表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/16

7. 猫又語り:縄張りを増やす

 吾輩は猫又である。

 金髪バカ王子が、泡を吹いて倒れた次の日から、ラズピリス嬢の授業中に教室にいることを禁止された。

 吾輩の仕業だと他人に気付かれなかったと思ったのだが、誰かが気づいたのであろうか。

 メガネをかけた凹凸女辺りかもしれない。

 しかし、教室に入れないのならそのままラズピリス嬢の家で寝ておきたいのだが、ララズピリス嬢は毎朝吾輩を抱えて馬車に乗り込むのだ。

 寛容な吾輩は、あえてそれを許容している。

 子供の我儘に付き合うのも大変である。

 使い魔の控え部屋にいると、駄白猫が煩いので吾輩は学園内を巡回することにした。

 吾輩の主な縄張りは、ラズピリス嬢の家の周辺一帯なのだが、良い機会である。

 この学園も縄張りにしてしまおう。

 学園は広く、校内に小さな森まである。

隠れる場所も多いようで、結構な数の猫が潜んでいた。

 学園関係者に餌をやる人でもいるのであろうか。

 のしのしと歩いていると、あちらこちらから威嚇されるが、吾輩が睨むとすぐに逃げていく。追いかけて追い打ちを掛けるほど吾輩も無慈悲でも暴虐でも無い。

 とりあえず、吾輩の匂いを付けてからどんどん進む。

 吾輩としては、今後、どの場所にいても他の猫に邪魔されないようになりたいだけである。餌場を横取りするつもりもない。ラズピリス嬢の家の分で十分であるからな。

 

 それにしても、この学園は広い。吾輩が以前住んでいた公園の100倍以上の大きさがあるのではないだろうか。いや、もっと広いかもしれぬ。

 最初は、学園全体を吾輩の縄張りにしてしまおうと考えていたのだが、面倒になってきた。

 もう昼も近い。教室に戻ろうかと身を翻す。

 何故かは知らぬが、吾輩はラズピリス嬢のいる場所がわかってしまうのである。

 道に迷う心配は無い。

 最短距離は森を横切ることのようだ。

 道など見当たらぬが、吾輩にとって問題は無い。

 木の上を歩いて行けば済むだけである。

 などと思っていたのだが、何故か森に入れない。

 解せぬ。

暫く森沿いに歩いているとすぐに、森の中に入る道と門があった。

 頑丈そうな門ではあるが、吾輩が入れる程度の隙間はあった。

門の前には、厳めしい恰好をした男達が立っている。吾輩が知っている物とは違うが、着ているものは甲冑の一種であろうか。

しかし、油断しきっておるな。あくびまでしているではないか。

吾輩は見つからぬように、そっと門の下の隙間を潜り抜けた。

穏行と逃走は吾輩の得意技である。

 

 森は深かった。外部から見た時はそれほどとは思わなかったのだが。

そもそも吾輩は基本的に街暮らしであって、森の中などに詳しくはない。

適当な木に登って進んでいくが、直ぐに方向が怪しくなる。

それでもラズピリス嬢の位置は判るので、そちらに向かっていけばよいだろう。

それにしても、見慣れぬ動物が多いのは森の中だからだろうか?

吾輩の様な妖しの如き、異形の動物もいる。

あ、でも使い魔の小動物も奇怪な姿をしておったので、こちらではこれが標準なのであろうか。

頭が二つある蛇、角の生えたウサギ、槍のような牙をもった猪。

なかなか趣がある。狩猟本能を刺激するのであるが、ここは我慢をしておく。

軽快に木から木へ飛び移り移動する吾輩は、油断していた。


何しろ襲い掛かられるまで、そいつの存在に気付かなかったのである。

枝を蹴って隣の木に飛び移る瞬間、もっとも無防備になる時を狙って飛び掛かってきたのは猿。

もっとも、吾輩の知っている猿は腕が4本もあったり、顎の先に達するほどの長い犬歯を持っていたりはしない。なによりも、成人の倍ほどの背丈の猿など見たことも無い。

吾輩は、辛うじて身を捻り猿の腕を蹴って樹上へと逃げた。

吾輩が先ほどまでいた枝が、化け猿の爪で抉られて千切り飛んでいた。

猿の妖しには、意外と性格の好い物も多いのだが、こやつは違うようだ。


 しかし、咄嗟に上に逃げたのは失敗であった。

 上に行くほど枝が少なくなるため、吾輩がどの方向に逃げようとしても化け猿には丸見えである。障害物になる枝も少ない。

 隙を作らねば、逃げようもない状況である。


 そして、幸いなことに目くらましとなる手段を吾輩は持っている。

 

 妖術 燐火。

 リンを燃やしたような青紫の炎を生み出す妖術である。

 障子紙にも火がつかない程度の火力しかないが、人魂のように見えるため、墓場で人を驚かすには最適な術だ。 

 猿も人も似たようなものなので、驚いてくれるだろう。たぶん。


 吾輩は燐火を産みだし、化け猿にむけて放つ。

 ほら、驚け。


 燐火は、青白い焔(・ ・ ・ ・)となって化け猿にぶつかり、そして、一瞬の内に化け猿の全身をつつみ、黒こげにした挙句、爆発したかのように燃え広がり、周囲の樹木に飛び火をし、赤黒い焔となって燃え広がった。


 え?


 吾輩は爆風によって、木の上から吹き飛ばされたが、辛うじて5本隣の木の枝につかまる事が出来た。

 さらに、焔は広がり、あっという間に周りの樹木を巻き込んでいく。

 既に山火事と言ってよい状況である。


 なんということだろう。

 まさか、あの化け猿が、こんなにも燃えやすい性質を備えていたとは。


 これは、吾輩にも予期できぬ不可抗力の事故であった。

とりあえず、火に巻かれぬように逃げた方が良かろう。

全く、これほどの騒ぎを起こすとは、あの化け猿は度し難い妖しであるな。

吾輩の様な善良な妖しを見習ってほしいものである。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