< 11 事件10 ナナシの自由時間 畑完成 >
時間を早める魔法を使って、植える予定のジャガイモと大豆に芽と根を生やすことが出来た。
それらを植えるのをゴーレムに頼んだ。
その後、傷心(?)のゴーレムのケアをしてから、もう一度、俺も畑に来た。
畑を見る。
木を植えてくれているゴーレムと、ジャガイモを植えてくれているゴーレムが居る。
木は、二本目を植えている最中の様だ。
既に隅に植えられた木を見ると、倒れない様にであろう、腰くらいの高さの支えが組まれていた。
作業があまり進んでいない様に見えるのは、それに手間取ったのかもしれないね。
或いは、植える木を探すのに手間取ったのかな?
俺の疑問に、頭の中で【多重思考さん】が答えてくれた。
『支えの方に手間取りました。ガッチリ固定してしまっては育った時に困ると思いましたので。』
なるほど。
『考えた結果、三方向から蔓で緩く縛りました。』
とのことだった。
畑の中ほどを見ると、ゴーレムがジャガイモを植えている。
手で土を掘って、芽と根が出たジャガイモを置いて、土を被せる。
そんな風に作業をしている。
普通の作業なのだが、何か違和感があった。
よく見たら、ゴーレムの形状が変わっていた。
『小さくしたのかな?』と思ったのだが、それだけでは無く、人間っぽいスマートな形状に変わっていた。
頭の中で【多重思考さん】が説明してくれた。
『畑を耕すのには”パワータイプ”で作業しました。』
『作物を植えるのには、汎用性の高い”人間タイプ”で作業しています。』
『そもそもゴーレムは形自体も作っていますので、いくらでも形を変えることが可能ですので。』
『いつも、作業に合わせて最適な形を模索しています。』
とのことだ。
【製作グループ(多重思考された人(?)たちの内の、物品製作をしているグループ)】の創作意欲は、使うゴーレムにまで及んでいた様だ。
さすがです。(何かを諦めた様な笑顔)
畑で作業するゴーレムたちの中に、一つ変な形状のゴーレムが混ざっていた。
どうにも見た目がキモイんですがっ。
これについても、頭の中で【多重思考さん】が説明してくれた。
『作物を植えるのに最適な形を模索して、あの様な形になりました。』
『土を踏み固めない様に四本足にする事は、すぐに決まりました。』
『さらに軽量化をする為に上半身を無くし、腕は、腰に当たる位置から生やすことにしました。』
『腕を左右に一本ずつでは正面でしか作業が出来ないので、体の側面にも、両側に一対の腕を生やしました。』
その姿を例えるなら、トカゲから頭としっぽを取り除いて足を長くして、胴体の正面と両側面にそれぞれ一対の手を生やした様な感じだ。
うん。見た目ェ…。
「最適な形を模索するのは良いんだけど、キモ過ぎぢゃないですかね?」
『フッ。見た目など重要ではありません。大事なのは機能です。(キッパリ)』
いや、そう言われても限度があると思うんだよー。
あのゴーレムは、なるべく視界に入れない様にしよう。(何かを諦めた様な笑顔(さっきぶり二回目))
まだしばらくは作業は終わりそうにない。
そう思い、俺は畑をボーっと眺めていた。
そんな俺に、頭の中で【多重思考さん】が話し掛けて来た。
『水を撒く方法で少し悩みました。』
ほう。水を撒く方法か…。
『畑を耕した後、森から持って来た、落ち葉が腐葉土っぽくなった物を撒いて、水も撒き、もう一度、混ぜる様に畑を耕しました。』
『水を撒くのに、【クリエイトウォーター】で大きな水の球を作り、それをゴーレムの手で叩く様にして水を撒いたり、小さい水の球を沢山作って畑に撒いたりしました。』
『ですが、水を撒く方法は、他に良い方法があるかもしれません。』
ふむふむ。
俺も水を撒く方法を考える。
水を作るのは【クリエイトウォーター】でいいとして、『水を撒く』と言うと、ジョウロやスプリンクラーだろうか?
ジョウロを作るのは、まぁいいとしても、スプリンクラーの方は面倒な事になるよね。
スプリンクラーの場合は水圧を掛ける装置も必要になるし。
うん。スプリンクラーは無いな。
【クリエイトウォーター】で作った水をジョウロに入れて、それを【魔法の腕】で持って、水を撒くのかな?
無いな。
もう少し、魔法で何とかしようぜ。(苦笑)
雨の様に畑に水が撒かれる様子を、頭の中で思い浮かべる。
ん? 雨?
閃いた。
雨が降っているところで【ゲート(入口)】を作って雨を受けて、畑の上に【ゲート(出口)】を作って雨を出せば、水を撒けるよね。
早速、実験してみよう。
頭の中で【多重思考さん】に、『雨の降っている場所に居る【目玉】ってある?』と訊こうと思ったら、既に動いてくれていた。
『いきます。』と頭の中で声がする。
すると、畑から少し離れた場所に雨が降った。
畑ではまだゴーレムが作業しているから、畑を避けた様だ。
『ザァ』という音を聞きながら、濡れて黒くなっていく地面を眺める。
【ゲート】の形は丸かったと思うのだが、濡れて黒くなっていくその形は四角い。
どうやら沢山の【ゲート】を四角く配置している様だ。畑の形に合わせる様に。
さすが【多重思考さん】。 無駄に芸が細かい。(笑)
これで、水を撒く方法は決まったね。(ニッコリ)
この方法なら、道具も水を撒く労力も要らないから、これでいいね。
良い魔法の使い方を見付けて、俺は満足だった。
満足感に浸りながら降る雨をしばらく眺めていたら、畑の作業も終わった様だ。
畑に目を向ける。
ゴーレムは既に撤収していた。
次の創作活動をする為に工房に帰ったのだろう。
工房で何かをやらかす危険も在るが、”アレ”が視界に入らないだけでも十分喜べるね。(苦笑)
畑の四隅には木が植えられ、ジャガイモと大豆を植えられたところは、土がふかふかしている様に見える。
こう見ると、普通の畑にしか見えないね。
すげぇ。
ただの荒野だった場所には見えないよ。
半日も掛からずに、これだけの畑を作れたことに、俺は満足した。
やったね。




