< 13 事件12 ナナシの自由時間 魔道具製作と魔道具鑑定 >
少し時間が出来たので、『この時間に何をしようか?』と考える。
ふと、『水を出す魔道具を作ろう。』と思った。
この隠れ家には、そういう設備がまったく無いからね。
水差しに、水を作り出す魔法を付与した魔晶石をくっ付けて、魔道具化すればいい気がするな。
簡単だね。
【無限収納】のリストを見る。
水差しは一つしかない様だ。
うーん。どうしようか?
水以外を入れたい時も有るかもしれない。…かなぁ?
いまいち分からないな。
水差しを使うのは、今回は止めておくか。何となくだけど。
水差しを魔道具化する以外のやり方を考える。
水槽に水を貯めて、蛇口から水を出す感じかな?
水を使う場所に行って、何処に置いて、どの様に使うかを考えてみようか。
そう思ったら、頭の中で声がした。
『料理をする際には魔法で水を出すので、キッチンには不要です。』
声の主は【多重思考さん】ではなく、【料理グループ(多重思考された人(?)たちの内の、料理を担当しているグループ)】の誰かの様だ。
【料理グループ】がそう言うのなら、キッチンには不要だね。
となると、洗面所(手洗い場)だね。
洗面所に来た。
ただ洗面台が在るだけの洗面所だ。
洗面所に有りがちな棚も無い。【無限収納】が有るからね。
正面の壁に取り付ける様に、奥行きが無くて幅の広い、木で出来た升みたいのを置いて、蛇口から水を出す感じかな?
頭の中で、升の大きさや取り付け位置などを考える。
そして【製作グループ】に、升と蛇口の製作をお願いした。
よろしく頼む。
俺は魔晶石に書き込む魔法を考えよう。
居間に戻ってソファーに座り、魔法の内容を考える。
魔法で水を作り出して、升に貯めておいて、水が減ったら追加する。
こんな感じだろう。
水が減った事を検知する必要があるな。
どうやって検知すればいいのかな? 水位? 重さ?
うーん。
魔法で検知する方法が思い浮かばないな。
【鑑定】で水の量が分かるよな。【鑑定】を使うと、”重さ”とかが出て来るからね。
よし、貯まっている水の量は【鑑定】で調べよう。
他にON/OFF機能も付けておいた方がいいな。
この隠れ家に居ないことの方が多いのだから、水を腐らせない様に、水を抜く機能も必要だろう。
それだけでいいのかな?
水を使う時は、蛇口を操作して機械的に水を出せばいいよね。
魔法で水を出すとなると、めんどくさい気がするし。
仮に魔法で水を出すとなると、どうやればいいのかな?
水の出口を結界で塞いでおいて、その結界を消せば水が出るか。
あれ? 想像していたよりもずっと簡単だったね。
水を止める時は『止まれ。』とか言って止まってくれた方が、蛇口を操作するよりも早く止まるよね。
よし。水を”出す”のと”止める”のも魔法でやろう。結界を使ってね。
これで、使う魔法と、その魔法の使い方が固まったな。
使う魔法は【クリエイトウォーター】と【鑑定】と【侵入不可】結界。
これらの魔法の諸条件を決める。
一度に作る水の量とか、残量を確認する頻度とか、残量がどれだけになったら水を追加するのかとか、水の出口を開いたり塞いだりする際のワードの設定などなど。
これらを頭の中で【設定】する。
そして、【製作グループ】が用意してくれた魔晶石に魔法を書き込んだ。
よし。
これで魔晶石の方は完成した。
『こちらも準備できました。』
頭の中で声がした。
頼んでいた升も出来上がった様だ。
洗面所に向かう。
既に木で出来た升が壁に取り付けられていた。
仕事が早いね。
木の升の右上に小さな引き出しが有った。
頭の中で促されるまま、そこに魔晶石を入れ、引き出しを戻した。
これで水を出す魔道具が出来上がったはずだ。
早速、試してみよう。
「ON。」
バシャバシャバシャ
升の中で水の音がした。
水を作り出すのは上手くいった様だ。
次に水を出そう。
升の下の方に蛇口が在るね。レバー式の。
筒状の水の出口が在ればそれで済むのだが、最初は蛇口を付けるつもりだったからね。
『見た目で使い方が分かることも、道具として重要です。(キリッ)』
そんな声が頭の中でする。
まぁ、せっかく作ったのだから使ってほしいよね。
喜びながら試行錯誤して蛇口を作っていたっぽい感情が、頭の中でしていたし。
蛇口のレバーを上げる。
水は出ない。
魔法の方がレバーの操作に対応していないからね。水が出なくて当然だね。
「みず。」
ジャー
設定しておいたワードを口にすることで、水の出口を塞いでいた【侵入不可】結界が消されて水が出た。
「とまれ。」
水が止まった。
「出して。」
ジャー
「ストップ。」
ちゃんと、設定しておいたいくつかのワードで、水を出したり止めたり出来る事を確認した。
次は、水が減ったらそれを検知して、水を追加する機能の確認だ。
「みず。」
ジャーーーーーー バシャ
「とめて。」
水が減ったら、ちゃんとそれを検知して、水が追加された様だ。
よし。ちゃんと動作したね。(ニッコリ)
さて。
蛇口のレバーと魔法との連動をどうするかな?
