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姫様を助けたのは失敗だったが、割と好き勝手に生きています。  作者: 井田六
第十二章 異世界生活編07 新・新生活編
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< 05 外伝 ある筋肉大好きメイドの帰還 そして、旅立ち >


久しぶりに王宮に帰って来ました。

薄暗い建物の中に入ったところで、「ふぅ。」と一息ひといきき、帰って来た事を実感します。


本当に久しぶりです。

王宮も、王都も。

『少々やらかしてしまった。』という自覚は有りましたが、まさか隣の国までトバされるとは思っていませんでした。

久しぶりに帰って来た安堵あんど感で、少々浮かれながら廊下を歩きます。


筋肉仲間のマリーに会いました。

ちょうどいいですね。

何か面白い出来事がなかったか訊きましょう。


マリーが言うには、王宮に男が居るのだそうです。

そのこと自体は、別に珍しい事ではありません。

遠くから来た領主などが、この王宮に滞在する事はよく有る事です。

しかし、”マリーが興味を持つ男”となれば、筋肉しか有り得ません。

私はマリーから、さらに詳しく聞きます。

その男は、『筋肉が素晴らしい。』とのことです。

ほう。

やはり、筋肉でしたね。(ニッコリ)

しかも、マリーが『素晴らしい。』と言うほどの筋肉の持ち主ですか。

ほうほう。

私は、その筋肉に興味を持ちました。


マリーと別れて、早速さっそく、その筋肉を探します。

私には、良い筋肉の気配が分かりますので。

居ました。

良い筋肉の気配がビシバシします。

廊下を歩いて来るその男の邪魔にならない様に壁際かべぎわに寄りつつ、近付くのを待ちます。

「こんにち、わっと。」

だきっ

私は、挨拶をするフリをしながら抱き着きました。

「うわっ?!」とか声を上げられてしまいましたが、私は、それを無視して筋肉を調べます。

ふむふむ。ほうほう。(もみもみ、さわさわ)

なるほど、良いですね。

うん。良いですね。(ニッコリ)

筋肉を堪能たんのうします。(もみもみ、さわさわ)

彼には”あててんのよ”をしているので、WIN-WINの関係です。

彼も「むほー。」とか言って喜んでいますので、何の問題もありませんねっ。(ニッコリ)

たまーに、問題になってしまうこともアリマスケドネー。(遠い目)

彼と一緒に居たメイドがオロオロしながら何かを言っていますが、私は堪能たんのうし続けました。

この素晴らしい筋肉を!(もみもみ、もみもみ)


彼の肩越しに、メイドが歩いて来るのが見えました。

気にせずに筋肉を堪能します。(もみもみ、さわさわ)

そのメイドと、ふと、目が合いました。

”普通のメイド”だと思っていました。スカートが短かったので。

でも、違いました。

見覚みおぼえがあります。

私の教え子の一人です。格闘術の。

飛び抜けて優秀でありながら、底無しの落ちこぼれ。

その訳の分からなさで、私にトラウマを植え付けた教え子です。

「げぇ、マリアンヌ!」

思わず声が出ました。

私に気付いたマリアンヌが、こちらにダッシュして来ます。

思わず、私は逃げ出しました。

筋肉どころではなくなってしまいました。

アイツが追い掛けて来るので、私は廊下を走って逃げました。


私は走っています。王宮の廊下を。

走って良い場所ではありませんが、どうしようもありません。

私が苦手としているアイツが追い掛けて来るので。

チラリと振り返り、アイツを見ます。

楽しそうに追い掛けて来ます。

その目を見てさっしました。

犬と同じです。

楽しいから追い掛ける。

ただ、それだけ。

困りました。

終わりが見えません。

こういう時のマリアンヌの訳の分からなさには、本当に苦労させられました。

何が困るかと言うと、解決策が見付からない事が困るのです。

解決策の存在すら怪しくなるレベルで、見付からないのです。

マリアンヌの行動は、本当に読めません。

本人ですら分からないモノが、他人に分かるはずも無いですよねっ。

これだから天然はっ!

