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(6-7).橙髪凹凸教師、興味を示す

 私、メディメレンは魔術の研究が好きなのです。むしろ愛しています。

 研究がしたいので、王立魔術学園を卒業後も研究員として学園に残りました。

 それなのに、今では、2期年少組─学園入学後2年目のクラス─の担任教師をする羽目になっています。

 正直言って、児童の指導などには、これっぽっちも興味はありませんでした。

 ですが、私の師は「少しは世間に目を向けろ」などと、理不尽かつ不要な事をいいだし、私を年少組の担任にするという暴挙に出たのです。

 一度担任になれば、三年間は同じクラスを受け持たねばいけません。

 なんという時間の無駄でしょうか。

 担任となることが決まった時には、学園を辞めて国外の研究機関にでも就職しようかと本気で悩みました。

 師の面目を潰すかもしれませんが、そんなものより私の研究の方が大事なのは当然ですから。

 しかし、幸いながら、私が担当するクラスには注目に値する人物がいたのです。

 それは、レトライド伯爵家のラズピリス様です。

 我が国、いや他国でも同じですが、貴族に求められる資質の一つに優秀な魔術師であることが挙げられます。

 むしろ、優秀な魔術師でなければ貴族家であろうが王家であろうが、一族として認められることはありません。

 優秀な魔術師として認められる条件の一つに、国立魔術学園で家格に応じた優秀な成績をおさめるというものがあります。

 この優秀な成績が必要、ということが、様々な軋轢を起こすこともあります。

 しかし、我が国の魔術師の質を上げていくうえでは必要な事でしょう。

 現在の所、ラズピリス様は伯爵家の家格の相応しい成績を残せておりません。

 彼女の魔術は失敗が非常に多いのです。

 それだけですと、魔術の才能が乏しい貴族の落伍者だと見なされるのが普通でしょう。

 しかし、彼女に関してそういう見方をする人間は極稀です。

何故なら、ラズピリス様は失敗の仕方が凄いのです。

たとえば、机ぐらいの大きさの魔用紙に魔術のみで魔法陣を描く課題をだしたとします。

魔法陣の大きさは、注ぎ込む魔力量で決まります。

詳細な魔法陣を描くためには、自身の魔力量を調整して時間を掛けて細かな作図を行う必要があるのですが、彼女の場合は違います。

細かな作図がしにくいのであれば、大きく描けばいい。

そんな発想で、教室の床全面に渡る魔法陣を描いてしまいます。

課題は魔用紙に魔法陣を描くことですので、当然、彼女は失敗したことになりますが、このような規模の失敗を出来る者は、上級クラスの教授陣を含めて学園内には誰もおりません。

常識はずれの魔力量と出力が必要となるからです。

このような桁外れの研究対象がいる。

そんなクラスの担任にしてもらえたことを、今では師に感謝をしております。


そんなラズピリス様ですが、夏休みの課題に出した『初めての使い魔セット』による使い魔の創生で、興味深い使い魔を創生しておりました。

この『初めての使い魔セット』で作られる使い魔は、練習用の使い捨てです。

通常は一月も立たない内に消滅してしまいます。

優れた魔術師の手により、さらに奇跡的な幸運が重なった場合には、長期間稼働する使い魔が創生されることもありますが、優れた魔術師なら『初めての使い魔セット』ではなく、もっと上級のセットで創生を試みるため、そのような例は極めて稀です。

そんなラズピリス様の使い魔ですが、最初に目を引いたのは『初めての使い魔セット』で創生された使い魔としては有り得ない程の存在力でした。


「随分と存在力が強いようですが、本当に『初めての使い魔セット』で創生したのですか?」


 尋ねてはみましたが、私には既に結果は判っています。私の掛けているメガネは、私が自分の年棒の半分をつぎ込んで製作した『上級解析』の魔法陣が組み込まれている特製品なのです。私の魔力波長と完全に合致するように製作したため、汎用性は皆無ですが、その分性能は良い逸品です。

 ラズピリス様の抱えている白黒猫が、『初めての使い魔セット』で使用される使い魔の元を用いて創生されていることは、すぐに解析できていました。

 

