05 ナナシ、王宮のお庭をお散歩する。そして、問題発生
便器を作って部屋に設置した日の昼食後。
俺は、王宮のお庭をお散歩しています。
姫様とアントニオも一緒です。
姫様は、俺の腕にしがみついて「デートみたいですね。」とか言っています。
おいおい。
婚約者が居て、その婚約者の目の前で何を言ってんですかねっ、この姫様はっ!
アントニオが”女”だと知っていても、どう反応していいのか分からないよっ!
仕方が無いからスルーしました。
それしか、出来る事なんて無いよね。
王宮のお庭は、西洋庭園よりは日本庭園により近い感じだった。池は無かったけど。
キッチリ刈り込んだり、幾何学的に並べたりするのではなく、割と自然に見える様に、かつ、しっかり手入れをする。
そんな感じのお庭でした。
広い芝生のお庭も在った。
ここではパーティーをする事も有るんだそうだ。
さすが王宮だね。
庶民の俺には別世界って感じです。異世界だけど。(苦笑)
三人でダラダラ歩きながら雑談をして、姫様の私室に戻ってお茶する事になった。
姫様の私室で三人でお茶をしていると、廊下に飛ばしておいた【目玉(仮称。魔法で作られた目)】で、王様と王妃様がこちらに向かって来るのに気が付いた。
何か様子が変だったので、俺は魔法で姿を消すことを選択。
二人に、一言断ってから姿を消し、カップを持って壁際に移動した。
部屋に入って来た王様と王妃様がソファーに座り、王様が話し始める。
公爵とやらの申し立てにより、アントニオが”女”だという事がバレそうになっていた。
「少し考えさせてください。」を繰り返す姫様に、王様は轟沈した。
王様の隣に座る王妃様は、アントニオが女だと知っていたっぽい。
呆然としている王様を王妃様が引きずる様にして、部屋から出て行った。
「さて。大変困った事になってしまいました。」
姫様の声が少し大きい。俺に言っているのだろう。
「ナナシさん、お願いが有ります。」
俺は姿を現してソファーに座る。
ソファーに座った俺は、姫様から『結婚式で座る席を変更させてください。』というお願いをされた。
『新郎の席に座ってくれ』という意味だ。
「報酬が美少女二人。さらに働かなくてもいい、のんびり過ごす生活が手に入りますよ?」
「誰もがうらやむ生活ですよー。今しか手に入りませんよー。今を逃すと二度と手に入りませんよー。」
少し残念な姫様の、残念な説得を聞き流す。
『面倒な事になったなぁ。』、『どうしたものかなぁ。』と考える。
姫様がさらに何か言い続けるが、自身にアピールポイントが無い事に気が付いてしまったのか、打ちひしがれていらっしゃる。(苦笑)
テーブルに突っ伏して俺の服の袖を摘まむ”少し残念な姫様”を、何とも言えない心境で見る。
この”少し残念な姫様”に『何か声を掛けて差し上げなければ。』と思い、何でこんな状況になったのか、その事情を訊く事にした。
「そもそも、何でアントニオと婚約したんだ?」
姫様は、少し顔を上げて話し始める。
「グラスプ公爵家の息子が『王女の夫に相応しいのは俺しかいない。』とか言いまわって…。」
「公爵家とコトを起こしたくない貴族たちのほとんどは傍観して…。」
「その公爵家の息子が王宮に押し掛けて、メイドさんたちと押し問答をしたり…。」
「そして、メイドさんたちがどんどん殺気立っていって…。」
「この状況をなんとかしようと考えて…。『アンと婚約してしまえば、公爵家の息子も諦めるかな?』と。」
そんな話を姫様から聞いた俺は、ふと、視界に入ったメイドさんを見る。
そのメイドさんは、『私たちのことも考えてくださる、私たちの自慢の姫様ですっ。(フンスッ)』とでも言いたげな表情だ。
「これまでは、上手くいっていたのですが…。」
「アントニオが”女”だとバレそうになった。と。」
「はい。これ以上、誤魔化し続ける事は無理そうです。」
「子供の事はどうするつもりだったんだ? 将来必要になるんじゃないのか?」
「秘密を共有していただける良い方がいらっしゃれば、その方にお願いしようと考えていました。」
それって、上手くいくのか?
どうして、そんな事を実行してしまったのかねぇ?
いずれ、困った事態になってしまうのが目に見えていたと思うんだが…。
少し、問い詰めたい気持ちになるね。
めんどくさいから、しないけど。
さて。
姫様と話をしていて、気になった事が一つ。
なんで、廊下にメイドさんが沢山居るんですかね?
盗み聞きをしているだけですよね?
何やらハンドサインをしている様にも見えますが、盗み聞きをしているだけですよねっ?
踏み込もうとしている訳ではないですよねっ?
ちょっとビビりながら、先ほどのメイドさんをチラリと見る。
メイドさんニッコリ。
でも、笑顔のメイドさんの背後に『私たちの姫様を泣かせたら許しませんよ。(ギロリ)』ってオーラが見えます。
そのオーラにもビビりながら、改めてメイドさんの笑顔を見る。
『姫様を頼みますね。(はあと)』
そう言っている様に感じます。
対応を間違えると『絶対殺す!(ギヌロン)』に変わりそうですがっ。
すっごく怖いんですがっ!!
先日調べた、メイドさんたちの【ステータス】やら【称号】やらを思い出す。
敵には回したくないよなぁ。うん。
この場から逃げようと思えば逃げられるけど、この”少し残念な姫様”を何とかしてあげたいという気持ちも有る。
うーーむ。どうしようか?
「結婚式で新郎の席に座っていただければそれで十分です。それ以上は求めません。」
そう言う姫様。
その辺りが妥協点だろうか?
うーーむ。
ふと、視線を感じてメイドさんを見る。
メイドさんニッコリ。
笑顔です。
ええ、笑顔です。
笑顔なんだけどさっ。
なんか、怖いんですがっ!
これはアレだな。
断ったら死ぬやつだ。(超確信)
廊下にもいっぱい居らっしゃるしね!(超確信! さらに、倍!)
「…ぢゃあ、それで。(ビクビク)」
俺には、そう言うしかありませんでした。(ビクビク)
一方、その頃。
王妃様は、呆然としている王様を説得していた。
「シルフィは、ナナシさんを説得するでしょう。」
「何か有った時、ナナシさんならシルフィを守れる事は、先日の事件で実証済みです。」
「一流の魔術師を手に入れられるのですから、むしろ国益になります。」
「あの公爵家の馬鹿息子とは、比べ物になりません。」
「シルフィはナナシさんと結婚させましょう。」
「結婚式まで日数が有りません。シルフィの結婚相手で揉めている時間なんて有りません。」
「シルフィがナナシさんを相手に決めたら、ナナシさんと結婚させますよ。いいですね?(ジロリ)」
呆然としたまま、王妃様の説得(?)に首を縦に振る王様だった。
王様ェ…。