< 06 事件05 ナナシの自由時間 魔法で料理 >
シルフィの為に、今の俺が出来る事をした。
ただの自己満足だが、それをした事で俺自身、少し元気が出た気がする。
他にも何か出来る事は有るか考えたが、他には無い様に思ったので、自分のしたい事をする事にした。
隠れ家のソファーに座ったまま考える。
『そもそも、何をしたいと思ってたんだっけかなぁ。』
外出して、買い物と料理をするんだったっけ?
そうだ、料理をするんだったね。
【無限収納】に仕舞っておいた揚げ物とかが無くなったから。
その前に食材を買って来ないとね。
よし、市場に食材を買いに行くか。
うん。外の空気を吸いたいし、買い物に行こう。
市場に買い物に行く事に決めて、市場に行くついでに、他に買う物がないか考える。
だが、【転移魔法】で行くのだから、”ついで”とか考えなくてもいいよね。
【転移魔法】を使えば、すぐに行けるんだからね。
相変わらず魔法が使えなかった時と同じ様に行動を考えてしまうね。
その内、慣れるだろうけど。
慣れるかな?
慣れるよね?
それはそれとして。
買い物に行くのは、王都の市場には行けないから、海沿いの街の市場でいいだろう。
街に入る方法を考える。
以前は身分証が無かったから、門の詰所でステータスを確認されて銀貨1枚預けて街に入ったね。
今は身分証が有る。無駄に立派なのが。
『立派過ぎて使いたくないなぁ。』と思ったが、俺は今、ダンジョンに行っている事になっているのだから、そもそも身分証を使う訳にはいかなかったね。
考えるまでも無かった。
はぁ。
俺は支度をして、前にも行った海沿いの街の近くに転移した。
いつもの手順で街に入った。
市場に向かって歩く。
何度か歩いた道だが、随分と久しぶりな気がする。
前回来たのは、シルフィに出会う前だったかな?
そうだったね。
随分と久しぶりな気がする訳だね。
市場に着いた。
サクッと、いつも買っている食材を買おう。
今は、『珍しい食材を買って料理してみよう。』とか、冒険をしようという気分にはならないので。
ダンジョンを攻略しに行ってる事になっていますが、市場で珍しい食材を買って冒険をしようという気分にはなれません。
ツッコミどころが有る妙な文章になってしまっていますが、気の所為だと思います。
野菜や玉子に小麦粉やソースなどを買って、パン屋にも寄ってから、魚市場にも行く。
魚の干物をいくつか買ってから、【転移魔法】で隠れ家に帰った。
よし、料理をしよう。
そろそろ昼食の時間だから、先ず昼食を作って、揚げ物の大量生産はその後だね。
『ちょっといいでしょうか?』
気合いを入れようと思ったところで、【多重思考さん(多重思考された人(?)たちのリーダー)】から声を掛けられた。
『ほとんど魔法を使って料理をしていますので、魔法だけで料理が出来るか確認してみていただけないでしょうか。』
『魔法だけで料理が出来るのならば、食材を用意していただければ、私たちだけで料理を作っておけますので。』
おお、なるほど。
何となく、魔法だけで料理が出来そうな気がするな。
元々料理が趣味という訳では無く、引き篭もる為に始めたようなものだ。
だから、俺が料理しなくても済むのなら、その方が良いよね。
よし。
魔法だけで料理が出来るか確認してみよう。
取り敢えず、昼食作りを始める。
この世界のパンは堅いので、食事にスープは必須だ。
先ず、スープ作りから始めよう。
【無限収納】から片手鍋を出して置き、魔法でお湯を作り出して、鍋に入れる。
具材を何にしようかと思ったのだが、買って来た食材が背負い袋に入ったままだった。
背負い袋に入れっぱなしだった食材を【無限収納】に移していく。
この時、袋に入ったジャガイモなどは袋から出した状態で【無限収納】に入れる。
こうしておけば一つずつ取り出せるからね。
失敗は一度で十分なんで。(苦笑)
食材を【無限収納】に移し終えた。改めて料理を始めよう。
【無限収納】のリストを見ながら、スープの具を考える。
猪の肉とジャガイモと玉ねぎでいいか。
思いの外、猪の肉が多く有った。
これは【多重思考さん】たちが、森で狩ってくれていたんだろうね。
食材を出す前に、まな板代わりの石の板に【クリーン】の魔法を掛けて綺麗にする。
【無限収納】から石の板の上に猪の肉を出し、【風刃】で一口大にスパスパ切る。
切った肉は【転移魔法】で鍋の中にドボン。
【転移魔法】の無駄遣いな気がするが、気にしてはいけないと思う。
鍋に【ヒート】の魔法を掛けて、鍋自体を発熱させる。
灰汁取りをしないといけないので、鍋はしばらくこのままだ。
その間に他の食材の準備をする。
ジャガイモと玉ねぎは、【分離】魔法さんで皮を取り除き、【風刃】で切る。
切ったものは、一度【無限収納】に仕舞っておく。
まだ、出番が先だからね。
おかずは何を作ろうか。
トンカツを作るか。
『魔法だけで料理が出来るか?』の確認だから、少し手間が掛かる物を作ってみよう。
【無限収納】から再び猪の肉を出して、【風刃】で、今度は少し厚目に切る。
【無限収納】からバットを三つ出す。小麦粉用、溶き玉子用、パン粉用だ。
【無限収納】から小麦粉を出す。
小麦粉は袋に入っている…。
そうだったね。
粉とかはどうしておけばよかったのかな?
