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姫様を助けたのは失敗だったが、割と好き勝手に生きています。  作者: 井田六
第十二章 異世界生活編07 新・新生活編
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< 03 新・王宮での生活03 ナナシ、受け取ったり渡したりする >


王妃様たちが帰られた後。

ソファーでシルフィとまったりとお茶していたら、メイドさんが一人、部屋にやって来た。

そのメイドさんは、シルフィを見て、「姫様。お仕事をお願いします。」と言った。

シルフィは、「えぇー。」と心底しんそこ嫌そうな声を出した後、俺の腕にしっかりと抱き着いた。

あからさまな”拒否の構え”だ。

うーん。

『お仕事をお願いします。』って言ってたからなぁ。

シルフィを助けて良い状況ではないよなぁ。

シルフィが王宮を離れる原因を作ったのは俺だけど、メイドさんを敵に回すと俺が死ぬからなぁ。(断言)

シルフィをかばえないが、積極的に引き渡す気にもなれないね。

動けませんね。

どうしよう?

俺の腕に抱き着き、”拒否の構え”のまま動こうとしないシルフィ。

動けない俺。

じっと待つメイドさん。

詰んだね。

あっさりと詰み過ぎだとは思いますが、詰んでしまったね。

どうしよう?

メイドさんが言う。

「姫様、お仕事が溜まっております。」

「………。」

「姫様がお仕事をしてくださいませんと、どんどん、どんどん、お仕事が積み上がっていきます。」

「お仕事をしていただきませんと、ナナシ様とベタベタする時間が無くなってしまいますよ。」

メイドさんは、シルフィを説得をする気の様だ。

「………。」

一方のシルフィは、俺の腕に抱き着いたままだ。

「今ならまだ、お茶の時間を確保できます。お仕事をお願いいたします。」

「………。」

「お仕事が積み上がってしまうと、お茶の時間にナナシ様に甘えられなくなりますよ。」

「………。」

手遅ておくれにならないうちにお願いします。今ならまだ、お茶の時間を確保できますので。」

「………ぐふぅ。」

シルフィは、そんな変な声を出してから、俺から離れて立ち上がった。

そして言う。

「…ナナシさん。」

「…はい。」

深刻そうなシルフィの声に、ちょっと緊張しながら返事をする。

「お茶の時間には帰って来ますので、待っててくださいね。」

「お…、おう。」

あまりにも深刻そうな声でそんな事を言うので、どもってしまった。

「必ず戻って来ますので、待っててくださいね。」

「…おう。」

そうして、シルフィは自分の部屋に向かった。

えらく大袈裟おおげさな言い方だったけど、シルフィの部屋に行ってお仕事をするだけだよね?

お茶の時間には戻って来るんだよね?

大袈裟だよねぇ。

メイドさんに連行れんこうされて(←連行れんこう言うな)、重い足取りでドアの向こうに消えるシルフィを見送った。

シルフィを見送って、視線を戻す。

護衛役のメイドのケイトが、顔を横に向けて肩を震わせている。

笑いをこらえているようだ。

ニーナは呆れた様な表情をしていた。

俺は、何とも言えない気分になったので、取り敢えず、ニーナにお茶のお代わりを頼んだ。



ニーナに淹れてもらったお茶を飲みながらくつろいでいると、頭の中で【多重思考さん】が、『ボウルが返って来た様です。』と教えてくれた。

ああ、ハチミツを渡した時のボウルだね。

ドアのところで、ニーナがボウルと【マジックバック】を受け取るのが見えた。

ニーナは、【マジックバック】をコートハンガーに掛け、ボウルを持ってこちらに来た。

「ナナシ様、お願いします。」

そう言われて、ニーナが差し出すボウルを受け取った。

カシャン

ん?

音がした事に違和感を感じて、渡されたボウルを見る。

ボウルが二個有った。

視線を上げて、ニーナを見る。

「また、よろしくお願いしますね。(ニッコリ)」

手に持ったボウルを見る。

一個増えて、二個になったボウルを。

そしてもう一度、ニーナを見る。

ニーナ、ニッコリ。

笑顔だけど、その笑顔に何となく”あつ”を感じます。

『次回は、ボウル二つ分お願いしますね。』ってことですね。アッハイ。

「………。」

俺は、ボウルを【無限収納】に仕舞った。


ボウルを仕舞って、ふと、ニーナに訊いてみる。

ハチミツに必要な物を要求しても、受け入れられそうな気がしたから。

「ところで、花の種ってないかな? 森の中って花が少ないんだよねー。」

「分かりました。ご用意いたします。(キリッ)」

「よろしくお願いね。」

これは、もしかすると、花の種の安定供給に目途めどいたのかな?

そうだよね。

ハチミツを採取する為の花の確保が楽になったら、助かるね。(ニッコリ)



しばらくソファーで、まったりダラダラしていたら、シルフィがやって来た。

お茶の時間なのだろう。

シルフィは俺の膝の上に座り、俺にもたれ掛かる。

抱き着く力すら無い様に見えるのは、何でなんですかねぇ?

お仕事をしに部屋に行ったはずなのだが、そんなに疲れる様なお仕事なのだろうか?

