12.猫又語り:吾輩は猫又である
吾輩は猫又である。
猫又であるが、人語を喋れるようになった。
金髪バカ王子の御蔭である。
彼には、火傷を負った吾輩の体を治してくれた恩もあるので、これからは呼び方を変えて金髪元王子と呼ぶことにする。
「いや、マタタマって口が悪いな。喋れるようにしなきゃよかった」
「金髪元王子の癖に生意気である。吾輩がいなければ助からなかったのであるからな。これは当然の報酬、むしろ命の代金としては安いであろう」
「だから、元王子って言うのはやめろよ」
「事実であるが故、仕方ないのである」
金髪元王子は、王族として失格の烙印を押されたようである。
あれだけ好き勝手に規則を無視したあげく、周囲に迷惑をかけたのであるから当然の措置であろう。
あの森での騒ぎのあと、吾輩達は橙髪凹凸女の呼んだ王国騎士団によって救助されたらしい。
辺り一面が焼け野原になっていたので、直ぐに場所が分かったそうである。
さすが、ラズピリス嬢。怪我の功名とはこういうことを言うのであろう。
「なんか、褒められた気がしないなー」
「気のせいである」
「マタタマは最初から失礼な奴だったにゃ」
駄白が横から口を挟んでくる。相変わらずのキャラ建て猫語喋りは大変そうであるな。
吾輩には恥ずかしくて真似ができそうにないのである。
「こっちの方が可愛いにゃん。ご主人さまの趣味にゃ」
さすがは金髪元王子。いい趣味をしているようである。
「いや、その方が猫っぽいだろう?」
「猫を何だとおもっているのだ。まあ、吾輩は猫又であるが」
駄白は猫っぽい造形だが、猫らしい習性は無い。
所詮、作られた使い魔というわけだ。
「むー、マタタマだって使い魔にゃ。同じにゃん」
「うーん、この子、使い魔と言ってもいいのかしら。
使い魔のような、そうじゃないような、興味深いわ。分解解析させてくれないかしら」
橙髪凹凸女が、物騒なことを言う。
ちなみに、この場所はこの凹凸女の研究室である。
怪我をした吾輩は、ここで傷を治したのである。
「吾輩は猫又である。使い魔などでは無い」
「でも、使い魔の元から創生されたのは間違いないのよね。不思議だわ」
「先生、マタタマは使い魔だけどわたしの友達だよ」
「ラズピリスさんの異界への干渉力が影響している所までは、わかるのだけど。
うーん。やっぱり解剖させてくれないかしら。痛くしないから」
真っ平御免である。
解析から解剖へ危険度が上昇しておる。この凹凸女は実に危険な人物であるな。
「でも、使い魔としての魔導回路は殆ど無かったですよ。魔導回路の空きが多かったから人語会話の機能追加は楽だったし。
どうやって、知能とか自我を維持しているのか、現代魔導学では説明がつかない。
そして、あの変な魔術。こいつは魔導の領域というより怪談やお伽噺の領域に思えます」
「アルメットが難しいことを言って、わたしをいじめるー」
「ピリスのオツムには難しかったか。ごめんな」
「謝罪に誠意が無いよ!」
最近、ラズピリス嬢と金髪元王子の仲がいいように見える。
きっと、吾輩の気のせいであろうが。
それにしても、平成の東京からこの何処ともしれぬ場所へきてしまった吾輩だが、この地でも美味しい餌にはありつけるし、快適な寝床、昼寝に良い場所も豊富にある。
今の吾輩に不満は無い。
どんな場所であろうと、満足できる環境であるのなら問題は無いのである。
吾輩は猫又である。名前はマタタマである。
吾輩はこの場所で生きていくのである。