袋に入った小麦粉を見て『魔法で出来るのは、これまでか。』と思ったが、【分離】魔法さんでいけるよね。
【分離】魔法さんで袋の中の小麦粉をバットに移した。
………袋の中の小麦粉が全部出てしまった。
そうか。【分離】魔法さんでやるとこうなるよね。
【分離】魔法さんで出したのは失敗だったね。
万能すぎる【分離】魔法さんで出来ない事を、初めて見付けた気がするな。
使わない分の小麦粉をどうするかは後で考える事にして、先に小麦粉に手を加えよう。
小麦粉は、殻が混じっている為、茶色い色をしている。
この混ざっている殻を【分離】魔法さんを使って除去した。
白くなった小麦粉を使う分だけ残して、使わない分は【転移魔法】で別のバットに移して【無限収納】に仕舞った。
これで小麦粉の準備も出来た。
ふう。
少し、ヒヤリとしたぜ。
ここで、鍋がぐつぐつしていたので、浮いている灰汁を【分離】魔法さんを使って除去する。
鍋の中のお湯がまだ白く濁っていたので、それにも【分離】魔法さんを使って、灰汁をすべて除去した。
ちなみに【分離】魔法さんを使って除去したゴミは、隠れ家の外に在るゴミ捨て場を”転移先”に指定して、そこにポイしています。
灰汁取りを終えた鍋に、切って【無限収納】に仕舞っておいたジャガイモと玉ねぎを【無限収納】から直接投入。
これらが煮えるまでグツグツしよう。
トンカツに戻る。
次はバットに、溶き玉子を用意する作業だ。
【無限収納】から玉子を出して、【クリーン】の魔法を掛けて綺麗にする。
さて、玉子をどうやって割ろうか…。
少し考えてしまったが、これも【分離】魔法さんでいけるよね。
【分離】魔法さんを使って、玉子の中身をバットに分離した。
バットの上には玉子の中身が乗っていて、バットの傍らには、中身の入っていない玉子の殻が残っている。
この玉子の殻。
中身が入っていないのに、どこも割れてません。
すげぇ。
「不思議な玉子の殻を手に入れた。」
思わずそんなことを口にしてから、玉子の殻を【無限収納】に仕舞った。
次に玉子を溶く必要がある訳だが…。
何か良い方法って有るかな?
【風刃】で、ぐしゃぐしゃにすればいいのかな?
なんかスマートぢゃないな。
【風魔法】で何かないかな?
結界で覆って、その中で【ウィンド】でグシャグシャにするのかな?
見た目的にどうかという気がしないでもないが、まぁいいや。
真っ黒な結界を張って、その中でグシャグシャにしました。
見えなければどうと言うことはないよね。
次はパン粉だ。
パンとおろし金を【無限収納】から取り出す。
【魔法の腕】を使っておろし金を使う方法もあるけど、玉子を溶いたのと同じ方法でもいけるかな?
【ウィンド】ではなく、【風刃】でスパスパザクザクすればいい気がするな。
透明な結界を張って中の様子を見ながら、【風刃】でスパスパザクザクする。
少し時間が掛かった気がするが、概ね期待通りのパン粉になった。
やったね。
鍋がグツグツしている。
もうジャガイモも煮えただろう。
そろそろスープの味付けをしよう。
【無限収納】から塩を出す。容器に入っているやつだ。
…どう魔法を使えばいいのかな?
