< 09 魔術師の街04 >
転移で、宿が集まっている一角へ来た。
今夜は宿に泊まろうと思っていたからね。
この街でやろうと決めていた事の一つだ。
宿の相場を知る為にね。
しかし、まだ日が高い。
チェックインには、まだ時間が早い気がするな。
でも、一応チェックイン出来るか訊いてみるか。
中程度と思しき宿に行く。
「すいません。一人なんですが、空きは有りますか?」
「有りますよー。」
「では、一泊お願いしたいんですが、いくらになりますか?」
「素泊まりですか? 二食付けますか?」
「えーっと、二食付きで。」
「じゃあ、一泊二食付きで銀貨6枚ですね。」
銀貨6枚は有るが、銀貨の残りが少なくなってしまうな。
金貨でお釣りをもらおう。
「えーっと、銀貨があまりなくて…。金貨でお釣りもらえますか?」
「いやぁ、金貨だとお釣りは無いねぇ。」
あれ?
金貨1枚の価値は、銀貨10枚だと思っていたんだが、もっと価値が高いっぽいな。
「じゃあ、銀貨を用意して出直して来ますので、部屋を取っておいていただけますか?」
「え? ああ、いいよ…。」
何か驚いたっぽい反応をされたのは、何なんですかね?
俺は一度、宿を離れた。
俺は歩きながら、銀貨を得る方法を考える。
さて、どうするかな?
この街の中をうろついて、変なのに会いたくないからなぁ。
昨日行った隣街まで転移で移動して、昨日の魔道具屋で魔石を買ってもらうのが、一番楽で、一番早く済むかな?
うん。そうしよう。
俺は隣街の魔道具屋の近くに転移した。
ちなみに、転移の目印は【目玉(仮称。魔法で作られた目)】です。
あの街で魔石を売れない事に気付いてから、念の為に【目玉(仮称)】を配置しておきました。【多重思考さん】が。
物陰でコッソリと、【無限収納】から【マジックバッグ】にゴブリンの魔石30個を移す。
そして、魔道具屋で買い取ってもらって、銀貨9枚を手に入れた。
これで、宿代が払えるね。
この街に他の用事は無いので、さっさと元の街に転移で戻った。
さっきの宿に戻り、チェックインした。
『チェックインするには時間が早いかも?』とか思っていたはずなのに、すっかり忘れて、普通にチェックインしていました。
普通にチェックイン出来たから、それで良いんだけどね。(苦笑)
馬車で街にやって来た商人や冒険者たちの為に、一日中チェックイン出来る様になっているのかもしれないね。
部屋は2階の右側の奥の方とのこと。
階段を上がり、右側に向かう。
長い廊下が在った。
この宿の建物は奥に長い様だ。
きっと、左側も同様で、上から見ると”コ”の形をしてるのだろう。
思いの外、長かった廊下を歩き、部屋に入った。
部屋に入ると、一直線にベットへ行って、ごろんとした。
歩き回ったから疲れているかと思ったが、そうでもなかった。
今日も【疲労耐性】さんが、良い仕事をしてくれたのだろう。ありがたいね。
それはそれとして。
この世界に来てから、初めてのベッドだ。
優しい感触に体の力が抜ける。
「ふあぁぁぁぁ、ベッドはいいなぁぁぁぁ。」
そんな声が、自然と出た。
初日は地面の上で寝たからなぁ。
二日目は枯れ葉の上に毛皮を被せた寝床だったし。
俺は、普通のベッドに寝ただけで感動した。
しばらくのんびりしてから、今後のことを考える。
この街で、のんびり過ごす事は出来るのだろうか?
無理っぽいよね。
魔術研究会と魔術局とかいう組織のどちらにも入る気が無いから、これからも何度も勧誘されそうだ。
下手を打つと、両方からの勧誘合戦なんて事態も起こり得る。
鬱陶しいよね。
魔石を買い取ってもらおうとしても、冒険者ギルドか魔術局でないと、魔石を買い取ってもらえないというのも問題だ。
魔石を売るのが一番の収入源になるだろうからね。
この街で暮らすのは無理だよね。
うん。
明日は、次の街へ移動しよう。
東の隣の街は、王都だ。
南東の方角にも街が在る事は【目玉(仮称)】で調べて知っているが、王都の方が近いので、次は王都に行ってみよう。
王都の方が治安が良いだろうしね。
そう、次の方針を決めて、ベッドの上でゴロゴロダラダラした。
ゴロゴロダラダラして、ふと、この街の魔術師たちの事を考えた。
素行に問題が在る魔術師が多い気がした。
あと、魔術師を”至高の存在”とか”選ばれた者”とか宣う馬鹿も居たよね。
魔術師の評判が悪くなると、魔術師は暮らし難くなるよね。
この街だけでなく、他の街であっても影響が有るかもしれない。
俺自身の為に、この街の魔術師たちの事を、何とかした方が良いのかな?
でも、何か出来る事なんて有るかね?
