< 06 新・王宮での生活05 ナナシ、こたつで失敗する >
今朝は、久しぶりに王都で買い物をした。
買いたい物を買えた事は良かったのだが、メイドさんたちに着せ替えをされたのには困った。
精神的に疲れてしまって。
アレは何とかならないのだろうか?
帰って来てからの、再びの着せ替えから解放された俺は、ソファーでグッタリした。
シルフィが部屋にやって来た。
お茶の時間なのだろう。
俺にべったりするシルフィをなでなでしながら、お茶をした。
シルフィをなでなですることで、少し疲れが癒えた気がした。
お茶の時間が終わり、シルフィがドナドナされて行くのを見送った。
うーーむ。
毎回毎回、シルフィがドナドナされるのを見送るのは、気が滅入ってしまうな。
何とかならないだろうか?
その対策を少し考えていたら、頭の中で【多重思考さん(多重思考された人(?)たちのリーダー)】が、『畳が出来上がりました。』と言ってきた。
あれ? えらい早いな。
革を買って来て、【マジックバック】から【無限収納】に移した後、着せ替えをさせられて、お茶していた間に、畳が出来上がっちゃたね。
『ふ。準備をしていましたから。』
何だか【多重思考さん】が誇らし気です。
よし、畳を見に行こう。
ニーナに予定が入っていない事を確認して、「出掛けてくる。昼食の時間までには帰って来る。」と伝えてから、俺は隠れ家に転移した。
隠れ家の居間(兼応接間)に転移して来た。
隠れ家に来るのは久しぶりかな?
いや、そうでもないか。
シルフィのところに戻って、アンの実家に滞在して、王宮に帰って。そのくらいの間、来ていなかっただけだったね。
たったの数日間、来ていなかっただけだけど、それでも久しぶりと感じるのは、まだこっちの方を”家”と認識しているのかもしれないね。
そんな事を考えた後で、念の為、【多重思考さん】に釘を刺しておく。
「表札は要らないからね。」
『………。』
それはそれとして。
早速、畳を見に行こう。
居間(兼応接間)を出て、廊下を渡り、南側の建物に行く。
引き戸を開けて靴を脱ぎ、一段高くなっているキッチンに上がりつつスリッパを履いて、隣の居間へ。
引き戸を開けて居間を覗くと、以前は畳が無かった所為で板が敷き詰められているだけだった床に、茶色い革を張られた畳(っぽい何か)が一面に敷かれていた。
「おお。」
ゴロリと寝転がりたくなるね!
早速、スリッパを脱ぎ捨てて、ゴロゴロ転がりながら部屋に入る。
うほー。(ゴロゴロー)
部屋の真ん中で、仰向けに寝転びながら天井を眺める。
少し、革のニオイする。
イグサの、あのニオイでない事は残念だが、イグサが見付からないのだから仕方が無いよね。
天井を眺めながら、俺は満足感を味わった。(ニマニマ)
少しの間、寝転がって畳(っぽい何か)を堪能してから、上体を起こす。
「畳が出来たら、次はアレだよね。(ニッコリ)」
思わず、そう口から出てしまう。
『そうですね。畳が出来たら、次はアレですよね。』
頭の中で【多重思考さん】も、そう言ってくれる。
そうだよね。
「畳が出来たら! 次は! こたつ! だよね!」
絶対に作るぜ! こたつ!
こたつが必要なほどの寒い日はまだ経験していないが、暑い日も経験していない。
こたつが在っても問題無いよね! うん!
