< 04 新・王宮での生活04 ナナシ、買い物に行く >
朝食後。
ソファーで、食後のお茶をしながら寛ぐ。
もちろんシルフィは、俺にべったりとしています。
昨日は、王様に霊薬を渡したり、メイドさんたちにハチミツを渡したりして、しなければならなかった事を済ませた。
メイドさんたちへのゴマスリとして、まだ他に何か必要だと思うが、今日はちょっと小休止をしようと思う。
結婚してから色々と有り過ぎたからね。
のんびりと過ごしたいよね。うん。
バタバタしたこれまでの生活から一度離れて、改めて今日から『新たな生活』をスタートしよう。
うん。そうしよう。
そんな訳で、今日は、のんびりと過ごさせてもらおう。
俺にべったりしているシルフィの頭をなでなでしながら、まったりする。
まったりしていたら、頭の中で【多重思考さん(多重思考された人(?)たちのリーダー)】に、『時間が有るのでしたら、食材と革を買ってほしいです。』と言われた。
うーーん。食材かぁ。
食材はどうしようかなぁ?
王宮以外で食事をする機会って、この先、無い様な気がするんだよなぁ。
毎食、シルフィと一緒に食事をしなければいけない気がするから。
下手にシルフィを一人で食事させたら、メイドさんたちを不快にさせてしまう気がするね。
しばらくの間は、王宮でシルフィと一緒に食事をしないといけないだろうね。
うん。料理を作っておく必要が無いね。
食材を買うのは止めておこう。
そう決めたら、頭の中で声にならない悲鳴が上がった様な気がしましたが、俺の気の所為だと思います。
食材の他に、『革を買ってほしい。』って、【多重思考さん】に言われたけど、革は何に使うのかな?
そう、頭の中で疑問を浮かべたら、【多重思考さん】が説明してくれた。
『イグサが見付からなくて畳が作れていませんでしたが、取り敢えず、別の物で畳を作ろうと思います。』
『イグサが見付かったら、その時に、また作ればいいと思いましたので。』
ふむふむ。
『先ず、麦わらで畳表を作ってみました。ですが、安っぽい残念な仕上がりになってしまいました。』
『次は、革で試してみたいと思います。』
ほうほう。
革か…。
頭の中で、表面に革を張った畳を想像する。
ツルツルした革はダメそうだな。
ザラザラしたのがいいのかな?
それとも、しっとりした感じの革かな?
うーーん。
いまいち、イメージが湧かないな。
お店で実物を見てみないと、分からないかな?
そうだね。お店で実物を見ながら考えよう。うん。
他に何か買いたい物って、有ったっけかなぁ?
ああ、そう言えばガラスの在庫が無くなっていたね。
ガラスも買っておこう。
また、扉付きの棚を作る事が有りそうだからね。
それに、他にもガラスで作りたい物が有るので。
うん。
今日は買い物に行くか。
ガラスと革を買いに。
頭の中でそう決めたら、メイドさんがシルフィを呼びに来た。
シルフィは、メイドさんに二度呼び掛けられた後、名残惜しそうに立ち上がり、「お茶の時間には帰って来ますからね。」と言って、ドナドナされて行った。
………………。
大袈裟だよね? シルフィは。
シルフィの部屋で仕事をするだけなのにね。
この先、毎回、こんな調子なのかな?
ひょっとして、昨日、シルフィを助けなかった事を恨んで、こんな事をしているのかな?
