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11. 猫又語り:試しの森のラズピリス嬢

 大量の魔獣、しかし、その半分は既に生きていないようである。

 全身黒焦げになって、炭と変わらぬ状態であるが故。

 そして、この光景を作り出したのはラズピリス嬢であることは間違いないであろう。

 吾輩は魔術など判らぬが、ラズピリス嬢から放たれた火が魔獣どもを焼き尽くしているのだ。恐ろしい火力である

 ラズピリス嬢が放つ火は小さい炎の矢のようなものである。

 それがラズピリス嬢の周囲を廻りながら、どんどん数を増やし、増えた矢が周囲に放たれて、魔獣を包み込むように焼き焦がしていくのである。

 

「自分の魔力で作った炎の矢を媒介にして、精霊界から更なる炎を呼んでいる・・・」


 その光景を見た金髪バカ王子が、呆然としている。


「これが、ラズピリスの魔術の才能、か。僕なんかとは、まったく違う・・・」


 どんどん増える魔獣を、容赦なく殲滅していくラズピリス嬢。


「僕は、ああなりたかった・・・」


 


「あ! アルメット! 

よかった無事だったのね。

あれ、マタタマなんで大きくなってるの、凄い!!」


 辺り一面を、炎の海にしているラズピリス嬢の方が遥かに凄いと思うのである。


「えーとね、ちょっと問題があってね」


 魔獣が押し寄せてきている事であろうか。全て、ラズピリス嬢が殲滅しているので問題は無いと思うのであるが。


「制御失敗しちゃった、これ、どうやったら止まるのかな?」


 自分の周りを飛ぶ炎の矢を指さすラズピリス嬢。

 

「え゛?」


 そこから放たれた炎の矢が、吾輩達にも襲い掛かってきたのである。


「制御失敗じゃなくて、これ、暴走だよ!

 バカじゃないのか!!」

「助けに来てあげたのに!!」

「今、殺されそうになっている!!! ああああ、もうっ!!」


 吾輩の背中で叫ぶ金髪バカ王子。むしろ、叫びたいのは吾輩である。

 いい加減、吾輩の妖力が尽きかけておるのだが。

 

「おい、ラズピリスの使い魔! これを持ってラズピリスの所に行くんだ!!」


 なにやら奇妙な品を吾輩に渡そうとする金髪バカ王子。

 

「使い捨てにするのはもったいないけど、仕方ない。あの状態のラズピリスを放っておくと自壊しちゃうかもしれないし。精霊界に繋がったまま魔術の暴走って、どこの大災害だよっ!!!

 おい、ラズピリス! 少しは炎を押さえろ。そのままじゃ、自分の術で死んじゃうぞ」


 何やら、不穏な事を言っておる。とにかく吾輩は、この道具をラズピリス嬢の所に持っていけばよいのであろうか?

 

「とにかく、ラズピリスの体のどこでもいいから、そいつを当てろ。

 あとは、僕が制御して暴走を抑えるから」


 吾輩の背中から、転げ落ちるように降りる金髪バカ王子。


「急げ、あまり猶予はないぞっ!!

 ラズピリスを死なせたくないだろっ!!」


 必死の形相である。冗談抜きに危険な状況らしい。

 吾輩は渡された道具を咥えて、ラズピリス嬢の元に走る。

 炎の矢が飛んでくるのを躱すが、掠めただけで相当に熱い。

 しかし、大分部の矢は吾輩とは別の方向へ飛んでいる。

 ラズピリス嬢が頑張っているに違いない。

 道具を運ぶために体を元に戻せないのが辛いのであるが、吾輩も長年生きてきた猫又である。

 これくらいの苦境など、物の数では無いわ!。

 ・・・いや、基本的に苦境に陥ると、さっさと逃げていたのが吾輩の筈だが。

 ラズピリス嬢だけは見捨てる気になれぬのは何故であろうか。

 などと余計な事を考えていると、炎の矢が当たりそうになる。

 そして、これまでは平気そうな顔をしていたラズピリス嬢だが、表情に余裕が無くなっている。

 随分と苦しそうである。

 自壊などという物騒な言葉が思い浮かぶ。

 ラズピリス嬢まで残り数メートル。なのに、目の前に壁のように炎の矢が並ぶ。

 

 一か八か。吾輩は全力で『行燈の巨猫』を使い巨大化する。

 巨大化すれば、耐久力は上がるのである。きっと、耐えきれるはずだ。

 ついでに前足で抱えた道具を、ラズピリス嬢に目掛けて押し付ける。


「よくやった、あとは僕に任せろ!」などと、似合わぬ恰好をつけた金髪バカ王子の声を聴きながら、吾輩は意識を失ったのであった。


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