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姫様を助けたのは失敗だったが、割と好き勝手に生きています。  作者: 井田六
第十二章 異世界生活編07 新・新生活編
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< 11 新・王宮での生活10 ナナシ、杖を作る02 >


つえの本体が出来上がった。

次は、魔晶石に書き込む魔法を考えよう。


後片付あとかたづけをして、ソファーに座り、魔晶石に書き込む魔法を考える。

杖は、俺の近くを浮かせておこうと思っているのでね。

それを魔法で実現させる方法を考える。


杖にさせる動作は、『浮いて』、『俺から一定の距離をたもち』、『俺の動きに合わせて移動して』、『障害物を避ける』、くらいかな?

【フライ】で浮かせるのはいいとして、一定の距離を保ち続けるのは、どうしたらいいのかな?

うーーん。

何も良い方法が思い浮かばないな。

うーーん。

考えていたら、誰かが俺の膝の上に座って抱き着いてきた。

俺に抱き着く誰かの頭をなでなでする。

うーーん。

俺に抱き着く誰かの頭をなでなでしながら考える。

うーーん。

分からん。

分からない部分は後回あとまわしにしよう。


あとは、『障害物を避ける』か。

そう言えば、『障害物を避ける』って、最近そんな事を考えたな。

何だったっけ?

ネコ型ゴーレムか。

ネコ型ゴーレムで、『障害物を避ける』ってプログラムを組み込んだね。

…なるほど。”ゴーレム”か…。

ゴーレムのプログラムを使えば良さそうな気がするね。

そうすれば、杖に自律行動をさせられるね。

ゼロから考えるよりは、ずっと簡単そうだ。

歩かせる訳でもないしね。

ネコ型ゴーレムでは、歩かせるのに苦労シタカラナー。(遠い目)


大まかな方針が決まったので、俺は、ニーナが淹れてくれたお茶を飲もうとした。

そこで、シルフィが俺にべったりと抱き着いている事に気が付いた。

そういえば、さっきからなでなでしていたね。

考え事に集中していたので、気が付かなかったわ。

俺は、まじめにシルフィの頭をなでなでした。


迎えに来たメイドさんにシルフィがドナドナされて行くのを見送り、俺は、杖に組み込むゴーレムのプログラムを考える。

【フライ】で浮いて、【魔力検知】で持ち主を認識し、持ち主が動いたらそれに合わせて移動する。

持ち主と一定の距離をたもつのも、【魔力検知】で出来るだろう。大まかな距離は判別できたはずだから。

それと、障害物をける様にもさせる。

ON/OFFのプログラムも追加するが、OFFにしても【フライ】はOFFにせずに浮いた状態を維持する。

【フライ】もOFFにしたい時は、「フライOFF。」のワードでOFFにする。

こんな感じかな。

もう一度、頭の中でおさらいしながらゴーレムのプログラムを組み立てて、杖の魔晶石に書き込んだ。


よし、起動してみよう。

ソファーから立ち上がって、杖を持った手を前に伸ばす。

起動しようとして、ちょっと考える。

起動した時に手で持っていたら、『障害物を避けるプログラム』は、どういった働きをするのだろうか?

すごい勢いで、どこかに吹き飛んだりしないかな?

………。

るな。(冷や汗)

『障害物を避けるプログラム』の微調整をしよう。

そうしないと、怖くて室内で起動させられないよね。

再びソファーに座り、『障害物を避けるプログラム』にほどこす、微調整の内容を考える。

障害物を避ける時の”速度”か”力”に上限を設定すれば良いのかな?

それなら危険は無いだろう。

でも、それだと、杖をつかまれてられそうだな。

その時は、【転移】魔法で逃がすか?

【転移】魔法で逃がそうとすると、その場合の転移先の設定をどの様にしたらいいのかな?

安全地帯に転移させるのが、一番安全で確実だが、そうすると転移先は隠れ家になるね。

そして、【転移】魔法で逃がした杖は、隠れ家に常駐している【目玉】を使って、【無限収納】経由で受け取ると。

………………。

もっと…、こう…、他にも何か、やり様が有りそうだよね?

