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姫様を助けたのは失敗だったが、割と好き勝手に生きています。  作者: 井田六
第十一章 異世界生活編06 新生活編
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< 21 事件20end ナナシ帰る04 王宮に帰る >


< ナナシ付きのメイドさん視点 >


「ただいま…。」


そう言って、ナナシ様がお部屋に帰っていらっしゃいました。【転移魔法】でです。

姫様もご一緒です。

姫様がナナシ様にべったりと張り付いていらっしゃるのが、視界の端に見えます。

あれ?

随分と近くにナナシ様がいらっしゃいますね?

そう自覚した時には、私はナナシ様に抱き着いていました。

「ふぇ。」

「ふぇ。」

そんな声が聞こえた様な気がします。

むふむふします。

スリスリします。

「鎖骨…。」

もう一度、むふむふします。

「私の鎖骨…。」

懐かしい、私の鎖骨です。(←あなたの鎖骨ではありません。)

「ぐへへへ。」

「私の鎖骨ぅぅ。」(←違うってば。)

むはーー!!(スリスリスリスリ)


頭を掴まれた様な感触がしました。

顔を上に向けられた様な気がします。

「………………。」

私は何をしていたのでしょうか?

目の焦点が合ってくると、ナナシ様のお顔が近くにありました。

「?」

………あれ? 頭が働きません。

目の前にナナシ様がいらっしゃいます。

久しぶりにお帰りになられました。

私はナナシ様に、お帰りの挨拶をしましたでしょうか?

頭は働きませんが、口からお帰りの挨拶が少しだけ出ます。

「お………、おか…、え?」

………少しだけ自分のした事を思い出しました。

ナナシ様に抱き着いている自分に気が付きました。

やらかしてしまいました。

姫様が何かおっしゃっているのが聞こえます。

最近聞き慣れた、同僚の笑い声も聞こえます。

ナナシ様と目が合います。

「………お…か…、おかえりなさいませーー。」

私はそう言いながら、部屋を飛び出してしまいました。



部屋に戻りました。

ナナシ様と姫様はお茶を飲んでくつろいでおいででした。

私のことを指差して大笑いしている護衛役の同僚を無視して、お二人に頭を下げてお詫びします。

逆に、ナナシ様に「心配をかけてすまなかった。」と、謝られてしまいました。

隣に座られている姫様は、ご立腹のご様子です。

申し訳ありません。


それはそれとして。

ナナシ様にたしなめられて笑いをこらえる素振そぶりを見せつつも、まったく笑いをこらえていない護衛役の同僚は、後でぶちのめしましょう。(←出来るとは言っていない。)



< ナナシ視点 >


【転移魔法】で王宮の部屋に帰って来た。シルフィと一緒に。

久しぶりに帰って来て、なんとなくホッとした。

部屋には二人のメイドさんが居た。

部屋付きのメイドさん…、いや、”俺付きのメイドさん”に変わったんだったよね?

”俺付きのメイドさん”と、護衛役のメイドさんだ。

彼女たちに会うのも久しぶりだね。

彼女たちに、「ただいま…。」と言う。

ちょっと後ろめたい気持ちが有ったので、声が尻すぼみになってしまったのは仕方がないよね。


”俺付きのメイドさん”は、最初驚いた表情をしていたが、それを安堵した表情に変えてから、こちらに近付いて来る。

こちらに近付いて来る。

さらに、近付いて来る。

どう反応して良いのか分からないまま、抱き着かれた。

「ふぇ。」

「ふぇ。」

俺とシルフィが、同時にそんな声を出した。

”俺付きのメイドさん”は、俺に抱き着いて顔をこすけている。

どうしよう。

さて、どうしよう。

どうしよう。(なぜか五・七・五)

戸惑いながら、いている片手を、抱き着いている俺付きのメイドさんの頭の上に乗せる。

いていなかったほうの腕にべったりと張り付いているシルフィが、「離れなさい、私のナナシさんですよ! うがーー!」とか言っている。

護衛役のメイドさんは大笑いしているが、護衛として、それはどうなのだろう?

この様な状況にならない様にするのは、護衛の仕事ぢゃないのだろうか?

