< 09 (王都3日目 午後) 冒険者に絡まれた04 ギルドマスターに会おう >
王都で朝食を食べ、冒険者っぽい男たちに絡まれ、それに対処してから拠点に帰って来た。
居間のソファーに座り、冒険者たちに絡まれない様にする方法を考えたり、キッチンで使う物は何が必要か考えたりして、昼までダラダラと過ごした。
再び王都へ行き、昼食を食べてから、俺は冒険者ギルドに向かった。
今朝の件で、ギルドマスターに会って話をしようと思ったからだ。
街の治安維持の為に、冒険者ギルドが冒険者を雇って見回りをしている事に気付いた【多重思考さん】は、こう考えた。
冒険者が一般人に迷惑を掛ける事を、冒険者ギルドは嫌っている様だ。
冒険者ギルドの客に、一般人が多く居るのではないか?
或いは、冒険者が一般人に迷惑を掛けると、街の偉い人に叱られるのではないか?
【多重思考さん】に、そんな事を教えてもらい、俺はギルドマスターに会って話をしようと思ったのだった。
お金の匂いがしたからとかぢゃないデスヨー。
冒険者が一般人に迷惑を掛けない様に、釘を刺す為デスヨー。
善良な一般人が、善良な一般人の為に、ギルドに釘を刺しに行くダケデスヨー。
【多重思考さん】からツッコミが有りませんが、決して呆れられている訳では無いと、信じたいと思います。
冒険者ギルドに入り、受付の人に言う。
「今朝の模擬訓練場でのことなんだが…。」
「俺は一般人なのに、冒険者に担ぎ上げられて、ここの模擬訓練場に運び込まれ、剣を持った冒険者に襲われたんだが、その事でギルドマスターに文句を言いたい。会わせてもらえるか?」
受付の人はビックリしている様だ。
「しょ、少々お待ちくださいっ。」
そう言って、慌てて、奥に走って行った。
更に上の階にもバタバタと走り、戻って来て、「どうぞこちらに。」と言って、俺を上の階に案内してくれた。
扉が立派な部屋に通された。
部屋の中も立派だった。ギルドマスターの部屋なのかな?
部屋に居た人が挨拶してくれたが、彼は副ギルドマスターだった。
「ギルドマスターは王宮へ行っていて、今日は帰って来ない。」
「ギルドマスターでなくて申し訳ないが、何があったのか教えて欲しい。」
そう言われた。
まぁ、副ギルドマスターでもいいよね。
今回と同じ事が起こらない様に、ギルドがキチンと対応をしてくれるのなら、それでいい。
俺が揉め事に巻き込まれない為にね。
副ギルドマスターに、何があったのか説明した。
食堂の前で捕まって、担ぎ上げられて、模擬訓練場に運び込まれたこと。
その場にギルド職員が居たこと。
模擬訓練場のことを知らなかったので、ギルド職員に教えてもらったこと。
ギルド職員に「怪我を気にせずに、頑張って下さいね。」と応援されたこと。
俺が冒険者ではなく、一般人であること。
冒険者が死んだと話題になっているが、普通であれば、一般人の方が死んでいたこと。
それらを、副ギルドマスターに話した。
副ギルドマスターは全てを聞き終えた後、無言で青い顔をしていた。
言葉が出ない様子だ。
「冒険者のしでかした事で、一般人が死ぬところだった。大問題ですよね? その場にギルド職員も居たましたし。」
「…あぁ、問題だ。」
ですよねー。客商売ですもんねー。(悪い顔)
「彼らがどの様な処罰を受け、同じ事が起きない様にギルドがどの様な対策をして、ギルドがどの様に私に謝罪してくれるのかお聞きしたい。」
副ギルドマスターは、うつむき加減で、声を絞り出すように言った。
「関わった冒険者たちは、除名と罰金。」
「あの死んだ冒険者については、除名と財産没収。」
「対策は…。模擬訓練場の使用時にギルドカードの確認を必須とする。」
「ギルドからの謝罪については…。」
副ギルドマスターは、ちらりと俺を見た。
そして続ける。
「金貨500枚を支払う。」
金貨500枚か…。
金貨1枚の価値は、大体十万円くらいだったけかな。
そうなると、五千万円くらいだね。
”命の値段”だと考えると、少々物足りなく感じるかな。
”命の値段”だったら、”億”は行かないとね。
この世界の”命の値段”がどのくらいなのか、まったく分からないけど。
物の価値が分からないと、価格交渉って難かしいよね。
でも、「金貨500枚」というのは、きっと低めに言っているんだろうね。
だって、副ギルドマスターだし。
上司に文句を言われる立場なんだから、傷口はなるべく小さくしたいよね。
もっと多く要求してみよう。(悪い笑顔)
「金貨1,000枚だ。」
俺は、そう要求した。
「………。」
副ギルドマスターは無言で考えている。
「…金貨700枚。」
値切ってきた。
「交渉に乗ってきてくれた。」と思って、喜んでおこう。(悪い笑顔)
「金貨1,000枚だ。止めるべきギルド職員が現場に居ましたし。」
「ぐ…。」
「冒険者に拉致されましたし。」
「………。」
「死なないはずの施設で、人死にが出ましたし。」
「………。」
「普通であれば、一般人の方が死んでいた状況でしたし。」
「………。」
俺は、そう畳み掛けてみた。
「………。」
副ギルドマスターは無言だ。
副ギルドマスターは悩んでいるのかもね。
この問題を、上に上げるべきか、ここで終わりにすべきかを。
「ギルドマスターは、明日いらっしゃいますか?」
俺は、そう訊いてみた。
「ぐ…。」
副ギルドマスターはそう呻いた後、「…金貨800枚。」と言った。
副ギルドマスターは、ここで終わらすべきと判断した様だ。
まだ、搾れるね。(悪い笑顔)
「金貨1,000枚。」
俺はもう一度、そう要求した。
「ぐ…。」
呻く副ギルドマスター。
「…金貨900枚。」
おお、さらに金額が上がったきた。
副ギルドマスターが涙目ですが。
俺は、ちょっと考える。
金貨900枚でも、まぁいいかなと思って。
九千万円だしね。
魔石を売って、稼ぐアテもあるし。
のんびり暮らす資金としては十分な気がするし。
「では、金貨900枚で。」
俺が折れてあげた。十分っぽい気がしたので。
そして、訊く。
「いつ、受け取れますか?」
「…少々お待ち願いたい。…書類を作らなければならない。」
待ち時間の間に、買い物でもしますかね。
「では、夕方にまた来ます。」
俺は、ぐったりしている副ギルドマスターを残して、さっさと部屋を出た。
そして、冒険者ギルドも出て、キッチンで使う物を買いに、お店に向かうことにした。
街中を歩きながら、頭の中で【多重思考さん】に、この街の冒険者たちの事情を教えてもらった。
あまりにも勧誘してくる冒険者たちが多かったから、【多重思考さん】たちにその理由を調べてもらっていたので。
それによると、隣街が多くの魔術師を集めた為、王都も含めた他の街では魔術師不足が起きているとのことだった。
あぁ、”魔術師の街”とか謳っていた、あの街ね。
あの街はあの街で問題だったが、他の街では魔術師不足の問題が起きているのか。
しかし、この街の冒険者たちも、何であんなに偉そうだったんだろうね?
魔術師たちが逃げ出してもしょうがないんぢゃないかな。
隣街が魔術師を優遇してくれると言うなら、多くの魔術師が隣街に行くかもね。
そんなことを考えながら、俺は買い物をする為にお店へ向かって歩いて行った。