< 08 魔術師の街03 >
露店での買い物を終えて、街をブラつく。
しばらくブラついていたら、【多重思考さん】に話し掛けられた。
頭の片隅に別の視界の映像を写されながら、『後を付いてくる男が居ます。門のところで勧誘してきた男です。』と、言われた。
そして、『魔法を使う時は慎重にお願いします。実力を知られるのは避けた方が良いでしょう。』とも言われた。
ああ、そうだね。
大して実力の無い魔術師を勧誘するのに時間を使うのは、もったいないもんね。
引き続き監視をお願いして、街をブラつき続けた。
『そろそろお昼かな?』という時間になった。
ブラついていて見付けた、食事をするお店が集まっている場所に行く。
この世界に来てから、この世界の味付けがされた食事というのは初めてだ。
楽しみだね。
お店に入る。
カウンター席とテーブル席の在る、日本にも在りそうな割と普通のお店だった。
客の入りは半分ほど。
カウンター席に座り、女性の店員さんに、おすすめの物を頼む。
銅貨4枚を先払いとのことだったので、「お釣りお願いします。」と言って、銀貨1枚を渡す。
少し驚いた顔をされたが、ちゃんとお釣りの銅貨6枚を貰えた。
チップを寄越さないケチな客だと思われたのだろうか?
「この街に来たばかりなの?」
女性の店員さんに、そう訊かれた。
「ええ、そうです。今朝来たばかりですけど、何か変でしたか?」
「丁寧な言葉遣いをする魔術師は、少なくなったから。」
そう言って、その女性は厨房に注文を伝えに行った。
この街には、露店に居た様な変な魔術師が多いのだろうか?
待っている間に周りの客が食べている物を見る。
この世界の食べ物に興味があったので。
パンとスープというのが多い様だ。
ステーキを食べている冒険者っぽい人も、ちらほら居るが。
一分も掛からずに、頼んだ”おすすめの物”が出て来た。
パンとスープだ。
スープは野菜と肉が多めに入ったコンソメスープの様な見た目だ。
それが、やや大き目な丼みたいな器に入っている。
パンをちぎる。
硬い。
ちぎるのに少し力が要る。
ちぎったパンを少しかじってみる。
硬い。
あと、口の中の水分が奪われる。
パッサパサだよ。(笑)
周りの人たちが、パンをスープに浸して食べているのに納得した。
スープを一口飲んでから、ちぎったパンをスープに浸して食べる。
うん、美味しい。
スープの味はコンソメスープっぽかった。
パンをちぎって、スープに浸し食べる。
時々スプーンでスープの具を食べ、完食した。
味も量も満足できる物だった。
通ってもいいと思えるお店だったね。
うん。美味しかった。
お店を出て、引き続き街をブラつく。
お店を出てすぐに、【多重思考さん】に話し掛けられた。
『後を付けている男が仲間と合流しました。』
「男は、【鑑定】でステータスが見えなかったので、後を付けていた様です。』
『一時的に【魔法無効】の結界を解除するのが良いと思います。』
『あの男が【鑑定】を使ったのは、街に入ってすぐの門のところでしたので、街に入る時に警戒して【魔法無効】の結界を張っていたと思わせましょう。』
『目に見える魔法に対しては、見付け次第結界を張ります。精神的な魔法は【精神魔法耐性】を付与しましたので、これで防げると思います。』
そう【多重思考さん】に言われた。
うん。ソレデイインヂャナイデスカネー。
【多重思考さん】が有能で助かります。
俺は、”要らない子”なんかぢゃないですよー。
いや、自分の一部だから、”有能で”とか言うのはおかしいね。
後を付けている人たちに偽装したステータスを【鑑定】で見てもらって、”大して実力の無い魔術師”だと思ってもらえればいいね。
街をしばらく歩いた後、公園に入った。
後を付いて来ている男たちが、何かしたがっている様に感じたから。
接触する気が有るなら、ここで接触してくるだろう。
後を付いて来ている男たちの事は、既に【目玉(仮称。魔法で作られた目)】を通して【多重思考さん】たちが【鑑定】を済ませて、大したレベルでないと分かっている。
危なくなったら、【目玉(仮称)】を通して【多重思考さん】たちが気絶させてくれるので、安心です。
近付いてきたのは五人。全員、魔術師の様な服装をしている。
「こんにちは。我々は魔術研究会の者です。」
「我々魔術研究会は広く門戸を開き、多くの魔術師たちを受け入れています。」
「君も知っていると思うが、この街は”魔術師の街”を謳い、魔術師たちにとって楽園の様な街です。」
「魔術研究会に入れば、様々な形で優遇され、支援してもらえます。」
「君も、我々の魔術研究会に入りませんか?」
男たちに、笑顔でそう勧誘された。
「組織って馴染めませんので、お断りします。」
「私なんかに構うより、もっとレベルの高い人を勧誘した方が、その研究会の為になりますよ。」
そう言って断った。
しかし、男は特に意に介していない様子だ。
断られるのに慣れてるんですかね?