色々と戸惑っていたら、俺付きのメイドさんの声が胸元から聞こえてきた。

「鎖骨…。」とか、「私の鎖骨…。」とか、「ぐへへへ。」とか、「私の鎖骨ぅぅ。」とか言っている。

何となく身の危険を感じたので、彼女の頭の上に乗せていた手に力を入れて、がした。

少し上を向いた彼女の目を見る。

正気を失っている様に見えるのは、なんでなんですかねぇ?

シルフィが何か言っている声と、護衛役のメイドさんの笑い声を聞きながら、様子をうかがう。

「………………。」

「?」

少し間を置いてから、彼女が驚いた様な表情を見せた。

正気を取り戻したのかなー? そうだといいなー。

「お………、おか…、え?」

「………?」

「………お…か…、おかえりなさいませーー。」

俺付きのメイドさんは、そう言いながら部屋を飛び出して行った。

俺、ポカーンです。

護衛役のメイドさんは、ドアの方を指差して大笑いしている、

その笑い声を聞きながら、俺は、開けっぱなしのドアを呆然と見る。

…何なの? これ。


ソファーに座り、シルフィと一緒にお茶をする。

お茶を淹れてくれた護衛役のメイドさんが、俺たちに説明してくれた。

さんざん笑った後でね。

何故なぜか自己紹介をされた後でね。

彼女が言うには、最近の”俺付きのメイドさん”は、『鎖骨の禁断症状』(←何それ?)により、少々精神的に不安定になっていたのだそうだ。

部屋の中をウロウロしながら「鎖骨…。」とつぶやいていたり、「鎖骨が足りない。」とか言っていたりしたそうだ。

今朝は、鎖骨を求める彼女に抱き着かれそうになったそうで、「思わず、蹴っちゃったー。」とか言っている。

思いのほか、迷惑を掛けてしまっていた様だ。

変なベクトルで。

どうしてそうなった?

「それは…、申し訳ない事をしてしまった…な?(困惑)」

俺がつぶやく様にそう言うと、護衛役のメイドさんはニッコリと笑いながら言う。

「そう思うのでしたら、彼女に鎖骨を堪能たんのうさせてあげて下さい。今の状態は危険です。」

危険なんだー。(困惑)

でも、そんな変な事を、俺に要求するのはどうなのかな? どうなのかなっ?

変な事な上に、シルフィが荒ぶる未来しか見えないんですがねっ。


護衛役のメイドさん(ケイトという名前だそうです。)が、別の話をする。

『鎖骨の禁断症状』の話は、彼女の中では既に終わった話の様だ。

俺は納得していないんですけどねっ。

ケイトさんが言うには、俺付きのメイドさんは、俺に名前で呼んで欲しいと思っていたそうで、俺に改めて自己紹介をする機会をさぐっていたとのこと。

俺の部屋が移動になったり、彼女が”部屋付きのメイド”から”俺付きのメイド”に変わった機会に、改めて自己紹介しようとしたらしいのだが、その頃は、俺が疲労困憊だったのでそれが出来なかった。

俺の疲労が抜けるのを待っていたら、あの事件が起きて、俺が何処どこかに行ってしまった。

あの事件の衝撃も、今の彼女が精神的に不安定になっている原因の一つだと言われた。

「ですから、彼女のことも名前で呼んであげて下さい。喜びますよ。」

ケイトさんはそう言って、”俺付きのメイドさん”の名前を俺に教えてくれた。


ソファーに座り、シルフィとお茶をしながらのんびりする。

俺付きのメイドさんが部屋に戻って来た。

ケイトさんは、また大笑いしている。

彼女のことを指差して大笑いするのはやめてあげてねー。

「取り乱してしまい、申し訳ありませんでした。」

そう言って、彼女は頭を下げた。

「心配をかけてすまなかった。」

俺はそう言って彼女に謝った。



俺は、さらに彼女に言う。

「改めて、これからもよろしくね、ニーナ。」

ニーナはビックリしている。

俺に名前で呼ばれて。

ニーナは、照れた様な表情をしながら言った。


「これからもよろしくお願いします。ナナシ様。」




< ニーナ vs 『鉄壁てっぺき』のケイト >


後日の訓練場での一コマ


「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラー!」

「♪」 パシパシパシパシパシパシパシパシパシパシパシパシ

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラー。」

「♪」 パシパシパシパシパシパシパシパシパシパシパシ

「オラオラオラオラオラオラオラ。」

「♪」 パシパシパシパシパシパシパシ

「オラオラ…オラオラ…。(ぜいぜい)」

「♪」 パシパシ…パシパシ

「オラ…オラ…。(ぜいぜい)」

「♪」 パシ…ぺシ

「………。(ぜーはーぜーはー)」

「♪」

「くそーー!」バタバタ(走り去る音)

