笑)

「分かりました。作ります。」

そう言うしかないよね。

王妃様から凄い”あつ”を感じるし。

この”圧”を受け続けていたら、後ろに倒れてしまいそうです。(苦笑)

「よろしくお願いね。(超笑顔)」

「はい。」

”圧”から解放されて姿勢を戻し、「ふぅ。」と一息ひといきいた。


「報酬はどのくらいかしら? 昨日見せてもらった物一式(いっしき)で金貨二枚くらいかしら?」

金貨二枚と言うと、20万円くらいか…。

相当な金額だよね。

毛穴の汚れを取る物に支払う金額ぢゃないよね。(苦笑)

軽く引いてしまいます。

いや、魔力を充填する台に、そこそこの大きさの魔晶石を使っていたな。

魔力切れで使えなくなるのを恐れて、少し奮発ふんぱつしてしまったからね。

使えない道具なんて、存在しないのと同じだと思うのですよ。(キリッ)

魔晶石の価値や作る手間を考えたら、金貨二枚と言うのは妥当だとうな金額なのかな?

うーん。妥当な金額の様な気がしないでもないな。

毛穴の汚れを取るだけの物なのにね。(すでに何度目か分からない苦笑)


でも、報酬をお金でもらううのはイヤなんだよなー。

『お金を払いさえすれば買えて当然だ』とか『カネを払うんだから作れ』みたいな考え方をするお金持ちに、色々な物を強制されて作らされたりするのはイヤだからね。

そんな事になってしまったら、のんびりと過ごせなくなっちゃうからね。(←とても重要なことです)

でも、俺にとって、お金の代わりの報酬になりそうな物って何か有るかなぁ? 無いんぢゃないかなぁ?

今のこの王宮での生活って、お金を使うこと自体が無いからねー。

欲しい物はメイドさんに頼むだけで、用意してもらえるもんねー。

うーーん。

報酬の事で悩んでいたら、頭の中で【多重思考さん(多重思考された人(?)たちのリーダー)】に言われた。

『お金で報酬を貰うのがイヤなら魔石で貰うのはどうでしょうか? これから先、魔道具を作る時に必要になりますし。』

ほう。そうだね。それが良さそうだね。

魔石は、(いつの間にか)【多重思考さん】たちが魔物を倒して、確保しておいてくれた物が【無限収納】の中に沢山たくさん入っているのだが、これからは減る一方だと思っている。

ダンジョンマスターとお知り合いになったので、ダンジョンで魔物を乱獲して魔石を得るのには躊躇ちゅうちょしてしまうよね。

最近の魔石の消費ペースを考えると、森に居る魔物から魔石を取り続けると、森の魔物が絶滅しかねないからねー。

報酬を魔石を貰うのは良いね。

俺が手をくださないだけで、森の魔物が絶滅する事には変わりが無いかもしれませんが。(←おい)


「報酬が金貨二枚で妥当かどうかがよく分かりません。お金の価値がいまいちよく分かっていないので。」

「それと、報酬をお金で貰うのはイヤです。『お金を払いさえすれば買えて当然』みたいな考え方をする人に、色々な物を作らされたりする様な事態を招きたくないので。」

「材料となる魔石などを支給してもらいたいのと、報酬もお金ではなく魔石で欲しいのですが、それでどうでしょうか?」

「ええ、それでいいわ。」

あっさりと決まった。

王妃様とのお話は、いつも展開が早くていいね。

「それじゃあ、報酬とする魔石の量については、シルフィとうちの魔道具製作部門の者で話し合って決めてもらいましょう。二人ともそれでいいかしら?」

「ええ、それでお願いします。」

「はい。お母様。」

「じゃあ、材料を用意する様に言ってくるわね。」

そう言って、王妃様は足早あしばやに部屋から出て行った。

本当にサクサクと決まっていくね、王妃様とのお話は。

きっと、お忙しいというのもあるのだろうね。

決して、『すぐにでもあの魔道具が欲しい』って訳ぢゃ無いよね。300個だしね。

…大丈夫だよね?

