< 24end (王都22日目 午後) 盗賊退治02 引き篭もり生活の終わり >
ソファーに身を預けて寛いでいます。
すっかり、無職で引き篭もりな生活が板に付いてきました。
望んでいた、”揉め事を避けて、のんびり過ごす”生活です。
『それって、どうなんでしょう?』
頭の中で【多重思考さん】に、呆れられた感じでそう言われた。
【多重思考さん】がさらに続ける。
J( 'ー`)し『たかし、仕事を見付けて来たわよ。はい、盗賊狩り。』
「たかしって名前ぢゃないよっ! 以前の名前の記憶は無いけど、たかしって名前ぢゃなかったはずだっ!」
「それと、仕事として”盗賊狩り”を勧めるってのは、どうなんだよっ!」
J( 'ー`)し『最近、この仕事減ってるのよ。』
「減ってるならイイぢゃん。平和になってるってことだろっ。俺のところに持ってくるなよっ。」
それに、盗賊が絶滅すると、俺が困るからね。
盗賊退治と言うか、盗賊の持ち物を頂戴するのが、今の俺の収入の柱だから。(悪い顔)
盗賊が減っているのなら、尚更、今俺がしなくちゃいけないことぢゃないよね。
頭の中で【多重思考さん】が真面目な声で言う。
『素材が少なくなりました。』
「ぶっ。」
先日おねだりされて、盗賊から武器とか防具とかを頂戴したのにか?
どんだけ創作意欲に溢れてるんだよ。
俺が呆れていると、テーブルの上に物が置かれた。
包丁の様だ。
手に取って見てみる。
出刃包丁だね。
なんとなく、良い出来の様に感じる。
頭の中で【多重思考さん】が説明する。
『熱処理を試行錯誤して、なかなか良い品が出来たと思います。(ニヤリ)』
【多重思考さん】の控え目な言葉の中にも”やり遂げた感”を感じます。
テーブルの上に出刃包丁を戻し、出刃包丁を見ている間に置かれた他の品も手に取って見ていく。
柳刃包丁と、果物ナイフと、所謂、肥後守っぽいのを見る。
これらも、いい感じの品だった。
そして、最後の品を手に取って見る。
無垢の木の鞘に入れられた短刀だ。
スラリと抜く。
微妙に反った刃と刃紋が美しい。
「おおー。」
思わず声が出た。
とても良い出来だと思った。
色々な角度から刃を眺める。
「うーん。すごい。」
頭の中で【多重思考さん】が”ドヤ顔”をするのを感じた。
さらに【多重思考さん】が俺に追撃を掛ける。
『日本刀を作りたいなぁ。(ちらっちらっ)』
ずるい。
こんなのを見せられちゃうと、日本刀が欲しくなっちゃうよね。
「はぁ、仕方が無いか。」
【多重思考さん】のおねだりを受けて、俺は盗賊退治をすることに決めた。
【多重思考さん】が言うには、盗賊に捕らわれている人は居ないとのことだし。(←これ重要)
さっさと済ませよう。
立ち上がり、伸びをして、ヤル気を出す。
俺は【多重思考さん】に指定された【目玉(仮称。魔法で作られた目)】を目印に転移した。
ダメ人間まっしぐらだった彼が踏み止まり、将来の自分の結婚相手と出会うまで、あと僅か。
その出会いによって、彼の引き篭もり生活が終わる事に、まだ彼は気付いていなかった。
そして、”たかし”と書かれた表札に彼が気付くまで、あと、40日。




