< 01 街と街の間 新魔法披露 二回目 >
街を出て東に向かって歩いている。
この先に在るのは王都だ。
王都ならば治安は良いだろう。
ここまでの二つの街は、治安に問題が在った。
安心して暮らせる街で、のんびりと過ごしたいです。
俺は、日本を懐かしく思った。
時々、振り返りながら東に向かって歩く。
【転移魔法】を使う為に、門番から見えない場所まで歩く必要があるからね。
時々、走って、体の調子を確認した。
今朝、ステータスの値をいじって、体が軽くなっていたからね。
いざという時に、走って逃げられないと困るから、確認は大事です。
体の確認を終えたら、頭の中で【多重思考さん】に話し掛けられた。
「恒例になりました、第二回 新魔法披露です。」
「………………。」
「恒例なの?」とか、「また頭のおかしい魔法を見せられるの?」とか、「三回目以降もあるの?」とかいうセリフが、頭の中に浮かんだ。
「でも、頭のおかしい魔法であっても、正しく使えばいいだけの話だよね。」と、むりやり自分を納得させた。
すると、「何で”頭のおかしい魔法”と決め付けられているのでしょうか?」と、若干呆れた様な感じで、【多重思考さん】に頭の中で言われた。
前科が前科だからねー。
きっと今回も、”頭のおかしい魔法”だろうと、俺はそう確信している。
門から十分に離れている事を確認した後、不安な気持ちになりながら、俺は荒野に転移した。
荒野に来た。
昨日も来た場所だ。
地面がボッコボコです。(笑)
その現実から目を逸らしながら(←おい)、【多重思考さん】を促して、新魔法披露を始めてもらう。
「最初は【土属性魔法グループ】です。前方にご注目下さい。」
見ると、空中に”↓”と”このへん”の文字が見えた。
【闇魔法さん】の仕業ですね。
相変わらず、気配りの出来る人(?)です。
見ている先に、ゴブリンが一体現れた。
【転移魔法】で連れて来られたのだろう。
周りをキョロキョロと見回している。
すると、「ドンッ!」と音がして、勢い良く地面が円柱状に盛り上がり、体を折り曲げられたゴブリンが、高く打ち上げられた。
「!!」
俺、ビックリ。
円柱状に盛り上がった地面の天辺に、先の尖った杭が何本も生える。
あれらの杭で、落ちて来たゴブリンを突き刺すのだろう。
エグい殺し方だ。
何本もの杭に刺し殺されるゴブリンを想像して、「うげぇ」って気分になる。
すると、杭の生えている辺りに、モザイクが現れた。
【闇魔法さん】の仕業だね。ありがとうございます。
ゴブリンが落ちて来る。
前転する様に、少し回りながら。
ドサッ
ゴブリンが落ちた。
地面から盛り上がり、天辺に杭を生やした円柱の、その隣の地面に。
「………………。」
「………………。」
グサッ
地面から杭が伸び、ゴブリンの体を貫いてトドメを刺した。
モザイクさんは、間に合いませんでした。
「うげぇ。」
頭の中で、今の魔法の説明を受けた。
【落とし穴】の魔法を魔改造して、逆に地面を盛り上げる魔法を作ったとのこと。
対象の魔物を上に打ち上げて、杭を生やした円柱の上に落として殺すという、えげつなく、回避困難な凶悪な魔法だった。
よくこんな凶悪な魔法を思い付いたものです。(呆れ)
ちなみに魔法の名前は【打ち上げ台】。
”落とし穴”の反対にしたとのことです。
これは回避困難な凶悪な魔法だよな。
「これ、俺回避できるのかな?」と、思ったら、すかさず【多重思考さん】が「【転移魔法】でも【フライ】でも【レビテーション】でも回避できますよ。」と教えてくれた。
ああ、そうか。そうだよね。
どうやら、凶悪な見た目にビビッてしまって、思考が止まってしまっていた様だ。
危険な状況に陥った時に冷静な判断をするのは、俺には難しいのかも知れないな。
平和な国で暮らしていたからだろう。
いざという時は、【多重思考さん】が対処してくれることに期待しよう。
頼んだよー。
「お任せ下さい。」
そう頭の中で言われた。
今日も【多重思考さん】が頼もしいです。(笑顔)
さて。
思い描いた通りに行かなくて、ゴブリンが円柱からズレた位置に落ちた理由を考えようか。
上に打ち上げられた時に、ゴブリンの体が折り曲げられた状態になっていた。
下からの加速を受けた時に、キッチリとした直立姿勢でなかった為に、体が折り曲げられたのだろう。
その為、体が前転し、斜め上に打ち上げられた事で、少しズレた位置に落ちた。
そんな感じだと思う。
これに対処しようとすると、筒状に結界を張る必要が有るのかな?
