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姫様を助けたのは失敗だったが、割と好き勝手に生きています。  作者: 井田六
第十二章 異世界生活編07 新・新生活編
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< 17 外伝 【制作グループ】のあれこれ それと、二本目の杖 >


隠れ家に来て、お風呂に入っています。


「あー。お風呂はいいねー。(だらぁー)」

思わず、そんなダラけた声が出ます。


お風呂を堪能たんのうしていたら、頭の中で【多重思考さん(多重思考された人(?)たちのリーダー)】に訊かれた。

『便器を作りたいのですが、いいでしょうか?』

「へ? 便器ぃ?」

ダラけた頭で『便器を作りたい』とか言われた理由を考えたのだが、その理由が分からなかった。

理由が分からず、『なんでだろう?』と思っていたら、【多重思考さん】が理由を教えてくれた。

『この隠れ家の南側の建物にもトイレが有った方が良いと思いましたので。』

あー、そうかー。

南側の建物の居間に畳(っぽい何か)を敷いたからねー。

これからは、そちらの居間に居る時間が長くなるだろうから、今在るトイレでは少し遠いよねー。

「トイレを作るのはいいけど、何処どこに作るのー? トイレを作る場所なんて無かったよねー?」

『増設した縁側えんがわの突き当たりに作ります。』

あー、なるほどー。

縁側えんがわの突き当たりにトイレが有る建物って、昔の建物によくあったよねー。

田舎の家を懐かしく思い出して、『いいんぢゃないかなぁー。』とか、ぼんやりと思う。

俺は、便器を作る許可を出しつつ、許可を求めてきた理由を【多重思考さん】に訊く。

「便器を作る許可を取ったのは、魔力を沢山たくさん使うからかなぁー?」

『そうです。』

ふーん。

ダンジョンを攻略する時は許可を取らなかったのに、便器を作る時は許可を取るのかぁ…。

何か釈然しゃくぜんとしないものを感じるね。

そんな俺に【多重思考さん】が説明してくれる。

『ダンジョンを攻略するよりも、便器を作る方が魔力を沢山たくさん使いますので。』

「……………。」

何だか、俺の中でダンジョンの価値が下がった様な気がしますが、俺の気の所為せいでしょう。

『ダンジョン << 越えられない壁 << 便器』なんておかしいからねー。…おかしいよね?

「ハハハハハ…。」

無意識に乾いた笑いが出てしまいましたが、深くは考えません。

「アー。お風呂はイイネー。(だらぁー)」


お風呂から上がり、居間のソファーに座ってくつろぐ。

【製作グループ(多重思考された人(?)たちのうちの、物品製作をしているグループ)】の活動が活発になってきたみたいだね。

さっきの便器の件といい、毛穴の汚れを取り除く魔道具を作ってくれた件といいね。

花畑はなばたけを作る作業が終わったのかな?

その疑問を頭の中に浮かべたら、【多重思考さん】が答えてくれた。

『はい。花畑作りもハチの巣箱作りも終わりました。』

そうかー、花畑は出来たのかー。

『見に行きましょう。』

「行かないよ。(キッパリ)」

俺は即断した。(てへ)

環境破壊の現場なんて見たくはないからね。

【称号】に【森の破壊者】なんて書かれてしまう様な環境破壊なんて、誰だって見たくなんかないよねっ。

俺は花畑を見に行くつもりはありません。(キッパリ)


【製作グループ】の活動の事を考えていたら、以前、この場所で見せてもらった包丁ほうちょうなんかの事を思い出した。

そして、思い出す。

「前に日本刀を作るのをお願いしていなかったっけ?」

『あと10日以内には出来上がると思います。途中で色々とありましたので。』

「ん? 色々って?」

『製作途中でミスリルゴーレムを倒してミスリルが大量に手に入ったので、それから色々と…。』

「ああ、ダンジョンで倒したヤツだね。…俺が知らない間に。」

『…そうです。ミスリルが大量に手に入ったので、これを使う方向に方針を転換しました。』

『日本刀に最適な合金ごうきんの試作を繰り返している内に、ミスリルの合金に適した砥石といしが無い事に気が付き、砥石を探す為に人(?)を派遣する事になり、さらに遅れが出ました。』

『試行錯誤の結果、『ミスリルの合金は日本刀には合わない』という結論になって振り出しに戻ったのですが、日本刀作りの中心人(?)物が離脱してしまいました。ミスリルが気に入ってしまった様で。』

『新たに集めた砥石の評価方法の検討でさらに製作が遅れたりした挙句あげく、さらに花畑作りに手を取られて、日本刀作りは完全に止まりました。』

『花畑作りが終わったので、今日から日本刀の製作を再開し始めたところです。』

『ちなみに、ミスリルが気に入ってしまった人(?)は、こたつの天板てんばんを作った人(?)です。今では立派なカンナ職人です。』

ああ。あの人(?)か。

こたつの天板てんばん出来映できばえをめたら、目の前にドヤ顔が思い浮かびそうなウザい態度だったね。(苦笑)

しかし、日本刀の製作は、想像以上の紆余曲折うよきょくせつがあったんだね。

俺が色々な事をお願いしていたのも悪いんだけど、途中の、(俺が知らない間に)ダンジョンでミスリルを手に入れたくだりのこともあるから、俺の所為せいだけぢゃないという気もして、何とも言えない気分になるね。(苦笑)

まぁ、終わった事はドウデモイイヤー。(遠い目)


ソファーで遠い目をしていたら、買って欲しい物を色々と頼まれた。

花畑作りを終えた【製作グループ】の人(?)たちが活動的過ぎて、ちょっと引きます。(苦笑)

トイレを作るのに必要な蝶番ちょうつがいとドアノブは、ニーナにお願いすればいいだろう。

改造するつもりでいた馬車は、どうしようかな?