シルフィ、恐ろしい子っ。(←多分、違います。)
シルフィがドナドナされて行ったので、俺の自由時間だね。
俺付きのメイドさんのニーナを呼び、「ガラスと革を買いに行きたいのだけど…。」と言って、色々と相談する。
『他に予定が入っていないか?』とか、『そもそも、まだ早いこの時間にお店が開いているのか?』とか、『ニーナに付いて来てほしいのだが、大丈夫か?』とか、『お茶の時間までに帰って来れるのか?』とかね。
ちなみに、ニーナに付いて来てほしいのは、買った物を【マジックバック】に仕舞いたいからです。
俺が【マジックバック】を使うと、また『売ってくれ!』とか言われてしまって、面倒なことになっちゃうからね。
連れのメイドさんが持っていれば、どこかの金持ちの持ち物だと思って『売ってくれ!』と言われる事は減るだろうし、連れているのが王宮のメイドさんだと分かれば、確実に『売ってくれ!』なんて言われないだろうからね。
だから、ニーナには付いて来てほしいと思っている。
ニーナと相談した結果、着替えてから馬車で買い物に行くことになった。
着替えています。
『着替える』と言うよりは、『着せ替えられている』っていう感じですが。
馬車の手配をしに行ったニーナが戻って来た時に、メイドさんが三人、一緒にやって来た。
その三人を含めた四人で着替えさせられているので、より一層、『着せ替えられている』っていう感じがします。
途中で「着替えるのに、こんなに人数が必要なの?」と訊いたが、「必要です。むしろ、少ないくらいです。(キッパリ)」なんて言われてしまった。
不思議に思ったが、『貴族って、めんどくさいんだね。』と、思うことにした。
メイドさんたちが俺の体のごく一部を凝視していた様な気がしますが、俺の気の所為だと思います。
ニーナに【マジックバック】を持ってもらって、二人で廊下を歩く。
俺は、王宮で働くメイドさんたちの様子を、歩きながら観察する。
メイドさんたちの役に立ちそうな魔道具を作ってプレゼントしようと考えているからね。ゴマスリの為に。
見た感じ、物を運ぶのを助ける物や、高い場所の窓ふきを助ける物なんかが喜ばれそうな気がした。
一階まで降りたところで、メイド服姿ではない女性が居た。
壁際に寄る所作がメイドさんっぽかったので、この人もメイドさんなのだろう。
軽く会釈をして通り過ぎようとしたのだが、その女性は、「こんにち、わっと。」と言って、俺に抱き着いて来た。
「うわっ?!」
突然の出来事に驚く。
その女性は、俺の体を触りまくり、「ふむふむ、ほうほう。」とか言っています。
『何なんだっ?』と思いながらも、意識は『ふにょん』の方に行ってしまいます。
『ふにょん』です。
『ふにょん、ふにょん』です。
久しぶりの”あててんのよ”です。
思わず「むはー。」とか声が出てしまった様な気がしますが、男なら仕方が無い事です。(キリッ)
俺の隣に居るニーナが何か言っています。
『禁止』とか何とか聞こえた様な気がしますが、どうでもいいことです。(←言い切んな。)
少しの間、『もみもみ、さわさわ』されたり、『ふにょん、ふにょん』されたりしました。
むはー。
しかし、その至福の時間は長くは続かなかった。
俺に”あててんのよ”していた女性が「げぇ。」とか何とか言って、突然走り去って行ってしまったので。
すごく残念だ。(←おい)
俺の横をメイドさんが走り抜け、先ほどまで俺に抱き着いていた女性を追い掛けて行った。
うーん。何だったんだろう?
