< 03end 盗賊と捕らえられていた人たち02 王都到着 >
テントの中で目を覚ました。
外は既に明るくなっていた。
あれ? 見張りは?
テントから出たら、大人たちは既に起きていた。
「おはようございます。」
「「「「おはようございます。」」」」
「えーっと、見張りは?」
「いえ、助けていただいたのに、見張りまでしていただくのは、ちょっと…。」
「あー、そうでしたか。ありがとうございます。」
気を使ってもらったらしい。
ありがとうございます。
井戸へ行き、顔を洗う。
戻って来て、少年たちの寝ているテントを見る。
「んごごご」と、いびきが聞こえた。まだ爆睡している様だ。
大人たちは笑っている。
王都までどのくらいの時間が掛かるか訊いた。
土地勘が有るっぽかったからね。
王都に着くのは昼過ぎくらいになるだろうとのことだった。
予想していたよりも時間が掛かるな。
急ぐ訳ではないから、いいけどね。
食事の用意を(俺以外の大人たちが)していたら、少年たちが起きてきた。
顔を洗いに行かせ、戻って来てから食事となった。
リーダーが言う。
「これが最後の食事だ。食料はもうこれで終わりだ。」
「昼過ぎには王都に着く。腹が減っても我慢だ。」
少年たちが、やや少な目の食事を見て、「え? これで終わり…。」と呟く。
少年の一人が俺を見て言う。
「盗賊から助けた人が、責任を持って街まで送らなければいけません。食料も何とかしてください。」
「え? 俺?」
そんな事を言われてもな…。
「隣の街に移動する途中で、腹を空かせた同行者が八人も増えるなんて思わないし、その分の食料を事前に用意をする奴なんて居ないだろ。」
「本当にそんな義務が在るのか? 盗賊に捕らえられている人が居ても、見殺しにするのが正解の様に思えるぞ。」
少年たちは、俺が食料を持っていない事に納得したのか、食事に集中することにした様だ。
食事を終えて、片付けをしたら、すぐに出発した。
既に遠くに見えている王都に向けて歩く。
トテトテと。黙々と。ガシャガシャと。
王都が近付くにつれて、皆、安心した表情を見せる様になった。
途中で三回休憩をして、昼過ぎに王都に到着した。
ふう、やっとだよ。
【転移魔法】なら、すぐに着いていたのにな。
俺は、寄り道をした事をすごく後悔した。
盗賊に捕らえられていた人たちを見付けて、人助けをしたら、すごく面倒な事になったね。
得る物も何も無かったし。
余計な手間以外は。(苦笑)
二度と人助けはすまい。
そう心に決めた。
門に着くと、俺はいつもの様にステータスの確認をされて、銀貨一枚を預けて、王都に入った。
他の人たちは、自分たちの身分証を回収できていた様で、身分証を見せるだけで、王都に入れた。
俺とリーダーは、盗賊の話をする為に詰所に残る。
他の人たちとは、ここでお別れだ。
改めて感謝され、別れの挨拶をして、彼らとは別れた。
詰所で盗賊とそのアジトについて話をした。
アジトの場所については、俺はうろ覚えだったのだが、リーダーが目印なる物を良く憶えていたので、しっかりと伝える事が出来た。
リーダーすげえな。
アジトの周りはほとんど木ばっかりだったのに。
アジトに人を派遣して、捕らえてきてくれるとのことだった。
後日、報酬がもらえるとのことだったので、楽しみにしておこう。
盗賊たちには、しっかりと罰を受けて欲しい。
詰所を出て、リーダーと一緒に食事に行った。
盗賊たちとの事で、黙っていた事が有ったと、食事をしながら色々話してくれた。
「盗賊の被害者は、盗賊を返り討ちにしたり、その盗賊の持ち物を持ち帰っても罪にはならない。」と、少年が言っていたが、間違いではないが、全てではないとのこと。
盗賊の持ち物は、誰が奪っても罪にはならないとのことだった。
