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あるハエの呟き

こんないかにもなつまらない小説を開いてくださってありがとうございます。

 吾輩はハエである。ハエであるからどこぞの文学家の一文のような素晴らしさなぞ出すことが出来ないのだ。


 自己紹介は短めにした方がいいのだが、私についてもう少し語ろうと思う。

 私は先述した通りハエである。私が空を飛べば人々が忌み嫌い、すぐにハエたたきを構え攻戦一方へと転じる。そんな私が命を賭して空を飛ぶ理由は、最近、人間の観察が面白い事に気付いたからだ。


 彼らは私達ハエを無下に扱い排除しようとする。しかしそんな彼らも生物であり、その行為も生物学的本能によるものなのだろうと私は考える。彼らが生物学的本能で動いているのだとしたら、それを観察すれば多くの思考が得られる。私にはその知的な行いが楽しく、またたびに魅せられたねこのようにのめり込んでいった。


 今日も私は空を飛ぶ。身体構造上どうしてもか細い音が出てしまうが、何かに集中した人間はそれに気づかない。私は眼下で椅子に座り、スマートフォンをいじる男に近付いた。


 最近は家族同士の繋がりも薄いのだろうか。彼が鎮座する向かいには、机を挟んで妹らしき女が座っている。人間基準ではかわいらしい外見なのだろう、その妹はつまらなそうに黒いツインテールを揺らしながら兄を見ている。


「お兄ちゃん、そんなにスマホいじって、楽しいの?」

「ん……」

「ねーえ! もっと構ってよ!」

「んー……」


 家族との会話よりもスマートフォンを優先する、この男はどれほどの魅力をスマートフォンに感じているのだろうか? 私は彼が見ているものが何か気になり、その後ろを飛んだ。


 ……な、なんだこいつ!? 妹モノのエロ画像を見ているぞ!


 妹らしき女が見守っている中、よくもそんなレッドゾーンな画像を見れるものだ。私は絶句した。


「……お、お兄ちゃん!」


 男が「はい!」と言って身を正す。妹らしき女が私を指した。


「そこ! ハエが飛んでる!」

「え? うわ!」


 男は驚いて手に持っていたスマートフォンを机に落としてしまった。

 まずい、このままでは私は潰されてしまう。案の定素早く行動した妹らしき女が、どこからかハエたたきを持ってきて敵意を露わにする。


「お兄ちゃんどいて、そいつ殺せない!」

「うわ、妹! 危ねぇ! 危ねぇって!」


 私は妹らしき女の猛攻を華麗にかわし、急いで彼女らの目に届かぬ場所へ避難する。


「むぅ、どっか行っちゃった……! くそう」


 私はほっと胸をなでおろした。胸がどこだと言うツッコミは無粋というものだ。

 私は諦めて遠くから彼らを観察することにした。すると、妹らしき女性が「あ!」と机のスマートフォンを拾い上げた。


「お、お兄ちゃん……これ……」

「ば、妹よ! 見るんじゃない!」


 しかし、妹らしき女性はマジマジとスマートフォンのエロ画像を見つめている。遠くから見ても把握できる、画像は全て妹モノだ。私は目がいいのだ。


「お、お兄ちゃん……もしかして、私のこと……」

「す、すまん妹よ! 気持ちが悪いのはわかってる、だが! だが! なんと言うか……!」


 これは申し訳ないことをしてしまった。これであの男の家庭生活はかなり気まずくなってしまう。私は背負いきれぬ罪の重さに潰されてしまいそうだった。


「お兄ちゃん……わ、私……その……」


 私は妹らしき女の様子に目を疑った。彼女は顔を赤くさせて、何やらもじもじとしているではないか。


「えっと……お、お兄ちゃんになら……私、そんなふうに見られても……」


 ――どうやら私は、新たなつがいを生む手助けをしてしまったらしい。男が「い、妹……!」と驚いている。


 さて、これ以上私が彼らを観察するのは無粋というものだろう。それなりには情緒をわきまえている、私は2人がこれからしたであろう行為には感知しなかった。


 その後数日経って彼らの情報を集めたところ、2人は実の兄妹ではなく、妹は兄が3歳の頃に引き取られてやって来たらしい。生物学的な知見のある私は、それが彼らにとっていかに幸福であるかを理解した。

 さてさて、次はどこを観察に行こうか。私は愛し合う2人を背に、新たな世界への扉を抜けた。

エロ画像を見ていたら後ろからハエが飛んできたので作りました。自分でもよくわかっていません。

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― 新着の感想 ―
[一言] こういうのを連載したらいいのかもしれませんね。
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