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姫様を助けたのは失敗だったが、割と好き勝手に生きています。  作者: 井田六
第十一章 異世界生活編06 新生活編
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< 18 事件17 ナナシ帰る01 >


今日は、あの日から九日目だ。

いつ、どの様にシルフィの元に帰るのか考えることにしよう。

朝食を食べ終えた後、ソファーでくつろぎながら、頭の中で【多重思考さん(多重思考された人(?)たちのリーダー)】と相談する。

【多重思考さん】が出してくれた案を採用し、今夜、寝る直前のシルフィの元に帰ることに決めた。


まだ、丸一日時間が残ってる。

まだ、何か出来るね。

お茶を飲みながら、まったりと何をするか考えた。


午前中は、食材の買い出しと料理にてることにした。

買い出しに行ったのは、何度も行っている隣の国の海沿いの街の市場だ。

国内の街では顔バレする危険が有るかもしれないと思ってね。

ダンジョンに行っていることになっているので、街中まちなかで目撃されてしまうのは困るよね。

隣の国なら顔バレしていないだろうと考えて、隣の国に行った。

『色々と不自由だなー、今の状況は。』とか思いながら、サクッと買い出しを済ませた。

隠れ家に帰って来てから、『顔に【認識阻害】の魔法を掛けてあるんだから、そもそも顔バレする可能性って無くね?』と、今更いまさらすぎる事を思い出して、うめき声を上げながら膝から崩れ落ちました。orz


それはそれとして。

料理は、新たな味付けの研究をしようと思う。

以前、露店で食べた、タレの付いた串焼きが美味おいしかったので。

先日、その露店のタレを作っているところを【目玉】を通して盗み見て、作り方を調べさせてもらったそうだ。【料理グループ(多重思考された人(?)たちのうちの、料理を担当しているグループ)】の人(?)たちが。

必要な調味料やスパイスは、さっき、市場で購入して来た。

さぁ、やるぜ。

キッチンで味の再現に挑戦したが、いまいちだった。

うーーん。

火加減とかが違ったのだろうか?

材料が揃っているだけでは、再現できないものなんだね。

火加減を変えて再挑戦しようと思ったが、材料が無駄になるだけになりそうだったので、それはめた。

更なる情報収集を頼んで、またの機会に再挑戦しよう。


午後は、畑と花畑を見て回った。

荒野に作った畑には、たいして変化が無かった。

まだ数日だからね。変わりようが無いよね。


花畑に行くと、そこそこの数のハチが飛んでいた。

これならハチミツに期待が出来そうだ。(ニッコリ)

ニッコリしていたらハチがこちらに向かって来たので、慌てて転移して逃げました。

【目玉】を通して見ればよかったね。

次からはそうしよう。


リンゴとかの木は、荒野の畑以上に変化に期待出来ないのだが、どんな場所に植えたのかを見ていなかったので、それを確認する為に見に行った。

木は日当たりの良い斜面に植えられていた。

リンゴならリンゴだけというふうに、種類ごとに一纏ひとまとめに植えられていた。

ごちゃ混ぜにしないで分けて植えた方が、ハチミツの味に違いが出そうだから、これはこれで良いだろう。うん。


隠れ家の畑も見た後、玄関の表札を外すのを忘れていた事を思い出した。

すっかり忘れてたぜ。思い出してよかった。

頭の中で【多重思考さん】が、『ちっ。』とか言っていますが。(苦笑)

目立たぬ様に打たれている釘を、色々な角度から見て探し出し、【分離】魔法さんで、すべての釘を取り除いた。

無駄に良く出来た表札は【無限収納】に仕舞い、ダンジョンに居る【目玉】をかいして、ダンジョンにポイッてしました。

ダンジョンの栄養になるようにね。

…変な魔物とかが誕生したりはしないよね? ただの木だもんね。

………。

うん。大丈夫だと信じている。


風呂に入り、夕食を済ませた。

ダラダラと過ごしながら、シルフィの元に帰る段取だんどりを【多重思考さん】と打ち合わせる。

『服装をどうするか?』で、少し悩んだ。

あの日に着ていた服がいいのかな? 肩のところからそでが無くなってるけど。

それとも別の服の方がいいのかな?