「♪」


ニーナとケイトが普通に戦えばこんなもんです。

簡単にあしらわれるだけで終わります。

実力差が有り過ぎて。


(設定)

突発的メイドさん紹介。


< 『鉄壁てっぺき』のケイト >

王宮のメイドの最強格の一人。『鉄壁』のふたを持つ。

金髪の短髪。ボーイッシュな見た目のボクっ娘。

王子様っぽい言動がなんとなく多いが、本人にそんな意識は無い。

無自覚系天然女タラシ。(←おい)

それと、笑い上戸じょうご

愛称:鉄壁様。てっぺきさん。ケイト様。

後輩たちに人気が高く、『鉄壁様』、『ケイト様』とか呼ばれて慕われている。

先輩方には、『おもしろい娘』と思われている。

ナナシが公爵家と勝負することになった時から、ナナシの護衛に付いているメイドさんの一人。

防御力の高さが特に有名で、『鉄壁』のふたを付けられた。

両手をフルに使い、受け、払い、らしを駆使し、相手の攻撃をさばる。

両手を防御に全力で使うスタイルの所為せいで防御力の高さにばかり注目されるが、彼女の一番の特長は、柔軟な股関節からされる多彩な蹴り技である。

その多彩な蹴り技は、届きさえすれば、どの様な距離、角度でも的確てきかくに相手の急所をとらえる。

”普通でないメイド”のつま先まで隠れる長いスカートを履いてはいるが、フェイントは使わない。

これは、視界の外から蹴り技を繰り出す為、フェイントの必要が無いからである。

多彩な蹴り技を持つ為、スカートに対する要求が一際ひときわ厳しい。

長さやウエストサイズはもちろんのこと、生地の厚さ、素材、裾周りの長さ、プリーツの幅や数、ポケットの位置や深さに至るまで、その要求は多岐に渡る。

ウエスト部の締め付けが気に入らず、吊り下げ式に改造してもらったスカートを愛用している。

その改造の際には、吊り下げ位置や吊り下げ方法を無数に変えた試作品を作らせ、被服部をマジギレさせて大喧嘩になった。

その事態の収束には王妃様まで駆り出されることになったが、今では笑い話になっている。

彼女の意見を取り入れたメイド服が好評だった為、今では良き相談相手として重宝され、被服部とは良好な関係に転じている。

攻撃手段が蹴り技であるのにもかかわらず、スパッツは着用していないらしい。

本人(いわ)く『長いスカートが適度に纏わり付いて見えなくなるので不要。』とのこと。

こちらの意味でも『鉄壁』だった。

尚、間違えて『絶壁ぜっぺき』と言ってしまうと、相手は死ぬ。(←え?)


< 『鎖骨派筆頭』 ニーナ >

ナナシ付きのメイド。

肩までの金髪。胸はやや小さめ。身長はナナシの肩くらい。

元はナナシが滞在していた部屋の”部屋付きのメイド”だった。

”部屋付きのメイド”は、”普通でないメイド”の仕事の中ではランクの低い仕事で、能力の低い者に割り当てられることが多い仕事である。

そこからの、姫様の夫である”ナナシ付きのメイド”への異動は、なかなかの出世であると言える。

観察力の鋭さと報告の的確さと適度な押しの強さが、ナナシから情報を引き出すのに最適と判断されたのが抜擢の理由である。

他にも、ナナシの部屋が隣の部屋に移動となった際、その部屋付きのメイドさんの胸が大きかったことと、ニーナの胸がそれ程大きくなかったことも関係している。

本人は、その事にショックを受けていた様だが…。

また、『鎖骨同好会』を作り、大きくした手腕も高く評価されている。

今では何気なにげに、将来の幹部候補の一人として期待されている。本人は気付いていないが。


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