ちなみに、俺の横を走り抜けて行ったメイドさんは『タプン、タプン』でした。
横を通り過ぎる時に見えました。揺れが。
『タプン、タプン』でした。(大事なことなので二回言いました。)
うむ。久しぶりに良いモノを見た。
この後、ニーナにはジットリとした目で見られましたが、あまり気になりませんでしたっ。
ジットリとしたニーナの視線をビシビシ感じながら、廊下を歩く。
さっきの出来事は、俺が被害者だと思うんだけどなー。
そう思いますが、口に出したりはしません。
事態が、より悪化する未来しか見えませんので。
薄暗い廊下を抜けて建物から出た。
ふう。
少しホッとしてしまう。
まだ、ジットリとしたニーナの視線を感じますが。
建物から出たところに、馬車が停められていた。
馬車の傍に控えていたメイドさんがドアを開けてくれて、ニーナに促されるまま馬車に乗った。
俺の後からニーナが乗り、さらに二人のメイドさんも乗って来て俺とニーナの正面に座った。
ドアが閉められ、馬車が走り出す。
ガラガラガラガラ
乗る事の少ない馬車の感覚を少し楽しんだ後で、ニーナに訊く。
「人数が多くない?」
「家格を考えれば、全然、まったく少ないです。(キッパリ)」
うーむ。そういうものなのかー。
貴族って、めんどくさいんだね。(本日二回目)
まぁ、今から文句を言っても仕方が無いよね。
馬車を停めさせて降ろさせる訳にもいかないしね。
『何か粗相をしてしまったのでしょうか?』とか思わせてしまっては、可哀想だからね。
諦めて、馬車の中でのんびりしよう。
しばらく馬車の感覚を楽しんだ後で、ふと、この馬車の事を訊きたくなった。
メイドさんたちが普段使いにしている物にしては、豪華過ぎる気がしたから。
シートがフカフカだし、横に四人並んで座れそうなほど広いしね。
「ニーナ、この馬車って何なの?」
「ナナシ様のお持ち物ですよ。」
「え? そうなの?」
「はい。前の公爵家の持ち物だった物で、今はグラストリィ公爵家のお持ち物となっています。」
「へぇー。」
何となく、馬車の内装を見回してしまう。
贅沢に手を掛けている様に感じる。壁とか天井とかにも装飾がされているし。
「ふへぇー、贅沢な作りだなぁー。(感心)」
思わず、そんな声が出た。
一般市民には、縁の無さそうな感じがするね。
でも、ガラガラいう音とか、ゴツゴツした振動とかには不満だな。
今度、改造してみるかな?
楽しそうな気がするね。
俺の物だそうだから、改造してもいいよね。(ニッコリ)
うん。馬車の改造は、絶対にやろう。
頭の中で【製作グループ】が盛り上がっている様子も感じるしねー。(やれやれ)
馬車が停まり、御者さんの「到着しました。」と言う声が聞こえてきた。
正面に座る二人のメイドさんが、一瞬、残念そうな表情を見せた後、ササッと動いて馬車を降りた。
次にニーナが降りて、俺が最後に降りた。
「ふぅ。」
思わず、声が出る。
道中、正面に座るメイドさんたちが、俺の体のごく一部を凝視していた様な気がして、ちょっと緊張してしまったからね。
今回は、俺の気の所為ぢゃなかったと思う。
馬車が揺れて俺の体が左右に揺れる度に、正面に座るメイドさんたちが、馬車の揺れとは無関係な体の動きをしていたからね。
普通は、馬車が揺れた時に隣の人と頭をぶつけるとか無いよね。同じ方向に動くんだからね。(苦笑)
アレはきっと、良く見えるポジションを探しての動きだったんだと思う。
以前、公爵家との勝負の最中に、俺の部屋で俺の鎖骨を見ようとして変な動きをしていたメイドさんたちが居た。
その時のメイドさんたちの動きと、似ていたからなー。
あの時は、『噂の鎖骨』がどうとか言われたりしたなー。
懐かしくも残念な気持ちが湧き上がります。
取り敢えず、買い物をサクッと済まそう。
余計な事は考えない方が良いという気がしたので。(苦笑)
ここは、ガラスを作っている工房の様だ。
割れたガラスが入っている箱とか有るし、奥の方に火が見えるからね。
応対に出て来てくれた人とニーナが話をする。
次に、ニーナが俺に話を振ってくる。
買うガラスの大きさとか量とかは、俺が話をすることにしていたからね。
「どういった大きさのガラスが、ご入用でしょうか?」