男たちは、笑顔でさらに話を続ける。
「我々は、崇高な使命の為に魔術師を集めています。」
おお。”崇高な使命”とか言い出したぞ。
別にワクワクとかシテマセンヨー。(ワクワク)
「魔術師とは、選ばれた者たちなのです。我々魔術師こそが、愚民たちを正しく導くことが出来るのです。」
「我々魔術師が、この街から世界を変えるのです。あるべき姿に。」
「あなたも我々と共に、この世界をあるべき姿に正しましょう。」
へぇー。
魔術師が”選ばれた者”とか、無いわー。
「魔法が使えるのは個性の一つですよ。」
「「足が速い者が偉い。だから足が速い者が世界を支配するのだ!」とか言われて、「はいそうですか。」とか、ならないでしょ。」
「あなた方とお仲間になりたいとは思いません。お引き取り下さい。」
一人が血相を変えて怒鳴る。
「貴様、魔術師を愚弄するのか!」
この程度で”愚弄”とか言われちゃうのか。(呆れ)
「おかしい事をおかしいと言っただけですよ。」
「勧誘するのなら私ではなく、あなた方に賛同する(頭のおかしい)人たちにするべきなのでは?」
そう言ったら、一人がキレた。
「我々を愚弄しおって!」
沸点低いなー。(呆れ)
キレた男が魔法の詠唱を始めた。
他の男たちは、その男を止める気は無い様だ。
露店での出来事を知っているのかもしれないね。後を付けられていたらしいし。
詠唱を始めた男に対して、俺は何もしないで待つ。
【多重思考さん】が【魔法無効】の結界を張ってくれたから、安心です。
「【ファイヤーアロー】。」
はい、おなじみの【ファイヤーアロー】さんでした。
こちらに向かって来ます。
露店で騒ぎを起こした男のより、威力が高そうに見えます。
もちろん、【魔法無効】の結界で消えてしまいましたが。(てへ)
【ファイヤーアロー】を放った男は、驚いている様だ。
さらに二人が加わり、三人で詠唱を始める。
何なんですかね、この人たち。
勧誘を断られたぐらいで、複数で攻撃魔法をぶっ放すとか。
理性とか無いのかな?
疑問だ。
詠唱が終わり、三人同時に【ファイヤーアロー】を放つ。
これらも、もちろん、【魔法無効】の結界で消えましたよー。(てへ)
「「「………。」」」
もう諦めてくれないかなー。(←なげやり)
諦めずに三人で詠唱を始める。
最初に【ファイヤーアロー】放った男は、怒り心頭って感じで、魔力を込めてるっぽいです。
詠唱の待ち時間が手持ち無沙汰です。(呆れ)
我慢して待っていると、【ファイヤーアロー】が放たれた。
これらも、もちろん、【魔法無効】の結界で消えますぅー。(てへ)
「「「………。」」」
もう諦めようね。
君たちは頑張ったよ。うん。
最初に【ファイヤーアロー】放った男だけが、また詠唱を始めた。
先ほどより、さらに怒り心頭って感じで、魔力を込めてるっぽいです。
せいぜい頑張って下さい。(←他人事かよ)
頭の中で【多重思考さん】が話し掛けて来た。
『MPが一桁になったので、MPを”0”にします。』
これは、事前にちょこっと打ち合わせをしていた事だ。
いきなりMPを”0”にすると、俺が何かしたと気付かれる恐れがあるので、魔力切れっぽく見える様に、MPが一桁になったら”0”にすると決めていました。(てへ)
そして、詠唱をしていた男が倒れた。
うん。これなら、魔力を使い過ぎて倒れた様に見えるね。
ムキになって魔力を込めてたからねー。
「そろそろ、帰らせてもらいますね。」
俺はそう言って【不可視】の結界を張り、姿を消す。
それと同時に、【侵入不可】結界を張った【目玉(仮称)】に、男たちの間を押し退ける様に、すり抜けてもらった。
「逃げたぞ!」
押し退けられた男二人が声を上げて、【目玉(仮称)】が通り抜けた方向を向いて走り出す。
「くそ! 見えない!」
「どこへ行った!」
「追え!」
男たちはバタバタと公園から出て行った。
「ふう。」
やれやれだね。
俺は姿を消したまま、東の門の近くの宿が集まっている一角へ転移した。
その場には気絶した魔術師が一人取り残されたのだった。
仲間が回収してくれればいいですね。(黒い笑顔)
(一部修正しました。2019.11.24)
ルビの追加と、「」の一部を『』に変更しました。