何かを変えるとしたら、偉くなって上から命令しないといけないかな?
組織に所属する気なんて無いのに、何を言ってるんだろうね、俺は。
別の良い方法なんて有るかなぁ? 無いよね?
そんな事を考えていたら、頭の中で【多重思考さん】に言われた。
『魔術師が問題を起こすのが問題なら、魔術師でなくしてしまえばいいんですよ。(ニヤリ)』
考える。
考えるが、【多重思考さん】に言われた事が、よく分からなかった。
もう一度、頭の中で【多重思考さん】に言われた。
『MPを”1/1”にしてしまえば、魔法が使えなくなりますよ。』と。
あー、今日も使った、あの恐ろしい【ステータス】の魔法か。
確かに、MPを”1/1”にしてしまえば、二度と【ファイヤーアロー】とか撃てなくなるだろうね。
馬鹿が【ファイヤーアロー】を撃とうとしているところを気絶させた様子を、頭の中で思い出す。
うん。いいね。
それで行こう。(黒い笑顔)
別に馬鹿な魔術師たちにムカついた訳ぢゃナイデスヨー。
これは、俺が揉め事を避けて、のんびり過ごす為に必要な事です。
うん。そうです。
でも、あの恐ろしい【ステータス】の魔法の存在が知られていれば、魔法を無効化する魔道具とか結界とかで防いでいるよね。
でも、魔術研究会とやらに勧誘してきた男たちは、そんな魔道具を持ってなかったよね。
何でだろう?
下っ端だからかな?
魔道具が高価なら、下っ端が魔道具を持っていなくても、おかしくないよね。
組織の偉い人たちは、魔道具とかで防いでいるだろうね、きっと。
下っ端の人たちのMPを”1/1”にしたら、偉い人たちに気付かれてしまうよね。
先に偉い人たちからやって、気付かれない様にする?
いや、ステータスを見る魔道具が在るのだから、すぐに気付かれるか。
うん、気付かれるのは仕方が無いね。
やったのが俺だと気付かれなければいいか。
そうだね。
やったのが俺だと気付かれなければいい。
その様に実行する事に決めて、俺が疑われない方法を考える。
俺がこの街を出て数日経ってから、この街に残した【目玉(仮称)】を通して、MPを”1/1”にしてしまおう。
そうだね。
これでいいね。(黒くてスッキリしたイイ笑顔)
一段落したら、【多重思考さん】に【魔法無効】の結界の問題点を指摘された。
街に入る時に、水晶玉に触れてステータスの確認をされた。
そのことから、『【魔法無効】の結界は、接触されると効果が無い』ことが、分かったとのこと。
そう言われてみれば、そうだね。
普通に【鑑定】されていたよね。
気が付かなかったよ。(てへ)
また、離れた場所から【鑑定】をされた際に、偽装した低いレベルのステータスを見せる事が出来ていれば、追い掛けられる事も無かったかもしれない。
『これらの対策を考えましょう。』と、【多重思考さん】に言われた。
うん、確かに考えないといけないね。
対策を考えよう。
【多重思考さん】たちと相談して、以下の対策をした。
まず、【結界魔法グループ】さんにお願いして、【偽装情報発信】の結界を作ってもらった。
そして、【侵入不可】と【偽装情報発信】の結界を追加して、結界を四重に張ることにした。
張る結界は、内側から【侵入不可】、【魔法無効】、【物理無効】、【偽装情報発信】だ。
【偽装情報発信】の結界により、離れたところから【鑑定】をされた時に、偽装したステータスを返す事が可能になった。
しかし、これだと新たな問題が起きる。
【鑑定】する水晶玉に触れる前に、球状に張った【偽装情報発信】に触れてしまい、鑑定結果が表示されてしまうことになる。
そうなってしまうと、不正を疑われてしまう。
その対策として、今まで球状に張っていた結界を、体の表面に沿う様に張ることにした。
こうする事で、水晶玉に手を触れて【鑑定】されている様に見せる事が出来る様になった。
結界の変形は、もともと結界に有った機能だ。
”結界は球状に張るもの”だと思い込んでいたので、今まで気付いてませんでした。(てへ)
【侵入不可】の結界は、”接触”により魔法を使われるのを防ぐ目的で追加した。
この結界は、例外を色々と設定できる様で、空気とかはちゃんと通してますよ。
【多重思考さん】が色々と設定してくれました。『丸投げした』とも言う。(てへ)
これで問題点の対策をキッチリと出来たかな?
