< 08 (王都3日目 朝) 冒険者に絡まれた03 >
朝。
俺は拠点の寝室で目を覚ました。
昨夜は、初めてこの拠点で寝た。
ぐっすり眠れて満足です。
トイレを済ませ、顔を洗い、着替えを済ませる。
この拠点も、大分生活が出来る様になった。
昨日は、お風呂にも入れたしね。
後は、キッチンで料理が出来る状態になれば、ここに引き篭もれる状態になるね。
俺は、この拠点が生活出来る様になっていく事を、嬉しく思った。
脱いだパジャマと寝具に【クリーン】の魔法を掛け、ベッドを整えて外出の準備を終える。
よし、朝食を食べに王都に行くか。
そう思ったら、頭の中で【多重思考さん】に、「今日は、揉め事を避けて、のんびり過ごしましょうね。」と、言われた。
冒険者たちに絡まれるのが鬱陶しかったので、その対策をどうするか、昨夜【多重思考さん】に丸投げしていたね。
【多重思考さん】的には、「避けられる揉め事を避けないのが悪い。」と言う結論になった様だ。
「向こうから絡んで来るんだから仕方が無いよね。」と、言いたくなったが、聞いてくれそうにないと思ったので、「…はい。」と、返事をした。
決して、自分の行動を省みた訳では無い。(←おい)
王都に行き、適当に入った宿の食堂で、食事をする。
変なのに絡まれない様に、なるべく食事をする食堂は変えています。
変な奴が多いからね。この王都も。
色々な味付けの物が食べられるので、これはこれで満足です。
朝食を食べ終えたところで、頭の中で【多重思考さん】に言われた。
「冒険者たちが待ち構えています。冒険者ギルドに連れて行こうとしている様です。」
「何の為に冒険者ギルドに連れて行こうとしているのかは、分かりません。」
やって来る揉め事に備える為に、頭の中で【多重思考さん】と打ち合わせをする。
今朝、拠点で【多重思考さん】に、「今日は、揉め事を避けて、のんびり過ごしましょうね。」とか言わたのだが、向こうからやって来るんだから仕方が無いよね。
まだ、今日の予定を何も考えていないのにね。
「はぁ。」
溜息が出た。
食堂を出たら、十人近い冒険者らしき男たちが近付いて来た。
しかし、こんな朝早くから絡んでくるなんて、冒険者って暇なんですかね?
「昨日は、ウチの仲間に舐めた事をしてくれたそうぢゃねぇか。」
男たちの中で一番大柄なボスっぽい男に、そう言われた。
昨日あった、冒険者らしき男たちに絡まれた出来事を思い出す。
昨日は3件くらいあったっけか?
「昨日は、冒険者らしき男たちに絡まれたのが3件くらいあったんですが、どの件ですかね?」
「それを教えてもらえないと、返事のしようが無いんですが。」
頭の中で【多重思考さん】が、心底呆れた様に「揉め避けェ…。」と、言っていますが、俺、悪くないよね?
「ちょっと、付き合ってもらうぜ。」
そう言われて、取り巻きの連中に担ぎ上げられて、運ばれることになった。
頭の中で【多重思考さん】が、「やはり冒険者ギルドに連れて行こうとしている様ですね。」と、言ってくる。
取り敢えず今は、身の危険は無さそうなので、おとなしく担ぎ上げられておく。
もっとも、担ぎ上げられている俺に対して何かしようとした男たちには、【多重思考さん】の張った【侵入不可】の結界に付与された【リフレクション】の効果で、”手の造形を変えよう。無料体験コース”を、体験していただきましたが。(てへ)
これを切っ掛けに、芸術家として目覚めてくれればいいですね。(ニッコリ)
俺を担ぎ上げて運ぶ男たちの向かう場所は、【多重思考さん】の言っていた通り、冒険者ギルドの様だった。
何でこんなところに連れ行こうとするんだろうね?
【多重思考さん】にも理解できない理由は、俺が冒険者ギルドに興味が無かったので、【多重思考さん】も冒険者ギルドの建物内を調査していなかったからだ。
まぁ、既に調査を始めている様だから、きっと上手く切り抜けられるだろうと、安心しているけどね。
みんなー、頼んだよー。(←この丸投げ感よ)
俺を担ぎ上げた男たちは、冒険者ギルドに玄関から入り、奥へ奥へと進んで行く。
そして、訓練場みたいな場所まで行くと、俺をポイッてした。
すかさず、【多重思考さん】が【フライ】の魔法を使い、俺をちゃんと立たせてくれた。
ありがとう。
俺はその場に立ち、周りを見回す。
客席っぽいのが周りを囲む、訓練場みたいな場所だった。
ギルド職員っぽい人が近くに居たので、訊いてみる。
「ここって何ですか?」
「え? えっと、ここは模擬訓練場です。」
「模擬訓練場?」
「はい。」
「模擬訓練場って、何ですか?」
ギルド職員さんが説明してくれた。
武器を使った実戦そのままの模擬戦が出来る施設で、体が欠損したりしても、訓練場から降りれば無傷の状態に戻り、致命傷を受けても、自動的に訓練場の外に出されて、無傷の状態に戻るんだそうだ。
痛みを軽減する働きも有るのだそうで、安全に実戦そのままの模擬戦が出来るんだそうだ。
「凄い施設だな…。」
思わず、そう呟いた。
それに気を良くしたのか、ギルド職員さんは、「怪我を気にせずに、頑張って下さいね。」と言った。
暢気なギルド職員さんだな。
あなた、俺がここに担ぎ込まれたの見てたよね?
