< 02 盗賊と捕らえられていた人たち01 発見と救出 >
新魔法披露(二回目)を終えた。
王都の近くに【転移魔法】で移動しようと思ったら、頭の中で【多重思考さん】に話し掛けられた。
「この先に盗賊のアジトが在り、捕らえられている人たちが居ます。どうしますか?」
盗賊たちを倒す方法を頭の中で考える。
盗賊たちを”恐ろしい【ステータス】の魔法”で気絶させる様子を想像した。
【目玉(仮称。魔法で作られた目)】たちにしてもらえばいいので、俺には何の危険も無いよね。
「よし、助けよう。」
特に躊躇いも無く、助けることに決めた。
盗賊のアジトを見付けた【目玉(仮称)】を目印に、すぐに他の【目玉(仮称)】たちを転移させた。
現場には十個の【目玉(仮称)】たちを送り込み、準備に取り掛かからせた。
【多重思考さん】が指示してね。(てへ)
「盗賊たちを気絶させる準備が出来ました。」という報告を受けて、すぐに気絶させる様に指示した。
盗賊たち全員を気絶させたという報告を受けた俺は、盗賊のアジトに転移した。
目の前に粗末な建物が在る。
街道から北に外れた薄暗い森の中だ。
建物の玄関前に、二人の男が倒れている。
アジトの見張りをしていた盗賊たちだろう。
そいつらを無視して、開いているドアから建物の中に入った。
建物内の広さは八畳ほどだ。あまり広くはない。
そこに十人ほどの盗賊たちが倒れている。
そいつらも無視して、奥に進む。
奥にドアの残骸が在る。
斬撃で破壊された様な見た目だ。
「気絶させる対象を目視出来ないと、魔法が使えませんでしたので♪」とのことだ。
「絶対、魔法を使いたかったからだよねっ。転移魔法でいけるよねっ。」
【風属性魔法グループ】の人(?)が「ヒャッハー!」している情景が目に浮かびます。
「はぁ。」
溜息を一つ吐いてから、ドアの残骸を踏み越え、次の部屋に入った。
次の部屋にも盗賊が二人倒れていた。
それと、縛られている人が九人居た。
縛られている人たちは、怯えた様な目で俺を見ている。
説明が面倒なので、取り敢えず無視して、更に奥の部屋を目指す。
ここでもドアの残骸を踏み越えて、次の部屋に入った。
「ここが一番奥の部屋です。」と、頭の中で【多重思考さん】が教えてくれた。
この一番奥の部屋でも、盗賊が倒れていた。三人。
盗賊は全員気絶している様なので、縛られている人たちのところに戻った。
縛られている人たちは、怯えた様な目で俺を見ている。
「盗賊を見付けたので助けに来ました。」
俺がそう言うと、「あぁ。」とか「ふぅ。」とか「ふぉ。」とか「何をしている、さっさとロープを解かないか! 私を誰だと思っている! さっきはよくも無視したなっ!」なんて言う安堵の声が聞こえた。
俺は縛られている人たちのロープを解くことにした。
「グズグズしやがって! 何様のつもりだ貴様は!」とか「早く街まで連れていけ!」とか「サボらずに護衛しろよ!」とか「腹が減った、食べ物をよこせ!」とか言っている人が居たが、無視してロープを解いていく。
俺に掴み掛かろうとした人が居たっぽいが、【多重思考さん】が【シールド】を張ってくれたので、無視して他の人たちのロープを解いていった。
ロープを解くと「ありがとうございます!」とか「助かったぁ。」とか「あなたは命の恩人です!」とか、感謝の言葉を掛けてくれる。
全員のロープを解いて、軽く事情を聞いた。
事情を聞き終わったら、奥の部屋から人が出て来た。
(うるさかった)最初にロープを解いた人だ。
両手に重そうな袋を持っていた。
あと、服と顔に血が付いていた。
ロープを解いた時には血が付いていなかったので、奥の部屋で気絶させられていた盗賊たちを殺したのだろうか?
頭の中で【多重思考さん】が、俺の思い付きを肯定してくれた。
その人は俺の持つ袋を指差し、「そいつを寄越せ!」と言う。
「嫌ですよ、そうしたら窃盗の共犯になってしまうでしょ。」
俺はそう言って断った。
「盗賊がどこかから盗んできた物だ。それを…受け取っても犯罪にはならない!」
「受け取っても」とか言ってるよ、この人。
この人も窃盗と思ってるよね。あるいは強盗かな。
そんな事してもいいのかな?
ステータスに何か記載されてしまわないのかな?
身分証が無い人が街に入る際にステータスを確認する理由は、犯罪者を街に入れない為だと思うんだが。
そう仮定すると、何か犯罪を犯すと、ステータスに記載されてしまいそうな気がするんだけどな。
「いいから、寄越しやがれ。」
手に持っていた袋を奪われた。
【シールド】に弾かれると思っていたのだが、【シールド】の範囲から微妙に外れていたっぽいな。
しかし、強盗との遭遇率が凄いよね。
この世界、どうなってんの?
