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4. 猫又語り:学園へ連れて行かれる

 吾輩は猫又である。

 元禄の江戸から平成の東京を生き抜いてきた(あやか)しだ。

 最近、創生された使い魔だとか言われているが、意味が解らない。

 ついでに、縄張りだった公園から、ラズピリス嬢の家に拉致されたようだが、ここがどこかも判らない。

 ああ、吾輩はラズピリスという名の少女をラズピリス嬢と呼ぶことにした。

 緑色の女がお嬢様お嬢様と呼んでいるので感化されたのだ。

 そして、ここは、東京じゃないのは確かの様だが、ちゃんと餌も貰えるし、良い昼寝スペースも見つけたので、その事はどうでもいい気になっている。

 縄張り付近の通い家の人たちが心配しているかもしれないが、長い時を生きてきた吾輩は出会いも別れも無数に繰り返してきたのである。

 大切なのは過去でも未来でも無くて現在だと、言ったのは誰だっただろうか。

 猫の時代の記憶力では覚えていられないくらい昔だった気がする。今の吾輩は猫又だが。


 そんな吾輩だが、今日はいつもの昼寝スペースからラズピリス嬢に連れ去られてしまった。

 新しい縄張りの巡回ができなくなるので、離してほしいのだが。

 なぜか、吾輩はラズピリス嬢に対して甘くなってしまうのである。

 ピンクに髪を染めた頭の悪い少女だと、最初は思っていたのだが、どうやら、髪の色は天然らしく、直情行動が多いが頭自体は悪くないことが最近分かってきた。

 あと、吾輩の毛を撫でるのが非常に上手である。これほど上手なもふり手に出会うのは久しぶりだ。

 力加減の下手な子供は嫌いなのだが、ラズピリス嬢は例外である。


「さあ、今日から学園の授業再開!

 マタタマを見せて、皆を驚かせてやるんだから!!」


 ラズピリスは朝から元気である。

 緑髪女─どうやらメイドという職業らしい─と一緒に馬車に乗り込む。

 馬車の乗り心地は良くない。大して速度もでていないようだし、これなら吾輩は走って行きたい程だ。

 でも、ラズピリスの匂いに包まれるのも悪い気がしない。吾輩の匂い付けも一緒に出来るし。


 

 王立魔術学園と書かれた豪華な看板を通り過ぎて、吾輩たちを乗せた馬車は学園というらしき場所に入った。

 看板の文字は、今まで見たことが無い文字であったが、何故か問題無く読めた。

 吾輩は長い猫生のうちで、漢字・ひらがな・カタカナを完璧に覚えてしまったほどの猫又なのだが、見たことの無い文字も読める様になっているとは驚きである。

 吾輩は猫又なので、そんなものは特に必要が無いのだが。

 学園に着いた後は、無駄に豪華な建屋に入る。どれだけ豪華かといわれると、日光東照宮ぐらいだと言わざるを得ない。

 あそこも吾輩のような猫又には理解できぬ場所であったが、ここもそうである。

 ラズピリス嬢は、吾輩を抱えたままである。いい加減、降ろしてもらいたい。


 ラズピリス嬢が入った部屋には、同じくらいの年齢の子供達がたくさんいた。

 皆が、吾輩のような小動物を抱えている。

 吾輩の様なとは言っても、同族の猫又らしき姿は無い。

 猫らしき姿はいくつかあるのだが。

 何故か、角が生えていたり、翼が生えていたりしている。

 そして、今まで見たことの無い生き物も多い。

 プルプル震えている丸いゼリーの様な物も生物なのだろうか?

 他には翼が生えた小さなトカゲ。

 首が二つある犬。

 奇怪な姿ばかりである。これなら、吾輩の2本の尻尾くらいなど目立ちようが無い訳だ。

 そして、いくつか例外はあるが、奇怪な小動物たちは一応に生気が薄い。

 抱きかかえられたまま、不気味なくらいじっとしている。

 キョロキョロと周りを見回しているのは吾輩くらいである。

 奇怪な小動物を見るのも、直ぐに飽きた吾輩は、ラズピリス嬢の腕から抜け出して机の上で丸くなる。

 よくわからぬ場所ではあるが、危険は感じないのだ。なら、昼寝をしても問題は無かろうである。




「この子が、ラズピリスさんの創出した使い魔かしら」

「はい、先生! マタタマっていうの。可愛いでしょう」

「可愛らしさは、使い魔には必要ありませんよ。ラズピリスさん」

 

 騒がしい声と、見知らぬ気配が近づいてきたので目が醒めてしまった。

 吾輩が顔を上げると、メガネをつけた女が見下ろしていた。

 橙色の髪をしている。吾輩には人間の美醜はよくわからぬが、凹凸の多い体をしている事だけは判る。

 そのあたりはラズピリス嬢や緑髪メイドとは対照的である。


「随分と存在力が強いようですが、本当に『初めての使い魔セット』で創生したのですか?」

「はいっ!本は焦げちゃったけど、ちゃんと出来ました!!」

「おや、また魔力の量を間違えたのですね・・・。その本を見せてください。

 ・・・これは、また、興味深い事を。ラズピリスさんに関わると面白いことが多くて、先生は嬉しいですわ」

「そうなんですか! 私も嬉しいです!!」


 凹凸女が吾輩を触ろうとしたので、シャーと威嚇しておく。

 気安く触らせるほど、吾輩は安い猫又では無いのだ。


「ラズピリスさん、ちゃんと使い魔の制御はできていますか?」

「制御? してませんっ!」

「え?」

「マタタマは友達なので、そんな事したくないですっ!」

「・・・暴れることがなければ、それでも良いのですが。

 制御していないのに、ちゃんという事を聞く子ということは、相当、頭が良い子なのかもしれませんね。

 存在力も、クラスの使い魔の中で一番のようですから、早晩消えることは無いでしょう。大切にしてあげると良いですよ」

「はい!!」


 ラズピリス嬢は元気がいい。吾輩が褒められて嬉しいのだろうか。

 それにしても、メガネ女が言っていた消えるとは何ぞや?

 まあ、吾輩なら大丈夫のような事を言っていたから、気にすることもないだろう。

 なので吾輩は昼寝を再開するのであった。


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