のんびりし過ぎぢゃね?
一般人が冒険者に拉致されてここに連れ込まれる事って、割とよくある事なのかな?
「物騒な場所に連れてこられちゃったね。」と、俺は思ってるんだけどね。(ワクワク)
ちなみに俺は、ギルド職員さんの説明を聞きながら、【多重思考さん】からも情報を貰って、対策を話し合っていました。
さぁて。
今後、俺が揉め事に巻き込まれず、のんびり過ごす為に、この状況を利用させてもらいましょうか。(悪い顔)
「心の準備は出来たか?」
その声に、俺はゆっくりと振り返る。
離れた場所に、先ほどのボスっぽいのが居た。
状況は分かっていたのだが、取り敢えず訊く。
「ここで何をするんですか?」
「ふっ。ここでお前をぶちのめすんだよ!」
そう言って、剣を抜きながらこちらに走って来る。
ズパパ
ドサーッ
そんな音がして、ボスっぽいのが転んだ。
「うわああぁぁ!」
ボスっぽいのが、そんな悲鳴を上げる。
【多重思考さん】が【風刃】で、ボスっぽいのの両足を足首の辺りで切断したからだ。
これで終わりにしてくれると、いいんだけどね。
「終わりでいいですか?」
俺は、そうボスっぽいのに訊いた。笑顔で。(←おい)
「ふざけるなっ! まだだっ!!」
ボスっぽいのは、激昂して剣を振り上げた。
ズパ
ガシャン ドサ
【多重思考さん】が【風刃】で右腕を切断した。
「うおぉぉ…。」
ボスっぽいのが呻く。
もう一度、「終わりでいいですか?」と、訊こうとしたら、誰かの呟きが聞こえた。
「無詠唱…。」
あ、しまった。
(鬱陶しい)冒険者たちに勧誘されない為には、レベルを低く見せておいた方が良いよね。
どうしよう。どうしよう。どうしよう。
焦る。
「今の無し!」
気が付いたら、そう言っていた。
そして魔法を放つ。詠唱をして。
「【風じィェん】。」(←噛んだ)
ズバ
ドサ
ボスっぽいのの残っていた左腕を切り飛ばした。
「うおぉぉ…。」
ボスっぽいのは、先ほどから呻き続けている。
「………………。」
「………………。」
場には、何とも言えない沈黙が下りた。
「終わりでいいですよね?」
自分でも分かるほど落ち込んだ声で、ボスっぽいのに訊いた。
ボスっぽいのから返事が無かったので、肯定と受け取って、俺は模擬訓練場から降りた。
そして、担ぎ上げられて運ばれて来た通路を、玄関を目指して歩いて行く。
模擬訓練場の上では、ボスっぽいのに下っ端たちが群がり、模擬訓練場の外に引きずって行こうとしていた。
しかし、重くて上手くいかない様だ。
一人が慌てて斧を手にした。
致命傷を受ければ、自動的に訓練場の外に出されて、無傷の状態に戻るからだ。
引きずれないのなら、その方が早い。
斧が振り上げられる。
その様子を【目玉(仮称。魔法で作られた目)】を使って見ていた【多重思考さん】たち。
魔法を発動した。
でっかい魔道具の内側で。
そこに転移させておいた別の【目玉(仮称)】を使って。
ボスっぽいのの首に、斧が振り下ろされた。
首が転がる。
ボスっぽいのの体は、そのままそこに在る。
「………………え?」
何も起こらない事に、戸惑う声が上がる。
異常に気付いた下っ端が、「どうなってるんだ?」と、仲間に訊く。
「おい! ギルド職員! どうなってるんだ!」
別の下っ端が怒鳴る。
ボスっぽいのの体の周りで、下っ端たちが騒ぎ始める。
大騒ぎになった。
騒ぎを遠くに聞きながら、俺は玄関から冒険者ギルドを出た。
頭の中で【多重思考さん】たちが報告してくれる。
「でっかい魔石でしたよ。15cmくらいありました。」
「窃盗になってしまいますから持って来れませんでしたが、あれって何の魔物の魔石なんですかねぇ?」
「稼働中の魔道具から魔石を抜き取れるなんて、【分離】魔法さん、マジ凄いですねぇ。」
うん。【分離】魔法さん、マジ凄い。
俺は満足しながら、今、起こした騒ぎと、この後の影響を考える。
”俺に絡んだ冒険者がエライ目に遭う”→”俺に絡むのを止める”という流れを期待していた。
冒険者ギルドで騒ぎになったので、多くの冒険者へ情報が伝わるだろう。
しかし、”模擬訓練場で死亡事故が起きた”としか伝わらないかもしれないね。
何か他に、もう一押し、二押しが必要だよね。
俺が冒険者たちに絡まれない様にする、他の何かが。
じっくり考えようと思い、俺は拠点に帰る事にした。
買い物をしようにも、まだ時間が早いから、お店が開いていなさそうだしね。
俺は、いつもの様に【隠蔽】と【人除け】の結界を張ってから【転移魔法】で拠点に帰った。
頭の中で【多重思考さん】に、「街中を歩いている時も【隠蔽】と【人除け】の結界を張っていれば良いだけですよね?」、「そうすれば、冒険者たちに絡まれませんよね?」、「どうして、そうしないんですか?」とか言っていますが、どうでもいい事だよね。(良い事をしたと、スッキリした顔)




