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姫様を助けたのは失敗だったが、割と好き勝手に生きています。  作者: 井田六
第九章 異世界生活編05 生活基盤を整えよう編
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< 10 (王都3日目 午後) 冒険者に絡まれた05 副ギルドマスター視点 >


「なんてことだ!」


彼が帰った後の執務室で、そう声出して机を叩く。

「ここの冒険者は馬鹿ばかりなのか!」

魔術師を取り合って、馬鹿なことばかりしているのは知っていたが、ここまで馬鹿だとは思わなかったっ。

凄い魔術師が居たと聞いた時は、喜んでいたのにっ。

一般人じゃないかっ!

しかも、ギルドとの関係は最悪だっ!

「冒険者ギルドに入ってくれ。」と、頼める様な状況じゃないっ!

魔術師不足でギルドが苦しい時に、よりによって優秀な魔術師と問題を起こすなんてっ!

「くそう!」

「くそう!! くそう!! くそう!!」


大声を出して、少し落ち着いてきた。

そして、思い付く。

俺がギルドマスターでなかった事は、幸運だったのではないか?

彼が今すぐ、ギルドに入ってくれるのは絶望的だ。

ならば、俺がギルドマスターになってから迎え入れればいい。

そうだ、それだ。

そうすれば、俺の功績になる。


彼はまだ若い。

まだまだレベルを上げていくだろう。

そうだ。

それから迎え入れればいい。

むしろ、レベルがより高くなってから迎え入れた方が、より良い。

そうだ。そうしよう。

その時まで、彼の動向に注視していよう。

見失みうしなわない様に。

俺がギルドマスターになってから、俺が、彼をギルドに迎え入れる為に。


夕方。

彼がお金を受け取りに来た。

彼とは長い付き合いになるだろう。

ギルドの為に、そうでなくてはならない。

にこやかに応対できる案件ではないので、慎重に応対した。

俺は、「申し訳ない。」と思っている姿勢に終始した。


彼は、お金を受け取ると、【マジックバック】に仕舞った。

驚いた。

彼が、王都で噂になっている、”大容量の【マジックバック】を持った若い男”だったのか!

彼は、冒険者ギルドに所属していないのに、大容量の【マジックバック】を持っている。

あまり裕福そうには見えないので、買った物ではないのだろう。

となると、ダンジョンで手に入れた物なのだろう。

思っていたよりも、ずっと高レベルの魔術師の様だ。

若いのにたいしたものだ。

彼はお金を受け取ったら、すぐに帰る様だ。

ここに長居したくないのだろう。

事情を考えれば当然だ。

玄関で見送ろうと思っていたのだが、「目立ちたくない。」と、固辞こじされた。

彼が目立つのは、私にとっても都合が悪い。

執務室の前で彼を見送った。


彼を見送った後、椅子に座り考える。

彼は他の冒険者たちと違い、横柄おうへいな態度を取らなかった。

人柄は良さそうだ。

是非ともギルドに欲しい。

いや、”絶対に”だ。

絶対にギルドに欲しい。


ギルドマスター不在時にだけ座る、ギルドマスターの椅子に座り、ここからの景色を見る。

そして、ギルドマスターになる決意と、ギルドマスターとして彼を迎え入れる決意を、私はより強くした。


彼の監視に付けていた斥候せっこうの男が部屋に来た。

彼を見失みうしなったそうだ。

「はぁ?」

思わず、そんな声が出た。

「彼とは、ついさっき別れたばかりだぞ。この執務室の前で。」

斥候の男が言うには、ギルド内の、しかもこの階で見失ったそうだ。

「………。」

失望で言葉を失う。


このギルドには役立たずしか居ないのか…。


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