まぁ、作るのは【製作グループ】の人(?)たちだから、別にいいか。(←丸投げするクセにひどい言い方です)

「私がしっかりとナナシさんのお役に立ちますからね。(キリッ)」

俺にべったりしていたシルフィが、姿勢を正してそう言う。

やる気を出してくれている様なので、お任せする事にしよう。(←こっちも丸投げです)

「よろしくね。でも、報酬をむしり取る必要は無いからね。適正価格でお願い。」

「はい。(ニコニコ)」

ニコニコしているから、きっと大丈夫だろう。

さらに細々(こまごま)とした要望をシルフィを伝えておく。

『魔道具に使う魔晶石は魔石から作るので、魔石で貰う様に。』とか、『木材は要らない。』とかね。

軽い打ち合わせを終えて、やる気を出して部屋に戻って行くシルフィを見送った。

さて。

俺もやる気を出して、昨日の魔道具作りの続きをしよう。



俺が昨日から検討している『高所こうしょ作業用の魔道具』。

これは、空中に【ブロック】を作って階段の様に登って、それを足場として高所作業をする為の魔道具だ。

まんいちの時の安全対策として【レビテーション】も使える様に考えている。

高い場所の窓の掃除などの仕事が割と有るメイドさんたちが、安心して安全に高所作業が出来る様にと考えて、そんな魔道具を作ろうとしている。

本来の目的はメイドさんたちへの”ゴマスリ”ですが、それはわざわざ言う様な事ではありません。

魔道具を試作して実験してみたところ、魔力の消費量(=魔道具に必要な魔力量)が多過ぎて、日常的に使うのが難しい魔道具になってしまった。

最悪、【レビテーション】だけに機能を絞った魔道具にする事になってしまいそうな気がしてきたが、もう少し悪足掻わるあがきをしてみようと思う。


魔力の消費量が多過ぎる理由の一つが、想定している作業中に作る【ブロック】の数が多い事だ。

特に、高い所に登ったまま横に移動する時に作る【ブロック】の数が多かった。

そこで、横の移動は考えずに、高い所に登る事と降りる事に限定して、横の移動は床に降りて歩いてもらうことにする。

これで、魔力の消費量をかなり減らせるだろう。

そして、さらにもうひと工夫くふうする。

それは、【ブロック】で”手すり”を作る事だ。

足を置く場所に”足場”として【ブロック】を作っている。

それと同様に『手で掴む場所に”手すり”として【ブロック】を作れないだろうか?』と考えた。

きっと転落防止になるだろうから、【レビテーション】を使わなければならない状況が起きる回数を劇的に減らせるだろう。

そうしておけば、【レビテーション】の使用を最終手段とする事が出来るので、現状【レビテーション】の使用回数を2回に設定しているが、それを1回にしても大丈夫だろう。

さらに、その手すりには耐荷重の上限値を設定する。

これは、手すりにはそれ程の耐荷重性能は必要無いだろうと考えた事と、『手すりにぶら下がって、そのままゆっくりと床まで降りられないだろうか?』と考えたからだ。

手すりに、俺が思っている様な使い方が出来るのなら、魔力の消費量(=魔道具に必要な魔力量)を減らせる様な気がする。


早速さっそく、実験をしてみる。

ず、今まで足でしか使った事が無かった【ブロック】の魔法が、手でも使えるのかを確認する。

立ち上がり、【ブロック】を発動させながら、テーブルに手を突く様な動作をする。

不可視の【ブロック】が空中に作られ、テーブルの上に手を突いたかの様な感触が有った。

よし。手でも、その動作に合わせて【ブロック】が作られる様だね。

次に、手で物を掴む動作で【ブロック】が作られるのかを実験する。

【ブロック】を発動させながら、空中で手で物を掴む動作をする。

だが、手はくうるばかりで、【ブロック】を掴めなかった。

どうやら手で物を掴む様な動作では【ブロック】は作られない仕様になっている様だった。

ふむ。

試しに、手の平で空中を水平に押す様な仕草しぐさをしてみる。

そうしてみると、壁を手で押す様な感触が有った。

なるほどなるほど。

作られる【ブロック】の形状は、”立方体”か”板状”に設定されているみたいだね。

手で掴める様な”丸棒”みたいな形状で【ブロック】を作る事は出来ないみたいだ。

ならば、そういう魔法を作ればいいね。

今在る【ブロック】の魔法と少し内容が違うだけだから、簡単に作れるだろう。

ついでに、耐荷重を設定できて、耐荷重を超えたらゆっくりと動く様にしよう。

ソファーに座り、頭の中でじっくりと考える。

そして、作りたい魔法をしっかりとイメージして、新しい魔法を作る。

いつもの様に魔力がグッと減るのを感じる。

だが、その感じはすぐに無くなった。

予想していた通り、簡単に魔法が出来上がったみたいだ。

既存の魔法と大きく違わない場合は、あまり時間が掛からないのだろう。

早速さっそく、新しく作った魔法の実験をしてみよう。

立ち上がって、前に手を伸ばし、今作ったばかりの魔法を発動させる。

「【手すり】。」

………………。

自分のネーミングセンスの無さに、少なくないダメージを受けた。

足から力が抜けて、無意識に伸ばした手で何かをつかむ様な動きをしたら、何かをつかむ感触が有った。

………………。

がっくりした気分のまま、喜んでいいのかよく分からない微妙な気分を味わいました。


気を取り直してっ。

次は、【手すり】が耐荷重を超えた時に、ゆっくりと動いてくれるのかどうかの確認だ。

この確認は、ジャンプしてうえがり切ったところでグッと【手すり】をつかんで、その状態でどのくらいの速さで床に降りるのかを確認すればいいだろう。

簡単だね。

さて。

ジャンプをするのだが、STR(Strength)の値がかなり上がっているので、想像以上にジャンプしてしまうかもしれない。

気を付けないといけないよね。

あまり、人外じんがいな動きを見せて、メイドさんたちに引かれるといけないからね。

………………。

『色々やらかしているので、今更いまさらだ。』なんて考えていませんよ?(←誰に言ってるんだろうね?)