考える。考える。

結界を張って、掴まれない様にするか。

【侵入不可】の結界を張れば、掴まれない様に出来るだろう。

それと、杖のプログラムを起動させる時に、杖の表面から徐々に【侵入不可】の結界を広げていけば、杖を持っている手をやんわりと開いていくことになるだろう。

『障害物を避けるプログラム』を起動させる前に【侵入不可】の結界を張れば、起動した時に杖が手から吹き飛ぶなんて事は起きないだろう。

よし。これでいこう。


改めて、ゴーレムのプログラムを見直す。

【フライ】で浮いて、【魔力検知】で持ち主を認識しつつ、持ち主の動きに合わせて一定の距離をたもつ。

【侵入不可】の結界を張って、掴もうとする者から一定の距離を保つ。

誰かに掴まれそうになっても、【侵入不可】の結界の反発力により自然と離れていくだろう。浮いているからね。

結界が有れば、『障害物を避けるプログラム』は要らなくなるのかな?

要らなくなるな。削除しよう。


起動させた時の動作を考えよう。

「起動。」のワードで起動させると、ず【フライ】が発動する。

次に【侵入不可】の結界を発動させる。

【侵入不可】の結界は、最初、杖の表面に沿う様に張って、徐々に広げていき、最終的には直径30cmほどの円筒形で結界を張ろう。

こうすれば、杖を持った手からやんわりと離れてくれるだろう。

次に、【魔力検知】で持ち主を認識しつつ一定の距離をたもつ。

うん。これでいいだろう。


停止する時の動作は、「停止。」のワードで、【フライ】以外のプログラム停止させる。

【フライ】だけは停止させずに浮いたままの状態を維持させて、【フライ】も停止させたい時は、「フライOFF。」のワードで【フライ】を停止させる。

こうだな。

頭の中でゴーレムのプログラムを修正して、杖の魔晶石に書き込まれているプログラムを書き換えた。


よし、起動してみよう。

ソファーから立ち上がって、杖を持った手を前に伸ばす。

「起動。」と言って、杖を起動させた。

杖の重さが無くなり、杖を持つ手が押し広げられる感触が有る。

その力にあらがわずに、手を開いていく。

杖は俺の手から離れ、少し離れた場所で浮いている。

よし。上手うまくいった。

手を杖に近付けてみる。

結界に触れた、いや、結界を押した感触が有り、杖は手に押されて動いた。

さらに結界を押してみる。

宙に浮いている杖は、俺から一定の距離を保ちながら、押されるままに、まるで衛星の様に俺のまわりを移動した。

【侵入不可】の結界と、『持ち主から一定の距離を保つ』のは、思っていた通りに働いているな。

この確認をしている今の俺の姿が、まわりのメイドさんたちからどの様に見えているのかは考えません。

心にダメージが来るので。


部屋の中を歩いてみる。

杖は浮いたまま、俺のあとを付いて来る。

立ち止まって後ろを振り返ると、杖は俺の後ろで浮いていた。

これは、ちょっと…。

何かのRPGゲームの、プレイヤーキャラクターの後を付いて歩く仲間みたいだね。(苦笑)

杖を浮かせておく”定位置”を決めようかな?

定位置は、体の斜め後ろとか、斜め前とかかな?

でも、その位置ってどうやって判断するんだろう?

”体の正面”なんて、【魔力検知】では判別できないよね?

何か”体の正面”を判別する方法って有るかな?

うーーん。

悩んでいたら、頭の中で【多重思考さん】が教えてくれた。

『ゴーレムには””に相当する器官きかんが在ります。目視もくしで持ち主の”体の正面”を判別する事は可能だと思います。』

ああ、そうか。ゴーレムには目が在るよね。

畑仕事をしたり、木を切ったり、枝を落としたりしてたもんね。

そうか。この杖はゴーレムだから目が在るのか…。

宙に浮く杖をジッと見る。

この杖の何処どこに目が在るのか、さっぱり分からないんですがっ。

『目が在る杖って何だよっ。』って気もしますが、色々と今更いまさらな気がするので、もうどうでもいいです。(←自分の脱線っぷりに自分でも付いて行けなくなっている模様)


