< 07 事件06 ナナシの自由時間 【物理無効】の結界の弱点を考える >
隠れ家で昼食を終えた。
【多重思考さん】たちには、料理をお願いすることにした。
これで俺が何もしなくても、【無限収納】の中に料理が溜まって行くね。
そう思ったが、頭の中で【多重思考さん(多重思考された人(?)たちのリーダー)】にツッコまれた。
『食材が無いと作れませんからね。』と。
ああ、そうだったね。忘れちゃいけないよね。
うん。食材、大事。
『ですが、畑があれば作物を育てて、収穫して、料理して、種まきして、また収穫しますよ。』
………………。
あれ?
すごくない?
畑があれば、食材を用意する必要も無くなるの?
すげぇ。
畑が欲しくなるね。
領地が在るから、畑も何とかなりそうだね。
いや、いっそのこと荒野に畑を作るか。
荒野を緑地化できるのだったらしたいよね。
ボッコボコにした荒野の埋め合わせ的な意味でも。(苦笑)
荒野に畑を作るのは魔法で何とかなるかな? なるよね。
ゴーレムで耕して、石があったら【分離】魔法さんで取り除いて、水は魔法で作り出して、お日様だって【ゲート】を使えば自由自在だよね。
あれ?
魔法って農業に最適ぢゃね?
俺、最強の農家になれちゃわない?
【多重思考さん】たちが畑を作り、作物を作り、収穫して、料理して。
そして、俺は食べるだけ。
すげぇ。
最高ですね。
うん。夢が広がるね。
俺が頭の中で夢を広げていると、【多重思考さん】に話し掛けられた。
『結界魔法を改良しましょう。』と。
?
「なんで?」
意識が夢の中へ行っていたので、ぶっきらぼうな返事になってしまった。
ちゃんと意識を向けて考えよう。
結界魔法に何か問題って在ったっけ?
ああ、【目玉】が【魔法無効】の結界を無効化してしまう問題が在ったね。
『それは対策不可能です。』
【多重思考さん】にさらりと言われた。
「あれ? そうなの?」
対策を頭の中で考える。
考える。考える。
「うん。無理! 確かに対策不可能だわ。」
俺が考えている間待ってくれていた【多重思考さん】が頭の中で言う。
『姫様の身を守る為の魔道具の結界魔法を改良しましょう。まだまだ改良の余地があると思います。』
そう言われて少し考える。
昼食前に、シルフィの体に結界を張った。
改めて、魔道具をどうこうする必要って有るのかな? 無いんぢゃないのかな?
『やれやれだぜ。』って感情を、頭の中に感じます。
時々失礼だよね、【多重思考さん】。(苦笑)
『姫様に身を守る為の魔道具をプレゼントする事に、大きな意味が有るのです。』
ああ、そうか。
謝罪の意味でだね。
うん。重要だね。
はい。重要です。
『それに、本体さん(=俺のこと)が死んだ後は、結界を張り直す事が出来なくなりますから。』
ああ、そうか。
そう考えると、魔道具も大事だね。
それぢゃ、結界の『改良の余地がある』と言う内容について、【多重思考さん】から話を聞くことにしよう。
【多重思考さん】曰く。
『【物理無効】の結界は、”熱”や”強い光”には効果が無いのではないでしょうか?』
『結界の効果範囲の確認と、効果範囲外のモノに対する対策を考えるべきでしょう。』
とのことだった。
言われてみたら、この【物理無効】の”物理”って、漠然と”魔法の反対語”みたいな感じに考えていたね。
でも、キチンと考えたら、この場合の”物理”って、剣の攻撃や打撃みたいなモノの事だよね。
【多重思考さん】に言われた”熱”や”強い光”の他にも”大きな音”なんてのも、この場合の”物理”からは外れていそうな気がするね。
うん。
一度、【物理無効】の結界の効果範囲の確認をしてみた方が良さそうだね。
その後、対策が必要なら、その対策も考えることにしよう。
よし、実験してみるか。
この隠れ家から移動する前に釘を刺しておく。
「新魔法の披露は要らないからね。」
『………………。』
俺はさっさと、いつもの荒野に転移した。
いつもの荒野に来た。
【多重思考さん】は無言だ。
拗ねているのかもしれないね。(苦笑)
よし、実験方法を考えよう。
いや、実験の目的を明確にするのが先かな? 先だね。
これをしておかないと、レポートが纏まらないからね。(経験談)
思わず、レポートを何度も書き直す羽目になった過去の出来事を思い出して、遠い目になってしまいます。(苦笑)
考えた結果、こうなった。
実験目的:【物理無効】の結界の効果範囲を調べる。(出来る範囲で)
実験項目:強い光、熱、大きな音
実験方法:【物理無効】の結界で、上記のものから保護対象を守れるか確認する。
実験項目は、体にダメージを受けそうなモノに限ったのだが、他に無いよね?