さて、やるか。

手加減をしながらジャンプする。

手加減をしたが、1m近くジャンプしてしまったみたいだ。

『飛び過ぎたっ。』と思ってしまったが、今は実験に集中しよう。

がり切ったあたりで、手でグッと何かを掴む動作をする。

その動作によって、空中に作られた【手すり】を掴めた。

そのまま【手すり】にぶら下がる。

すると、そこそこゆっくりとした速さで床まで降りられた。

いい感じだね。

想像していたよりも良い結果だった。

次は、より高い場所から降りた場合の確認をしよう。

きっと、徐々に速度が上がっていってしまうだろうからね。

確認しておかないといけないよね。

階段を登る様に【ブロック】を登り、天井の近くまで上がった。

立っている場所の斜め上の空中を手で掴む様にして【手すり】に掴まり、【ブロック】から両足を離して【手すり】にぶら下がる。

そこそこゆっくりな速さで床まで降りられた。

ふむ。

途中から速くなる事も、遅くなる事もなかった。

常に一定の速度だった気がする。

どういう仕組みなのかは分からないが、速くならないならこれでいいな。

もう一度同じ事をして動きを確認してから、魔力消費量の測定に移ることにした。


昨日作った、指輪型の魔道具の試作品を【無限収納】から取り出し、【手すり】を使える様に修正を加える。

指輪を指に嵌め、グラフを空中に表示するブレスレット型の魔道具を腕に嵌める。

『さぁ、実験だ。』と思ったが、魔晶石に魔力を充填し直しておかないとね。

指輪型の魔道具は、ブレスレット型の魔道具の魔力を使う様に設定してあるので、ブレスレットに取り付けられた魔晶石に魔力を充填する。

『うにゅにゅ。』とか変な声を出してしまわない様に気を付けよう。

魔晶石に意識を集中し、魔力を充填する。

「ぐ…、………にゅ。」

………………。

ちょっとだけ変な声が出てしまいましたが、ケイトが笑いをこらえられているのでセーフと言って良いと思います。


さぁ、【手すり】の魔力消費量を測定しよう。

グラフを空中に表示して、天井近くまで【ブロック】を登り、その場で【手すり】を作って、押したり引いたりしてみる。

【手すり】を作った時に魔力を消費するが、押したり引いたりするくらいでは、まったく魔力を消費していない様だ。

次に、【手すり】に掴まった状態で床まで降りた時の魔力消費量を測定する。

さっきやったのと同様に、立っている場所の斜め上の空中を手で掴む様にして【手すり】に掴まり、【ブロック】から両足を離して【手すり】にぶら下がる。

そこそこゆっくりな速さで床まで降りられた。

グラフから【手すり】の魔力消費量を読み取る。

【手すり】を作る時の魔力消費量は”2.5”くらいだ。

【ブロック】の上を歩く時と同じ魔力消費量だね。

【手すり】に掴まって床まで降りた時の魔力消費量を読み取る。

意外な事に、【手すり】を作った時に魔力を消費しただけで、その後は魔力を消費していなかった。

空中に頑張ってとどまろうとしない事が、魔力を消費しない理由かな?

そんな気がするな。

魔力消費量がこんなに少ないとは思わなかった。

魔力消費量が少ないのは助かるね。