思わずニマニマしてしまうね!(ニマニマ)
『こたつのテーブルと天板は、既に出来上がっています。』
『部屋の真ん中は、掘りごたつを置ける構造になっています。』
頭の中で【多重思考さん】が、そう教えてくれた。
ほうほう。
では早速、その状態を見せてもらおうかな。(ワクワク)
一度、立ち上がって、部屋の真ん中から退く。
部屋の真ん中の畳が一枚消えた。【多重思考さん】が【無限収納】に仕舞ったのだろう。
テーブル、と言うか、『木材を直方体に組んだ物』と言った方が正しそうな物が空中に現れ、畳が退かされた場所に、すっぽりと嵌め込まれた。
さらに、天板も空中に現れ、『木材を直方体に組んだ物』の上に置かれた。
うむ。
そして、気付く。
こたつ布団も、買いに行かなければならなかったんだね。orz
目の前の”こたつ(こたつ布団抜き)”を見て、思わず orz 状態になってしまった。
くそう。
気付かなかったね。今朝、買い物に行ったのにね。
こたつ布団を買いに行くのには、また【マジックバック】が必要かな? 必要な気がするな。
結構かさばるよね、こたつ布団って。
また、ニーナに付き合ってもらって外出しないといけないね。
そうなると、また、着せ替えをされるだろうね。
めんどくさいね。
「はぁーー。」
俺は orz 状態のまま、しばらく動けなかった。
気を取り直して、こたつ(こたつ布団抜き)を見ることにしよう。
膝立ちになって、先ず、天板を見る。
木材の表面そのままだね。ニスとか買ってなかったからね。
でも、表面は滑らかだ。触り心地が良い。
頭の中で『ふ。』と勝ち誇ったかの様な感情を感じます。
【製作グループ(多重思考された人(?)たちの内の、物品製作をしているグループ)】の誰かだろう。
ちょっと訊いてみるかな。
『スルーしちゃおっかなー。』という気持ちも、少しだけ有ったけど。(苦笑)
「この仕上がり具合は何なのカナァ? スゴイナァ。(棒)」
『カンナで仕上げました。ふっ。(ドヤァ)』
うん。うざい。(苦笑)
でも、仕上がり具合は見事です。称賛に値するね。
頭の中に、上機嫌になっている感情を感じますが、まぁ放っておこう。
天板の触り心地を楽しんでいたら、頭の中で【多重思考さん】に訊かれた。
『こたつの熱源は、どうしましょうか?』
ふむ。
「熱源か…。」
考える。
一番シンプルなのは、【ヒート】だな。
料理にも使っているよね。
かなり使い慣れている魔法だ。
でも、魔道具にするとなると、もっと魔力消費の少なそうな魔法の方が良いよなぁ。
他に、何か良い魔法はないかな?
うーーむ。
立ち上がって、部屋の中を歩きながら考える。
うーーむ。
【リフレクション(熱)】はどうだろう?
こっちの方が魔力消費は少なそうだよね。熱を生み出さないからね。
こたつに入った人の足から発する熱を、10倍とかにして四方から反射すれば、それだけで暖かくなるだろう。
いけそうな気がするね。
うっかり触れてしまうと360度くらいになって反射されてしまうから、触れない様に結界を張らないといけないけどね。
それでも魔力消費は、【ヒート】を使うよりは少なくなりそうな気がするな。
『うん。これで良さそうだ。』と思ったら、【多重思考さん】から”待った”が掛かった。
『お待ちください。【リフレクション(熱)10倍】は危ないと思います。事故が起きた時に、かなり危険なことになるかもしれません。実験してみましょう。』
【多重思考さん】に、そう言われた。
ふむ。
『ぢゃあ、ちょっと実験してみるか。』と思ったら、あの荒野に転移させられた。
荒野に来ました。
靴は履いていません。
「をい。(怒)」
『すみませんでした。』
隠れ家に常駐してる【目玉】を使って、靴を【無限収納】経由で受け取り、【フライ】で浮きながら、靴下に【クリーン】を掛けて、靴を履いた。
ふう。
気を鎮める為に、周りを見渡す。
うん。見慣れた荒野だ。
端を切り落とした岩とか、ボッコボコになった地面とかが見えます。
『気が鎮まる』と言うよりは、『現実を見たくなくなる』っていう感じがします。(遠い目)
気を取り直して実験…、をする前に、【多重思考さん】に釘を刺しておかないとね。
「新魔法披露は要らないよ。」
『ふ。大丈夫です。』
おや?