うん、無いな。これでいこう。
先ず、”強い光”からやるか。
前に新魔法披露で見せてもらった、光を集めてゴブリンを燃やした時のやり方で良さそうだしね。
保護対象は、何にするかな?
【無限収納】のリストを見る。
”ビッグベアの頭”というのが有った。
これは、毛皮を剥いで、肉を料理に使った後の、その残りっぽいな。他にも”ビッグベアの手”とか”ビッグベアの足”とか有るし。
これにしよう。
10mくらい離れた場所に”ビッグベアの頭”を出して、【物理無効】の結界を張った。
よし、やるぞ。
沢山の【ゲート】を使って、”ビッグベアの頭”に光を当てると同時に光を曲げて収束させる。
”ビッグベアの頭”は、あっさりと燃えた。
全然ダメっぽかった。(苦笑)
でも、ダメなのは分かったが、今のやり方だと熱も発生するから、光の影響なのか熱の影響なのかが分からなかったね。
実験方法を考え直さないといけないな。
純粋に光だけで実験できる方法を考えよう。
考える。考える。
しかし、良さそうな別の実験方法が思い浮かばない。
何をしても熱が発生してしまう気がするな。
うーん。
分からん。
別の実験を先に済まそう。
今度は”熱”の実験をするか。
その辺に転がっている石に【ヒート】の魔法を掛けて発熱させて、【物理無効】の結界で覆った紙でも近付ければいいよね。
【無限収納】のリストを見たら、”枯れ葉”がいっぱい有ったので、手の平の上に一枚出す。
枯れ葉に【フライ】の魔法を掛けて浮かせ、【物理無効】の結界で覆う。
それを、【ヒート】の魔法を掛けて発熱させた石の上に移動させた。
「………………。」
ちょっと時間が掛かりそうだったが、『実験なんだから仕方が無い。』と自分に言い聞かせる。
「………………。」
が、待ち切れなくなったので、【ヒート】の魔法に魔力をマシマシして石を赤熱させた。
それで無事に、枯れ葉が燃えた。
よし。
…石を発熱させる事にばかり意識(と魔力)が集中してしまったが、【物理無効】の結界が”熱”に対して有効かどうかの実験だったね。
そうそう。
忘れてなんかナイデスヨー。(苦笑)
【物理無効】の結界が”熱”を防ぐ効果が無い事が分かった。
次は”大きな音”の実験をするか。
”大きな音”は、どうやって作り出したらいいんだろうな?
大きな音を考えていたら、打ち上げ花火を思い出した。
「爆発か…。」
爆発から音以外を取り除けばいいのかな?
うーん。
爆発は、急激な燃焼で、体積の膨張によって周りの物を押し退けるんだったよな。
音は、空気の振動だ。
少し考えたら、爆発によって発生する、空気を押し退けようとする”力”は、【物理無効】の結界で防げる気がした。
【物理無効】の結界の中で爆発を起こせば、爆発の衝撃は結界の外に出ないで、音だけが外に出るのかな?
そんな気がするな。
確認してみよう。すぐに出来るから。
【物理無効】の結界を張り、その中で【ファイヤーボール】を爆発させた。
ドーーン
音だけが出て来た様だ。
…音だけ抽出して、【物理無効】の結界の実験に使おうと思っていたのだが、音を抽出するのに【物理無効】の結界を使うことになって、結果として『【物理無効】の結界には”音”を防ぐ効果が無い。』ということが分かった。
「………………。」
「よし。(←何となく納得できないが、結果が出た事は理解できた)」
『改めて、光の実験を。』と思ったが、ダメージを受けそうなのは結局”熱”の様な気がするので、最初の実験でもういいや。
それに、よく考えたら【物理無効】の結界を張っても向こう側が見えるのだから、光を”無効化”していないよね。
【物理無効】の結界では”光”を防いでなかったね。
もっと早く気付こうな、俺。
色々とグダグダですが、いつものことです。(開き直んなよ)
”強い光”と”熱”と”大きな音”を防ぐ方法を考えよう。
これらの中で”光”と”音”については、既に【遮光】と【遮音】の結界が在る。
これらの結界の持つ”防ぐ能力”が十分なのかを確認すれば良いだけなので、これらは後回しでいいよね。
”熱”を防ぐ方法について考えよう。
熱を防ぐと言えば”断熱”だね。
魔法瓶的な考えでいいのかな?