企画倒きかくだおれ”になりそうだった『高所こうしょ作業用の魔道具』だが、実現の目が出てきたんぢゃないかな?


改めて魔道具に必要な魔力量を計算しよう。

ず、どういう動作をさせるかを改めて考える。

登る高さは最高で4mくらいで、その高さまで【ブロック】を階段状に作ることになる。

段差が20cmとすると、作る【ブロック】の数は20個で、のぼりとくだりでそれぞれ【ブロック】を20個作る必要が有る。と。

【クリーン】を20回使える様にする。

高い場所で作業している時に体を安定させる為に【手すり】に掴まるとして、【手すり】を作る回数を【クリーン】と同じ回数としたら20回だね。

そして、【レビテーション】を1回使える様にしておく。


次に、それぞれに必要な魔力量を出して、すべて足す。

【ブロック】を作るのに必要な魔力量は、(3x20)+(3.5x20)=130になるね。

横の移動を無くしたから、のぼりとくだりのぶんだけだ。

【クリーン】に必要な魔力量は、2x20=40だったね。

【手すり】に必要な魔力量は、2.5x20=50。

誤って高い場所から転落してしまっても、【手すり】に掴まったままでいれば、そのまま床まで安全に降りられて、かつ、その分の魔力消費量の増加は無い。

【手すり】から手を放してしまった際の安全対策として、【レビテーション】を1回使える分の魔力を確保しておく。

【レビテーション】1回分の魔力量は、30だ。


全部足して、『高所作業用の魔道具』に必要な魔力量は”250”になった。

昨日よりかなり少なくなったが、まだまだ多いね。もっと減らしたいね。

もう一度、頭の中で作業している様子を思い浮かべ、魔力消費量を減らせないか考える。

………あれ?

高い場所での横の移動に必要な魔力量が多かったので横の移動を無くしたのだが、そうしてしまうと、そのぶんのぼりをする回数が増えるよね。

そうしたら、前よりも魔力消費量が増えてしまわないかな?

あれれ?

増えるね。

増えるよ。

………………。

………………ふっ。

企画倒きかくだおれ”どころか、企画自体が迷走している気がします。

もう、無理っぽいね。

実用的な物になってくれそうな気がしないや。

やめよう。

諦めよう。

もう、【レビテーション】だけでいいや。

そうしよう。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ。」

ここまでの自分のグダグダっぷりに、とても長い溜息が出た。


紆余曲折うよきょくせつすえ、【レビテーション】の魔道具を作る事にしました。

メイドさんが高所作業中に誤って転落してしまっても、ゆっくりと床まで安全に降りられる様にする魔道具です。

この魔道具を身に着けておく事で、メイドさんたちが安心して高所作業を行う事が出来るでしょう。

ついでに、私の好感度が上がる事も期待しています。(←むしろこちらの方がメインです)

【多重思考さん】が用意してくれた5個の魔晶石に魔法を書き込み、魔力を充填しました。

その魔晶石を【無限収納】に仕舞い、『指輪にするには魔晶石が少し大きいので、ネックレス型の魔道具にしましょう。』とか【多重思考さん】が言っているのをぼんやりと聞きます。