以前は、やたらとやりたがっていたのにな。新魔法披露を。
『【リフレクション(熱)10倍】も、十分に凶悪な気がしますので。』
「その言い方だと、凶悪な事が新魔法披露の基準になっている様に聞こえるんですが! 聞こえるんですがっ!」
『目の前の結界をご覧ください。』
「をいぃぃぃ。」
【多重思考さん】は、俺を無視してサクサクと実験を進める気の様だ。
くそう。
俺は、気を鎮めながら、5mほど先に浮かぶ、少し黒っぽい球体を見た。
少し黒っぽいのは、透明な結界に【闇魔法さん】が色を付けてくれたのだろう。
いつもありがとうございます。助かります。
『結界の内側に【リフレクション(熱)10倍】を付与します。』
『木クズを入れて、【ファイヤー】で燃やします。』
【多重思考さん】が実験をサクサクと進めていきます。(苦笑)
結界の中で、木クズが燃えるのが見えた。
と、思ったら、赤い光が強くなり、光の色が赤から白へ、白から青へと変わり、結界の内側全体が光を放つようになった。
身の危険を感じた。
と、思ったら、次の瞬間、目の前に浮かんでいた結界がフッと消えた。
頭の中で、『危なかったので、【転移】させました。』と言う声が聞こえた。
ふう。
今のは、見るからに危なそうだったよね。
心臓がドキドキしてます。
でも、【転移】させたって、一体、何処に【転移】させたのかな?
転移先で大惨事になっている気がするんだけどっ!
『大丈夫です。別の大陸に【転移】させましたから。』
頭の中で【多重思考さん】に、そう言われた。
これまで、『別の大陸に人間が居る。』とは聞かされていないので、人的被害は出ていないのだろうが、何らかの被害は出ているだろうね。出ているよね。
気は進まないが、確認をしに行かないとダメだろうね。
気は進まないがなっ!
荒野に来ました。
別の大陸の。
靴は履いていますが、浮いているので関係ありません。
そもそも、地面に足を着けられる気がしません。
地面が融けているので。
「………………。」
『………………。』
地面から視線を逸らし、空を見上げます。
「………………。」
『………………。』
空から視線を下げて、周りを見渡して、周りには被害が出ていない事を確認しました。
「………よし…。」
『………………。』
周りには被害が出ていなかったので、隠れ家に帰りました。
私は今、掘りごたつ(こたつ布団抜き)を堪能しています。
ガラス戸越しに、外の景色を楽しみます。
森の緑が綺麗です。
「………………。」
『………………。』
現実逃避を終わらせて、【多重思考さん】に訊きます。
「…アレ…、なに?」
『…かなりの高熱になっていましたので…、地面が融けました。』
ソーカー。地面がトケタノカー。
「…何度くらいになっていたのかな?」
「…分かりませんが、10,000度とか、いってたのかもしれません。」
ソーカー。10,000度カー。
「………………。」
『………………。』
現場で見た、もう一つの事も【多重思考さん】に訊きます。
「…アレって…、アレだよね?」
『…キノコ雲でしたね。』
「………………。」
『………………。』
【リフレクション(熱)10倍】は、事故が起こるとヤバイね。
まさか、あんなことになるとは。
こたつの熱源を考えていただけなのにね。
『こたつの熱源を検討していたら、地面を融かして、キノコ雲を発生させていた。』
何を言っているのか分からないと思いますが、俺も何を言っているのか分かりません。(白目)
【リフレクション】の使い方は、気を付けないといけないね。
下手に”〇倍”とかを設定してしまうと、すごい危険だ。
気を付けよう。マジで。
そろそろお昼が近くなったので、王宮に帰ることにする。
こたつの熱源を考えるのは、また今度にしよう。
しばらくは考えたくないやー。(遠い目)
「はぁぁぁ。」
長い溜息が出た。