でも、どうせ結界を張るのなら、上に平らに張るか、空中に【ブロック】を置いたりして上下で挟めば、それで終わるよね。
「………………。」
あれ? 凶悪度が増してない?
これ、俺回避できるのか?
【多重思考さん】が無言なのが気になります。すっごく。
「頭のおかしいのは”本体さん(=俺のこと)”だよね。」という、そんな感情を頭の中に感じますが、私の気の所為だと信じています。
なんとも言えない空気が場に満ちてしまいました。
「次は【光魔法さん】です。先ほどのゴブリンにご注目下さい。」
【多重思考さん】が、むりやり場の雰囲気を変えた。
俺もそれに乗っかる事にした。(てへ)
地面に倒れているゴブリンを見る。
「結界を張ります。」
【多重思考さん】のその言葉に、全身に緊張が走る。
昨日の、爆発し、四散した岩を思い出して。
空中に”減光結界”の文字が見えた。【闇魔法さん】だね。ありがとうございます。
”減光結界”か…。
【侵入不可】の結界の設定をいじって、強い光を通さない様にしたモノだろうか?
それとも、”光”だから【不可視】の結界をいじったモノだろうか?
結界の設定は【多重思考さん】たちにお任せなので、よく分かりません。(てへ)
「いきます。」
頭の中でそう声がした後、ゴブリンが光った。
ゴブリンが光った事に驚いていると、次の瞬間にはゴブリンが燃え尽きていた。
「………………。」
頭の中で、今の魔法の説明を受けた。
【ゲート】の魔法を沢山使い、光をゴブリンの体に当てた。
その際、ただ光を当てるのではなく、【光魔法さん】が光を曲げて収束させた。
収束させた為に強い光になり、ゴブリンの体が光った様に見え、その後すぐに燃え尽きた。
しかも、【ゲート】の入り口側は大気圏の外に在るそうで、大気で減衰していない”紫外線マシマシ”の強い光が使われる為、威力が半端ないそうです。
さらに、【ゲート】を設置して、光を曲げるだけだから、それほど魔力を消費しないそうで、コスパも半端ないそうです。
「………やべぇ。」
説明を聞いて、思わずそんな声が出た。
気になった事が有ったので訊く。
「どうやって大気圏外に【ゲート】を作ったの?」
返答は意外なモノだった。
「【目玉(仮称。魔法で作られた目)】を大気圏外まで派遣して、【ゲート】を作りました。」
「ええぇぇぇぇ!!」
驚いた。
めっちゃ驚いた。
「【目玉(仮称)】って大気圏外まで行けるの?!」
訊いたら、「行ってみたら行けちゃいました。(てへぺろ)」とのことだった。
【目玉(仮称)】すげぇ。
でも、実体が無いから、不思議な事では無いのかな?
【目玉(仮称)】の能力の一面を、新たに発見することになった。
「大気圏外に居る【目玉(仮称)】は、普段何をしているの?」
思い当たるモノが有るが、一応訊いてみた。
「雲の動きを観察しています。台風が発生しても気が付きますよ。」
想像していた通りの答えが返って来た。
台風の接近が事前に分かるのは良いよね。
雲の動きの観察は、引き続きしてもらう様にお願いした。
さて。
気になった事があったので、新魔法の評価が後回しになっちゃっていたね。
【光魔法さん】が拗ねていなければ良いのだが…。
「大丈夫です。」
大丈夫だそうです。良かった。(ホッ)
この魔法は、威力が高くて、コスパも良いのがいいね。
良い魔法だと思います。
頭の中に、喜んでいる様子が伝わってくる。
でも、”この魔法を使うのが最適”っていう状況が思い浮かばないな。
いや、一つだけ思い浮かぶんだけどね。
「ヤキツクセー」っていう状況なんて起きないよね。起きないよねっ。
俺は、揉め事を避けて、のんびり過ごすことに決めているのだから。