あれ? それだと俺も分け前が貰えたって事だよね。
ぐぬぬぬぬ。
それと、「盗賊から助けた人が、責任を持って街まで送らなければいけない。」と、少年が言っていたが、そんな義務は無いとのこと。
そんな義務を負わせたら、俺が言った通り、見付けても見殺しにするのが正解になってしまい、助かる人も助からなくなる。
「これからも盗賊に捕らえられている人が居たら、助けてあげて欲しい。」と、お願いされた。
「すまなかった。言い出したのはあの少年たちだが、安全に街に帰る為には、あの時はあれが最善だと思ったんだ。」
”ぐぬぬ顔”をした俺に、リーダーから布袋が渡された。
「俺たちからの謝礼と、騙した事のお詫びです。受け取って下さい。」
重い布袋だ。かなりの金額が入ってるっぽい。
さらにリーダーは話を続ける。
「嘘を吐いた少年たちのことを、悪く思わないでください。」
「あのくらいの年齢の時は、あのくらいでないと、生き残れないと思うので。」
マジかよ。
ハードモードなんだな、この世界。
”平和な世界”とか、神さまに言われた様な気がするんだがなっ。
リーダーから、二人の冒険者と二人の商人の連絡先が書かれた紙を貰った。
商人の一人がこの王都に住んでいる以外は、他の街に住んでいる様だ。
「皆感謝しています。機会があったら訪ねてあげてください。」
そう言われ、リーダーと別れた。
今回は貴重な経験をさせてもらったな。
油断できないね、この世界の人たちは。
平和ボケした日本人がのんびり過ごすのは、この世界では難しいと思うな。
引き篭もるのが正解だろうね、きっと。
魔石を売ったり、買い物をしたりする時だけ、街に来ればいいよね。
【転移魔法】があるから簡単だし。
うん。そうしよう。
俺は森の中に作っている拠点を快適にして、引き篭もる事に決めた。
のんびり過ごせる街を求めて、せっかく王都まで来たのにね。
人生って、ままならないものだよね。
この異世界に来た事も含めてなっ!
< とある人たちの会話 >
「なんだか良いニオイがする。」
庭を見下ろすテラスでお茶をしていたら、私の婚約者がそんなことを言った。
彼女を見ると、目を閉じて少し顔を上げて、くんくんとしている。
私もそれに倣い、くんくんとする。
しかし、彼女の言う”良いニオイ”らしきものは感じられなかった。
「それは、どんなニオイなの?」
そう訊くと彼女は、「うーーーん。」と、しばらく考えてから、「土っぽい、良いニオイ。」と言った。
「土っぽい、良いニオイ……。」
彼女の言ったその言葉から、どの様なニオイなのかを想像する。
しかし、どの様なニオイなのか、私には想像することが出来なかった。
そもそも、”土っぽい”と”良いニオイ”が、繋がる気がしなかった。
くんくんしている彼女を放置して、目を閉じ、しばらく想像してみた。
だが、やっぱりその二つの単語は、私の中で繋がってくれることは無かった。
彼女を見ると、また、くんくんとしていた。
そのかわいらしい顔を見ながら、お茶をいただく。
彼女は、言動が妙に子供っぽいところがある。
先ほどの私には理解できない表現も、メイドさんたちが「残念かわいい。」と言っている、普段の彼女らしさが表れたものなのだろう。
そんな彼女のことを微笑ましく思いながら、私は今日も彼女の休憩時間が終わるまで、こうして二人のお茶の時間を楽しむのだった。
設定
”平和な世界”とは、神さまに言われてないですね。
「戦争はほとんど無く、宗教はほとんど力を持っていない。」「魔王も居ないし、勇者も必要とされていない。」とは言われましたが。
神さま自身は”平和な世界”と思っています。戦争がほとんど無いので。
神さまが世界を放置気味なので、神さま自身、この世界で暮らす人たちの様子を詳しく知らなかったのです。