杖を定位置に浮かべておく方法が見付かったので、プログラムの修正をしよう。

「停止。」と言って、プログラムを停止させる。

ちゃんと【フライ】は働いている様で、杖はその場で浮いている。

杖を掴み、「フライOFF。」のワードで【フライ】も停止させて、杖を完全に停止させた。

ソファーに座り、プログラムの修正に取り掛かる。

ゴーレムのプログラムの『目』の項目について調べる。

デフォルトは、『体の正面に目を二つ配置する』と『二つの目を連携させて距離を測る』になっている様だ。

ふむ。

”目”の使つかみちは、”体の正面”を判別する事だ。

だが、それ以外にも、デフォルト状態のままで、目視もくしで持ち主との距離を測る事も出来そうだね。

【魔力検知】よりも目視の方が、より正確に距離が測れるだろう。

一対いっついの目が在れば、それで用は足りるけど…。

目の数を増やして、全周ぜんしゅうを見れる様にする必要って無いよな? 有るかな?

全周を見たところで、杖に何をさせる?

誰かが近付いて来た事を知らせる?

【多重思考さん】たちが【目玉】を使って監視しているから、必要無いよね。

【シールド】を張ったりするのも【多重思考さん】たちがしてくれるしね。

杖は、ただ浮いてればいいかな?

そうだね。

杖は、ただ浮いてればいいね。

うん。目は一対いっつい在れば、それで足りるね。


改めて、ゴーレムのプログラムを見直す。

【フライ】で浮いて、【魔力検知】で持ち主を認識する。

目視で、持ち主から一定の距離をたもつ。

杖を浮かせておく定位置は、取り敢えず体の右斜め前にしておいて、目視で体の正面を判別して、持ち主が動いても体の右斜め前の位置に居続ける様にする。

【侵入不可】の結界を張って、掴もうとする者の手から一定の距離を保つ。

こうだね。

頭の中でゴーレムのプログラムを修正して、杖の魔晶石に書き込まれているプログラムを書き換えた。


よし、確認だ。

ソファーから立ち上がって、杖を持った手を前に伸ばす。

「起動。」と言って、杖を起動させる。

杖は、俺の右斜め前に移動し、その場で浮いている。

部屋の中を歩く。

杖は、俺が動くのに合わせて移動して、俺の右斜め前の位置を維持し続けている。

体の向きを変えても、それに対応して移動してくれる。

おお、すごい。

さらに部屋の中を歩いてみる。

杖は、俺の右斜め前の位置を維持し続けている。

上手くいってるね。

よし。動作はバッチリだ。

やったね。


これで! 俺の杖! 完成! です!



昼食後のお茶の時間。

俺の隣に座って、べったりしているシルフィが訊いてくる。

「それって何ですか?」

シルフィがジッと見ている視線の先には、俺の右斜め前でふよふよと浮いている杖が在る。

つえ。」

俺はそう答えた。

だって杖だし。

「………………。」

「………………?」

「杖って…、浮く物でしたっけ?」

「浮いててもいいんぢゃない。」

「………………。」

「………………?」

「杖の定義ていぎって…、何でしたっけ?」

俺は少し考えてから、シルフィの疑問に答える。

「えーっと。手に持って、歩行を補助する為に地面を突く、ぼう状の物?」

シルフィにそう言ってから、ふよふよと浮いている杖を見る。

棒状ではあるね。棒状では。

「………………。」

「………………。」

シルフィの疑問の一つを解消しようと、俺は手を伸ばして杖を掴もうとする。

しかし杖は、俺の手をスイッとけた。

【侵入不可】の結界が在るから、そうなるよね。

うっかりして、自分の思い描いていた状況にならなかったので、手を伸ばした状態のまま固まってしまった。

「………………。」

「………………。」

シルフィは、固まったままの俺の顔をのぞむようにしながら、首をかしげて言う。

「…杖?」

「………………。」

俺は、何て答えたらいいのかな?

意外と難問だった。

おもいのほか難問過ぎたので、ふよふよと浮く杖を停止させて、掴んで、【無限収納】に放り込んだ。

杖が視界から消えれば、杖の定義に疑問を持つ必要も無いよね!(←おい。)

「はぁ。」

シルフィの溜息ためいきが聞こえた。

シルフィに呆れた様な表情で溜息ためいきかれてしまったが、気になる物が目の前から消えたのだから、気にする必要も無いと俺は思います。(←とんでもない暴論)


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