< 20 (王都10日目 午後) 拠点で料理03 料理をストック それと新魔法披露 三回目 >
食材を買い足してから、拠点で色々と料理を作って過ごした。
フライドポテト、コロッケ、猪の肉のトンカツ、熊の肉の龍田揚げ、ナスの天ぷら、魚の干物のフライ、小魚の干物の出し汁、猪の肉と野菜のスープなどが、【無限収納】に時間停止状態で仕舞われている。
【無限収納】が凄く便利で助かります。
作った料理の”揚げ物率”が少し高い気がしますが、”揚げ物は正義”なのだから仕方が無いよね。(ニッコリ)
今日も午前中を料理を作る時間に充てて、作った料理を【無限収納】に仕舞った。
昼食を済ませ、後片付けをして、ソファーに座る。
【無限収納】から、紅茶の入ったポットとカップを出して、食後の紅茶を飲みながら寛いだ。
紅茶を飲みながら考える。
この拠点は、十分生活が出来る状態になった。
寝るのも、お風呂も、料理も、問題無い。
外にゴミ捨て場も作ったし、他にやる事は無くなったかな?
いや、料理の味付けの問題が残っているか。
醤油と味噌が有ればいいのだが、見付からなくて塩味が多くなっている。
買って来たソースと、作ったマヨネーズが有るが、味付けの種類が少ない。
何とかしたいよね。
あと、米も欲しいが見付かっていない。
魚とご飯で食事をしたいのだが、米が無くてそれが出来ない。
買って来た魚の干物は、焼いて大根おろしと一緒に食べたが、パンにはまったく合わなかった。
結局、魚の干物のほとんどを、パンと合う様にフライにしてしまった。
早く米を見付けたいね。
それと、イグサも見付かっていなくて、畳を敷く予定の部屋がそのままになっていたね。
イグサも早く見付けたいね。
うーん。
まだ、欲しい物がいくつか残っているね。
でも、食材の備蓄さえ有れば、ここに引き篭もれる状態になったね。
うん。まだ俺の求めるレベルにはあと一歩足りないが、俺の望む”揉め事を避けて、のんびり過ごす”生活には、十分な状態になったね。
うん。俺はこの拠点がここまでの状態になり、一区切り付いた事に満足した。
そして、一つの決断をする。
それは、呼び名の変更だ。
今まで、ここを”拠点”と呼んでいた。
”拠点”と呼ぶと、何かの活動の中心地的なイメージがある。
しかし、俺が望んでいるのは、引き篭もる事だ。
”拠点”と言う呼び名は、しっくりこないよね。
だから、呼び名を変える。
”隠れ家”と!
うん。良いよね、隠れ家。
響きと言うか、イメージと言うか、そんな物がね。
うんうん。
俺は、”隠れ家”と言う呼び名に、感動に近い喜びを感じた。
俺が喜びを感じながら”にまにま”していたら、頭の中で【多重思考さん】に言われた。
『STR(Strength)の値を上げましょう。』と。
舞い上がっていた俺は、一瞬、何の事を言われたのか分からなかった。
ああ、そうか。
王都に来る前の街で、『ステータスの値を上げておきましょう。』と言われて、色々なステータスの値を上げてたね。
その中でSTRだけは、一気に値を上げたら歩き難くなったので、値を少し上げただけで、その後そのままにしていたね。
今のSTRの値に慣れたから、値を上げてもいいよね。
うん。STRの値を上げておくか。
【ステータス】の魔法でSTRの値を見たら”54”になっていた。
50だったはずだと思ったが、レベルが上がった事により、STRの値も上がっていた様だ。
【多重思考さん】たちが、どこかで魔法を使っていたりするので、いつも俺の想像以上に早くレベルが上がっています。(苦笑)
STRの値をいじって、”80”にしてみた。
部屋の中を歩いてみる。
やはり、体が軽く感じる。
ちゃんと走れるか、荒野に行って確認するか。
いざという時に、走って逃げられないと困るからね。
荒野に居る【目玉(仮称。魔法で作られた目)】の一つを【多重思考さん】に教えてもらい、俺はそれを目印に転移した。
荒野に来た。
次の瞬間、頭の中で【多重思考さん】の声がした。
『新魔法披露っ 三回目ですっ!』
「………………。」
目の前のボッコボコな地面を見ながら、『よくも騙したなっ。』と、頭の中で【多重思考さん】に文句を言う。
『その前に少し走って、体の状態を確認しましょう。』と、頭の中で【多重思考さん】にサラリと言われた。
ちょっとだけ、拳がプルプルする。
ちくしょう、舞い上がって油断していたぜ。
「はぁ。」
一つ溜息を吐いて、周囲を少し走って体の状態を確かめた。
体の状態を確かめた俺は、ボッコボコな地面を見渡せる場所に立つ。
頭の中で【多重思考さん】の声がする。
『新魔法披露 三回目です。今回は【空間魔法グループ】です。』
『2キロほど前方をご覧ください。』
えらい遠いな。
目線を先にやると、空中に”↓”と”このあたり”と言う文字が浮かんだ。
【闇魔法さん】、いつもありがとうございます。
さらに”侵入不可”と”減音”という文字が浮ぶのが見えた。