今、俺の持ち物になっている公爵家の持ち物だった馬車は、豪華過ぎるので、あれにいきなり手を加えるのには抵抗が有るからね。

魔改造の実験用に、一台買ってしまおうかな?

そうだね、それが良いよね。

その方が思いっきり魔改造できるしね。(ニッコリ)

次回、お出掛けする時に買ってしまおう。

他にも何か『次回お出掛けする時に買おう』とか思っていた物が有った様な気がするな。何だったっけ?

『こたつ布団と座布団です。』

そうそう。こたつ布団と座布団を買わないといけなかったね。

これらが無いと、こたつが完成しないからね。

急ぐ必要は無いけど、忘れない様にしないとね。

『こたつが完成しない』と言えば、こたつの熱源がまだ決まっていなかったね。

こたつの熱源の検討は、気が向いた時にでもやろう。

前回の失敗がアレすぎたので、すぐに取り掛かる気になれません。

ぼちぼちやろう。(苦笑)

それと、王宮の部屋にもこたつを置きたいね。

そうなると、畳をまた作らないといけないな。

で、そうなると、畳表たたみおもてに使う革を、また買いに行かないといけなくなる。と。

それと、ニスも買わないといけなかったね。こたつのテーブルと天板てんばん用にね。

ニスを買うのもニーナに頼めばいいな。

…意外と買いたい物が沢山たくさん有ったね。

ニーナに頼めば済む物を、さっさと頼んでしまおう。

そう思い、手早く帰り支度をして、俺は王宮の部屋に【転移】で帰った。



王宮の部屋に帰り、早速さっそく、ニーナに買い物を頼んだ。

買い物を頼んだら、取り敢えずやる事が無くなったので、ソファーに座ってくつろぐ。

ソファーでダラァーっとしながら、『魔改造の実験用に買う馬車はどんなのがいいのかなぁ。』なんてことを考えていたら、頭の中で【多重思考さん】に言われた。

『【製作グループ】が、新しいつえを作りました。』

『ん? そうなの?』

返事とも言えない様な返事を返し、【無限収納】から空中に出されたソレを見る。

うにょ、うにょ、うにょ、うにょ、うにょ

…宙に浮く杖は、うにょうにょしていた。

まるで猫が尻尾を振っているかの様に、左右にうにょうにょと。

………………。

『…何で、うにょうにょしてるのかな?』

『杖の本体に動きが無いのが不満でしたので。(ドヤァ)』

『いやいやいやいや、杖の本体に”動き”は要らないからね? 要らないよねっ?』

『『杖を持つのがめんどくさい』とか言って、杖を宙に浮かせている人には、言われたくはありません。』

ぐぬぬん。

反論はんろんにくい事を言いやがる。

ぐぬぬん。


宙に浮いて、うにょうにょしている杖を見る。

杖の表面にはカットが沢山たくさんはいっている。ダイヤモンドにほどこす様なカットだ。

俺の作った、綺麗な水晶の様な見た目の杖とは対照的だが、こちらの杖もキラキラしていて綺麗だね。

綺麗さに感心していたら、頭の中で【多重思考さん】が説明してくれた。

『表面をカットする事を考えた時、カットする表面積が大きい方が、よりキラキラするだろうと考えました。』

『よりキラキラさせる為に、1cm角ほどの大きさのガラスを沢山たくさん作って、それをつなげて杖の形にすることを思い付きました。』

『元々ゴーレムのプログラムを使っていましたので、小さいガラスを繋げて杖の形にするのに手間は掛かりませんでした。』

『せっかくなので、うにょうにょさせました。』

『最後のは要らないよねっ? 最後のは要らないよね?!』

俺が頭の中でそうツッコんでいたら、宙に浮いている杖が”?”の形になった。

よく見ると、”?”の縦棒と点の間は闇魔法で少し黒くしている様で、離れている様に見える工夫がされていた。

無駄に芸が細かいな!

『こうして、感情を視覚化することも出来ます。』

『無駄だな。(キッパリ)』

でも、面白いからいいかー。(←いいのか?)

綺麗な杖だったので、俺は、この二本目の杖も気に入った。

宙に浮いてうにょうにょしている杖を見ると、ますます『杖とは何か?』とか考えてしまいますが、もうどうでもいいです。(←諦めんなよ)



食後のお茶の時間です。

ソファーに座る俺の隣には、シルフィが座っています。

もちろん俺にべったりしていますが、視線は前方やや上を向いています。

シルフィのその視線の先には、杖が浮いています。

二本目のキラキラしているやつです。

ソイツは、宙に浮いてうにょうにょしています。

「………………。」

「………………。」

シルフィは、宙に浮いてうにょうにょしているソイツをじーーっと見てから、俺に訊いた。

「…これって、…何ですか?」

つえ。」

シルフィは、俺の答えに少し戸惑った様な表情をした。

意外だったのかな?

どう見ても杖だよね。(←その考えはおかしい)

シルフィは、俺の答えに納得するでもなく、疑問をぶつけるでもなく、視線を戻して宙に浮いてうにょうにょしているソイツを、じーーっと見ている。

「………………。」

「………………?」

シルフィは、俺の方を向いて「杖って………。」と言って、また黙ってしまう。

「………………。」

「………………?」

何だか、シルフィが静かです。(苦笑)

「………………。はぁ。」

シルフィは、しばらく無言でソイツで見詰めた後、俺の体に寄り掛かって溜息ためいききました。

何かをあきらめたご様子です。(苦笑)


どうやら、俺が杖を作るとシルフィが静かになる様です。

フシギダネー。(苦笑)


俺は、静かなお茶の時間を楽しみました。


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