ネックレスにする作業は【製作グループ】にお任せして、俺は体をソファーに沈めます。

どんよりとした疲れが体にかります。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁ。」

とても長い溜息ためいきが出ました。



お茶の時間です。

シルフィから、朝一あさいちのお話の続きを聞いた。

王妃様から頼まれた、毛穴の汚れを取り除く魔道具を作るお話だ。

材料と報酬として受け取る予定の魔石が一度にすべて揃いそうにないので、三回くらいに分けて引き渡されることになるのだそうだ。

午前中に、最初の一回の材料の引き渡しがあるとのこと。

何処かに行って受け取る必要があるのかと思ったが、【マジックバッグ】に入れた状態で部屋まで持って来てくれるとのことだった。

それなら、楽で助かるね。

『配慮をしてくれて部屋まで持って来てくれるかな?』と思ったのだが、きっと『渡す方もその方が楽だから』という理由だね。

…もちろん知ってマシタヨ?(←誰に言ってるんだろうね?)

シルフィが『お役に立ちましたっ。なでなでしてくださいっ。』ってオーラを出しまくっていたので、沢山たくさんなでなでしてあげました。


上機嫌なシルフィが部屋に戻るのを見送り、ソファーに沈んでダラダラグズグズしました。

その後、部屋で毛穴の汚れを取る魔道具を作る為の材料を受け取りました。

受け取った材料を【無限収納】に移し、魔道具作りを【製作グループ】にお願いしました。

もちろん丸投げです。

ソファーに沈んでダラダラグズグズしました。



ソファーに沈んでダラダラグズグズしていたら、頭の中で『魔道具が完成しました。』と言う声がした。

ソファーに沈んだ体と気分を浮上させて、完成した魔道具を【無限収納】から取り出して見てみる。

球状の魔晶石に金具を付けて、首に掛ける為の革紐が付けられただけのシンプルな物だ。

ふと、『ミスリルのネックレスチェーンを使えば、使用者の体から魔力を貰える様にすることが出来たな。』ということを思い出した。

だが、『ミスリルのネックレスチェーンは持っていませんので。』と頭の中で【多重思考さん】に言われた。

そうか…。余計に買っておけばよかったね。

外に買い物に行く時に、ミスリルのネックレスチェーンも買っておくことにしよう。


【製作グループ】が作ってくれた5個のネックレス型の魔道具をチェックした。

普通の出来できなのは、シルフィの為に作ったネックレス型の魔道具と差別化する為なのだろうね。

それと、(俺がすっかり忘れていた)魔力充填台も一緒に作ってくれていたので、頭の中で礼を言いながら、これのチェックもした。

よし。

【レビテーション】の魔道具。完成です。


ニーナを呼んで、完成した【レビテーション】の魔道具と魔力充填台を見せて、使い方を説明して渡した。

魔道具を持って部屋を出ていくニーナを見送り、俺はソファーに座る。

「ふぅ。」

迷走した今回の魔道具作りだったが、何とかカタチになったので、ホッとして溜息ためいきが出た。



昼食後。

また俺は、ソファーでダラダラグズグズしてます。

午前中に、昨日から作っていた魔道具を完成させる事が出来たのだが、当初の目論見もくろみとは大分だいぶ違うモノになってしまったので。

作ろうと検討していた魔道具が、魔力の消費量が多過ぎて、結局モノにならなかったので。

実験結果を見易みやすくする魔道具まで作って、色々な実験もしたのにね…。

「はぁぁぁ。」

何度目かの溜息ためいきが出た。


「ナナシ様、少しお時間をいただいてもよろしいでしょうか?」

ソファーでダラダラグズグズしていたら、ニーナにそう声を掛けられた。

俺の正面のソファーに座ったニーナに、「いいよぉ。」と、力の抜けた声で返事をする。

「作ろうとしていた魔道具が作れなかった為に落ち込んでいらっしゃる様にお見受けいたしましたが、どの様な魔道具を作るおつもりだったのでしょうか?」

ぐぅ。

そこまで正確に分かるのか…。

ニーナ、恐ろしい!(2日ぶり、4回目)