まぁ、奪われた袋はすぐに取り返したけどね。
気絶させて。
こいつ馬鹿なんぢゃないの?
誰が盗賊たちを気絶させたと思ってたんだろうね。
「はぁ。」
あまりの馬鹿っぷりに、溜息が出た。
こいつは縛って、盗賊と一緒に転がしておこう。(黒い笑顔)
そう思ったが、先ほどまで縛られていた人たちが、そいつを縛ってくれた。
手間が省けたね。
ありがとう。
そして、そいつを縛った人たちは、そいつを奥の部屋に引きずって行く。
「?」
何をするのか気になったので、俺も後を付いて行った。
血を流して死んでいる盗賊たちの隣まで、そいつを引きずって行くと、そいつの顔に付いている血を拭いた。
そして、床の血溜まりに指を付け、何か文字を書いている。
縛られた、そいつの顔に。
書き上がった文字は、”盗賊のボス”だった。
うん。いいね。(ニッコリ)
いい仕事っぷりに、皆、笑顔になった。
ここを出て、歩いて王都に向かう事を話し、ここで、ここに在る食料を使って食事をすることにした。
捕らえられていた人たちに食事の支度をお願いした。
ちなみに、捕らえられていた九人の内訳はこうでした。
商人二人、冒険者二人、冒険者(少年)四人。それと”盗賊のボス”が一匹ね。
俺は玄関から表に出た。
表にも二人、盗賊が居たのを思い出したからだ。
こいつらもロープで縛っておかないとね。
アジト内から持って来たロープで、気絶させていた二人を縛る。
そして、頭の中で【多重思考さん】と今後の相談をした。
街道に出るまでの道とか所要時間とか、王都までの所要時間とか、盗賊の扱いをどうするかとかね。
部屋に戻ると三人が食事の準備をして、残りの人たちは盗賊たちの身ぐるみを剥いでいた。
訊けば、「戦利品です。」とのこと。
逞しいね。
しかし、盗賊たちのお宝には手を触れてはいない様だ。
そこは、モラルがあるのかな?
話を聞いたら、ちょっと違った。
そちらの回収は、食事の準備をしている人たちを含めた全員でやるそうだ。
モラルェ…。
みんなで食事をする。
俺以外は、皆そわそわワクワクしている。
お宝が気になるのかな?
マジ、逞しいな、この人たち。
そんな皆に訊く。
「盗賊の持ち物とは言え、持ち帰ったら窃盗になっちゃって、罪に問われたりしないの?」
少年の冒険者の一人が答えてくれた。
「盗賊の被害者は、盗賊を返り討ちにしたり、その盗賊の持ち物を持ち帰っても罪にはなりません。」
そう、教えてくれた。
「ふーん、そうなんだ。」
と、なると、俺は被害者ぢゃないから、手を出しちゃいけないって事になるな。
今後も同じ様な事があるかもしれない。
うっかり、窃盗になってしまわない様に気を付けないとな。
ん?
今食べてる食事はどうなんだろう?
俺が料理した訳ぢゃないからセーフかな?
被害者たちが作った物を食べさせてもらっているから、セーフだよね。
ステータスを確認したら、変な物は書かれていないから、セーフみたいです。
危なかった。
マジ、気を付けよう。
食事が終わったら、俺以外の皆で仲良くお宝を集めて、分配していく。
俺は椅子に座って、彼らが分配を終えるのを待つ。
皆、にこにこしている。
マジ、逞しいな。
ちょっと前まで、盗賊に捕らえられていたのにね。
この世界の人たち、逞し過ぎんだろ。
きっと、この世界の”世紀末度”が高過ぎるのが原因だろうな。
”平和な世界”だと聞いていたのになー。
「はぁ。」
俺は、逞し過ぎる人たちを見て、溜息を吐いた。
さて。
少々、分配に時間が掛かってしまって、昼くらいの時間になってしまった。
なので、皆と相談する。
王都まで、徒歩で半日以上掛かりそうだから。
今からここを出発して、途中で野営して、王都に行くのか?
それとも、今日はここに留まり、明日の早朝に出発するのか?
