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姫様を助けたのは失敗だったが、割と好き勝手に生きています。  作者: 井田六
第十一章 異世界生活編06 新生活編
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< 14 事件13 ナナシの自由時間 小休止。そして、その頃のシルフィ >


昼食を食べ終えて、居間のソファーでまったりとくつろぐ。

午前中は魔道具を調べたり、水を出す魔道具を作ったりした。

残っていた宿題を片付けた様な気分がする。

ホッとして、体の力が抜ける。


『さて、午後は何をしようかなー?』

体を脱力させ、ソファーでまったりしたまま考える。

”したいこと”を色々としてたけど、他にもしないといけないことが有ったよね?

何だったっけ?

『ゴマすりです。』

頭の中で【多重思考さん(多重思考された人(?)たちのリーダー)】が、そう簡潔に教えてくれた。

ああ、そうだったねー。

怒っているであろうメイドさんたちの機嫌を取る為に、何か”ゴマをする物”が必要だと思っていたね。

体を脱力させ、ソファーでまったりしたまま考える。

考える…、ゴマをする物を。

考える……。

………ぐぅ。



んあ?

目を開ける。

「んーーー。」

ソファーに座ったまま、体を伸ばす。

「んーーー? 寝てたー?」

誰に言うでもなく、そんなことを言う。

『寝てました。』

頭の中で【多重思考さん】が、律儀りちぎにそう答えてくれた。

「んーー。」

ソファーに座ったまま、もう一度体を伸ばす。

「はぁ。」

「お昼ご飯を食べた後って、眠くなるよねー。」

誰に言うでもなく、そんなことを言う。

『ソウデスネー。』

興味が無さそうな【多重思考さん】の声が頭の中でした。


何だか、久しぶりにダラダラした気がするな。

こうして昼寝をしたのなんて、いつ以来だろうね?