俺はニーナに、作ろうとしていた『高所作業用の魔道具』の事を説明をした。

色々な実験をしたりしたから、このまま”お蔵入くらいり”させたくなかったのかもしれない。

俺の説明を最後まで大人しく聞いたニーナは、「面白そうな魔道具ですねぇ。」と言った。

評価してもらえるのは嬉しいのだが、『面白そう』という評価はあまり嬉しくないかな。(苦笑)

『面白そう』とか言われると、メイドさんたちがどんな使い方をし始めるのか不安になるからね。

立体機動をするメイドさんなど、存在しなくていいのです。

変な幻視げんしを脳裏に見ている俺に、ニーナが続ける。

「あまり高い所にまで行かない仕事には需要が有るかもしれませんね。図書室の人とか、ちょっと高い場所にある本を取りたい時なんかには、凄く重宝するのではないですか?」

ふむ。

考えを現実に引き戻し、高い場所にある本を、【ブロック】の上に登って手に取っているメイドさんの姿を思い浮かべる。

「使うのは現場に居るメイドなのですから、評価は現場のメイドにしてもらうのが良いのではないでしょうか?」

うーん。

言っている事は正しい気がするなぁ。

「ぜひ、試作品を試させてください。」

うーん。

このまま”お蔵入くらいり”させたくない気持ちも有るのだが、どうにも不安なんだよなー。

懸念している事をぼんやりとニーナに伝えたら、その対策方法とかのお話になり、『ぜひ、魔力を装着者から供給できる様にしましょう。』とか言われたり、『【フライ】も追加しましょう。』とか言われたり、『【手すり】の耐荷重の制限を取り除きましょう。』とか何とか、色々な事を言われたりした結果…。

俺が検討してた魔道具の『超フルスペック版』とでも言うべき魔道具が二つ出来上がっていた。

その魔道具はミスリル製のブレスレットで、大きめの魔晶石が4つも付けられている。

それを見て、俺は思う。

『どうしてこうなった?(呆然)』

呆然とする俺を放置して、ニーナはその魔道具を持って部屋を出て行こうとする。

そして行き掛けに「魔力充填台もお願いしますね。」と言うニーナに、俺は「お、おう。」としか言えませんでした。

どうしてこうなった?!

ニーナ、恐ろしい

俺は、追加注文が無い事を祈っておこうと思います。

立体機動をするメイド部隊など、この世界には要らないのです。



夕方。

シルフィから、メイド長からの魔道具の製作依頼書を手渡された。

凄く嫌な予感がしたのだが、書かれている仕様を見ると、俺が検討していた『高所作業用の魔道具』からかなり機能を制限した指輪型の魔道具の様だった。

機能が中途半端な気がしたので、何に使いたいのかいまいち分からなかったが、『超フルスペック版』の製作依頼でなかった事を喜ぼう。

立体機動をするメイド部隊など、この世界には要らないのです。

依頼を了承した事を伝えてもらうのと、報酬の交渉を(また)シルフィにお願いして、俺は頭の中で魔道具の魔晶石に書き込む内容を考え始めるのだった。



後日。

メイド長から、「高い所に登って降りられなくなったネコを助けてあげるのに、すごく役に立ちました。」と、先日依頼されて作った魔道具についてのお礼を言われた。

それと、「毎朝ベッドから起き上がるのに、【手すり】がものすごく助かります。」なんてことも言われた。

一度は”お蔵入くらいり”になった魔道具だったのだが、機能を抑える事で役に立つ魔道具になったので、俺は嬉しく思った。

嬉しかったので、その場でされた追加注文を喜んで引き受けた。

色々な交渉は、もちろんシルフィに丸投げしましたが。(←おい)


一方、『超フルスペック版』のほうはと言うと…。

王都の外の荒野でアクロバティックな戦闘訓練をしているメイドさんが居たという報告を【多重思考さん】から受けている。

しかし、追加注文が無いところをみると、やはり魔力消費量が多くて魔力の充填に困っているのだろう。

立体機動をするメイド部隊が存在する世界線にならなくてよかったです。(小並感こなみかん


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