それを相談した。
全員が、すぐにここを出発することを望んだので、さっさと、出発することになった。
出発する前に、盗賊たちに【スリープ】の魔法を掛けた。
盗賊たちがこの後どうなるのか気になったので、ここには【目玉(仮称)】を一つ置いていく。
だから、盗賊たちが目を覚ましても、すぐに対処ができる。
しかし、捕らえられていた人たちが、追い掛けられる心配をしなくても良い様にと思って、皆の目の前で【スリープ】の魔法を掛けた。
そんなヤワぢゃない気が、凄くしたけどね。(苦笑)
俺たちは王都に向けて出発した。
俺を先頭に一列になって、森の中を歩いて行く。
まず森を抜けて、街道に出ないといけない。
何の目印も無い、初めて来る森の中だが、【目玉(仮称)】たちの道案内が有るので、迷子になる心配は無い。
ありがたいね。
俺たちは、森の中を一列になって歩いている。
頭の中で【多重思考さん】から、「冒険者の少年の一人が、森の中に何かを投げ捨てました。」と、報告があった。
捨てられたモノが何なのか、確認をお願いした。
投げ捨てられたモノは、”盗賊のボス”の身分証だった。
立派な身分証で、貴族の物らしいとのことだった。
よっぽど嫌われていたんだね、あの”盗賊のボス”は。
分からないでもないけどな。
でも、身分証なんて、彼の第二の人生には必要無い物だよね。
彼には第二の人生を楽しんでもらいたい。塀の中で。
少年には「ぐっじょぶ。」と、心の中で言っておく。
しばらく歩いて、ようやく森を抜けた。
少年たちが休憩を要求したので、休憩にする。
体力が無いのと、”戦利品”が重いのが原因だろう。
少年たちはブカブカの革鎧を身に着けている。
自分たちの革鎧の上から。
そりゃ重いよね。
呆れる気持ちもあるが、捨てろと言っても聞く気がしないね。
周りの大人たちも何も言わないので、皆、そう思っているのだろう。
俺も少年たちを見守ることにする。
生温かくね。(笑)
休憩を終えて、森を背に歩く。
少し歩くと街道に出た。
この街道を東に行けば王都に着くのかと思ったが、王都へ真っ直ぐ行く街道はまだ先だとのこと。
さらにしばらく歩き、王都へ行く街道に出たところで休憩にした。
休憩を終えて、街道を東に向けて歩く。
トテトテと。黙々と。ガシャガシャと。
しばらく歩いたら、また休憩を要求された。
もちろん少年たちからだ。
他の人たちの反応は、生温かい。
自分たちも経験が有ったりするのかもしれないね。
「ここ、で、親切、な、馬車、を、待ちま、しょう。」
少年の一人が、バテバテになりながら、そんな都合の良い事を言っている。
九人も居るんだぞ。ソンナノムリダロー。(苦笑)
ちなみに俺は疲れてません。
【疲労耐性】があるからね。(てへ)
休憩を終えて、また街道を東に向けて歩く。
トテトテと。黙々と。ガシャガシャと。
最後尾の少年たちが、馬車が来るたびに何かアピールをしているが、疲れるだけに終わっている。
早く”疲れるだけに終わる”と、気付いてほしいものだ。
陽が傾いてきたので、歩きながら冒険者さんたちと相談する。
どこで、どのタイミングで野営するのかをね。
少し先に野営する場所が設けられているとのこと。
「陽が沈む頃には着くと思う。」とのことだったので、そこを目指す。
もう一度休憩をはさんでから、その場所に着いた。
そこそこ広い、柵で囲まれた場所が在った。
魔物からは守ってくれそうにない貧弱な柵だ。
馬を繋いだり、洗濯物を干したりくらいしか役に立たなさそうに見える。
逆に言えば、魔物が出る心配が少ないということなんだろう。
まぁ、魔物が出たところで、俺は困らないけどね。
【多重思考さん】たちが守ってくれるからね。(てへ)
「ここをキャンプ地とするっ。」と、言いたかったけど、誰にも分からないから、「ここで野営です。」とだけ、皆に言った。
少年たちは、既に地面と一体化している。
俺は、冒険者の一人にリーダー役をお願いした。
こういった場所での作法とか、余所の人たちとのやり取りとか、さっぱり分からないからね。
快く引き受けてくれたので、彼に任せて、俺はのんびりとする。
リーダーは、火を起こしたり、テントを張る指示を出したり、食事の準備の指揮を執ったりと、ガッツリと働いてくれた。
助かります。
ありがとうございます。
食事の用意が出来たので、地面と一体化している少年たちを起こす。
足を引っ張ったら、ブカブカの革鎧からスポッと抜けそうに見えたが、自重して普通に起こしました。
少年たちは、起き上がる体力が残っていないのか、体を起こさずにブカブカの革鎧からズリズリと出て来た。
足を引っ張ってあげた方が良かったかもね。(笑)
さぁ、皆で食事だ。
食事をしながら、リーダーが夜の見張りの順番の話をする。
少年たちが「俺たちは無理です。」と言う。
確かに無理そうだよね。
あっさり爆睡しそうです。
少年たちに見張りをさせた方が危険な気がするよ。
「盗賊から助けた人が、責任を持って街まで送らなければいけないんですよ。」
「だから、見張りもお願いします。」
そう、少年たちに言われた。
「そんなルールが在るのか…。面倒だね。」
諦めてそう言うと、少年たちが、「「「「うん、そうなんだよ。」」」」と言った。
大人たちがちょっと目を逸らした気がしたが、特になんとも思わなかった。
疲れていないから、見張りぐらい大したこと無いし、【多重思考さん】たちが警戒してくれるからね。
無問題です。
食事を終えて、後片付けをした。
少年たちは、テントを立てて、すぐに寝た。
俺の見張りの順番は最後なので、それまでリーダーのテントで寝かせてもらうことになった。
おやすみなさい。