【魔法の腕】の事は知られているから、着替えていても不自然ではないのだが、どちらがいいのだろう?

うーーん。

あの日に着ていた服にするか。

急いでダンジョンを攻略してきた様に見せる為にね。

その方がいいよね。

でも、靴は履き替えておこう。王宮に行く以前に履いていたモノに。

あの日に履いていた靴は、ダンジョンに行っていたにしては綺麗すぎて不自然だからね。


準備(小細工こざいくとも言う)を整え、シルフィの元に帰るタイミングを待つ。

シルフィが寝る直前に、シルフィの元に行きたいと考えているから。

ボロが出てしまわない様に、シルフィの元に帰ってすぐに寝てしまいたいからね。

その為に、シルフィが寝る直前に、シルフィの元に行きたい。

ウロウロ歩きながら【多重思考さん】の合図を待った。

『いきます。』

頭の中でそう言われた直後、俺は【多重思考さん】によって、シルフィの元に転移させられた。



「ただいま。」


ベッドルームに居たシルフィの前に【転移魔法】で現れた俺は、シルフィにそう言った。

シルフィは、ビックリしている。

まぁ、いきなり目の前に人が現れたら、誰だって驚くよね。

シルフィが何か言う前に、近付いて抱きしめた。

『一気に畳み掛けましょう。』と、【多重思考さん】にアドバイスを受けていたから。

胸元からシルフィの「ふへぇぇ。」って声がする。

”残念かわいい”シルフィらしい声に、何となくなごむ。

シルフィを抱きしめたまま、頭をなでなでする。

しばらく、なでなでしていたら、「でへへ。」って声が胸元から聞こえてきた。

よし、落ちた。(笑)

あまりにチョロ過ぎて、夫としては少々心配になりますが。

まわりのメイドさんたちが『チョロい…。』、『チョロぎる…。』とかつぶやいているのが聞こえてくる。

メイドさんたちも、シルフィが”チョロ過ぎる”と思った様だ。

ですよねー。(苦笑)

そのまましばらく、シルフィの頭をなでなでし続けた。


少しシルフィから体を離して、シルフィに言う。

「疲れた。眠い。もう寝る。」

ボロが出かねないので、あまり話をしたくない。

だから、とっとと寝てしまいたい。

体に【クリーン】を掛けて、【無限収納】からパジャマを取り出して着替える。

シルフィとメイドさんが着替えを手伝ってくれた。


シルフィとベッドに入る。

メイドさんたちは部屋から出て行った。

いつもは、シルフィが俺に抱き着いているのだが、今日は俺がシルフィに抱き着く。

【多重思考さん】から、そうアドバイスを受けていたから。

シルフィが「ふおおおぉぉぉ。」とか言っている。(苦笑)