うーん。
うーん。
連動させる方法を思い付かないな。
取り敢えず、【侵入不可】結界を消した状態にしておいて、レバーで操作する状態にしておくか。
そうしよう。
よし。これで完成だ。
やったね。
水を出す魔道具の完成を喜んでいたら、頭の中に【多重思考さん(多重思考された人(?)たちのリーダー)】から報告が来た。
『【詳細魔道具鑑定】が終わりました。』
頼んでいた【不可視(上級)】の魔道具の調査が終わった様だ。
「どうだった?」
『【不可視(上級)】は、可視光線だけでなく赤外線でも見えなくなるものでした。また、紫外線の一部でも見えなくなります。』
なるほど。
メイドさんたちが赤外線を見ることが出来る魔道具を持っていることは知っていたが、その魔道具では見付けることが出来なかったんだね。
この魔道具の所為で気付けずに、王宮への侵入を許してしまったんだろう。
さて、この魔道具はどうしようかね?
この魔道具を引き渡して、侵入されない様に対策を考えてもらうとすると、『どうやって見付けることが出来たのか?』を訊かれるよね。
【魔力検知】で見付けた事って、教えて良い事だったっけ?
”今の【目玉】”は、【魔力検知】で見付けることが出来なくなっているから、教えても良いのかな?
でも、手の内はあまり明らかにしたくないよな。俺の安全と安心の為に。
何が良くて、何がダメなのか。そういう線引きをする事は、あまり良くない事だと俺は思っている。
その線が、その時の気分でフラフラしてしまいそうだから。
うーん。どうしようかね?
『紫外線で見て、見付けた事にしましょう。紫外線を見る魔道具は作ることが可能ですし。』
そうするか。
うん。そうしよう。
『もう一点、報告があります。』
『【不可視(上級)】の魔道具ですが、【詳細魔道具鑑定】したら”アーティファクト”と出ました。この表記は、おそらく”ダンジョンから出た物”を指しているのだと思います。』
ほう。
『人が作った物ではない。』という事は朗報かな。
人が作れないなら、多くは存在しないだろう。
あまり数が出回っていない方が有り難いよね。
さて。
【不可視(上級)】の魔道具は引き渡していいけど、他の物はどうしようか?
【不可視(上級)】以外には、以下の魔道具が有る。
【人除け】x2個、【スリーブ】x2個、【沈黙】、【混乱】x2個、、【不可視化】、【スロー】、【遮音】x2個、【ファイヤーボール】、【バインド】x2個。
【多重思考さん】に訊く。
「この中に、魔法が存在しない物ってある?」
『すべて魔法が存在します。』
「【沈黙】とか【混乱】とかは、”魔法”ではなくて、”呪い”なのかなって思ってたんだけど。」
『この魔道具に使われている物は、すべて”魔法”です。』
「ぢゃあ、その魔道具が無くても、俺はその魔法を使えて、【魔法無効】とかで対策が出来るってことだね。」
『はい。すべて使えて、すべて対策できます。この中に脅威になる物は有りません。』
「ぢゃあ、引き渡さずに俺が持っておいた方がいい物っていうのは無いよね?」
『そうですね。』
ぢゃあ、全部引き渡していいかな?
いや、【ファイヤーボール】の魔道具は引き渡さずに、俺が持っておこう。危ないからね。
こういう危ない魔道具は俺が持っていた方が安全だよね。
俺は使わないからね。
それに、俺の方が危険だから。
………………。
なんか、自分で言って、自分で傷付いていますが、俺の気の所為だと思います。