「一般的な窓に使われている厚さのガラスを、カットしていない、作られたままの状態で欲しいのですが、どのくらいの大きさですかね?」
「大きさは、縦4メル、横3メルです。ですが、四隅が少し丸いので、切り出せるガラスはそれより少し小さくなってしまいます。」
ふむ。大体 2.4m x 1.8m くらいか。けっこう大きいね。
その大きさのガラスを、少し多めに買っておく。
また買いに来るのがめんどくさいし、【無限収納】のお陰で置き場所には困らないからね。
「それでいいので、それを10枚欲しいのですが、在庫は有りますか?」
「ええ、10枚でしたら御座います。」
おお。良かった。
無かったら、メイドさんに改めて来てもらうことになってしまうだろうからね。在庫が有って良かったね。
【マジックバック】を持って来ている事を伝えて、在庫が置いてある場所まで連れて行ってもらう。
そこでガラスを、ニーナに【マジックバック】に入れてもらう。
支払いは、普段、王宮との間で行われている手続きがあるみたいで、後日、王宮から支払われる様だ。
そう話しているのを聞いて、工房の人とお互いに礼を言い合ってから、工房を出た。
再び馬車に乗り、移動する。
正面に座るメイドさんたちの視線は気にしない様に努めます。無心です。
馬車が停まり、馬車から降りる。
おお。革のニオイがするね。
目の前には、革の素材を扱っているお店が在った。
ニーナの後に付いて、目の前のお店に入る。
前もってニーナには、『ソファーに使う様な感じの革で、ツルツルしていない物が欲しい。あと、伸びない物がいい。』と言っておいたので、応接室に通された後、ニーナに要望を伝えられたのであろう店員さんが、そういう用途の革の見本を持って来てくれた。
色々な革の見本を手で触れて感触を確かめる。表も裏もね。
頭の中で【製作グループ】と相談しながら、良さげな物を二種類決めた。
畳よりも二回りくらい大きなサイズの魔物の革で、これをそれぞれ15枚ずつ買うことにした。
ここでも支払いは、後日、王宮から支払われる様だ。
持って来てもらった革を、ニーナに【マジックバック】に入れてもらい、ここでもお店の人とお互いに礼を言い合ってから、お店を出た。
よし、買い物終了。
と、言っても、俺はお金を払ってないんだけどね。
朝、ニーナと買い物の相談をした時に、『自分で使う物なのだから自分がお金を払う。』と、至極当然の事を言ったのだが、ニーナに拒否されてしまったので。
何でも、俺のする買い物は、すべて王宮からお金を出す様にと、メイド長から言われているとのことだったのでね。
ニーナに文句を言ったところで、どうにもならないだろうから、今日のところは甘えておくしかないよね。
後日、俺がメイドさんたちにするゴマスリで相殺すると思えばいいだろう。うん。
俺たちは再び馬車に乗り、王宮に帰った。
部屋に帰り、ニーナから【マジックバック】を受け取る。
この中に買って来た物が入っているからね。
【マジックバック】の中に入っている物を【無限収納】に移さなければならないのだが、大きなガラスをこの部屋で出すのは危険だよな。
部屋の中で出すのには、大き過ぎる様な気がするからね。
『【製作グループ】に森の中の工房でやってもらえばいいな。』と思って、【マジックバック】ごと【無限収納】に仕舞った。
少し待つと、『移し終わりました。』と頭の中で声がしたので、【無限収納】から【マジックバック】を取り出して、コートハンガーに掛けた。
ふう。
これで、買い物終了だね。
今回は、大きなガラスを買う為に【マジックバック】が必要になり、その為にニーナに付いて来てもらう必要があったのだが、結構めんどくさかったね。
でも、他に良い方法など思い付かないよなぁ。
大きい物を買う時は、またニーナに頼まないといけないね。
めんどくさいけど、仕方が無さそうだ。
「ふう。」
溜息が出た。
『買い物終了』と思って気を抜いていたら、部屋にメイドさんたちが来た。
ニーナが俺に言う。
「お着替えをしましょう。(ニッコリ)」
「………………。」
そうだね。
気を抜くのは、まだ早かったね。(げんなり)
また着せ替えをされて、俺はグッタリとした。




