< 10 (王都3日目 午後) 冒険者に絡まれた05 副ギルドマスター視点 >
「なんてことだ!」
彼が帰った後の執務室で、そう声出して机を叩く。
「ここの冒険者は馬鹿ばかりなのか!」
魔術師を取り合って、馬鹿なことばかりしているのは知っていたが、ここまで馬鹿だとは思わなかったっ。
凄い魔術師が居たと聞いた時は、喜んでいたのにっ。
一般人じゃないかっ!
しかも、ギルドとの関係は最悪だっ!
「冒険者ギルドに入ってくれ。」と、頼める様な状況じゃないっ!
魔術師不足でギルドが苦しい時に、よりによって優秀な魔術師と問題を起こすなんてっ!
「くそう!」
「くそう!! くそう!! くそう!!」
大声を出して、少し落ち着いてきた。
そして、思い付く。
俺がギルドマスターでなかった事は、幸運だったのではないか?
彼が今すぐ、ギルドに入ってくれるのは絶望的だ。
ならば、俺がギルドマスターになってから迎え入れればいい。
そうだ、それだ。
そうすれば、俺の功績になる。
彼はまだ若い。
まだまだレベルを上げていくだろう。
そうだ。
それから迎え入れればいい。
むしろ、レベルがより高くなってから迎え入れた方が、より良い。
そうだ。そうしよう。
その時まで、彼の動向に注視していよう。
見失わない様に。
俺がギルドマスターになってから、俺が、彼をギルドに迎え入れる為に。
夕方。
彼がお金を受け取りに来た。
彼とは長い付き合いになるだろう。
ギルドの為に、そうでなくてはならない。
にこやかに応対できる案件ではないので、慎重に応対した。
俺は、「申し訳ない。」と思っている姿勢に終始した。
彼は、お金を受け取ると、【マジックバック】に仕舞った。
驚いた。
彼が、王都で噂になっている、”大容量の【マジックバック】を持った若い男”だったのか!
彼は、冒険者ギルドに所属していないのに、大容量の【マジックバック】を持っている。
あまり裕福そうには見えないので、買った物ではないのだろう。
となると、ダンジョンで手に入れた物なのだろう。
思っていたよりも、ずっと高レベルの魔術師の様だ。
若いのに大したものだ。
彼はお金を受け取ったら、すぐに帰る様だ。
ここに長居したくないのだろう。
事情を考えれば当然だ。
玄関で見送ろうと思っていたのだが、「目立ちたくない。」と、固辞された。
彼が目立つのは、私にとっても都合が悪い。
執務室の前で彼を見送った。
彼を見送った後、椅子に座り考える。
彼は他の冒険者たちと違い、横柄な態度を取らなかった。
人柄は良さそうだ。
是非ともギルドに欲しい。
いや、”絶対に”だ。
絶対にギルドに欲しい。
ギルドマスター不在時にだけ座る、ギルドマスターの椅子に座り、ここからの景色を見る。
そして、ギルドマスターになる決意と、ギルドマスターとして彼を迎え入れる決意を、私はより強くした。
彼の監視に付けていた斥候の男が部屋に来た。
彼を見失ったそうだ。
「はぁ?」
思わず、そんな声が出た。
「彼とは、ついさっき別れたばかりだぞ。この執務室の前で。」
斥候の男が言うには、ギルド内の、しかもこの階で見失ったそうだ。
「………。」
失望で言葉を失う。
このギルドには役立たずしか居ないのか…。




