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姫様を助けたのは失敗だったが、割と好き勝手に生きています。  作者: 井田六
第十一章 異世界生活編06 新生活編
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< 03 事件02 >

微グロ注意。

忘れ物注意。


< ナナシ付きのメイドさん視点 >


今、部屋の中ほどで、ナナシ様が両腕をつかまれて困っていらっしゃいます。

姫様に教えられた【転移魔法】を封じる方法です。

姫様は、ナナシ様が【転移魔法】で逃げ出すとお考えの様ですね。

ナナシ様は、そんなに肖像画をかれるのがおいやなのでしょうか?

よく分かりません。

ナナシ様の表情に変化が有りました。

困っていらしたお顔から表情が消えました。

最近よく目にする、あの表情です。

イヤな予感がします。

スパッ

そんな音がしたと思ったら、ナナシ様が消えました。

………両腕を残して。


「きゃっ。」

腕をつかんでいたメイドの一人が、驚いて腕を取り落としました。

もう一人は、驚いてはいるのでしょうが、そのまま腕を持っています。

固まっているだけかもしれません。

絨毯じゅうたんに血が広がります。

「きゃああぁぁぁ!」

衣装を持っていた一番若いメイドが、悲鳴を上げました。

そんな彼女のことは放置して、考えます。

すべき事は、切断された腕の保存とメイド長への報告。

ず、腕を何とかしましょう。

タオルを出して腕の切断面に当て、ロープで縛ります。

バケツに突っ込んで、ドアの近くに居たメイドにそれを持たせてメイド長のところへ報告に行かせます。

そうしたら、ドアのところで人と鉢合はちあわせになりました。

姫様でした。


ウェディングドレスを着た姫様が、バケツに入り切らない”それ”を見ています。

どう見ても腕です。

驚いているのでしょう。

表情が、いえ、全身が固まっています。

「メイド長のところへ!」

私がそう言うと、そのメイドは「失礼します!」と、姫様に一言ひとことことってから走って行きました。

「説明しますので、お部屋へ。」

私はそう言って、姫様を姫様のお部屋にお連れします。

ソファーに座っていただき、ナナシ様のお部屋で何があったのか説明しました。

姫様はテーブルに手を付いて、「私の所為せいだ…。」と言って泣いてしまいました。

姫様のことは、このお部屋のメイドたちに任せて、私はナナシ様のお部屋に戻りました。

部屋では既に清掃作業が行われていました。

ほどなくして、綺麗になりました。

【クリーン】の魔法を使ったのでしょう。血の跡も綺麗に無くなっています。

清掃作業をしてくれたメイドたちが、一礼してから出て行きました。

静かになったお部屋の中で私は、『これからどうなるんだろう。』と、途方とほうれました。


暗い気分で立ち尽くしていたら、机の引き出しが開きました。

便箋びんせんとペンとインク瓶が机の上に置かれます。

ナナシ様がされているのでしょう。

ナナシ様が何かを書かれる様なので、近付いてそれを見ます。

ペンで書くのかと思ったら、火魔法で一気に書かれました。

以前、地図を描かれた時のやり方です。

ペンで書くよりも簡単な事に、途中で気が付いたみたいですね。

便箋びんせんには”ダンジョンに行く”と書かれていました。

私はその便箋びんせんを持ってメイド長のところへ走ります。

几帳面にペンとインク瓶が片付けられるのを背中に感じながら、私はナナシ様との確かな繋がりを感じていました。



< 王妃様視点 >


『そろそろお茶が飲みたいわね。』

そう思った時に、ドアをノックする音が聞こえました。

部屋に入って来たそのメイドが、急いで私に報告します。

「シルフィのところへ行きます。」

報告を聞いた私は、すぐに娘のところに向かいます。

急ぎ、娘の部屋に入ります。

ソファーで寝そべる娘は、メイドの膝の上で泣いている様です。

そのメイドは娘の頭をでながら「眠ってしまわれました。」と、戸惑とまどった様に言います。

私は、娘のそばに膝をついて、娘の顔を覗き込みます。

泣き疲れてしまったのでしょうか?

泣き疲れるほどの時間は経っていないと思うのですが…。

娘のほほでながら、少し様子を見ます。


部屋にメイド長が来ました。

娘の隣に腰掛け、メイド長から詳細な報告を受けました。


メイド長から聞かされたナナシさんの行動は、先の事を考えない突拍子とっぴょうしの無い行動の様に、私には感じます。

彼がそんな事をするでしょうか?

彼のあやつる【魔法の腕】の事は報告で知っています。

地図を丸めたり広げたりしていたそうです。

その【魔法の腕】を使えば、腕が無くとも日常生活は大丈夫なのでしょうか?