【分離】魔法さんだと、容器の中の塩が全部、鍋にインしてしまうよね。(苦笑)
【転移魔法】だね。小麦粉と同じだ。
容器のフタを【転移魔法】でまな板代わりの石の板の上に転移させ、容器の中の塩を【目玉】で見て測りながら転移させた。
そこで気が付く。
「塩加減はどう判断しよう…。」
【鑑定】で塩分濃度は分かるだろうが、”ちょうどいい塩分濃度”は、魔法では判定できないよね。
うん。そうだね。
魔法では無理。
最初の一回は、俺が判断する必要があるね。
二回目以降は、【鑑定】で塩分濃度を調べながら味付けが出来るだろう。
塩を鍋の中に転移させながら、スープをスプーンですくって味を確認する。
『このくらいかな。』と思ったところで、【鑑定】して塩分濃度を調べた。
塩分濃度は0.9%だった。
次からは、この塩分濃度になる様に味を調整してもらうことにしよう。
塩味以外の場合は、今は考えません。
今、味付けは塩味しか無いから、考える必要がありませんので。
塩味バンザイ。(←少しヤケになっている。)
ジャガイモが煮えた事を確認して、鍋に掛けていた【ヒート】の魔法を解除した。
さぁ、再びトンカツだ。
厚切りした肉を【魔法の腕】を使って持ち、小麦粉を付けて、溶き玉子を付けて、パン粉を付けた。
パン粉まで付けた肉を、そのままパン粉が入ったバットに置いて、油の準備を始める。
【無限収納】から、油の入った揚げ物鍋を出す。
前回揚げ物をした後、時間停止状態で【無限収納】に仕舞っておいたので、油がアツアツです。
揚げ物鍋に【ヒート】の魔法を掛けて加熱しながら、【鑑定】で油の温度を調べる。
170度と出た。
うーん。
温度は分かっても、適温を知らないから、何度にしたら良いのか分からないね。
そして、適温は出来上がった物を食べてみないと分からないし、揚げる物によっても適温が違う気がするな。
ガックリ。
揚げ物は魔法だけでは難しいね。
【多重思考さん】たちだけで揚げ物を作ってもらって、いつでも食べられる様になると思ったのに…。
もう一度、ガックリ。
でも、今は無理でも、回数を繰り返してそれぞれの適温が分かれば大丈夫か。
そうだね。
うん。大丈夫だよね。いけるいける。
いや、待てよ。
温度だけぢゃなくて、時間も必要だよね? 揚げる時間が。
時計って無いよね、この世界。
ダメぢゃん。
うん。時計が無いと無理。
残念。
俺は、さらにもう一度ガックリした。
加熱していた油の温度を【鑑定】で調べる。
180度まで上がっていた。
ボチボチ良いのだろうか?
何となく良さそうな気がしたので、【魔法の腕】で肉を持って揚げ物鍋に投入。
美味しそうなニオイがします。
揚げ物用のバットを【無限収納】から出しておく。
トンカツをひっくり返そうと思って、その方法で悩む。
『【魔法の腕】を油の中に突っ込んでひっくり返すのは、なんとなく嫌だなぁ。』
『【魔法の腕】で菜箸を使ってひっくり返そう。』
そう思い、【無限収納】から菜箸を出して【魔法の腕】に持たせた。
だが、【魔法の腕】では菜箸を上手く使えなかった。
これは想定外。
自分で菜箸を使って、ひっくり返した。
トングが必要だったね。買っておかないとね。
その後、『揚がったかな?』という頃合いで、揚げ物用のバットに上げた。
よし、トンカツ完成。
昼食にしよう。
と、その前に揚げ物鍋だけは片付けておこう。
揚げカスを【分離】魔法さんで取り除いたり、酸化した油を【還元】したりした後、時間停止状態で【無限収納】に仕舞った。
居間に移動して昼食を食べながら、【多重思考さん】と反省会をする。
『トングは買っていただかなくとも作ります。』とのこと。
そうだね。作れるよね、トングくらい。
もっと難しい物を色々と作ってるもんね。
むしろ、食事中に『出来ました。』って、テーブルの上に出される心配をしないといけないよね。(笑)
それと、揚げ物の温度やら時間やらの件。
俺がやって出来ている事は【多重思考さん】も出来るとのこと。
『本体さん(=俺のこと)も揚げる温度や時間とか気にしていませんよね。』
『私たちも【目玉】の目と耳で判断します。』とのこと。
と、なるとだ…。
「トングが有れば、さっきやった料理は出来るってこと?」
『さっきやった料理は出来るということです。(ドヤァ)』
そう頭の中で【多重思考さん】に言われたと思ったら、テーブルの上にトングが置かれた。
うん。出て来ると思っていました。(笑)
今日も【製作グループ(多重思考された人(?)たちの内の、物品製作をしているグループ)】さんが良い仕事をしてくれた様です。