シルフィの”残念かわいさ”に、ちょっと笑い出しそうになる。

シルフィの胸に顔をずm…、顔を乗せて、「おやすみ。」と言う。

やたらドキドキ言っているシルフィの鼓動を聞きながら、俺はそのまま寝た。



< シルフィ視点 >


ビックリしました。

いきなりナナシさんが現れたので。

ビックリして何も考えられないうちに、ナナシさんに抱きしめられました。

これにもビックリしました。

「ふへぇぇ。」

変な声が出た様な気がしましたが、何も考えられません。

頭をなでなでされている感触がします。

その感触に気持ちが落ち着いていきます。


ナナシさんの腕に抱きしめられています。

腕は霊薬を使って治したみたいです。

ナナシさんの腕の中で、私は安堵あんどします。

ナナシさんのぬくもりを感じます。

嬉しい。

ナナシさんの背中に手を回し、私も抱きしめます。

久しぶりのナナシさんのぬくもり。

久しぶりのナナシさんのにおい。

頭をなでなでされる感触。

幸せ。

体から力が抜けそうになります。

「でへへ。」

ちょっとだけ変な声が出てしまいました。


少し体を離され、ナナシさんが言います。

「疲れた。眠い。もう寝る。」

そうです。ナナシさんはダンジョンに行っていたのです。

疲れていて当然です。

寝かせて差し上げましょう。

ナナシさんは自分の体に【クリーン】を掛けて、どこからかパジャマを取り出しました。

着替えをメイドさんと一緒に手伝います。

どこも怪我けがはしていない様ですね。

さすがナナシさんです。

ナナシさんにパジャマを着せながら考えます。

こうしてナナシさんのお世話をするのは初めてな気がします。

こういう事をするのも、意外と嬉しいものですね。


ナナシさんと一緒にベッドに入ります。

いつもの様にナナシさんに抱き着こうとしたら、逆にナナシさんに抱き着かれました。

「ふおおおぉぉぉ。」

また変な声が出てしまいました。

初めての出来事に驚きます。すごくドキドキします。

ナナシさんが私の胸に顔をずm………、顔を乗せて、「おやすみ。」と言います。

残念な気持ちを放り投げて、ナナシさんの頭をなでなでします。

ドキドキします。

大好きなナナシさんに抱き着かれて、ドキドキします。

しばらく、ナナシさんの頭をなでなでしていたら、ふと気付きました。

『今までで一番、妻っぽい事をしている!』と。

ナナシさんの頭をなでなでしながら、考えます。

『私は今まで、妻らしい事を何かしていたでしょうか?』

『妻らしい事を、何一つしていなかったのではないでしょうか?』

私は、ただ、一方的に甘えていただけの様に思いました。

そうですね。

私は、ナナシさんに一方的に甘えていただけでしたね。

そんな私のところに帰って来てくれたのですね。

こんな私のところに帰って来てくれたのですね。

『嬉しい』という気持ちと、『申し訳ない』という気持ちが湧き上がります。


私は、ナナシさんの為に何かをして差し上げることが出来るのでしょうか?

今の『一方的に甘えているだけ』の関係のままではいけません。

ナナシさんのお役に立たなければなりません。

真剣に考えます。

やはり、彼の望む『ごとけて、のんびりごす生活』をさせてあげる様にするのが良いのでしょうか?

ナナシさんが望む事は、それしか聞いていませんし。

ごとけて、のんびりごしてもらえるように、私がしてあげましょう。全力で。

そもそも、プロポーズの時にそう言ったのですから、その様にして差し上げていなければならなかったのです。

それなのに、結婚式の前には色々な勉強をさせられて疲労困憊ひろうこんぱいになっていました。

結婚式の後も、しばらくはそんな状態のままでした。

結婚する為に必要な事だったとは言え、その事に甘えて押し付けてしまっていました。

そしてあの日も、肖像画を描くのに結婚式の時の衣装を着ることをお願いしました。

『結婚式の時はじっくりと見れませんでした。じっくりと見たいです。』とか言って、ナナシさんにおねだりしました。

本当に甘えてばかりでした。

妻らしい事なんて、何もしていなかったのに。

今までの自分に、すごく腹が立ちました。


過去は変えられませんが、未来は変えられます。

良き妻となって、ナナシさんのお役に立ちましょう。

そうしなければ、自分で自分が許せません。

そうです。

良き妻となって、ナナシさんのお役に立つのです。

そう決めて、ナナシさんの頭をなでなでしました。


ふと、言い忘れていたことを思い出しました。

ナナシさんが突然現れたので、ビックリして忘れていました。

おどろかせたナナシさんが悪いんですからね。』

そんな文句を心の中で言って、ナナシさんの頭をなでながら小さく言います。

「おかえりなさい。」と。

ですが、それだけでは足りない気がしました。

『私がナナシさんに掛けて差し上げるべき言葉』としては何か違う。と。

そう思ったら、その言葉が頭に浮かんできました。

そうですね。これですね。

私はナナシさんを抱きしめながら言います。


「帰って来てくれて、ありがとうございます。」


私は、満足感と幸福感を感じながら、眠りに就きました。


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