それぞれの結界を張った様だ。
『いきます。』
頭の中で【多重思考さん】の声がした。
少しして、目線の先で砂埃が上がったのが、小さく見えた。
前例が前例だったので色々身構えていたのだが、少々拍子抜けした。
遠くに上がった砂埃が高さを増していくのが見えるのだが、結界を張った意味がよく分からなかった。
そのまま砂埃が高さを増していくのを眺めていたら、地面を這う様に近付く、別の砂埃に気が付いた。
かなりの速さで近付いて来る。
そう思ったら、「ドンッ!!」って言う大きな音と共に、砂埃が【侵入不可】結界に激しく当たるのが見えた。
半球状の結界の外で、砂埃が激しく舞っているのが見える。
それを見ながら、先ほどの大きな音が衝撃波だった事に気が付いた。
頭の中で【多重思考さん】が、今の魔法の説明をしてくれた。
岩を高いところから落とし、それを【ゲート(入口)】で受ける。
その岩を、高いところに置いた【ゲート(出口)】から出して、さらに落とす。
それを、下に置いた【ゲート(入口)】で受けて、再び高いところに置いた【ゲート(出口)】か出して、さらに落とす。
それを繰り返して速度を増し、空気抵抗が大きくなりすぎる前に大気圏外に場所を移して、そこでも星の引力を利用して、さらに速度を上げた。
最後に目標目掛けて【ゲート(出口)】から出すと、凄い速度で目標にぶち当たる。と。
『今回は音速を余裕で超えていたので、衝撃波が発生しました。てへぺろ。』
『てへぺろ。』は、いらんやろ。
そして、相変わらず破壊力の大きそうな魔法(の使い方)だね。
これを使う状況って有るのか?
むしろ、これを使う状況って、どんな状況だよっ。
なんで皆、使いどころの無い物騒な魔法ばかり作るのかなー。どうしてかなー。
「はぁ。」
溜息が出た。
岩を落とした場所に来た。
砂埃は収まっている。
砂埃が収まっている事を不思議に思ったら、【分離】魔法さんで宙を漂う砂埃を取り除いたそうだ。
すげぇ。
そんな使い方も出来るのか。
驚いていたら、作ったばかりの拠点の中に埃が舞っていなかったのも、【分離】魔法さんのお陰だった事を【多重思考さん】が教えてくれた。
【分離】魔法さん、ありがとうございます。マジ最高です。
改めて、岩を落とした場所を見る。
「………………。」
クレーターが出来ています。
うん。クレーターが出来ています。
直径50mぐらいの。
やりすぎだよね。
この魔法の使い道って無いよね。
破壊力が攻城兵器を超えてるよね。
”戦争で使う”どころか、”戦争を終わらせる”レベルだよねっ。
「はぁ。」
また溜息が出た。
精神的に疲れた俺は、お風呂に入って忘れようと思い、拠点…、ぢゃなくて、隠れ家に転移した。
< 西端の街の衛兵 >
「ドーン!」と言う大きな音がした。
ビビッて、体を強張らせる。
遠くで「何の音だ!」と怒鳴る同僚の声が聞こえる。
何の音なのか?
どこから音がしたのか?
まったく分からない。
外壁の上から街の外を見渡すが、街の外に異常は見当たらない。
街の中を見ると、多くの人が足を止めてキョロキョロとしていた。
よく分からない出来事に、『また調査に行かないといけないのかな?』と、不安になる。
前回は、突然生えたデカい木の調査に行かされた。
その時は、上司に「そんな訳があるか。」とか、「今まで何を見ていたんだ? 仕事をサボっていたのか?」とか言われると思い、どう報告しようか悩んだものだ。
幸い、突然生えたデカい木の近くを、木が生える前後に通った冒険者たちが居て、彼らの証言を得られたことで、事なきを得たが。
今回はどうなるんだろう?
変な痕跡が有ったら困るが、何も見付からないのも困る。
調査に派遣されるのが俺でない事を、祈るしかない。
俺の祈りは無駄だった。
現場らしき場所に来た。
幸いなのか、そうでないのかは分からないが、痕跡らしきものが見付かった。
爆発でも起きたかの様な痕跡だ。
その痕跡を調べる事にした。
一通りの調査を終えた。
痕跡を調べて、妙な事が分かった。
爆発の中心部と思われる場所が、盛り上がって高くなっていたのだ。
爆発の中心部ならば、一番低くなるのではないだろうか?
俺には理解できなかったが、俺の仕事は調査だ。
判断するのは俺の仕事じゃない。
そのまま報告する事に決め、帰路に就いた。
帰り道。
奇妙な場所が在った。
妙にボコボコな地面に、無数に有る焦げた様な跡や、溶けた様な跡。
端が綺麗に切り落とされている岩なんて物も有った。
「………………。」
今回の調査目的とコレは、関係有るのだろうか? 無いのだろうか?
目の前のコレは、どう報告したら良いんだろうな…。
異様な光景を目の前にして、俺はしばらく立ち尽くした。
俺は、見なかった事にして、先を急ぐ事にした。
そして、祈った。
「俺と関わる事が有りません様に。」と。
また何かが起きそうな、そんな予感を感じながら、俺は街に帰った。