『ダンジョンに行く』とのことですが、それは、『霊薬を手に入れて腕を治す』という意味でしょう。

彼ほどの魔法の能力が有れば、腕が無くともダンジョンを攻略することが出来るのかもしれませんね。

それでもやはり、先の事を考えない突拍子の無い行動です。

『ダンジョンに行く』とのことですが、それだけでは無い気がします。

考えます。

『既に霊薬を持っていたので、あの様な行動が出来た。』とすれば、どうでしょう?

行動の意味は?

時間が欲しかった?

”逃亡”が目的ではなく、”時間が欲しかった”と考えればいいのでしょうか?

逃亡の仕方があまりにも強引だったので、そちらに目が行ってしまいましたが、”外出したがっていた”ことに注目した方がいいのかもしれませんね。

『ダンジョンの最下層まで行き、攻略して霊薬を手に入れて帰って来る…。』

かなりの日数が掛かります。

それだけの日数が欲しかったのでしょうか?

何の為にでしょう? 

何をするのでしょう?

彼は何の為に外出したがっていたのでしょう?

そんなことを考えていて、重大なことに気が付きました。

私たちはナナシさんのことを、ほとんど何も知らなかったのですね。

娘との出会いから結婚式まで、かなり短い期間でした。

こちらの都合つごうで。

こちらの都合を彼に押し付けて、彼のことをずいぶんと長い間、王宮にとどめてしまっていました。

彼が外出して何をしたいのかは分かりませんが、彼には申し訳ないことをしてしまいましたね。

私たちは深く反省しなければなりませんね。


書き置きを残してくれたという事は、帰って来てくれる意思があるのでしょう。

その点は朗報ろうほうです。

わざわざ書き置きを残したのは娘への配慮なのでしょう。

彼の配慮に感謝しなければなりませんね。

でも、彼の行動の一貫性に、何となく違和感を感じます。

本当に彼の意志なのでしょうか?

しかし、私たちがそう疑問に思ったところで、今の私たちに彼の意志を知ることなど出来ませんね。

私たちは彼のことを知らなすぎるのですから。


別の事を考えましょう。

私たちが彼の為に出来る事は在るのでしょうか?

私たちは、彼のダンジョン攻略を手伝えるのでしょうか?

メイド長に訊きます。

「これまで見てきたナナシ様の行動や能力から推察すいさつして、ダンジョンが50階層であると仮定するなら、攻略までの所要日数は………、10日とみています。」

「メイドの中から選抜して準備してダンジョンに向かわせたところで、2階層か3階層(あた)りにやっと到着した頃に、ナナシ様はダンジョンを攻略してしまうでしょう。」

「これから人を向かわせるのは意味がありません。」

「それに、ナナシ様がメイドたちに気付いて、メイドたちがダンジョンを攻略する手伝いをする様な事になれば、60日以上戻って来ないでしょう。」

「私たちが何もしないほうが、早くナナシ様が戻って来ると考えます。」


何もしない方が良いというのは理解できます。

『しかし、10日…。たった10日でダンジョンを攻略…。』

現実的な日数とは思えません。

メイド長は、転移魔法が使える彼ならそれが可能だと考えているのでしょうか?

それとも、既に霊薬を持っていたからこその”あの行動”と思っているのでしょうか?

そもそも、彼は何がしたくて外出したがっていたのでしょうか?

私たちは彼のことをほとんど何も知らないのですから、何も分かりませんよね。

今の私たちに出来るのは、彼が早く帰って来てくれるのを、祈って待つだけなのかもしれませんね。


「ナナシさんのほうは、私たちに出来る事は何も在りませんね。」

改めて口にすると、無力感を感じてしまいますね。

「娘の方は、私たちで何とかしましょう。」

隣でメイドに膝枕をされて眠る娘を見ます。

この状態の娘を人目ひとめに触れさせる訳にはいきません。

まだ、結婚式を挙げてから6日です。

わずか6日でお婿むこさんに逃げられたなんて事を知られるのは、避けなければなりません。

この状態の娘を王宮には置いておけませんね。

新婚旅行に行った事にしましょう。

そうしましょう。

新婚旅行に行かせるとして、何処に行かせましょうか?

考えます。

アンのところに行かせましょう。

さいわい、自主的な謹慎きんしんという事で領地に帰っていますし、謹慎している者のところに訪れる者も居ないでしょう。

そうしましょう。

「新婚旅行に行った事にして、アンのところに滞在させてもらいます。すぐに手配を。」

「新婚旅行…ですか?」

メイド長が首を傾げます。彼女には珍しい事です。

失敗しましたね。

()()()()には在りませんでしたね、新婚旅行。

「新婚の夫婦が挙式後にする旅行の事です。 手配を。 出来るだけ早く。 私も行きます。」

「はい。」

メイド長は部屋を出て行きました。

後はメイド長に任せておきましょう。


私は隣で眠る娘を眺めます。

そうしながら、今までナナシさんの事を知ろうとしなかった事を後悔しました。


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