きっと精神的に疲れたのだろうと思い、取り敢えず、なでなでしておく。

しばらくなでなでしていたら、回復してきたのか俺の背中に腕を回して抱き着いてきた。

そして、「むふふふ。」なんて声が聞こえてくる。

よし、回復した様だ。

でも、『むふふふ。』とか言ってしまうあたり、相変わらずシルフィは残念です。

その後、一緒におやつを食べて、お茶をした後、シルフィを呼びに来たメイドさんにドナドナされて部屋に戻って行った。

シルフィの行動を見ていると、ダメ度が少し上がってしまっている様で心配です。

次は、もっとなでなでベタベタしてあげよう。(←多分たぶん、逆効果です。)



夕方の、外が暗くなり始めた頃。

部屋で、花の種を受け取った。

どっさりと。

文字通り、山ほど。

「………………。」

花の種を持って来てくれたメイドさんたちは、超ニッコリです。

メイドさんたちの期待きたいほどうかがえます。

想像以上の期待の重さに、少々心配になってしまいますがっ。

頭の中では【製作グループ】が、『やるぜー、超やるぜー。』と、やたらとやる気を出しています。

森の木が倒されまくって花畑になる未来しか見えません。

俺は【製作グループ】に丸投げする事に決めた。

抑えられる気がしなかったので。

【製作グループ】も、メイドさんたちも。



夕食後。

シルフィと一緒に部屋に戻ると、ニーナから手紙を手渡てわたされた。

「大臣からです。」と言われ、内容をさっした。

シルフィに「手紙を読むから。」と、一言ひとことことわってからベッドルームへ行き、結界を張ってから手紙を読んだ。

シルフィのところに戻り、ソファーに座って食後のお茶を楽しんでから、俺は一人で大臣の執務室に向かった。


部屋の前に居る護衛の人がドアを開けてくれて、大臣の執務室に入った。

室内には大臣しか居なかったが、「すぐに陛下もいらっしゃいます。」と言われた。

王様を待っている間に、少し領地の話をした。

アントニオ(アン)の実家の伯爵領から、人を派遣してもらえる様になっているとのことだった。

がたいね。

礼を言いつつ、『引き続き、よろしくお願いします。』と心の中で言う。(←おい)

「領地の事はお任せください。王妃様からも、『ナナシ様の手をわずらわせないように。』と、言われておりますので。」

おお。そいつは本当にがたい。

「よろしくお願いします。」

そう、今度は声に出して言った。


王様が来た。

立ち上がって礼をしてお迎えする。

ソファーに座ると、王様が大臣に訊く。

万全ばんぜんか?」

「はい。」

防諜ぼうちょうの事だろうね、大臣に訊いた事は。

俺も【多重思考さん】にお願いして調べてもらったから、大丈夫だと思う。

念の為に、色々と結界を張ってもらったしね。


王様が俺に言う。

「では、見せてもらえるか?」

「はい。」

俺は【無限収納】から霊薬の入った箱を出し、「どうぞ。」と言って、王様の前に置いた。

王様は箱を開ると、「おお。」と声を上げた。

そんなに驚く様な見た目なのかな? あるいは神々(こうごう)しいとか。

そう言えば、俺は、霊薬を(いつの間にか)手に入れたり、(いつの間にか)使ったりしたけど、実物を目にした事って無かったね。(苦笑)

ちょっと見てみたくなったけど、ここは抑えておこう。

また他に機会が有る様な気がするしね。何となくだけど。

箱を閉じた王様が俺に礼を言う。

「ありがとう。感謝する。」

「いえいえ、私はただ預かっただけですので。お気になさらず。」

王様は箱を大臣に渡し、大臣は【マジックバック】に仕舞った。

後で宝物庫にでも持って行くのだろう。


「報告書にあった、ダンジョンマスターのダーラムという男について訊きたいのだが…。」

そう王様に言われた。

「はい。どうぞ。」

「そのダーラムという男から霊薬を渡された時、彼はどんな様子だった?」

へ?

『どんな様子だった?』と、訊かれてもなぁ。

どんな風に渡されたんだったっけかなぁ。

思い出しながら答える。

「『もしもの時の為に。』とか言われて渡された気がしますが、『どんな様子だった?』と訊かれても…。」

困惑しながら、俺はそう答えた。

懺悔ざんげする様な感じはあったか?」

へ? 懺悔ざんげ

「いえ、そんな感じではなかったです。ただ『心配して。』とか『役に立てれば。』とか、そんな感じでしたよ。」

「ダンジョンマスターの仕事も、『グラム王国の為になる様にダンジョンを管理している。』とか言っていましたが、懺悔ざんげしている様な感じではありませんでしたね。」

うん。そうだったよね。懺悔ざんげっぽい感じとかは無かったよね。

俺がそう言ったら王様はホッとした様な感じで、「うむ。そうか。」と言った。

俺が、『今の質問は何だったんだろう?』と思っていたら、それを察したのか、王様が教えてくれた。

「実はな、ダーラム殿には『初代国王グラムを殺害した』という噂が有ったのだ。」

「え?」

王様にそんな話を聞かされて驚く。

俺が会ったあの人に、そんな悪人っぽい感じはしなかったから。

「王家に伝わる記録では、その様な事をたくらむ方では無い様に感じるのだが、貴族たちの間では、広くそう信じられているのだ。」

ふーん。それってどうなんだろう?

何らかの権力闘争(てき)な事でも有ったのかな?

一応、俺の感じた事も伝えておこう。

「私が会って、思った感じでは、悪人っぽくはなかったですけどね。」

かなり長い年月が経っているから、その間に改心した可能性も有るが、やはり、悪人ぽくはなかったので、その可能性は言わないでおく。

「過去に何か有ったのかもしれんな…。」

王様はそう言って、大臣に「過去の記録を調べてくれ。やはり何か違和感がある。」と指示をした。


その後、改めて王様から礼を言われて、俺は執務室を後にした。

霊薬を渡すだけだと思っていたけど、変な話を聞かされてしまったな。

かなり昔の話なのだが、その当事者と、先日会って話をしたし、また会いに行く予定だからね。

気になっちゃうよね。


部屋に戻り、シルフィにべったりされつつ、少しモヤモヤした気分のまま、この日は寝た。


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