この困った事態の解決策を見付けられないまま、しばらく走り続けました。

王宮の廊下を。



「廊下を走らない様に!」

セイザをしながら、メイド長の説教を聞きます。

「子供ですかっ、王宮のメイドをこんな事で叱るのは初めてです!」

『デスヨネー。(死んだ目)』

目線の先に在るメイド長の足を見ながら、心の中でそうつぶやきました。

本当にすみません。(しおしお)


でも、このセイザ。地味にしんどいですよね。

足は痛くなるし、しびれますし。

さらに、目線が下がることで、自然と『すみません。』って気持ちになります。

何でも王妃様が導入されたらしいです。

読書がご趣味で博識はくしきだとは聞いていましたが、刑罰けいばつにもおくわしいのですね。

いずれ、その本を書いた人を見付け出して、ボコボコにしてやりましょう。

しばらくの間、メイド長の説教を大人おとなしく聞きました。(しおしお)


説教の矛先ほこさきが、隣でセイザしているマリアンヌに向きました。

「あなたは、昨日も廊下を走っていたと聞いています。おやつ抜きです。」

あまりの軽い罰に驚きます。

チラリとマリアンヌの様子をうかがうと、『ガーーン!』とでも言いそうな顔をしています。

「”お世話係”にも言っておきます。厳重に。」

マリアンヌは、『ドガガーーン!!』とでも言いそうな顔をしています。

そして、崩れ落ちました。

ピクリとも動きません。

ただのしかばねのようです。

この様子を見ると、ちゃんと罰になっている様に見えてくるから不思議です。

おかしいですよね。

ただの『おやつ抜き』なのに。


メイド長の説教の矛先ほこさきが、再び、こちらに戻って来ました。

「あなたが廊下で抱き着いたおかたですが…。」

そう言えば、先ほど私が抱き着いた男が誰なのかは、気にしていませんでした。

筋肉のことしか考えていませんでしたので。

「あのお方は、姫様の夫となられたナナシ様です。」

あー、そう言えば、ご結婚なさったと聞いていましたね。

『おめでとうございます。』と、心の中で姫様のご結婚を祝福します。

そして、気付きます。

え?! それってやばくね?

姫様は、王妃様にたいへん可愛かわいがられています。

姫様を怒らせたら、王妃様も怒らせてしまいます。

刑罰にお詳しい王妃様を怒らせてしまったら、どうなってしまうのでしょうか?

どうなってしまうのでしょうかっ?!

やばいですよね?

やばいですよね!

………………。

ちょっとだけ、あせが出ます。

いえ、これは冷や汗ではありません。

スクワットをしたくなった時に現れる生理現象です。…たぶん。

メイド長が続けます。

「姫様の夫であるナナシ様への接触は『禁止』です。」

「通達も出しています。『ドラゴンに接する様に、慎重に接する様に。』と。」

………………。

自分がした事を思い出します。

抱き着いて、筋肉を揉みまくりました。

”あててんのよ”をしていたので、WIN-WINの関係だと思っていました。

彼も「むほー。」とか言っていましたし。

全部ダメじゃないですかっ。

ヤバイです。

困りました。

”通達”も、彼が”姫様の夫”であることも知りませんでした。

ですが、『知りませんでした。』が通用しないのが、メイドの世界なのです。

厳しいのです。

冷や汗が出ます。

ですが、顔に冷や汗をかくなんて事はいたしません。

王宮で働く一流のメイドですから。

肌が露出していない部分だけを冷や汗でぐっしょりさせながら、涼しい顔をします。

いえいえ、冷や汗ではありませんでしたね。

冷や汗ではありませんとも。ええ。


かなりの長い時間、セイザをしながらメイド長の説教を聞かされました。

私の隣で”しかばね”っていたマリアンヌは、いつの間にか、ぐーすか寝ていやがりました。

やっぱり、コイツは訳が分かりません。


長い説教が終わり、メイド長の部屋から退室しました。

が、先輩方せんぱいがたに捕まりました。筋肉仲間の。

え? スクワットですか?

今、足がしびれてるんですが。

いえ、『男に抱き着きたくなるのは筋肉が足りないからだ!』ではなくてですねっ。

先輩方に訓練場に連行されました。

そして、めちゃくちゃスクワットさせられました。



翌日。

また、トバされることになりました。

今度は東の隣の国です。

せめて国内にしてくれませんかねぇ…。(白目)

王都でのんびりしていたかったのに…。

馬車に揺られて、私は王都を後にしました。

ぐすん。


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