「はいっ!本は焦げちゃったけど、ちゃんと出来ました!!」

「おや、また魔力の量を間違えたのですね・・・。その本を見せてください」


 『初めての魔法使いセット』付属の魔法陣を描いた本が、過剰な魔力負荷によって破損しているように見えます。しかし、私は気づきました。

 これは破損しているのではないと。むしろ、急激に魔力を注ぎ込まれて魔化した状態になっているのだと。

 一体何をどうすればこのような事が起きるのでしょうか。興味が尽きません。


「・・・これは、また、興味深い事を。ラズピリスさんに関わると面白いことが多くて、先生は嬉しいですわ」

「そうなんですか! 私も嬉しいです!!」


 私は、ラズピリス様が渡してくれた焦げた様に見える本を、回収することにしました。

 これは良い研究材料となるでしょう。実に楽しみです。

 その後、ラズピリス様と少し話をし、くだんの黒白猫の使い魔を触ろうとすると威嚇されました。

 解析に必要な材料として、毛を少し貰おうかと思ったのですが。

 警戒されてしまいましたね。残念です。

 まあ、この子の存在力は十分にありそうですので、焦らなくてもいずれ良い機会がくるでしょう。


 私の担当するクラスには、問題児もとい、扱い方に注意が必要な児童が1人います。

 国王の第三子であるアルメット様です。

 彼の事を第三王子と言う人もいますが、それは間違いです。

 王族として認められるのは、国立魔術学園を優秀な成績で卒業する必要があり、アルメット様はまだ学園生です。よって、王子としての権力も義務も何も持っていません。

 残念なことに、アルメット様本人がそのことについて勘違いをしています。

 無駄にプライドが高いのは、やはり母君である第三夫人の教育の成果なのでしょうか。優秀な魔術師の素質はあるのですが、おそらく無駄なプライドのせいで自滅する可能性が高いでしょう。

 とはいっても、私が担当しているうちにそのような事件は起こしてもらいたくないのですけど。後始末の為に、研究ができなくなったら大変ですから。

 そして、アルメット様は夏休み明け早々から、やらかしてくれています。

 どうみても『初めての使い魔セット』で創生不可能な使い魔を連れてきています。

 あの使い魔ですと、おそらく『簡単・誰でも作れる超高級使い魔セット』を使用したのでしょう。

子供の小遣いで買えるような製品ではないのですが、さすがは国王の第三子です。

 しかも、姑息な事に『解析』対策として使い魔に『護身の光石(特級)』を埋め込んだ首輪をつけています。

 私の『解析メガネ』では、解析不可能です。

 大方、『初期使い魔セット』で消えない使い魔を作った僕って凄いだろう!と自慢がしたかったのでしょうか。

 その自慢そうな顔も、ラズピリス様の使い魔を見て引き攣っております。

 あきらかに、ラズピリス様の使い魔の方が、存在力が強いですからね。

 そのあたりを、一目で見抜けるあたりは優れた素質がある子供なのですが。

 



 またアルメット様がやらかしました。

 ラズピリス様の使い魔に、言い掛かりをつけているうちはまだよかったのですが。

 

「大体、たかが伯爵家の娘が生意気なんだよ。僕は第三王子だぞ。

 お前なんて、僕の前で膝まづいてりゃいいんだ」


 現在の自分の身分を弁えていない発言をかましやがりました。

 アルメット様は国王の第三子ですが、いまだ王族にはなっていません。

 アルメット様の発言は、勝手に自分を王族と見なしており、王権の侵害に当たります。

 周囲の子供達の視線が冷たくなっていることに気付かないのでしょうか?

 彼らも全て貴族の子息ですが、学園を卒業するまでは貴族としての権力など何も与えられていない事くらい理解しているのです。

 しかし、面倒なことになりそうです。

 今がギリギリです。この後も暴言を吐くようでしたら、私は監査局にアルメット様の素行不良について報告しないといけません。

 アルメット様がそれで王族追放になっても別に気にもならないのですが、報告書を作成するのは大変なのです。

 私の『解析メガネ』にアルメット様の発言などを録音しておりますので、こちらも渡す必要がありますし、そうなったら研究に差し障ります。

 そんな心配をしている内に、アルメット様が倒れました。

 これは好都合・・・ではなくて、大変です。直ぐに隔離では無く介護をしなければ。

 それにしても、アルメット様が倒れる寸前に一瞬感じた魔力は何だったのでしょうか?

 今まで私が体験したことのない波長をしていたのですが。

 

 まあ、後で『解析メガネ』の情報を分析すれば何か判るでしょう。

 とりあえず今は、余計な報告書を書かなくて済んだ幸運に感謝します。


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