結婚式まで忙しかったし、結婚式が終わった後も忙しかった。

その前は、公爵家と勝負をしていて、その前は少しのんびりしていたね。王宮に居たから昼寝はしなかったけど。

その前は姫様と出会って、助けて、色々してたね。

さらにその前だね、ダラダラしていたり、昼寝が出来たりしていたのは。

うん。久しぶりだったね。こうして昼寝をするのも。

窓の外を見ると、陽が傾いている様だ。

これから何かをしようという気にはならないな。

うん。今日はもうダラダラしよう。

たまには良いよね。

俺はダラダラすることに決めた。

『新魔法披露。(ボソッ)』

頭の中で【多重思考さん】が何かをボソッと言っていますが、俺はダラダラすることにします。

そう決めたと言ったら、決めたのだっ。

最近すっかり忘れていた、『ごとけて、のんびりごす生活』です。

初心しょしんを思い出して、俺はソファーでダラダラした。




< その頃のシルフィ >


ナナシが隠れ家のソファーでダラダラしていた頃。

シルフィは悩んでいた。

『これはマズイ。』と。

悩んでいるのはナナシのことではない。

いや、ナナシも関係はあるのだが。

悩むシルフィの、今朝からの様子を振り返ろう。


朝。ベッドの中で目を覚ました。

昨夜は良い夢を見ていた。

幸せな夢だった。

だから、今、自分が抱き着いているのはナナシだと勘違いしていた。

「むふふー。」

抱き着く力を強めて胸に顔をこすり付ける。

「………?」

違和感を感じた。

違和感を感じたから、”それ”を無意識にさわる。

むにょむにょ

「………?」

少し頭が冴えてきた。

そして違和感の理由に気が付いた。

自分が抱き着いているのはナナシではなく、アンだった。

『あぁ、そうねー。アンねー。』

昨日からアンの家に滞在していることを思い出した。

そのことを思い出しながらも、”それ”をさわる手は無意識に動く。

もにょもにょ

「………?」

違和感を感じた。

さらに手が動く。

むにょむにょ

『…アンって、こんなに大きかったかしら…?』

ぼんやりとそんなことを思う。

「シルフィ…。何をしてるの?」

頭の上から呆れた様な声がした。

その声で、ハッと目が覚めた。

手を”それ”からはずし、目線めせんを上げる。

親友の呆れた様な顔があった。

「お…、オハヨウ。」

変な事をしてしまった気恥きはずかしさから、どもってしまう。

「おはよう…。」

呆れた様に挨拶を返された。

「あははは……。」

仕方なく、笑って誤魔化ごまかした。


アンと一緒に朝食を摂る。

アンは、シルフィが落ち込んでいない様に見えたので、その様子に安堵あんどしていた。

一方のシルフィは、それどころではなかった。

アンと食事をしながら少し会話をしつつも、意識はアンの胸に行っている。

『僅かな揺れも見逃さない。』とばかりに。

食後にお茶を飲み、一緒に庭を散歩する。

庭の花々を眺めつつも、ちらちらとアンの胸を見る。

その様な観察は夕方まで続いた。


アンの部屋でお茶を飲む。

メイドさん二人をまじえて四人で雑談している。

「あっはっはっ。」と、アンが笑っている。

アンの胸が、それに合わせて上下に揺れる。

シルフィの目は、アンの胸の揺れに釘付けだ。

その揺れを見て、シルフィは結論を出した。

結論が出ると同時に、その言葉もまたシルフィの口から出た。

「裏切者ぉぉ。」


驚くアンと、溜息ためいきいて呆れるメイドさんたち。

そして、一人(あら)ぶるシルフィ。

姫様付きのメイドさんが、すかさずシルフィを確保した。

アンは、メイドさんにうながされるまま別の部屋に避難させられた。

ここは、アンの家のアンの部屋なのだが…。


この突然の出来事にメイドさんたちが落ち着いて対処できたのは、これが想定内の出来事だったからだ。

姫様と一緒にこの伯爵邸に来たメイドさんたちは、男のフリをしていないアンを初めて見た。

胸が大きかった。

『男のフリをしていた時は布でも巻いていたのだろう。』と、一目ひとめ見てさっした。

そして、こりる事態も想定できた。

姫様がやらかすであろう、その事態を。

だから、その対策を考えた。

伯爵邸に来た当日の内に、屋敷のメイドさんたちと意見交換。

『必ず姫様が問題を起こします。』と伝え、その日の内に対策を講じていた。

さすがである。

姫様が残念とも言えるが。

姫様ェ…。


さて。

メイドさんに確保された、あらぶるシルフィ。

抱きしめられて、頭をなでなでされて、落ち着きを取り戻してきた。

「ふわぁー、落ち着くー。」とか言って、メイドさんの胸に顔をスリスリして抱き着いている。

だが、この流れでそのセリフはどうなのだろう?

メイドさんからちょっとだけ黒いオーラが出ているのだが…。

その後、メイドさんにたしなめられて、アンのところに行って謝罪をして、残念な姫様の残念な騒動は終息した。


しかし、シルフィの心の葛藤かっとうは終わらない。

シルフィには、アンと会って話さなければならない事が有ったから。

当時アントニオと名乗っていたアンが女だとバレそうになった時、ナナシに間近まぢかに迫った結婚式で新郎の席に座ってもらう様にお願いした。

その時シルフィは、ナナシに『報酬ほうしゅうが美少女二人。』と言った。

この”美少女二人”とは、もちろんシルフィとアンのことである。

その後、アントニオ(=アン)との婚約の解消の発表があり、公爵家とナナシが勝負をすることになったり、アンが自主的な謹慎で実家に帰ってしまったりと、色々な事があった為、”報酬”の話をアンとする機会が無かった。

今回、その話をする機会があると思っていたし、その話をするつもりであった。

だが、そこにあの”大きな胸”である。

あんなに大きいとは知らなかった。orz

『マズイ。』

『これはマズイ。』

『あの胸はマズイ。』

シルフィは本気でそう思った。

『アンをその気にさせてはならない。』

『だから、”あの話”をするのはやめよう。』

そう決めた。

『ナナシさんの”ナ”の字も出さない。』

夫に恋するシルフィは、そう心に決めた。

シルフィのその決心で、シルフィはナナシの事を考える余裕を失った。


ナナシの事を考える余裕を失ったことは、良かった事なのか、悪かった事なのか。

それが分かる者など、何処どこにも居ないかもしれない。


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