となると、”真空”か。
結界を二枚張って、その間の空気を退かしてしまえば、真空の層が出来て熱を防げるよね。
簡単だね。
あ。
そうすると結界の外側から結界の内側に、空気を取り込めなくなるか。
呼吸が出来なくなっちゃうね。
アカンやん。
いや、真空の層に空気の通り道を作っても、その通り道の延長線上に人が居ない様にしておけば、熱によるダメージを受けないかな?
熱の移動は直線的ぢゃないからダメかな。
いや、真空の層を何層にもすれば大丈夫そうだね。
空気の通り道を熱が通っても、何度もくねくね曲げさせれば、熱が通るのを遅くする事が出来るよね?
でも、それだと、結界に厚さが無ければ効果が無さそうだね。
ペラペラの結界だったら、すぐに熱が届きそうだ。
いや、遅くするだけぢゃダメかな?
もっと、しっかりと防ぎたいね。
うーん。
”断熱”以外に何か別の方法って有るのかな?
考える。
”反射”かな?
有効なのは、”断熱”ではなく”反射”かもしれないな。
どうすれば、熱って反射できるんだ?
そう言えば【リフレクション】って魔法が在ったね。
【リフレクション】の魔法って”熱”は反射できないのかな?
「おーい、【多重思考さん】。その辺どうなのー。」
少しの間の後、頭の中に【多重思考さん】から返事か来た。
『調べました。【リフレクション】で熱を反射できます。』
やった。
さらに【多重思考さん】が続ける。
『結界に付与できますので、【物理無効】の結界に【リフレクション(熱)】を付与しましょう。』
おおっ。やったね。
熱に対する対策が出来た。
”熱”に対しては【リフレクション(熱)】。
”光”に対しては【遮光】結界。
”音”に対しては【遮音】結界。
これらで対策が出来そうな事が分かった。
次は、これらの性能を確かめないとね。
あまり性能が低い様だったら、身を守れないからね。
早速実験しました。
ドッカーーンでした。
『手加減ェ…。』
【多重思考さん】の心底呆れた様な声が頭の中でします。
さらに【多重思考さん】が頭の中で言う。
『またSTR(Strength)の値を上げて、体の調子を確認してみてはいかがでしょうか?』
「………………。」
どう見ても、『お前邪魔だから、どっか行けよ。』って言われている気がします。(半泣き)
俺はその言葉に従って、確認作業は【多重思考さん】に任せることにした。
『適材適所だから。適材適所なだけだから。』と自分に言い聞かせながら。
いじけてなんかいません。
自分のSTRの値を【ステータス】の魔法で少し上げて、走ったりして体の調子を確認した。
『慣れてきたかな?』と思ったところで、頭の中で【多重思考さん】から報告を受けた。
『”熱”と”光”と”音”についての対策は、それぞれ十分と言って良い性能が有ります。』
『非常識なほど強力な魔法でない限り防げます。』とのことだった。
「すいませんねー。非常識でー。(いじいじ)」
今回検証したそれぞれの結界は、俺に掛けて、しばらくの間実験するとのこと。
様子を見ながら、結界を通過させる設定範囲を、危険や不便が無い様に調整してくれるそうだ。
全部遮断すると、何も見えなくなっちゃりするから当然だよね。
調整は【多重思考さん】がしてくれるそうなので、任せておこう。
そして最後に【多重思考さん】からネックレスチェーンについての要望を受けた。
『姫様の身を守る為の魔道具に使うネックレスチェーンは、ミスリル製にしてください。』
『魔力が不足しそうなので、ミスリル製のネックレスチェーンを通して姫様の体から少し魔力を貰いたいと思います。』
『姫様のMP(Magic Point)は十分に高くなっていますので、少し魔力を貰っても問題ありません。』
とのことだ。
うーん。まぁいいか。
そうしよう。
「ところで、そのミスリル製のネックレスチェーンなんだけど、王都で買えるのかな?」
『買えます。前に行った魔道具屋さんでも売られています。』
それぢゃあ、あの魔道具屋さんで買うことにするかね。
『よし、買いに行くか。』と思ったが、ダンジョンから帰って来てからでないと、買いに行けなかったね。
って、何度目だよ、これ。
その内、うっかり王都に行ってしまいそうです。冗談抜きで。
今の俺って、自由そうで、あんまり自由ぢゃないよね。
「はぁ。」
溜息が出た。
これで、【物理無効】の結界の弱点の、出来る対策は済んだのかな?
うん。済んだよね。
帰ろうと思いながら、すかさず、【多重思考さん】に言う。
「新魔法の披露は要らないからね。」
『………………。』
一仕事を終えた俺はさっさと、隠れ家に転移した。