しばらくの間は、問題が無いか、気にしていないといけないかもね。
頼むよー、【多重思考さん】たち。(←丸投げです)
そんな事をしていたら、日が暮れていた。
よし、食事をしに行こう。
1階に降りる。
1階のカウンターの前が食事をするスペースになっている。
ラノベでよくある、宿屋兼飲み屋の造りだ。
カウンターに居る、チェックインの時にお世話になった女性に食事を頼み、テーブル席に座った。
階段を背にした席だ。
逃げやすく、全体が見える席が良いと思ったから。
全体が見える席にしたのは、食事の作法とか知りたかったからです。
何かが起こるとか考えていた訳では無いですよー。
一日に、そう何度もトラブルが起こる訳ないよね。
そう考えていた時期が、私にも有りました。(遠い目)
「酒だー!、酒持って来い!」
そう言って男が入って来た。
その後ろに三人の男たちを連れている。
全員ローブを着ているね。
魔術師かな?
「今日もオレのオゴリだー!」
「「「ありがとうございます。」」」
羽振りのいい男だな。
男たちは一番奥のテーブル席に座り、ふんぞり返る。
厨房から出て来た女性が、彼らに近付いて言う。
「あんたら、お金を払う気なんて無いだろ! お金を払わない奴は客じゃないよ! 出て行きな!」
おお、強気な人だな。
でも、男たちは特に動じていない様子だ。慣れているのかな?
「この街は”魔術師の街”だ。 魔術師さまが一番偉いんだよ。お前たちは俺たちに尽くせばいいんだよ!」
「「「そうだ、そうだ。」」」
クズばっかりだね、この街の魔術師は。
「あんたらに出す物なんて無いよ! とっとと出て行きな!」
そう言って、さっさと厨房に戻る女性。
男たちは大声で文句を言っている。
うるさいね。
何か言う男たちが、バタバタと倒れた。
もちろん気絶させたからです。【多重思考さん】たちが。(てへ)
何も指示を出していなかったのだが、俺の考えを読んでくれた様だ。
すかさず、男たちが気絶している場所に【隠蔽】と【人除け】の結界が張られた。
もちろん【多重思考さん】たちがしてくれた事です。
これで、誰も男たちに意識が向かないかな?
いや、騒いでいた男たちが急に静かになったら、何事かと思うよね。
失敗したかな?
しかし、目を背けていた他の客たちは、誰も気にしていない様子だ。
上手くいったのかな?
先ほどの女性が厨房から出て来て、俺の前に食事を置いてくれた。
そして、さっき男たちが騒いでいた辺りを見て、不思議そうな顔をしている。
違和感を感じている様だ。
しかし、違和感が何なのか分からなかった様で、厨房に戻って行った。
ふう。
初めて使った魔法だったのだが、狙った通りの効果を発揮してくれた様だ。
そして、意外と効果が高かった事に驚いた。
街の中で【転移魔法】を使う時なんかに、重宝するかもしれないね。
さて、食事だ。
運ばれてきた食事は、ステーキとスープとパンだ。
早速食べる。
豚肉っぽいステーキには、トマトケチャップっぽいソースが掛けられていて、まぁまぁの味だった。
この世界にもトマトが在るのかもしれないね。
そう思ったら【多重思考さん】に、『トマトは在ります。他にネギ、ジャガイモ、ニンジン、ナス、ニンニク、ショウガが在りました。』と、教えてくれた。
【目玉(仮称)】を使って収集した情報なのだろう。
スープの方は、よく分からない味だった。
何味なんだろうね? これは。
うーん、分からん。
”よく分からない味”と、しておこう。
パンは、やっぱり硬かった。
なんちゃら菌とかを使って発酵させたりしていないんだろうね。
王都に行けば、柔らかいパンが在ったりするのかな?
あまり期待できない気もするが、ちょこっとだけ期待しておこう。
ちなみに、騒いでいた男たちは【転移魔法】で街の外にポイッてしました。
俺が食事をしている間に。【多重思考さん】たちが。(てへ)
食事を終えて、食器を片付けてもらう。
カウンターに移動し、女性にこの街の事を訊いた。
この街で見た魔術師たちが、好き放題にしていたので。
なんでも、領主の方針で、魔術師たちを優遇して、魔術師たちをこの街に多く集めているとのことだった。
大勢の魔術師たちがこの街に移住して来た事で、街の景気は良くなったそうだ。
領主の夫が商人だったので、『街の景気を良くする為にそんな事をしたのだろう。』とのことだった。
初めの内は、魔術師たちは普通に振舞っていたのだが、次第に偉そうにしだした。
『魔術師は至高の存在だ!』とか言い出して、好き勝手に振舞う者が多くなっていったそうだ。
街の衛兵は、魔術師たちを取り締まったりしないらしい。
魔術研究会とかの言いなりになっている様だ。
苦情を受け付ける窓口も押さえられている様で、『領主も街の現状を知らないのではないか?』 とのことだった。
あと、『あんたみたいな、まともな態度の魔術師は珍しいよ。』と、言われた。
『魔術師にしておくのは、もったいないよ。』とか言われると、反応に困るよね。
この街の魔術師たちは、想像以上に酷い様だ。
俺は、さっさとこの街を出る事に決めて、部屋に戻って、寝た。
(一部修正しました。2019.11.24)
ルビの追加と、「」の一部を『』に変更しました。




